CODE:Fragment。
三年前に販売されて以後、VR対戦型アクションゲームの金字塔としての地位を維持し続ける名作である。その人気は社会現象にもなる程でプレイ人口は億を超えた。気付いた時には世界規模の大会が開催されるようになり、このゲーム一本でプロゲーマーになった者も居る。本作のトッププレイヤーともなれば、動画配信だけで衣食住を確保できる程に稼ぐことが可能だ。
ゲーム史に名を残すと呼ばれる本作も先日、遂に最終版のリリースが発表される。
度重なるアップデートとMODの販売を続けてきた本作も次回の大型アップデートで開発が終了する。既に制作陣は次回作の開発に着手しているようで少し寂しくも思えるけど、同時に期待も寄せていた。時代の節目、青春が過去になる。未知の恐怖、だけど使い古した世界から新しい世界への旅立ちは胸がワクワクして待ち遠しくも思えた。
三巻間も楽しませて貰ったゲームに感謝の気持ちを添えて、最後の瞬間まで遊び尽くす決意を込めて人々は電脳世界に飛び込んだ。
CODE:F、最後の年は最も熱い年になる。
非常に不服だけど、世界は私を中心に回っていなかった。
RENと名乗る少女が世間から周知されるに連れて、世界は加速度的に回り出す。これはRENを中心に起きる騒動の数々と彼女に影響を受けた者達が紡ぐ物語。魂を焦がす伝説の戦いへとつながる始まりの一戦、Vs界隈のラスボスと謳われる小春日和との対戦がRENの存在を世間に認知させた。
大衆がRENを語る時、何時もパイセンとの初対戦から始められた。
伝説の始まりは、小春日和。ゲームに掛ける情熱が錯綜する。
彼女が生み出す大渦は、世界すらも飲み込んだ。
◆
月が綺麗だ、現代社会で失われたと云われる宝石箱の星空が頭上を覆い尽くす。
私、小春日和は摩天楼に建ち並ぶ高層ビルの屋上に立っている。物語の舞台となる電脳都市の中心には、雲をも穿つ強大なビルが佇んでおり、周囲を取り囲むように高層ビルが立ち並んでいる。住宅街と商業区を超えて、更に高層ビルが密集する地帯には下流と中流の狭間で生きる者達が過ごす。今回、戦場に選ばれたフィールドは旧市街と呼ばれる摩天楼になる。
吹き抜ける風に銀色の髪が煽られる。
呼び出した愛用の狙撃銃を手に対戦相手の情報に目を通す。プレイヤー名はREN、小柄な金髪の少女。初期アセットの衣服でランクはプラチナ中位、脳裏に思い浮かべるのは一年前に電撃的なデビューを果たした八目鰻という少年だ。彼と初めて戦った時もまた彼女の同じランクと衣服で格上相手に挑戦して来た。CODE:Fは格下狩りを抑制する一環で連勝を続けていると格上の相手とマッチングさせられる時がある。
八目鰻もまた連戦連勝を重ねて、プラチナ中位からダイヤモンド下位の私に喧嘩を売りに来た事があって返り討ちにしてやった。
だけど当時、勝ち越していた筈の勝率は五分を割ってしまっている。
no name:RENってのは他の配信でも暴れているバーサーカーの事だな
no name:少し前に喝采が負けてたね
no name:まだプラチナじゃなかったっけ?
視界の端に映るコメント欄を見て、喝采に勝ったのかと笑みを深める。
祭田喝采は、単体性能だけならVs界隈で最強と呼ばれた事もある人物で実際、シングル戦だとプラチナ相当の実力を持っている。彼女がゴールド中位に甘んじている最大の理由は、他と比較してCODE:Fのプレイ時間が少ない為だ。アルコール漬けの毎日を送っている事もあり、偶にCODE:Fに戻って来た時には記憶が飛んでいて、先ず思い出す事から始めるのが彼女の実力に反してランクが低い一つの要因となっている。
酒で脳が溶けている事が多いのでガッチガチに戦略を固めたフルパーティのチーム対抗戦だと弱くなってしまうのが難点である。
「対戦相手の情報は言わないでね。私、相手のこと全然、知らないから」
呟いた後、カウントダウンが0になったのを見て私は狙撃銃を手元でクルクルと回す。
VRゲームが社会に浸透した後、高度な物理エンジンが現実と大差ない環境を電脳世界に生み出した。その時、再評価されたのが古来より伝承される武術の数々である。あくまでも趣味の範疇として、護身用に発展を続けて来た武術はVRゲームとの相性が良く、適度な運動は健康にも良いという事で廃れていた道場に活気が戻る。しかし既に廃れた武術も多く存在しており、せめて伝承だけでも残そうと道場の統廃合が多発し、VRゲームという活躍の場を経た事で蔵の奥に眠る秘伝書を掘り出す事態になった。それは本来であれば、後継者にのみ継承されてきた書籍も多く、歴史書を大きく書き換える事態にまで発展する。口伝として語り継がれていたものも後継者問題で書物に残していた者も多かった事もあり、色んな意味で問題が多発した。
閑話休題。そういった世の中のゴタゴタは、適当な偉い人が考えれば良い。
重用なのは、今の御時世では、知識を得るのは難しくないという点だ。VRゲームが上手くなる為に道場に通っているガチ勢と比べれば、大したものではないけども私の狙撃銃捌きは杖術を参考に組み立てている。武術の知識と経験があれば、多少は有利になるけど、VRゲームのトップ層に武術の有段者は数える程しか存在していないので武術の知識と経験は絶対的なものではない。人体構造も似せているだけの別物で、武術を電脳世界に落とし込むにはセンスが必要になる。
結局、武術で有段者になるほどのめり込むよりも、その時間でゲームをプレイしている方が強くなるものだ。
「格ゲーだとアシストもあるしね」
呟いて対戦相手が居る方角を眺める。
仮にも狙撃銃をメイン武器にする身の上、目の良さには自信がある。遠くの方でビルとビルの屋上を飛び移る人影を発見し、私は手元で回していた狙撃銃をビタッと構えた。CODE:Fにおけるプレイヤーは、常人を超える身体能力を有する。道路ひとつ分もあるビルの隙間をピョンピョンと飛び跳ねる金髪の少女に照準を合わせて、偏差射撃で狙撃する。しかしビルの間を飛び回る少女を狙撃する事は難しく、彼女の身体を掠める事も出来ない。
まあこの距離で倒せるとは考えていない。
「相手も警戒して、移動時の速度に差を付けてるしね」
応戦して来ない辺り、相手に対抗できる武器はないようだ。
で、あれば待ち構えているだけで良い。近接戦は私の臨むところでもある。CODE:Fには、一定周期で相手の居場所が分かる探知システムがある為、隠れていても意味はない。
何よりも逃げ回って姿を隠すなんて戦い方は、退屈で面白くなかった。
相手のCODEを暴ければよいと思って牽制を続けながら相手が近付いて来るのを待ち受ける。
◆
今回、戦場に選ばれた摩天楼は、CODE:Fプレイヤーにとっては思い入れの深い場所だ。
序盤の山場で物語の核心に初めて触れた瞬間でもある。三部作の映画の一部目の終盤、旧市街地までしか進める事が出来なかった電脳都市の全貌が露となり、主人公の目指すべきものが明確になった。そして、尖兵として送られた一人の
初見時、プレイヤーの誰もが爆笑した。
そして現代の技術の粋を結集した演算能力をフル活用した白服の戦闘術に圧倒される。白服のコンセプトは、徹底的なゴリ押し対策。CODE:Fのゲームシステムを理解して、活用しなくては絶対に勝てない戦闘バランスとなっている。某鬼畜死にゲーの大御所を彷彿とさせる所業に多くのプレイヤーが白服にトラウマを背負う事になった。プレイヤーをCODE:Fの魅力的な世界観とシナリオ、ゲームシステムに嵌らせた後の所業なのが尚のこと性質が悪い。*1
兎も角、ネットのネタでしかなかったガン=カタは見事、復権を果たす。
閑話休題、摩天楼はCODE:Fのシナリオ上においても重要な転換点。
当時の私は、呆然と二人の対戦を眺めていた。だけど今、当時を振り返ると小春日和とRENの対戦が偶然だと思えなかった。強者と強者が惹かれ合うように運命的な何かが作用して、二人は出会うべくして出会い摩天楼に導かれる。
物語は加速する。
小春日和は通常のVsとは異なる。彼女を表す言葉に「プロゲーマーがVsの皮を被っているだけ」という言葉がある。CODE:Fの腕だけで人気を勝ち取り、対戦で視聴者を魅了する。その為、彼女の客層はCODE:Fをガチでプレイする猛者が多数を占めていた。
故に日本中のガチ勢にRENの名が晒された瞬間でもあった。
REN。この時の彼女はまだ謎の少女である。
◆
太陽が憎い、鏡を見るのが嫌いだ。
色素の抜け落ちた白髪に赤い瞳、病人のように白い肌。幼い頃、肌は白磁のようだと褒められていた事を覚えている。だけど幼稚園に通っていた時にお化けだと揶揄われて以来、白と赤は劣等感の証になった。肌が弱くて太陽の紫外線を浴びるだけで炎症を起こす。なので私が出歩く時は日傘が必要になる。
窓の外から聞こえる子供の笑い声が煩わしい。
夏の日の、猛暑日を思い出す。左頬と左手に残る炎天下の太陽に焼かれた痕が疼く。もう何年も昔の事なのに怒りで頭が可笑しくなる。相手を火で焙ろうとした時、私だけが叱られた。虐めはやった者勝ちで世の中は理不尽だ。仄かに込み上がる薄暗い殺人衝動。過去に虐めをした事ある人間は全員、夜道に気を付けた方が良いと思う。
ふうっと息を吐き出す。アイマスク型のゲーム機器を装着する。
目元と耳を隙間なく覆い隠して、外界の情報を遮断する。もう何年も洗っていない布団の上で仰向けになり、耳元にある電源スイッチを親指で押し込んだ。意識がゲームの世界へと吸い込まれて視界が明るくなる。眼前に表示されるタイトル画面を見て、自然と口角が上がった。
太陽にすらも忌み嫌われるこんな私にも居場所がある。
幾つかある選択肢の中からオンライン対戦を選択して、次にランクマッチを選んだ。
対戦形式はシングル戦。ユーザー認証の後、私の分身であるアバターが壁や床にグリッド線の敷かれたトレーニングルームに放り込まれる。私は軽い準備運動をした後、設定を弄って上級者向けのトレーニングコースを呼び出す。現実を考慮しないゲームの身体能力を前提にしたパルクールコースだ。
CODE:Fはゲームの舞台になる電脳都市を縦横無尽に駆け回るオープンワールド形式のアクションゲームになっている。
海外のヒーロー漫画にある蜘蛛男のように、CODEと呼ばれる特別な能力を駆使しながら電脳都市を飛び回る事を売りにしたゲームになっていた。良質なストーリーを交えた世界観に魅了されて
eスポーツという言葉が社会に浸透した御時世で、本作は世界で最も競争が激しいと言われる。
トレーニングコースで操作感を確かめていると急に、目の前に数字が表示される。
9からのカウントダウンは対戦までの時間を示す。残された時間で私は大きく跳躍し、伸身の新月面が描く放物線で栄光への架け橋を作り出した。両足でピタッと着地するまでが私のヴィクトリールーティンだ。
カウントが0を表示した瞬間、全身の動きが止まる。
足元に生成された光の輪、私の身体を飲み込むように輪が上がって私の身体を別の空間に転送した。
改めて、放り出されたのは綺麗な満月の下、ビルの屋上。
周囲を見渡せば、如何にもアンダーグラウンド然とした安っぽいネオンサインの店舗が建ち並んだ摩天楼の一角だった。試合開始までのカウントダウンが開始される。10から始まる限られた時間で確認できるのは、対戦相手のユーザー情報。プレイヤー名とランクを目に通した。
銀色の髪を見た瞬間、私は舌打ちを零す。
対戦相手のランクはダイヤモンド。マスターは上位100名に与えられる称号なので実質、最上位ランクの相手。対する私はダイヤモンドの一つ下になるプラチナ。格上だ、強い者虐めだ。壊し甲斐のある相手に舌舐めずりをする。
屋上を吹き抜ける夜風を全身で感じ取り、カウントが0を示した瞬間にビルの屋上から飛び出した。
現実世界の身体能力を大きく凌駕した身体でビルとビルを飛び移る。
フィールドの対角線上に居るはずの対戦相手を目指し、夜風を裂いて一直線に駆け出した。建物の中には入れない。見晴らしの良いビルの屋上を飛び継いで身を晒すのは危険な行動だ。だから、どうした。と最短距離で突っ走る。対戦相手の居場所は、三十秒に一度。視界に表示される。相手が距離を詰めて来ない事を確認し、遠距離攻撃を主体にする相手であると推測を立てた。
私は気持ち良くなる為にゲームをプレイしている。
快不快が私の行動原理であるが為、狙撃される危険性を排して突っ込んだ。レーダーで表示された場所から、少し離れた位置。狙撃銃の銃弾が放たれる。如何に優れた狙撃手だとしても現実離れした身体能力でビルとビルの屋上を飛び移る私を撃ち抜くことは困難を極める。
シングル戦で狙撃銃は得策ではない。
CODEを用いた加速を加えれば、更に狙撃は困難になる。
しかし油断は出来ない。
相手のランクはダイヤモンド。隠し玉のひとつもなければ、辿り着けない領域だ。
「CODE:バースト」
手から衝撃波を撃ち出すシンプルなCODE。
全身で衝撃を受け止めるように放てば、推進力としても活用できる。本来は強力な衝撃波で相手を攻撃するCODE。対戦では、強い反動で攻撃を外した時の隙が大き過ぎて採用を見送られる事が多かった。空中で放った時は、まともに姿勢制御が出来なくなる程だ。
しかし、それも慣れである。
最初から移動用の手段として割り切ってしまえば、攻撃を外した時のリスクなんて考えなくて済む。偏差射撃もなんのぞの、前後左右、上下も合わせた360度の瞬間加速は狙撃手泣かせの戦法になる。尤もCODE:Fは
この程度の移動手段は、対戦相手も承知の上で戦っている。
ある程度、距離を詰めた時に対戦相手が狙撃銃から突撃銃に武器を持ち替えた。
乱雑に放った銃弾は、遅い弾速のエネルギー弾だった。弾道が曲がり、私を追尾する。この挙動はCODE:オートトラッキング、射撃武器に自動追尾の効果を付与するCODEだ。毎秒十発が発射される突撃銃の光弾が生み出す光景を見て「まるで弾幕だ」と呟いて笑みを浮かべる。自動追尾弾、そのものは怖くない。怖いのは相手の弾幕を避けた先で待ち構える狙撃銃の一発だ。
かといって距離を取るのは悪手、私の装備に遠距離から攻撃できる武器は存在していなかった。
覚悟を決める。ビルの屋上に着地して、ギュッと足に力を込める。何発かの光弾を片手剣で弾いて、弾幕の壁に真正面から挑んだ。ガリガリと削れるシールドの耐久値、急所を裂けて、直撃を受けないように心がけた。
そうして突破した先で私を待ち構えるのは、狙撃銃の銃口。残り十数メートル、私の身体は空を跳んでいた。回避は考えない。故に私は片手を前に突き出す。
対戦相手が勝利を確信した笑みを浮かべる。
それ以上に夜風に靡く銀髪が満月の光に照らされ煌めく光景が、酷く癪に障った。
「掛かったわね、これで終いよ」
「CODE:バースト」
相手の勝利宣言を聞き流し、引き金に掛けられた人差し指に全神経を集中する。
指先に力を込められる瞬間を見切り、放った強力な衝撃波が狙撃銃の銃弾を掻き消した。CODEの使用にクールタイムはない。あと一発分のリソースが残っていた私は、背後に衝撃波を撃ち込んだ。反動を受けて、対戦相手が待つ屋上に降り立った。
銀髪の女性が振り返る。片手には短機関銃が握り締められていた。
フィールドに持ち込める武器は三種、枠を全て銃器で埋めるプレイヤーは珍しい。なかなかの変態っぷりである。対する私も近接武器で三枠を埋めているので変態度合いで云えば、同等かも知れない。彼女が短機関銃から放った光弾の速度は、突撃銃の時よりも更に遅かった。CODE:オートトラッキングによる自動追尾は、弾速が遅ければ遅い程に効果が高くなる。
という事であれば、当然、彼女の武器は近距離であっても変わらない。
「何処で仕掛けてくる?」
無数の弾幕に追われる私は、室外機の影に隠れて弾幕をやり過ごした後、相手との距離を詰める為に飛び出した。
「見敵必殺、凸砂は古来から続く由緒正しい戦闘スタイル!」
眼前に迫る狙撃銃の銃床、咄嗟に身を屈めて回避を試みる。
頭頂部を掠めた。予想外の攻撃に反撃出来ず、大きく一歩、距離を取った。
相手は、自分の手足の如く狙撃銃を手元で回している。
「忌まわしいスタイルの間違いでしょ?」
「芋るよりもずっとまし」
本作における狙撃銃は、決して強く設定されている武器ではない。
シングル戦におけば、尚の事。ランクマッチ戦のフィールドは基本的にランダム選択、選択されるフィールドには室内戦も数多く用意されている。またプレイヤーは現実以上にフィールドを縦横無尽に駆け回る為、人間の動体視力で捉える事は不可能に近かった。
運営は、中近距離での攻防を想定しており、狙撃銃は、あくまでもチーム戦での支援用の武器に収まっている。CODE:Fは本来、チーム戦を想定したゲームデザインであり、一対一のシングル戦を想定していなかった。
シングル戦は、ファンの要望で追加されたモードである。
揺れる銀髪、彼女の手元で器用に回される狙撃銃が私の握る片手剣を弾き飛ばす。
手元を離れる片手剣に私は距離を取る。距離を取れば、狙撃銃で狙われる事を承知の上で背後に飛び退いた。好機とばかりに狙撃銃の銃口が私を捉える。その動きを読んで、二つ目の武器であるナイフを投擲した。対戦相手は舌打ちを零し、狙撃銃を回してナイフを弾き飛ばす。
私が視線を後方に落ちた片手剣に向ける。瞬間、視界の端に銀髪の女性が狙撃銃を構え直すのを見た。
片手剣を取りに行く事を諦めた私は、逆に相手を目掛けて駆け出す。特殊なステップを刻んで右に重心を傾けた後、左に切り返した。放たれた狙撃銃の銃弾が私の右肩を掠める。次弾が放たれるよりも早く、距離を詰めて浴びせるように蹴りを叩き込んだ。
しかし相手もダイヤモンド帯の強者。狙撃銃を横に構えて、私の蹴りを受け止める。
「素手だと致命傷にならないんだけど?」
「シールドは削れなくても衝撃は与えられる」
振り払うように弾かれてしまった。
距離を取られると負ける。地面に着地した私は、相手に向けて手を翳す。リソースまだ回復し切っていない。しかし相手は慌てた様子で狙撃銃を構え直した。弾道は予測出来る、タイミングも分かる。最短で放たれた一発は、的確に私の眉間を捉えていた。
予測出来れば避けられる。間一髪、頭を反らして致命傷は免れた。
しかしシールドは大きく削られる。次はない。九死に一生を得た私は、万に一つの勝機を掴み取る為に前に出た。フィールドに持ち込める武器は三種ある。踏み込む一歩は勝利の為、間合いを詰められた相手が逆に一歩、踏み込んで私の側頭部を銃床で叩き付けた。
そう来ると思っていた。故に私は、最後の武器を右手に呼び出しておいた。
大鎌の刃が内側に対戦相手の身体を捉える。
側頭部を打たれた時の衝撃で小柄な身体が横に弾かれた。CODE:Fの身体能力は、現実の肉体を遥かに凌駕する。子供一人を数メートル弾き飛ばすなんて簡単だ。必然、右手に握る大鎌も私と一緒に引っ張られる。大鎌には浪漫がある。相手を刃の内側に収めた状態で刃を引いた時、一撃必殺の威力を発揮する仕様がある。
私を弾き飛ばした後で、銀髪の女性が全てを察して悔しそうに私を睨み付けた。
「バイバイ♪」
私が告げた次の瞬間、彼女の胴体が両断される。
血飛沫は出ない。此処は電脳都市、肉体は0と1に分解される。
YOU WIN.と文字が表示される瞬間の余韻が堪らなく好きだった。