「動くな!」
レストランに突入してきた、銀髪の少女がサンに銃口を向けながら言った。
「あー、何だ、お前?」
「風紀委員会だ!今すぐ武器を下ろして、手を上にあげろ!」
一体なぜこんなことになっているのかと言われれば、少し複雑な事情がある。
事の始まりは昨日にまで遡る。
* * *
私、鈴ヶ咲シオンは『鈴ヶ咲探偵事務所』で働いている。
所長であるサンが実働係、私はそれ以外のデスクワーク係。
別に上下関係がある訳じゃない。私たちは2人で一人。お互いに支え合うのだ。
そんな鈴ヶ咲探偵事務所に、一件の依頼が舞い込んだ。
『猫?』
「そう。家で飼ってた猫が逃げ出しちゃったんだって。」
『ほーん。』
猫探し。依頼を伝えたら、サンから気の抜けた声が返ってきた。
いなくなった動物を探す、というのはよくある依頼なので、慣れたものだと言わんばかりである。
『つーか、なんで逃げ出したんだよ。探すってことは放置してたわけじゃ無いんだろ?玄関から逃げちまったのか?』
「爆破されたんだって」
『は?何が?猫が?』
「家が」
『はあぁ?』
「なんでも、温泉開発部っていう団体が温泉を作る時に巻き込まれたんだって」
『へぇ、温泉って家を爆破すると作れんのか。今度やってみるか』
「違うよ、サン。家を爆破しても温泉は作れない。どちらかと言うと地面を掘るの」
『…じゃあ、なんで家が爆破されるんだ?』
「さぁ?邪魔だったんじゃない?」
『そりゃあ、なんとも…』
通信の中で、サンがたじろぐ。自由奔放なサンでも流石に想像しなかったことらしい。
『で、その猫ってのは?』
「見た感じ普通の猫だよ。普通の黒猫。だけど頭に白色で斜めの3本線が入ってる。写真を送るよ」
『おー、分かった。』
送信した写真を見て、サンから返事が返事が帰ってきた。
『…ん?なんか…変じゃねーか?』
「何が?依頼が?」
『いや、写真が。なんつーか、違和感があるっつーか…』
「そう?別におかしい感じはしないけど…」
手前に写った黒猫、ごく普通の部屋の風景。特におかしくはない…と思う。
『んだろーな…遠近か?サイズ感がおかしいっつーか…』
「広角レンズでも使ったんじゃないの?」
『猫撮るのに?』
「うーん…」
違和感の謎は解けなかったが、とりあえず依頼に向け、車を走らせることにした。
* * *
ゲヘナ自治区に到着後、直ぐに依頼解決に取り掛かった。
サンの実地調査に加え、私がカメラなどの情報を集め、調査を進めた。その結果、自地区の端っこにある工場跡地にいることが分かった。
途中でとある事実に気づいたのだが…実物を見るまで目を逸らしていた。
で、数時間で見つかった、のだが…
『…デカイな』
「うん、大きいね…サイズが」
『俺らの体くらいはあんじゃねーの?』
「違和感の正体はこれであってたか…」
目を逸らしてた事実が目の前に鎮座していた。
ゲヘナの頭に三本白斜線の入った黒猫。身を丸まらせて眠っている。至って普通の黒猫だ。
但し、その大きさは1mを超えている。
丸まった体勢でこの大きさ。起き上がればサンと自分の体よりも大きいかもしれない。
『これを飼ってたってマジかよ…』
「本当なんだろうね。写真と同じ顔だし、首輪もしてるし」
『目撃者が怯えるわけだよなぁ…。こんなん化け猫の類だろ』
「カメラに写ってたのもずっと大きかったし…。とりあえず、車に載せよう。連れ帰らないと」
『どっちかっつーと保健所案件じゃねーのかよ…。まあ依頼だし、連れ帰るけどよ』
「首の後ろを摘んで。猫はそこを摘んで持ち上げれば暴れないから」
『おー、分かってんよ。いつも通りにな』
サンは猫の元へと歩いていき、首を摘んだ。そして持ち上げ…持ち…
『…上げ?』
『ちょ、っと、待て?このサイズでどうやって持ち上げ…』
「…あ。」
『あ、じゃ、ねー!?オイコラシオン!!?どーすんだこれ!!?猫のヤツ、目ぇ覚ましちまってんぞ!!?』
「今車をそっちに向かわせてる。あと数分で着くからそれまで何とか…」
『…何とか?』
「頑張って」
『シオンンンンンンン!!!!???』
叫び声が発せられてるであろう場所に向かって、車を走らせる。とにかく急いで向かってあげなければ。
『オイコラ、暴れんなテメッ、痛ッ!爪立てんなコラァ!!』
「もう少しで着くから、頑張って」
『ちょっ、急いでくれ!コイツめちゃくちゃ暴れてきやがる!!ガッ、おまっ、頭噛むな!!』
目的の工場が見えた。時間もないので、入口の扉に車で突っ込む。広い場所、窓から光の射す場所に、動く影が見えた。
「サン、無事?」
『………。』
「…サン?」
そこには、猫の首を摘んだまま、猫の舌で頭を丸ごと齧られるサンの姿があった。
「サン…ごめん、間に合わないなんて…」
『…………。』
「サンの遺志は、私が継ぐから…」
『勝手に殺すな早く助けろ』
「分かった」
遺志はともかく後の仕事を引き継いで、なんとか猫を車の後ろから積み込んだ。
* * *
「ーッたく、ひでー目にあった…」
『ご愁傷さま…。あっこら、暴れないで』
「おー、そっちは大丈夫か?」
『この子、多分早く飼い主に会いたいんだろうね。なのに来たのが私たちだったから、ちょっと興奮してるみたい』
「飼い主を連れてくるべきだったか…」
運転席でサンがぼやいた。手足から頭に至るまでキズだらけで、絶賛応急処置中である。
「このスーツも修理に出さないとな。ボロボロだよ、ったく…」
『しばらく予備の中から使おうか。…落ち着いて猫ちゃん。暴れないで。ほら、
「どこで拾ったんだそれ」
『さっきその辺に生えてた…待って落ち着いて、暴れないで』
「オイホントに暴れさせるなよ?そのサイズが暴れたらシャレになんねー」
『大丈夫。よく考えたら
「オイ車揺れてるって!ちょ待て!!一旦止めるぞマジでシャレにならん!!」
* * *
その後、なんとか飼い主の元に猫を届け、報酬を貰ったまでが昨日の出来事である。その後ゲヘナで一夜を明かし、報酬を貰ったので何か豪華なものでも食べていこう、となったのが今朝。
…。
…ここまでの話、必要だったかな?
まあいいや。ともかくレストランにいた経緯としてはこんな感じだ。
この続きは、当事者であるサンに引き継ごう。By鈴ヶ咲シオン