気が向いたら投稿する形だから、あまり気にしないでください。
アルレッキーノの誕生日パーティを行った数ヶ月後。
今、アルレッキーノとブリゲッラ、フレミネ、リネ、リネットは雪で塗れるスネージナヤから世界の水の中心国であるフォンテーヌへと身柄を移した。
最初にそう提案したのはアルレッキーノだ。
彼女の出身国であるフォンテーヌでは古くから「フォンテーヌは水に沈み、人は水に溶け、水神は神座で涙を流す。 そうしてフォンテーヌ人の罪は洗い流される」といった予言が老若男女問わず語り継がれている。
そして、その予言がもうそろそろの時期だと彼女は言った。
その出処はすでにどこからなのかも解らないほどの古いものだったが、ブリゲッラは疑うでもなくただ一言頷いてついて行った。
彼にとっては彼女の心配事は自身の心配事、彼は彼女を心底信頼しているのだ。
それはお互いに。
「いやぁ〜、流石フォカロルス様!! あの歌劇は正に神話!! 後世にまで語り継がれさせるべきの大作でしたよ!!!」
「ハッハッハッハッ!! そうかい? まぁボクにとっては午後のケーキを食べずともできてしまう天性の才能なのさ」
「私もこちらへ引っ越してきてよかったですよ〜、だって水神様とこんなにもフランクに話せるんですから」
彼は今、フォンテーヌの神。 水神フォカロルスをおだてている最中であった。
この予言は全フォンテーヌ人が知っていることであるため、この国の統治者である神、フォカロルスならばこの予言の内容まで詳しく知っているのではと踏んだからである。
しかし、それを引き出すことはできなかった。
遠回りで聞いてみたとしても、直接的に聞いても、しどろもどろになりながら受け流してきたのである。
「がぁ〜…、もう何回目だ? これ。 おだてるのも疲れてきたわ」
パレ・メルモニアから出たブリゲッラは肩を落としてため息をつきながら歩いていた。
照らしてくる太陽が肌にジリジリと攻撃し、貴婦人達も洒落た日傘の下で談笑している。
ブリゲッラのファデュイ用の礼服である真っ黒なスーツがこの白と青で作られている街には不似合い過ぎる。
だが、それ故に目立つ。
そして、よく目線を感じる。
「ブリゲッラさん!! 今、暇かい? 珈琲でも一杯どうかな?」
「ハッハッハっ、男からのナンパは遠慮させてもらますよ、その情熱をもっと他のことに使ったらどうだい?」
「ブリゲッラさん!! こちらのお召し物はどうですか? 黒ばかりじゃ飽きますよね?」
「すみませんが私はこれがトレードマークなので気に入っているんですよ。 でも他の良い服があったらそちらを頂きたいと思っていますよ」
「ブリゲッラさん!! 新鮮な果物はいかがですか? キャンディよりも甘いですよ!!」
「ありがとうございますユージーンさん、ですが今お手元が無いのでまた後で行きますよ」
彼が歩くたびに声を掛けられ、皆が笑顔で話しかける。
ここに引っ越してきてからはやはりあの悪名高いファデュイであるということで相応の視線は浴びせられていた。
しかし、彼は常に紳士的に振る舞うとそれらの視線は消え去り、逆に尊敬の念が送られる。
やはり、彼が孤児院を運営しているからだろう。
彼らがこちらへ越すとフォンテーヌの孤児院、ブーフ・ド・エテの運営者と急遽なり、彼は今までの教育方針を改めた。
スネージナヤの孤児院の最高管理者はアルレッキーノであるが、子供達の教育はそれぞれの孤児院の運営者に任せている。
スネージナヤではブリゲッラが最低限の教育を施し、仮にファデュイになるというのなら、自身が死ぬ、または人を殺す可能性もあるということを伝え、拒否反応を示す子には別の道を指し示す。
孤児院はファデュイの人員を増やすための設備だが、第一優先は子供の望み。
彼らが嫌だと言うのならそれを否定せず、決して押し付けたりはしない。
しかし、ブーフ・ド・エテでは全くの逆で子を必ずファデュイの一員とさせ、抵抗する子には体罰、さらには洗脳にも手を出す。
これらは公には勿論ならないが、そういった怪しい空気というものがフォンテーヌの国民達はわかっていたのだろう。
だが、そのような空気も一新し、今では子供の笑い声が響く場所へと変わった。
前に勤めていた者はブリゲッラが制裁し、二度と日の目を見ることは叶わなくなったがそのような残酷さを露知らず、地獄から開放された天使達はブリゲッラに感謝に、更には父と呼ぶ始末。
ブリゲッラも満更でも無い様子で容認したし、なんなら自分自身をパパと呼んでくれとお願いもした。
彼を知っているフレミネ、リネ、リネットはどこへ行ってもお父様は変わらないなと笑った。
この平和が続き何ヶ月、いや数年が経過した。
年長者だった者達はそれぞれの道を歩み、また新しい迷い子が来訪するなど色々なことが起きたが未だにこのフォンテーヌの予言に関することは一向に足取りを掴むことができなかった。
しかし問題はそれではなかった。
「おおおおおぉぉぉぉ…、アノ…アノ…アノ…アノ成分が足りないぃ…」
巨大なソファに顔をクッションに埋めて、ブリゲッラは死霊のように唸っていた。
「もうここまで来たら、依存症の一種だね」
「ん、私もお母様に抱きついて甘えん坊モードでエネルギーを回収したい」
他所からリネ、リネットがそれぞれの思惑がありながらも思い込んでいた。
彼の愛人、アルレッキーノが3ヶ月前ほど特別な任務を任されたのだ。
最初、彼も一緒についていこうとしたが、「君には私達の子を護るという任務を与えよう」と言われ同伴を拒否されたのだ。
彼女の思いを汲み取って、彼は歯切れ悪くイエスと答えたがそれがこんなにも長期に渡るものだと思わなかったため彼は後悔していたのだった。
「お父様、お父様!!」
リネがブリゲッラの体を両手で揺すり、起こそうとすると。
「アノ!? 帰ってきたんだねぇ〜!!!」
「ちょ!! 違います!!! 正気に戻って!!」
ブリゲッラはリネをアルレッキーノだと錯覚して抱きしめたのだ、ここまで来たら医者に見せた方が良いだろう。
「お父様!! 全執行官が集うようにという手紙が!!」
リネがポケットから取り出した手紙には赤い蝋燭を垂らしてできた押し印があり、これは緊急を要する事態の合図である。
「…なに?」
先程までの執行官らしからぬ行動、言動が一気に変わり、二人はそのギャップに息を飲むほどの緊張に急に襲われた。
ダラダラとしていたブリゲッラは目にシワを寄せて手紙を受け取り、手紙の端を乱暴に引きちぎった。
中身の紙を見て数分経った時、彼は手を自身の目の上に乗せた。
「ロザリン…、淑女が…死んだ」
彼の口から出た言葉は重く、そして暖かかった空気を極寒へと変わらせた。
「…、どうするのですか?」
リネは少しに聞きづらそうにしていたが意を決して言うと、少しの沈黙の後に座っていたソファから立ち上がった。
「少し…、顔を見せに行くよ」
そう言って彼は黒いスーツに白い羽織を背負って、外に出る準備をし始めた。
ファデュイに属する者、いずれ死ぬということは全員わかっていたがいざ、自分や自分の友人が亡くなると心に来るものがあるだろう。
殺しをする彼らだが心が無いわけではない、必ずしも殺したいと思うわけでもない。
ただ、生きるために、未来を生きる者達が笑っていられるようにするために彼らは泥を被るのだ。
「それじゃあ、行ってくるけど多分1日は帰ってこれない。 他の皆にも伝えておいてくれ。 お留守番、頼んだよ」
ブリゲッラは二人の頭を優しく撫でる、いつ死ぬか分からぬ世界で死ぬ間際に思い出させれるように。
「お父様」
リネットが扉を開けて行こうとしたブリゲッラに声を掛けた。
振り向くブリゲッラは少し暗い雰囲気を醸し出している。
「…、いってらっしゃい」
一瞬、別のことを言いかけたようだが訂正していつもの日常の言葉へと変えた。
「ああ、行ってくる」
と笑顔で、心配させないように満面の歯を見せる笑顔で外に出た。
バタンッっと無駄に響く家の中には、残酷さを思い出すように子供たちは佇んでいた。
この雪の場から去ってから数年、久し振りにその寒さが肌に染み渡る。
本来ならばこの国も璃月ほどではないがそれほどの活気があったが今では人っ子どころか小動物すらもいなく閑散としている。
普段とは違う街を歩き、ブリゲッラはファデュイの家へと向かう。
大きな教会のような場所へ着くと入口の巨大な扉には、親愛なるアルレッキーノが壁に寄りかかりながら白い息を吐き出して下を向いている。
「久し振り、アノ」
「…ああ、待っていた」
「それはアノがかい?」
「君以外の全員だ」
二人はすでに触れられる距離まで近づいたがいつもする過度な触れ合いはせず、友に扉を開いて中へと入っていった。
中の通路は静かな装飾が施されており、自身の財力を誇示するという思惑は見られない。
更に奥へと進み、再び現れた扉をまた開けると、アルレッキーノが言っていた通りに自身を除いた執行官が揃っていた。
中央にはコロンビーナが棺らしきものに体を預けながら、朗らかな歌を奏でている。
「遅かったのぉ、ブリゲッラよ」
プルチネッラが杖を地面につきながら、ブリゲッラの方を横目に見る。
視線は棺から離さないようにじっと見つめながら。
「できるだけ急いできたんだけどね、まぁ遅れたのは事実だし謝るよ」
ブリゲッラは言い訳をするが事実は事実であるため謝罪した。
「まぁ良い、今日集まったのは我らが同胞を追悼するためじゃ。 この犠牲は、全国民にとっても半日手を止めてでも記憶に刻む価値がある」
プルチネッラのかけている眼鏡が光で反射し、どのような目つきをしているのか想像するしかなかった。
「フッフ、半日だけですか。北国銀行は民の血と涙で回っていると言いますが、市長殿の価値観は私ども銀行家より歪んでいるらしい」
パンタローネの貶し癖はここでも改善されないが、ロザリンの死を憐れんでいるのは違いない、その怪しげな薄気味悪い微笑みがなければより良かっただろう。
「ロザリンは見知らぬ地で果てていった。君たちのように共感性に欠け、言い訳ばかりで国に身を潜めるお偉方には…想像もつかないだろう。ならば、さっさと口を閉じろ。子どもたちが泣いてしまう。」
彼女の言う通り、ロザリンはこの執行官の中で一番戦果を上げた功労者であろう。
彼女が女皇の元について500年、彼女はこの長い苦しみから開放されたといっても過言ではない。
しかし、その開放が愛した者もいない孤独の島での出来事が彼女の情を買うことになる。
「ちょっとちょっと。俺でさえ、ここが『戦い』の場じゃないって分かってるのに」
「ふんっ、実に滑稽ね」
タルタリヤとサンドローネの二人は馬鹿な言い争いをしている三人を蔑むが、そこ言葉がまた火に油を注いでいるということが分からないのだろう。
「ローエファルタのとった手段は栄光を傷つけたとはいえ、彼女の犠牲は惜しい。それでも俺たちが歩みを止めることはない。ドットーレ、スカラマシュと稲妻の神の心はどうなった?」
「神の叡智は理性では理解できないほどの神聖な知識。神の眼差しを征服した彼は、新たな一歩を踏み出す」
カピターノの質問に答えれてないだろとブリゲッラはドットーレに心の中でツッコんだが、それを表情に出すことはせず、胸の内に収めた。
「夜の戯劇もこれで終わりだ。今ここに、貴様たちに観衆はいない。崇高なる犠牲は全て硬き氷に刻まれ、国と友に生き続ける。高潔な氷の女皇のもと、我々は神々の力を奪取する」
ピエロがロザリンが眠っている棺の傍まで行くと、他の者たちも連れられるよう棺を囲む。
そして、全員が目を閉じ、頭を少し下げ黙祷する。
彼らの胸の内を知ることはできないが、プライドの高い者も素直に下げるとはそれほどまでにロザリンに尊敬していたのだろう。
「…またな、ロザリン。 君の運命を糧にして歩み続けよう」
ブリゲッラが小さく呟いたが、その声はこの場にいる者全てに聞こえている。
「絶対的安寧、それは女皇の恩賜であり、女皇の慈悲。棺にて永き眠りにつき、厚い堅氷の中に閉ざされようとも、吾輩が約束しようロザリン。貴公の棺が旧世界の全てとなるだろう」
一気に人はその場から消え去り、その棺から氷が出現してくる。
建物ごと墓場にするように氷で包み込み、暫くはこの近くには誰も近づけないだろう。
紅い蝶がフラフラと羽ばたき、ロザリンが眠る棺に着地する。
そして、命という燃料を使い切ったように燃え尽きていった。
彼女が棺にいなくとも、彼女はこの棺で眠ることを選んだ。
自身を裏切った風の国、自身を殺した雷の国よりも、冷たくされど温かい国へと。
ロザリンは死んだが、想いを死んでいない。
彼女の灯火は、また別の者へと紡いでいく。
「アノ、これからどうするんだい?」
静かな街を二人で練り歩くブリゲッラとアルレッキーノ、彼がまず白い呼吸と友に言葉を吐いた。
「任務は終わった、これで漸くフォンテーヌへと力を入れることができる」
「それじゃあ、また一緒にいられる?」
「ああ…、そうだ」
そう言うとブリゲッラは急に隣で歩いていたアルレッキーノに抱きついた。
「寂しかった」
ブリゲッラが呟くとアルレッキーノは子供をあやす優しい目つきになり、抱きしめ返した。
「私も、君の人肌が恋しかったよ」
アルレッキーノもそう答えると二人は暫くオーロラの下でその体勢のままであった。
このハグにはお互いに別れないようにという意味を込めただろう。
死神ですら、彼らの愛の前には叶わない。
死が彼らを分かつまでというフレーズがあるがそれすらも、滑稽と思わせれる二人の繋がりは決して千切れることはない。
ロザリン「さっさと結婚しろ」