脳裏に刻め!! この力(母性)を!!
ファデュイ、それはスネージナヤを中心に世界中で暗躍する組織。
殺し、騙し、脅し、傷つけ、表の世界では即罰されるような犯罪を犯す者たちの巣窟。
年中雪が降り続くこの場所に、裏の事情を少しでも知っている者ならば絶対に近づかない国だ。
この国で雪がなくなることは決してなく、気温も氷点下を切ることが常だ。
生物にとっても辛い場所、それがこのスネージナヤ。
だが、ある者に取ってはこの凍てつく寒さが心の火照った芯を冷やしてくれる、心地よいものになることがある。
愛とは甘く、酸っぱく、そして体の芯が燃え焦がれること。
過剰な言い方ではあるだろうが、そう揶揄しても可笑しくない。
ここには、その熱い愛を伝える男が冷徹な女を振り向かせるために善戦する場所でもあるのだ。
雪が降りしきる夜、今夜は雲も少なく星や月が見えたり隠れたりしている。
多くの人は明日に備えて英気を養うために寝る時間帯だ。
屋根が白い家等の大多数の窓はもう太陽色に染められていない。
しかし、一つだけほんのり明るく光っている家があった。
その家は他の家と比べて格段に大きく、大家族かそれともそれほどの地位を持った者が保有しているのか、どちらにしてもその家は巨大だった。
その家の中を覗き見るとやはり外で見たように中も広く、大部屋や小さな部屋が多くあった。
小さな各部屋の中では子どもたちが目を閉じて夢の世界にいる様子がある。
中には人形を持った少女、毛布がかかっていない少年、肌が黒い少年、獣の耳を持っている少女など、多種多様な子供達が幸せそうに寝入っていた。
そしてある一つの部屋だけまだ明るく光っている。
暖炉には火が燃え盛り、パチパチと火花を散らしている。
その暖炉の前には二人分の座席が繋がっている横に長い赤いソファが鎮座していた。
注視するとそのソファから人の影が見えるがその人影には頭らしきものが2つ見える。
更に見てみるとそこには白髪に髪先が黒で混ざった女性と赤よりも薄紅に近い髪色を持った男がいた。
女性は分厚い本を両手で持って読書をしており、男はなぜかソファに敷く下敷きの毛布のように女性の下で後ろから抱いていた。
「アノ…、好き…」
「私もだ」
男がアノと呼んだ女性の背中に顔を猫のように擦りながら愛情を伝えるとそれに答える。
「…大好き……」
「私もだ」
少し言葉を変えただけだが、また愛の告白を唱えるがそれを受け流すように彼女は本を読み続ける。
「わてはアンタのこと好いとんねん…」
「稲妻の方言で言わなくてもいい、私もだ」
今度は言葉を一気に崩して恋を伝えるも彼女は動揺せずに真顔で対応する。
「なに言っても同じことしか返してくれないじゃん、アノから言ってほしいんだよ」
男は女性に違う言い方をしてほしいと懇願してみる、すると女性は持っていた本を近くにあった小さなテーブルの上に置くと体の向きを変えて男の方へと正面を向けた。
そして、腕を男の肩の上に置いて奥へと腕を伸ばし、二人の顔が近づいて鼻先が密着するくらいまでの距離になる。
「では、なんと言ってほしいのかな?」
女性の黒い瞳孔の上に赤いバツ印がある独特な瞳を男の平凡な目と合わせる。
格好が赤いヒラヒラのランジェリーを身につけており、妖艶な雰囲気になり今から始まるのではないかと思うこの空気感。
「いやその、ふ、ふつうに、すすすす好きとか言って、ほしいなぁ、とか」
男は顔がほんのり赤くなって、女性の瞳を直接見ることができなかった。
滑舌も明らかに悪くなって、照れているというのは誰が見てもわかるものだろう。
「目を逸らすな」
女は男の顎を摘んで正面が見えるようにし、少女マンガのような顎クイが男女反対になって行われている。
「ほら、こうしたかったんだろう?」
そう言って女はゆっくりと顔を男の方へ近づけて、お互いの唇が触れ合おうとした時…。
「おとうさま…」
小さなか細い声が二人の耳に入り、音の発生源の方へ見やるとそこにはドアから体を半分覗かせているクリーム色の髪に同じ毛色の獣耳を持った少女が一本線の目を擦りながら眠そうにしていた。
「ああ、リネット。眠れなくなったかい?」
女は跨っていた男の腿から立ち上がって、少女の方へと歩み寄る。
「フレミネがおトイレしたいからって、おねえちゃんだからいっしょに行ったの」
と言い、扉の奥には先程までは見えなかった少女と同じ瞳の色と髪色を持っている少女より頭ひとつ小さい少年が立ったまま寝ていると言っても過言ではないほど頭をこっくりこっくり動いていた。
「そうか、お姉ちゃんは優しいな」
そう言って女は二人の頭を優しく触れて撫でるとサラサラな髪質が流れにそって動く。
「ん、おねえちゃんだから、あたりまえ」
少女は眠そうな目をしながらもしっかりと可愛らしく胸を張っている。
「そうか、じゃあ一緒に寝室に戻ろう、リネは寝たままなのかい?」
「ん、そう」
女は二人の膝裏に腕を回して一気に持ち上げる。
二人は同じ抱きかかえられたタイミングで女の首に落ちないようを手を回す。
「ブラ、私達も寝ようか」
「わかったよ、じゃあ俺も片方持つ」
男はソファから立ち上がり、暖炉の方へ腕を横に振ると不思議なことに燃え盛っていた火は一気に萎んで火種すら残らなかった。
そして男は女の近くへ歩いていき、女の抱きかかえている少年の方の脇を両手で下から支えるように掴み、自分の胸の前に体が密着するように抱く。
二人は何も話さずに目をお互いに見て部屋を一緒に出た。
月明かりが差し込む長い廊下では冷気が肌を撫で触り、まだ子供の彼らにとっては辛い場所だろう。
風を引かせないように少し速く歩いて目的の子供部屋へとたどり着く。
女が目的のドアを片手で開けて中に入り、ドアに手を置きながら男が中に入るのを待っている。
男もつられて中に入ると廊下とは真反対の優しい暖かさが4人を包みこんだ。
そして女は男が中に入ったのを確認するとドアをゆっくりと閉じて音を立てないようにする。
中は子供らしい部屋で多くのぬいぐるみや3人分の机と椅子がそれぞれの特徴を表現している。
巨大なベッドには一つだけもっこりと膨らんでいる毛布がある。
そこまで二人を連れていき、右の方から男が少年を毛布の中へと入れ込み、女は左の方から少女を入れる。
すでに三人兄弟はぴったりとくっつきあって、目を閉じて深い夢の中へと沈み込んでいる。
女は微笑みながら少女の頭を撫で続けている。
男は少年の毛布に被ったお腹を手を使って優しくバウンドさせながら鼻歌を歌う。
「ここに、私の望んだ場所がある」
女は口を開く。
「こうなるまで多くの犠牲や辛さがあったが、お前のおかげで私はここまで来れた」
女は懐かしみを味わいながらも子供たちを宝物のように大切に扱うような眼差しで眺める。
「ブラ、ありが…」
とうと言おうと思っていただろうが急に男の方を見て、口を閉ざした。
先程まで子守唄を歌っていた男がいつの間にか子供たちと同じベッドの中に入って一緒に仲良く寝ていた。
女はため息をつくがその表情は優しく子供たちを見るのと同じ顔をしていた。
そして女もベッドの中に入り、子供たちを優しく抱きしめて目を閉じた。
よそから見たら三人の子を育てている夫婦であることは間違いないだろう。
女の名前はアルレッキーノ、この
壁炉というのは一つの孤児院ではなく、国ごとに各所ある、モンド、フォンテーヌ、璃月などだ。
アルレッキーノ自身はフォンテーヌの孤児院、ブーフ・ド・エテの館出身だ。
当のアルレッキーノは孤児たちを引き取り、厳しくも優しく育てる本当の母のように接する人。
しかし本人は自身を母と呼ばれることを拒否している。
この孤児院は国営のため、母はこの国の神である女皇であることを示しているからである。
それは古くからの伝統であり、アルレッキーノがこの孤児院を経営した最初の人ではなく、何代かもわからないほど古くからこの孤児院は継続されている。
実際、古くからこの孤児院は男が連続して管理者としていたため父と呼ぶのが当たり前なのだろう。
この代のアルレッキーノは女性、だが母は女皇という名目を否定せずに自身を父と子供たちに呼ばせる。
本来ならば
引き継ぎの場合は院長が死んだか、本人の希望でやめることができる。
だがこの代ではまた、イレギュラーな事柄が多く発生してしまった。
それがこの男ブリゲッラだ、アルレッキーノと同じ
ファトゥスは通常、1位から11位までの階級で決まっている。
1位に近づけば近づくほど影響力は凄まじく、3位からは単純な戦闘力でも神に匹敵するかそれ以上の強さを持つ。
ファトゥスは11人、これはファデュイが設立されたことから決まっている、少なくとも500年以上前からの当たり前なのだ。
それをこのブリゲッラは破壊した。
ファデュイは実力主義、強き者が全てを決めうるそんな社会。
そこでのブリゲッラは上澄みも上澄み、女皇と今のファトゥスのトップの道化を除けば、最強は彼だろう。
よって彼はファトゥスの上の方の椅子に座るかと思いきや、その招待を蹴り飛ばしアルレッキーノのいる第4位の席へとともに座った。
それはなぜか、簡単な理由だ。
アルレッキーノを愛しているから。
逆にアルレッキーノもブリゲッラを愛している。
彼と彼女はあの孤児院で過ごし、ともに成長し力をつけた。
ある時は友として、ある時はライバルとして、ある時は恋人として、彼らは一緒に行動しあった。
人生の半分はともに過ごしていると言っても過言ではないだろう、それほどまでに彼らはお互いをわかりあい、アノ、ブラと愛称で呼び合い、そして熱く愛を交わし合う。
そんな表現を表したが二人は一線までは超えてはいない、お互いに唇を交わしあっただけだ。
ある日、その日は珍しく雪の降らない太陽が自己表現している日だった。
偶然にもこの日はアルレッキーノの誕生日であり、ブリゲッラはとあるサプライズを用意しようと考えている時だ。
「なぜお父様は二人なんだ」
ブリゲッラは仕事部屋にて、両肘を机に乗せ手を組みその手を口の前へ置いている。
眼の前には束となっている紙が山積みとなっており、今にも倒れそうなほどに不安定の状態であった。
そんな目の前の事象から背けるようにブリゲッラはそう呟いた。
「なにを仰っているのですか、「情人」様」
デッドエージェントであるグルント・スネージヴィッチはブリゲッラを横目にもう一つ用意されている机にて羽ペンを紙に走らせている。
こちらの方の紙ではブリゲッラの量の半分以上は処理されている。
「グルント、聞いてくれ、お前も壁炉の出身なんだしわかるだろ? なんで女性であるアノが「お父様」と呼ばれているのかが」
「まぁ、そう呼ばれている理由はわかりますが、これまでのルールに従えばやはりお父様と呼ばれるべきでは?」
この時、ブリゲッラは大きなため息を吐き出す。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…、だってよ? 今の壁炉には女性のアノと男の俺がいるわけだ。そして孤児である子供たちもいる。即ち、これは親子であることは周知の事実!! わかりきっていることなんだよ!!」
ブリゲッラは大声を出しながら、机を叩く。
乗っていた紙がバサバサと部屋の中で魚のように泳いでいる。
「決めたぞグルント、俺は女皇様と話し合ってくる。 そして、[お母様は女皇様]制度を撤廃させてもらうように直接抗議してくる!! 止めるなグルント!!! 俺はもう止められない!!!!!」
そう言ってブリゲッラは座っていた席から立ち、机を飛んで乗り越え、泳ぐ紙の中をくぐり抜けて部屋の外へ飛び出た。
紙の擦れる音と外の住民の声と靴がこすれる音が聞こえる中でグルントは呟く。
「整理したばっかなのに…」
「というわけで、女皇様と直接話し合いたい。 その許可を!!」
「却下だ」
年季を感じられる声と他者を寄せ付けない圧倒的な質、「道化」であるピエロは暗き空にて輝く星々のような瞳をブリゲッラに晒す。
今この場所は皇女の応接室の一つ前のホール。
ここで守る番人のようにピエロは佇んでいた。
「なぜですか道化様!! 貴方も重要だと思わないのですか!? 母のいない子供たちはどれほどの苦しみを背負っているのか!!」
「今、女皇様は体が不調だ。 そのような戯言を相手にしていられるほど暇ではない」
「じゃあ、道化様がまた別の日に伝えてくだされば…!!!」
「却下だ、無駄に消費する時間はない」
何度もブリゲッラはピエロの心に訴えかけても氷の結晶のように動かない、その熱さを伝えても溶けもしない。
ブリゲッラは歯を食い縛り、ピクリもしない表情を殴ってやろうかと不躾にも思ったその時。
「道化、入れてあげて」
美しい声が響いた、その声だけでわかる優しさの籠もった感情が二人の心に入った。
「ですが…」
ピエロは背後にある大きな扉へと振り向き言う。
「良いのです、話す程度ならできるのですから」
女皇の声は神たる威厳は無く、病的な声で喋る様子に心配をかけてしまう。
「…、わかりました。 ご無理はなさらないように」
そう言い、ピエロは巨大な扉に手を置くと淡く蒼く光り、白い模様で貼り付けられた扉は水色へと変化した。
そして扉はゆっくりと中心が裂けていく。
「不躾な真似をすれば、わかっているな」
ブリゲッラはピエロの隣を通り、扉のその先へと進んでいく時にピエロに耳打ちされた。
その言葉は嘘ではない、したらそうなると思わせるほどの殺気を醸し出していた。
「こう見えても俺はちゃんと敬意を払っています、大丈夫ですよ」
殺気をものともしないでブリゲッラは扉の奥へと進んでいく。
その先は先程のホールと同じくらいの広さの王室だ。
地面には氷のような青い地面にそれに似つかわしくない赤いカーペットが先へと続いている。
天井にはシャンデリアがあり、横を見ると巨大な窓が太陽の光を中へと優しく道筋を描かせている。
「よく来てくれました、情人」
前を見るとそこは女皇の姿は無く、薄い氷に女皇と思わしき影が写っている。
光の問題か、影はとても大きく、更にダボッとしている服を着ているらしく、明確な姿形はわからない。
人々を導く神らしくない行動だが、それでもブリゲッラは片膝を地面に付き、頭を下げた。
「私の傲慢な願いを叶えてくださり、誠に感謝いたします」
「大丈夫ですよ、それよりも孤児院の方はどうでしょうか?」
女皇は氷越しにブリゲッラに話しかける。
ブリゲッラもピエロと話した敬語よりも明らかに違う態度で女皇と話す。
「はい、壁炉では子供たちも元気に育っています。 最近ではリネとリネットらのマジックショーで国民達から絶賛を貰っております」
「ふふっ、そうですか。 私も少しだけ拝見しましたが子供とは思えない素晴らしい技術でしたよ」
「そうですよね!!! やっぱり女皇様はわかるお方です!! ここに来る前までは辛い経験をしたらしいですけど、今では元気に笑顔でやれるようになっております!!!」
ブリゲッラは子供たちを褒められたことを自分が褒められたと同じように喜び、笑顔で女皇に報告を続ける。
「フレミネも最近、機械いじりにハマっておりまして、私が少し手伝ってやろうと豪語しても手も足も出ずに私が教えられる立場になってしまったりしてですね〜」
もうブリゲッラの喋る言葉に敬意はない、ただ子を想う親の姿としてのブリゲッラが女皇の前に晒されていた。
それでも女皇は怒ることなく、優しく頷き、賛同するだけであった。
そして子供を褒めるだけで30分ほど経過し、ようやく本論について話す時がきた。
「それで? 私に謁見を願った理由はなんですか?」
「あ、申し訳ございません。 つい感情が爆発してしまい…ハハハッ…」
女皇は問うてみるとブリゲッラはハッとして、頭を掻きながら半笑いで謝罪する。
「親というのは子を宝物のように扱う者、この国とて、この私とて例外ではありません」
女皇は非難することなく、またお優しく話し続ける。
「それだと言うのに、私は貴方達を駒のように闇の渦中へと送り込んでしまう、そして死に、死にはせずとも異常をきたしてしまう。 スネージナヤを、テイワットを救うことの犠牲だとしても、私は心が毎日締め付けられてしまいます」
女皇は声が細くなり、だんだんとその影が小さくなっていっている気がする。
「そんな、この国で貴方のように太陽のような人がいると私は安心します。 まだ、私は死ぬわけにはいかないとも思ったりもするのです」
女皇はブリゲッラに感謝を述べる、神である彼女がただの人に言うとは威厳がない。
このような密室の場でしか許されない行為だろう。
「女皇様、貴方が全世界の敵になったとしても私達はついて行きます。 この闇の向こうに光があるのなら、死ですら受け入れます。 心配しないでください」
ブリゲッラも女皇と同じ眼をして答える。
「…ありがとう、本当に…」
女皇の声が震えながらもまた頭を下げる。
「それで、本題に入るんですけど…」
少しの静寂を断ち切るようにブリゲッラは言い、そこから言うべきことを女皇に伝えた。
「なるほど、召使を母と呼ばせたいと、そうゆうことですね」
「はい、私自身はどんな処罰でも受けます。 ですが、子供たちとア…召使には手を出さないでください」
拳を握りしめてブリゲッラは覚悟を背負った目をして答えると女皇からは素っ頓狂な返答を聞く。
「良いではないですか、そもそも私を母として認識するように言ったのは先代達の独断なのであって、私はなにも指示はしていないのですよ」
「へ?」
これは以外と思ったのかブリゲッラは間抜けな声を出して疑問符を頭に思い浮かべた。
「そ、それじゃあア…召使を母親として呼んでも…」
「ええ、どうぞ」
案外あっさりと承諾を得れたブリゲッラはその場から飛び跳ねて有頂天に達する。
「やった!! それじゃあ早速私はアノの誕生日祝いパーティーの準備をするといたします!!! 女皇様もご来席いたしますか?」
「行きたいのは関の山ですが、大事を取ってお断りいたします。 また次の年にでも誘ってください」
「わかりました!!! ではお体をお大事になさってください!! 失礼いたしました!!!」
背後にある巨大な出入り口を力技でこじ開け、部屋から離れていくブリゲッラの背中を見つめる女皇。
彼女は簡単には人の前に出れない、神が弱っているとは思わせてはいけない。
全ては国民のため、世界のため、故に彼女は苦しみを耐える。
この冷たい世界にて。
ところ変わってブリゲッラ、彼は今、召使の誕生日を祝うため、人を直接招待をしていた。
「道化様!! 召使の誕生日パーティですけど来ますか!?」
「断る」
「知ってた」
「ドットーレ!! 召使誕生日パーティやるけど来るか!?」
「誕生日だと? 私自身もすでに生まれた日なんて忘れたなぁ。 たかが人如きが1年1年祝うなど…」
「めんどくさ!! じゃあ良いや!! あばよ!!!」
「スカラマシュ!! 召使誕生日…」
「ふん、そんな人が誕生した日を祝うなんて、なんと愚かだろうか。 老い先短い人にとっては…」
「お前もか!! あばよ!!」
「カピターノ!! は、いないのか…アイツも忙しいなぁ」
上にも下にも立場問わず彼は半日をかけて至る所へ招待しまくった。
そしてまだ召使が帰ってきていない夜にて、壁炉の家は大忙し。
キッチンでは料理を作り、大きな食堂にて壁や天井を色とりどりな飾りつけで催し、子供、大人、招待された人々は立場関係無く、そこにはただ祝いたいという気持ちだけが同じであった。
「あと1時間ほどで帰ってくるぞ!! シェフ!!もっとペースを上げろ!! ネイサン!!そこは青じゃない赤だ!! カタリナ!!天井装飾は気をつけろよ!! ヴラド!!ナディヤ!! お前ら喧嘩してないでさっさとしろ!!! リネリネットフレミネはちゃんと手品の準備できてるか!? できてんのか!!やっぱり俺の子は流石だ!!!」
ここには大声で指示をするブリゲッラが、的確で素早い指示に流石としか言いようがないだろう。
「んん〜、もうちょっとスパイスが欲しいかなぁ〜」
「コロンビーナ!! お前食ってないではよ働け!!!」
「あまり、こういう細かい作業は苦手なんじゃが…」
「爺さん!! あんた組み方間違えてるって!!うちの子に教えてもらえ!!!」
「あら、貴方。 私の傑作に興味を持つなんていい目をしてるわね。 良い? これは冷却に力を入れていて長時間活動させても…」
「サンドローネ!!! お前も仕事しやがれ!!フレミネは準備後に聞くんだぞ」
「あまり豪盛さが無いな、ここはもっと金箔をつかい部屋全体を装飾して…」
「パンタローネ!! てめぇは勝手に家の壁を金に染めんな!!」
「なんで、魔女の私がこんなことを…」
「ロザリン!! 愚痴愚痴言ってると子供に伝染しちまうだろ!!もっと笑顔で喜んで作業しろ!!!」
「おおい待ってくれよみんな、俺がお化けになって食べちゃうぞ〜!!」
「タルタリヤ!! お前ちゃんとテウセルを見とけよ!! あと今遊ぶな!!!」
ここには執行官ですら大人しく作業している。
中には作業なんてほっぽりだしている者もいるがそれでも彼らは人の邪魔になるようなことはしない。
「サンドローネ!! 後どれくらいでアノが来る!?」
「あと10分後くらいにはここに到着するかな?」
「おま!! はよ言えよ!! 全員持ち場に隠れて、歓迎準備だ!!!」
ブリゲッラがそう言うと蜘蛛の子を散らすように全員は自身の隠れ場所へと行った。
テーブルの下、カーテンの裏、天井やプレゼントボックスの中などこのような大人数では流石に完璧に隠れることはできないだろう。
だからこそ、明かりを消して少しでもバレるのが遅れさせるためにどうにか細工する。
そして外にて、月が白い髪を照らし、踏み慣らされた雪の上を歩きアルレッキーノはドアの前で立ち止まる。
外から見た中は暗く、もう就寝しているのだろうと普通は思うだろう。
ドアノブに手を掛けたその時、アルレッキーノはほんの少しだけ動作を止めた。
もうここですでにわかっていたのだろう、自分を歓迎するためのサプライズなのだと。
アルレッキーノは少し口角を上げたがすぐに元に収め、ドアノブを下げて扉を奥へと押した。
そして暗かった部屋の中が急に明るくなり、パンッと大きな音がなった。
「「「「「「「お母様!!!! 誕生日おめでとう!!!!!」」」」」」」
子供達の声とクラッカーの音と一緒に細切れにされた髪や紐がアルレッキーノにかかる。
アルレッキーノはわかっていたとしても、目を開き明らかに驚いたとわかる仕草をとった。
「ふふっ、びっくりしたぞ子供達。だがな、私はお母様ではなくお父様と呼べと何度も」
「それには心配いらないぞ!! アノ!!」
アルレッキーノが注意をしようとした時、自身に縋る子供たちの向こう側にブリゲッラが仁王立ちでいた。
「今日からお前はお母様だ、ちゃんと女皇様に許可を貰ったし、お前自身もそう呼ばれたかっただろう? だから我慢しなくて良い!! アノは今日からママだ!!」
そう言うブリゲッラにアルレッキーノは困惑と動揺が見て取れる。
「ぬぐっ…、だ、だがこの家を芯に支えているのは女皇様の手助けによるもので…」
「お母様!!」
アルレッキーノが弁解しようとした時、下から子供の声がアルレッキーノを向かせる。
「僕たちもお母様と呼びたいです!!」
「私も!! お父様がいるならお母様もほしい!!」
「僕も!!」「私も!!」
子供たちは目をキラキラと輝かせながら、アルレッキーノへと懇願する。
「う、う、うぐぅ…」
アルレッキーノはこれ以上に動揺していた、自身の女皇に対する敬意と自身が母でいたいとする願望がせめぎ合っているのだ。
子供たち、ブリゲッラ、そしてすでにテーブルにて他のファデュイ達や大人の対応をしている執行官達を何度も見る。
そして、
「わ、わかった…。 今日から私がお前達の母だ…」
小さい声ながらもハッキリといった母宣言、これを聞いて子供たちは
「「「「「「 やった〜!!!! 」」」」」」
大喜び、その中にはブリゲッラも一緒に混ざって喜んでいる。
「よっしゃ!! それじゃあ早速パーティだ!! みんな騒いで踊って楽しみまくれ〜!!!!」
ブリゲッラが言うと子供たちは走り各テーブルに座って、用意された料理に手を出した。
今だけは無礼祭、ここには上も下もいない、好きなことを話し、好きなことを行える場所へと変化した。
ブリゲッラはそんな人達を見て、自身も席に着こうとした時。
急に後ろに引っ張れた。
後ろを見ると自身の袖を引っ張っているアルレッキーノの姿がそこにあった。
「ブラ…、その…」
何かを言いたそうにしているが詰まっているアルレッキーノを見たブリゲッラ何を思ったのか、手の平をアルレッキーノの頭に乗せた。
「別に今じゃなくても大丈夫さ、それに言わなくても言いたいことはわかっているしな」
そう言ってブリゲッラは頭を優しく撫でる、サラサラな髪に冷たい感触が伝わる。
アルレッキーノは顔をほんのり赤くして下を向く。
「ほら、さっさと座ろう。 お腹減ったろ?」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
手を繋いで引っ張るブリゲッラに口では言うが抵抗せずに従うアルレッキーノ。
「…春だねぇ」
「あの二人ってまだ結婚とかしてないわけでしょ?」
「そうですね、我々から見ればすでに熟年夫婦でしょうな」
「ワシは二人が早くそうなってほしいのぉ」
「あまり他人事には興味無いけど、彼らには少しだけ面白みを持つわね」
「俺には少し甘すぎるよ…。 あ、君、コーヒーを貰えるかな?めっちゃ苦くお願いね」
それを見ていた人たちはそれぞれの考えがよぎるが苦いコーヒーを飲みたいという考えだけが統一していた。
そしてパーティー後、子供たちは眠りにつき、他の招待客は皆帰っていき、散らかった大きなパーティー会場にてブリゲッラとアルレッキーノは長椅子にぴったりと密着して座り、ワインを嗜みながら話していた。
「片付けありがとう」
「いいよ、俺の力はこういう時にも使えるからね」
会場は散らかっているが今ブリゲッラの水元素の力で掃除をしている。
彼の神の目は水、その力を開放すると水を己の手足のように自在に操作できるというものだった。
そのため、今会場には人の形をした水の塊達が黙々と紙くずや食器、色々な所に設置した装飾品も取っている。
その光景を当たり前かのように見ているアルレッキーノにはそれほどの付き合いの長さを感じさせるものがある。
「んで、どうしたの? なんか悩んでいるし」
ふとブリゲッラはそう伝える。 それを聞いたアルレッキーノは苦笑いをしながら続ける。
「やはり、ブラには隠し事が聞かないな」
「それはお互い様でしょ、このパーティーだってわかっていたのに驚いたフリをして、子供たちを喜ばせていたろ」
ブリゲッラは微笑みながら言い、ワインの入ったグラスを手に取り少し口に含む。
「そうだ、じゃあ今私が君と交わりたいというのもわかっているのか」
アルレッキーノもグラスを持ち運んでいる時に言うとブリゲッラは口に入れていたワインを前方へ吹き出した。
「ゴホッゴホッ…、ちょ!! 何いってんの!?」
「冗談だ」
「えぇ…、冗談にしてはちょっとハード過ぎるって…」
微笑むアルレッキーノと困惑するブリゲッラ、しかしアルレッキーノはあまり冗談とは思っていないように思える。
「話は変わるが今日をもって、私はあの子達の母として呼ばれるようになるだろう?」
「そうだね、良いことじゃないか」
「そうだな、良いことだ。 だがな…」
先程の空気から一変、ほんわかな空気から凍てつくような肌寒さに早変わりする。
「私はあの子達の母にはなれない」
アルレッキーノは俯きながらそう弱い声で呟いた。
「私はこの手を汚してきた、殺しという名の血がベッタリとついている」
「この手であの子達に触れると汚れを伝染させてしまうのではないかと何度も考える、今でもだ」
アルレッキーノは手を握りしめる。
「この家を出ていく時、半強制的にファデュイに入れられて望まぬ殺しをすることになる」
「生まれた地ではない、全く知らない土地で誰にも知られずに朽ちていくと考えるといつも体が震えてしまう」
己のことなのか子のことなのか、どちらにせよ彼女にとっては恐怖であることには代わりはない。
そうして彼女は震える体を温めるように自身の腕で自身の体に抱きつく。
「私は、母という美しい人ではない」
「ただの人ご…」
アルレッキーノが言い切る前にブリゲッラは腕を広げて胸の中に彼女を収める。
彼女の頭が彼の胸に密着する。
「…汚れていても、いいさ」
ブリゲッラは少し言葉を詰まらせながら言う。
「アノは宝石だ、泥で塗れても根本の本来の美しさは一ミリも劣っていない」
「アノが泥で塗れていたとしても、俺はアノが好きだしあの子達もアノが好きだ」
「だって、アノの本当の美しさを知っているから」
ブリゲッラがそう言ってアルレッキーノに抱きしめている力を更にギュッと強めた。
散ってしまいそうな体を離さないように。
「………」
アルレッキーノは何も言わずに体の向きを変えて、抱きしめ返した。
そしてしばらくして会場はもう綺麗さっぱりと片付けられており、水の従者達も消え去っていた。
「アノ…、もう日を跨いでいるし寝ようか」
「……ああ」
アルレッキーノは名残惜しそうに腕を緩めて離れる。
彼女の目元は赤く腫れていたが見せたくないのかすぐにブリゲッラに背を向けて立ち上がる。
何も言わずとも手を繋ぎ、二人は横並びで自身達の部屋へと帰っていく。
「ブラ」
「なんだい?」
部屋へと戻り、二人は寝間着に着替えている最中にアルレッキーノから話しかけた。
「まだ、君からのプレゼントを貰っていないような気がするが」
「あぁ、実はまだ悩んでいてさ、もうちょっとだけ待っていてくれない?」
ブリゲッラはそう言われて何を送ろうかを再度考え直した。
お母様と呼ばれる権利というのはプレゼント感が無いし、なにか物を渡したほうが良いだろうと考えていた時、背後にドンッと衝撃が走った。
振り返るとそこにはアルレッキーノが抱きついていた。
「…プレゼントは…ハグが良い、壊れそうなくらい思いっきり抱きしめられて眠りにつきたいんだ」
アルレッキーノは恥ずかしがっているのかボソボソと小声で話す。
勿論、どんな願いを言われたって必ずどんなことでも成し遂げようとするブリゲッラが断るはずもなく…。
「ダメだよ」
「…え……?」
なんと、彼女優先を第一とする男が断ってきた。
アルレッキーノは驚愕した、自身が要求すれば必ずしてくれた人がいきなり拒否反応を示してきたのだ。
彼女も彼を好いている、それはただの好きではなく強烈なまでの愛。
それが叩き落された彼女にとって心が崩壊してしまうような一撃だったろう。
そうしてこう考える、「嫌われた」と。
ゆえに彼女の赤いバツ印の瞳がだんだんと暗く染まっていく、足に力が入らなくなり腕に入れていた力が抜け落ちる、思考すらもできなくなっていく。
真の絶望とは死よりも怖い、孤独である。
そんな彼女の心が死ぬ直前に…。
「それくらい、いつでもしてあげる。 そんなのプレゼントの範疇に入らないよ」
ブリゲッラは笑って、アルレッキーノを抱きしめ返す。
そうして持ち上げて、ベッドの方へと連れて行き、横に寝させる。
「それじゃあ、お待ちかねのハグですよ」
ブリゲッラも横になり毛布をアルレッキーノと自分に掛けて、アルレッキーノを抱きしめる。
要望通りにかなりの力を入れて。
「それじゃ、おやすみアノ」
そう言ってブリゲッラは目を閉じる。
アルレッキーノは壊れかけた心をゆっくりと戻しながら、現実を把握していく。
嫌われていない、よかったと安堵してまた涙を流す。
ブリゲッラも自身から離れれば彼女は自ら死を選ぶだろう。
それほど、彼女にとってブリゲッラはかけがえのない人なのだ。
そうしてアルレッキーノはすでに寝たブリゲッラに抱きしめ返して、マーキングするように頭を胸に擦り付ける。
「おやすみ」
彼女もそう言って、温かみを感じながら微睡みの中へと沈んでいった。
彼女の葛藤、悩み、不安を曝け出せれるのは彼だけだろう。
今の彼女は女皇に付き従う召使ではなく、ただのアルレッキーノだ。
弱く、脆い、ただの人であるアルレッキーノ。
人は支え合っていかなければ生きることができない弱い生き物だ。
だからこそ支える、だからこそ友情が芽生える、だからこそ恋をする。
だからこそ、夫婦になる。
ブリゲッラ(情人):主人公、一応ファトゥスの元ネタであるコンメディア・デッラルテからの引用。 詳しくは調べて(脳死)
アルレッキーノ(召使):ヒロイン、ヤンデレ属性の適正がありのママ。