「今年も熱い季節がやって来たァっ!」
壇上の男が叫び声と共に空高く拳を突き上げた、煽られた観衆がドッと空気を揺るがす大歓声を発する。
口笛までもが吹き鳴らされる熱狂の渦中にある此処はVR空間に構築された円形のスタジアム型のイベント会場。頭上には、晴天の青空が広がっている。本来、熱を感じない筈のVR空間は個々人が発する熱量に満たされていた。
観客席に見下ろされる形で設置された舞台は、真四角の簡素な代物。壇上には司会者を務める男の他にSFチックなリクライニングチェアが二台、設置されている。ゲーマーであれば、誰もが涎を垂らして欲しがる最高級のフルダイブ型ゲーム機だ。また舞台の上空には、四方に向けて設置された四台の大型スクリーンが壇上の様子を映し出される。
観衆は此処に居るだけではない。イベント会場に入る事が出来なかった者達が一枚の画面を隔てて、舞台の様子を見守っている。
「
男の言葉に観衆の喝采は青天井に跳ね上がる。
足で地面を打ち鳴らすは心臓の鼓動、言語化不能の熱量を込めた叫声は地響きにすら感じられた。
否応なしに魂が揺さ振られる。
「今日から始まるは年に一度の大・大・大ゲームフェスティバル! 今、開会式を見守る誰も彼もが今日という日を待ち焦がれていた! 何を隠そう俺自身も昨晩は興奮して寝付くことが出来なかった!!」
運よく会場チケットの抽選に当たった私は、観客席から舞台を眺めていた。
「
大会の開幕が宣言されて、観衆の熱狂は絶頂を超える。万を超える観衆の大歓声に込められた感情は質量を伴って、スタジアムの中心に向かって吐き出された。無自覚に身体が震え出す、唾を飲み込んだ。尻込みする程の大盛況。実質的な全国大会、世界の頂点まで続く長い戦いが今、幕を上げる。
「記念すべき予選第一回戦は、フレッシュなニュービー同士の対戦だ!!」
紹介しよう、と司会者の男が手を翳した先に電脳チックなエフェクトと共に赤い髪の少女が召喚される。
派手なジャンパーを着た少女は親指を立てた手を観衆に向けて突き出す。
「今年初出場! 新進気鋭のフレッシュガールは全国の猛者相手に何処まで昇り詰めるのかハルカ選手の入場!」
対して、と司会者が少女とは反対側に手を翳した先に少年が呼び出される。
ツンツン頭でサングラスを掛けた少年だった。
ヤツメウナギと書かれた糞ダサなTシャツに短パンを履いている。
「同じく初出場、しかし彼の名を知る者は少なくないはずだ! 僅か三ヶ月でダイヤモンド上位まで駆け上がった出世ウナギは大会初お披露目ッ!! 八目鰻選手の入場だッ!!」
少年は観衆の歓声に応えるように大きく両手を振って応えた。
そして最後にハルカと呼ばれた少女に親指を立てる。対する少女は親指を下に突き立てた。少年は笑顔で肩を竦めた後、傍に置かれていたリクライニングチェアに腰を下ろす。少女の好戦的な態度に司会者のフォローが入る中、二人が椅子に座るとSFチックなリクライニングチェアが変形を始めた。背凭れを倒しながら目元を覆い隠すカバーのようなものが装着される。ほぼ同時に舞台が浮かび上がった。舞台は空中に設置された四枚の大型スクリーンの近くで動きを止める。
舞台があった地面が姿を変える。
消えて、代わりに表示されたのは、円形の大きな街だった。
街の中心には「CODE:Fragment.」とゲームタイトルが大きく表示される。
そして二体のアバター情報が大型スクリーンに映し出される。
少女と少年。先程、壇上に上がっていた二人と同じ姿だ。
少し待つと円形の街が姿を消した。
新しく表示されるのは商店街。商店街の両端に先程、スクリーンに映し出された二人が降り立った。
巨大なスクリーンに「10」の表示が刻まれる。
「準備が整ったようだ! 試合開始までのカウントダウン十ッ!!」
司会者の男が両手の指を折りながらカウントを数える。
五秒を超えた辺りで観衆の皆も司会者に合わせて、大きな声で数字を叫んだ。数字が少なくなるに連れて高まる緊張感。騒音は鳴りを潜めて、数字を数える声だけが会場に響き渡る。
戦場に立つ少女と少年が、ゆっくりと腰を落として前傾姿勢を取った。
四秒が過ぎて、三、二、一、と刻まれる。
「試合、開始ィィィィイイイイッ!!」
司会者の声と共に二人は一斉に飛び出す。
大歓声に後押しされるかのように、対角線に居る相手を目掛けて一直線に駆け抜ける。
スタジアムの景色と熱狂を私は一生、忘れることはないのだろう。
少なくとも今、この時は、そう思っていた。
◆
月日が流れる。
◆
この腐り切った世の中に光を取り戻すのだ!
大晦日の夜に情緒も糞もなく、そうしたいからと深夜に双子の弟を叩き起こして死ぬほど寒い夜の街を全力で自転車を漕いでいた。パジャマ姿で、理由はない。意味もない。だけど価値はある、そう思い立ったからそうせざる得なかったのだ。背中越しにギュッと抱き締める弟の感触を感じ取る。身を凍えさせる寒風を急勾配の坂道で振り払って、学校の裏山に忍び込んだ。夏休みになると肝試しにも使われる山道を登り、そして辿り着いた高台で私、
今の青春に満足できない少年少女が抱く一種の強迫観念とも、被害妄想とも呼べる全身を蝕み続ける病のような何かに駆り立てられた私はネットの世界に生き場を求めた。眠たい目を擦りながら参加した初詣で私が運命力を爆発させて見事に大吉を掴み取った数週間後の話、ネット上のアイドル事業を業務とする事務所が新規のバーチャルストリーマーを募集する広告を発見する。フルダイブ型のVRゲーム機が社会に浸透した御時世、未成年でも活躍する俳優が居るように未成年のネットアイドルの存在も当たり前に受け入れられていた。くだらない人生におさらばだ、と若気の至りを全力全開で解き放った私は、双子の弟を巻き込んで意気揚々と応募のメールを送信した。
勝手に応募された弟を、どういかこうにか宥めすかして面接まで漕ぎ着ける。
そして、なんとびっくり、流石の私は事務所所属のバーチャルストリーマーになる権利を勝ち取ったのだ。
平穏という名のぬるま湯に浸かり切った軟弱共は私のやりたい事を片っ端から批判する。
何かに挑戦する事を忘れた保守最下層の可哀想な人間共は私の足を引っ張る事に躍起になる。非常識という言葉で簡単に私を括らないで欲しい。失敗を前提に行動する馬鹿が何処に居る。自分が今までした事ないものをまるで分かっている風に語る連中は信用するな。踏み出す一歩を何故、讃えない? 私は何も行動を起こさない貴様らよりも常に一歩先を進んでいる事実に何故気付かない。失敗が何故、挫折になる。青春は一瞬、人生は一度切り、私に立ち止まっている暇はないのだ!
自立心旺盛な私は即日、双子の弟と一緒に社宅に住むと親に宣言してやった。
しかし親の相談もなくVs事務所の所属になった事、双子の弟を巻き込んだ事でこっ酷く叱られた。だけど私にも言い分がある。相談して応援した事が一度でもあったのか。自分勝手だと物申すが、勝手にやらねば、私は何も掴み取る事が出来なかった。私の青春は私が決める。私の幸福は私が決める、弟の幸福は思うとが決める。
発散しようがない衝動は今、この時だけのものだ。私は全力で青春する!
家族会議の末に来年、高校の入学が決定した私に社宅住まいを認めて貰えなかった。
また事務所の所属は認められたけど学業が最優先で高校の卒業を条件に付け加えられる。最悪、高卒認定試験を取れば良いと思っていたのだけど、それは許して貰えなかった。弟が一緒に高校に行きたいと言ったので我慢する。中学校に通っている時は授業を受けた放課後、学校を出た足で事務所に通った。ネットアイドルとして雇われた私は二日に一度の配信を熟し、毎日のように歌と踊りのレッスンを受けた。週に一度、日曜日に休みを取る形だ。
双子のアイドルとして売り込みをかけたので配信する時も、レッスンを受ける時も弟と一緒の時が多かった。私は出来る姉なので歌も踊りも覚えが早い。喋りも私の方が多い筈なんだけど、何故か配信では弟の方がウケが良かった。おかしいな、私の方が基礎スペックは優れているはずなのにおかしいな。
企画を立てるのも私だし、皆と楽しませる為に戦略を立てるのも私だ。
「いや、妹ばっかり褒められてるのってなんかおかしくない?」
事務所から借りた少し高級なVR機器を頭に装着し、何時ものチャットルームで配信している。
チャットルームといえば、昔は文字列でのコミュニケーションが主流だったみたいだけど今の御時世では、アバターを介して直接話すのが主流になっている。テキストベースのチャットやボイスチャットも廃れている訳ではなくて、用途によって使い分けされているけども今時の子はネット上で友達に会う時はチャットルームを介するのが常識だ。少し古い人間にはVRチャットと丁寧に呼ばれる事が多かったようだ。今はチャットと云えばVRチャットで、テキストベースのチャットはテキストチャットと呼ばれている。
Vsは自分用に飾り立てた専用のチャットルームから配信する事が多く、今日の配信も私と弟のチャットルームを利用していた。
「私ね、皆はもっと私に優しくてもっと気軽に褒めるべきだと思うんだよね。皆が褒めてくれると私は幸せだし、幸せな私を見ると皆も幸せになれるからウィンウィンだと思わない?」
諸事情で弟が参加できなかった配信で私は一人寂しくぶーたれていた。
no name:ハルカは叩かれてこそ味が出るというか…
no name:妹の方が女子力高いですし
no name:姉はすぐに調子に乗るからな
視界の端に表示されるコメント欄を横目に見た私は「料理も菓子作りも私の方が上手に出来ますしー!」と口先を尖らせた。
私は今、株式会社サイバーネストに所属するVs、歌風ハルカとして双子の弟と一緒に配信をしている。
no name:SNSに投稿された画像の料理、本格的過ぎて女子力じゃねーのよ
no name:祭日と妹の誕生日にだけ本気出す姉
no name:私生活は駄目だとそれとなくバラされてたしな
no name:妹にパンツを洗わせる姉
「妹にパンツを片付けさせて何が悪い! 洗濯機にポイーってするだけじゃん!」
no name:妹が男の娘だとバラしたの誰だっけ?
no name:なお姉は、兄キャラで押し通そうとしたけど初日で性別バレした模様
no name:妹の事を考えての兄キャラだったしな
世の中を引っ繰り返すのにアイドルではなくて、Vsを選んだ事には明確な理由がある。
no name:コラボ先に妹をNTRれる姉
不意に書き込まれたコメントに「はあっ?」と私は低い声を零す。
「妹は誰にも渡すつもりはないわよ。カナタの姉は私だけ、妹が欲しければ、先に私を倒してから言って貰えないかしら?」
no name:同じ事を言ってコラボ先にフルボッコにされたの何処の誰でしたっけ?
no name:勝手に賞品扱いされる妹キュンかわいそう
no name:次のコラボの予定まで勝手に決めて事務所に怒られたんだっけ?
no name:今回のコラボの発端が姉で草
「あんなの煽ってくる方が悪いじゃん。私は悪くない、あんなの受けなきゃ私が悪いみたいな話になるじゃん」
no name:勝ってれば問題なかったんだよな、勝ってれば
no name:不貞腐れてるの草
no name:泣くなよ、妹を取られてもお前には俺達が居るじゃねえか
「まあ! 確かに妹のコラボ先よりも私の配信を見るロリコンの皆様には感謝をしなくともないけど? やっぱり私の方が魅力的って言いますか? 妹に負ける姉なんていないと言いますか? 皆、素直じゃないんだからも~。もっと素直な気持ちでコメントしてくれても良いのよ?」
no name:ごめん、二窓してるんですわ
no name:チョロ姉
no name:え? 今、妹のコラボ配信の方を観てたから聞こえなかったわ
no name:妹の経歴にデバフを掛け続ける姉
no name:妹ガチャでSSR引いただけで人生にお釣りが来る姉
「はあぁぁああああっ!? 誰が妹に彼氏が出来ない原因じゃゴラァッ!!」
no name:そこまで言ってない
no name:草
no name:まァこんな姉じゃ心配で彼女とか作ってられんわな
好き放題に書き込みをする視聴者に私の怒りは怒髪天だ。
気分を害した私は、付き合ってらんない。と鬱憤を晴らす為にチャットルームにあるアイマスク型のVRゲーム機を頭に被る。VR空間でVRゲーム機を装着するってのは少し不思議な感覚だけど、こんな感じで居場所を入れ替える時にワンクッション置いとかないと不具合が生じる事があるらしい。
タイトル画面に表示されるのは「CODE:Fragment.」の文字列。
私はメニュー画面から手早くオンライン対戦を選択し、ランクマッチのシングル戦を選んだ。空間が移り変わって、実体のあるホログラフで壁と床が表示される電脳チックな世界に放り込まれた。トレーニングルームと呼ばれるこの空間は、CODE:Fの世界観が電脳世界を主題に置かれている事に基いている。ちなみに当作のストーリーは、凄腕のハッカーである主人公が世界の真相を探求する為に地球を模した電脳都市にハッキングし、今はもう文献にしか残らない地球の記憶の断片を集める内容になっている。
リアルに再現された電脳都市をCODEと呼ばれるシステムを駆使して駆け回るのは爽快だった。
no name:あれ? またゴールドに落ちてる?
no name:プラチナ維持できないな
no name:対抗戦は何時からだっけ
no name:五月中旬
no name:あと一ヶ月か
「まあ私、天才ですし? 糞鰻が三ヶ月でダイヤモンドなら私は一ヶ月でプラチナ維持してやるから!」
no name:c:f歴何年でしたっけ?(ボソッ
no name:VR歴ない状態から半年でプラチナ帯まで行ってるのは才能あるけどな
no name:半年でPUに出る度胸よ
no name:PUから半年過ぎてるけど未だにプラチナ維持できないのはなんでですかね?
そんな事を話している内に対戦相手とのマッチングが通知された。
眼前の視界に表示される数字が五秒、ホログラフだらけの空間から対戦フィールドに移動するまでの猶予時間。カウントが刻まれるのを待って、全身が金縛りに合ったように動かなくなる。足元に光輪が展開し、肉体が光に分解しながら頭の先まで迫り上がる。
別の世界に転送される。降り立った場所は高級ホテルのエントランスホールだった。
女神の彫刻が担いだ水瓶から水が溢れ出す成金趣味の噴水、天井には壊し甲斐のあるシャンデリアが吊るされている。ストーリーモードではホテルの店員と受付を待つ観客が居るはずの空間には、今は誰も居なかった。私と対戦相手の二人だけが存在する。フィールドが読み込まれるまでの読み込み時間、十から始まるカウントダウン。その間、視界に表示される対戦相手の情報。ランクはシルバー、金髪の少女。初期設定のTシャツに短パンの姿をしている。
IDと一緒に表示されるプレイヤー名は、REN。知らない名前だ。
no name:能力的はプラチナでも十分にやってけるはずなんだが
no name:負けが込む時は負けまくるしな
no name:実力が上の相手に相手が断るまで連コしまくるのもある
「勝てば良いんでしょ勝てば、相手もシルバーだししっかりと勝って来ますよーだ」
先輩ゴールドプレイヤーとしては、成り上がりシルバー小娘にしっかりと分からせてやる必要があると思うんですよ。
カウントが0を表示したのと同時に私は開始地点から飛び出す。
その際に二挺の短機関銃を両手に呼び出して握り締めた。CODE:Fに持ち込める武器は三種で召喚していない武器はストレージに保管される。エントランスホールはシングル戦の時しか選択されない狭いマップだ。死角の多いマップでもあるので周囲に警戒を張り巡らせた。ガリッと何かを引き摺る音がした。振り返れば、眼前に待合用の低い机が飛び込んだ。
驚いた私が机に向けて短機関銃を構えた時に「CODE:バースト」と幼い少女の声が耳に入った。
CODE:Fには、CODEと呼ばれる特殊能力がある。世界観的には、電脳世界をハッキングして世界を書き換えるとかなんだとか。重要なのは現実的に不可能な事を可能にする一点に尽きる。
ドン、という衝撃音に机が砕ける。
舞い上がる粉塵に視界が妨げられて、短機関銃の引き金を引き絞った。視界が晴れる。粉塵の先には誰も居らず、女神の彫刻が穴だらけになっていた。背後に足音、振り返って構えた右手の短機関銃を片手剣で弾かれる。金色の髪を靡かせた小柄な少女が、金色の瞳を凛と輝かせて私を見据えていた。左手の短機関銃を構えるよりも早く少女は私の懐深くまで潜り込んで、私の鳩尾に左手を押し付ける。
そしてまた「CODE:バースト」と呟かれた。
衝撃波に身体が弾き飛ばされて、穴だらけの女神像を巻き込んで砕けてしまった。受け身を失敗して、二度、三度と床に身体を打ち付ける。壊れた噴水が水を噴き出すその先で少女が三度「CODE:バースト」と唱える。少女の背後に放たれる衝撃波、その反動を利用した超加速。少女は床に倒れる私を目掛けて突撃してきた。
「くそったれ! CODE:アクセラレーション!!」
悪態を吐いてCODEを起動する。CODE:アクセラレーションは速度を倍にする能力だ。
CODE:Fには、リソースと呼ばれるゲージがある。CODEはリソースを消費する事で発動する事が出来て、リソースは時間経過で回復する。そしてCODE:アクセラレーションは発動中にリソースを継続消費するタイプで、CODE:バーストは発動した瞬間にリソースを一定量消費する打ち切りタイプだ。
体勢を立て直し、片手剣を振り被って眼前まで迫る少女から逃げるようにバックステップを踏んだ。
片手剣の切っ先が喉元を掠める。急所を受けた一撃は、ゴリッとシールドを削った。シールドは体力ゲージのようなものだ。設定的にはダメージを肩代わりしてくれるシステムで、作中では生命維持装置とも揶揄されていた。ダメージの肩代わりという性質上、急所に攻撃が当たると大きくゲージを削る事が出来る。
シールドが尽きると肉体にダメージが入るようになる。
no name:超アグレッシブじゃん
no name:カナタが序盤から押されるのって珍しくね?
no name:先に仕掛けて返り討ちに遭うのはよく見かけるけどな
視界の端に表示されるコメント欄を流し見て、舌打ちを零す。
だけど、少し距離を取れば……と考えた時、タンとステップを刻む音がした。目と鼻の先に少女の顔がある。薙ぎ払われる片手剣、辛うじて両手の短機関銃で受け止めた。火花が散り、思わず片目を閉じた死角から側頭部に回し蹴りが入る。揺れる視界に身体が真横に吹き飛ばされた。CODE:Fの世界での身体能力はデフォルトで一般人を超える。具体的に云うと全員がアメコミの蝙蝠男やキャプテンなヒーローのように動き回る事が出来る。私の身体は再度、床に身体を打ち付けながら転がり、女神が崩れた噴水に叩き込まれた。
ゲーム世界に痛覚はない、だけど痛みが痺れとして再現される。
「チェックメイト」
噴水の中、降り注ぐ水滴の中で金髪の少女が私の腹を尻に敷いた。
両手に握り締めた片手剣を逆手に持って、まだ痺れが抜け切らない私の身体に刃を突き立てる。
倫理フィルターが掛けられているので致命傷を受けた時の感触は完全にカットされる。
気付いた時には、トレーニングルームに戻されていた。
YOU LOSE.と視界に表示をされたのを見て、自分が敗北した事を知る。
私は頭を掻き毟って「もう一度!」と再戦を申し込んだ。
no name:あーあ、また始まったよ
no name:シルバー帯が相手だから今回、がっつりとポイント落とすな
no name:最早、お約束の連コイン
再戦は受け入れられて再び対戦フィールドに呼び出される。
次は摩天楼だ。選択されるマップの中では最大規模、ビルの屋上に降り立つ私は次は一方的に負けないとマップの反対側に居るはずの対戦相手を睨み付けた。
金髪金瞳の少女、REN。その名は覚えた、私の好敵手として認めてやる!