メスガキゲーマーはわからせたい!   作:にゃあたいぷ。

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高評価増えてた、ありがとうございます!
感想も来てた、感謝感激です。

※表記変更
レジェンド→マスター


5.持っている。

 私、歌風ハルカは今日も今日とてランクマッチ戦に潜る。

 二挺の短機関銃を手に老朽化した機材をパルクールの要領で飛び越え、潜り抜けて廃墟化した工場を駆け抜けた。今回の対戦相手は紺アルファ。Vs事務所Digi-LIFE(デジライフ)に所属するVsで次回の対抗戦にも参加する予定の一人だ。アンドロイドロボットを彷彿とさせる機械的な瞳と頭に被ったネコミミ型ヘッドフォン、首から下の肌を覆い隠すボディスーツが特徴的な少女である。

 彼女には、Digi-LIFEで秘密裏に開発された人工知能で人間の感情を学習する為に配信を始めたという設定を持っている。

 人工知能の名に恥じぬ感情の乏しい無機質な顔、まだ稼働を続ける工場の中で彼女を視認する。彼女は不思議と人を惹き付ける力がある。特に古参からは根強い人気を持っている。配信初期の彼女は、本当に感情の起伏に乏しく、まるで情緒の育っていない機械が視聴者の相手をしているかのようだった。しかし視聴者と触れ合うことで育まれた情緒は、彼女に様々な表情を生み出す。

 はにかむような控えめの笑顔が、視聴者の心をガッと鷲掴みにするのだ。

 

 そんな彼女の登録者数は53万、少し前に1万の大台に乗っけた私達とは文字通り格が違った。

 妬ましい、彼女は三週間後に開催される対抗戦のチームに選出されている一人だ。ランクはゴールド上位、53万もの数のファンの声援を受けて参戦するというのに私達のチャンネルに登録する1万人の九割以上は妹が目当てで私の事なんて、ちっとも褒めないし、応援もしてくれなかった。

 ほろ暗い想いを胸に抱いて、魔法の言葉を口遊んだ。

 

「CODE:アクセラレーション」

 

 ギュンと加速する世界。両手を前に突き出して短機関銃で弾幕を張れば、アルファは身を屈めながら片手を前に突き出した。

 

「CODE:プロテクト」

 

 前面に展開される障壁に弾幕が弾かれる。

 CODE:プロテクトはCODE:バーストと同じ打ち切りタイプのCODEだ。翳した手の先に全てを遮断する障壁を張る能力だ。しかしCODE:プロテクトで張った障壁は、自分で放った攻撃も弾くという欠点を抱えている。障壁で防がれるのも構わず、短機関銃の引き金を絞りながら機材を飛び越えて距離を詰める。アルファは障壁の中から出る事も叶わず、防戦一方。反撃する事も出来ていなかった。CODE:プロテクトの障壁は、一度に一ヶ所だけで展開をし続けるとリソースの継続消費に切り替わる。

 故に私は、彼女の横を取る為にベルトコンベアを側宙で飛び越えて回り込んだ。

 

「動きがトロいんだよねえっ!」

 

 障壁で身を隠していた彼女が、突撃銃で側宙する私を追い掛ける。

 しかしCODE:アクセラレーションを起動した状態。彼女が私を捉えるよりも早く、逆さまの状態で短機関銃の引き金を絞り込んだ。二挺の銃口から連続的に放たれるマズルフラッシュ。両腕から響く振動、排出された薬莢がコンクリートの床を打ち鳴らす。

 弾幕は、相手の身体を撃ち抜いてシールドをガリガリと削った。

 床に着地した時、短機関銃の弾は撃ち尽くしていた。両手の短機関銃をストレージに仕舞って、代わりに呼び出すのは威力重視の拳銃。両手で支えないと反動で腕が弾かれる破壊力。CODE:アクセラレーションは継続中、リソースは残り三割を切っている。

 此処で勝負を決めると相手との距離を一気に詰める。

 

「……っ!」

 

 アルファは首を横に振り、突っ込んでくる私に向けて突撃銃を構える。

 しかし、もう既に手が届く距離だ。突撃銃の先端を上から左手で叩き付ける。鳴り響く銃声はコンクリートで舗装された床に無数の穴を空けた。相手が次を考えるよりも早く、右手に握り締めていた拳銃を相手の眉間に押し付ける。規格外の破壊力。反動によるデメリットも、これなら片手撃ちでも外さない。

 普段、感情を露にしない少女が驚愕に目を見開ていた。

 

「ちったぁ人間らしい顔になってるじゃん」

 

 相手が行動を起こすよりも早く引き金を絞る。

 零距離からの一発は、それまで短機関銃で削っていた分も含めて一気にシールドを削り切り、彼女の頭部を吹き飛ばした。脳髄の代わりに0と1に分解されたデータの残滓を見て、笑みを深める。

 私は強くなっている!

 ゴールド上位の彼女はDigi-LIFEのエースプレイヤーだ。

 彼女に勝てる私は、対抗戦でも活躍できる!

 

 

 意気揚々とトレーニングルームに戻された私はゲームを終了する。

 今回は配信していないので視界の端に映るコメント欄もなく、プライベート用のチャットルームに移動した。何時も配信で使っている可愛らしい部屋は、弟が用意したもので今、私が使っている部屋はモダンシックの落ち着いた内装になっている。衣服もカジュアルなシャツにジーンズと男性っぽい恰好に切り替えた。リアルだと背伸びした格好も電脳世界であれば、それなりだけど様になる。

 美少女も、少し整えれば美少年。髪を短くすれば、少年に見えなくもなかった。

 

 部屋に備えた高級ホテルのようなベッドに身を投げて、手を翳してウインドウを呼び出す。

 指先で操作して確認するのは、RENの動向だ。CODE:Fのシングル戦のランキングから検索すれば、彼女の直近の戦績を確認する事が出来る。同名のプレイヤー名は多いけど、IDを覚えているので一発だ。今のRENはプラチナ中位、対戦履歴を覗いてみると日和と対戦した後、ダイヤモンド帯のプロを相手に20戦も連続で対戦した記録が残されていた。勝敗を数えてみると4勝16敗、ダイヤモンド一歩手前だった彼女のポイントがプラチナ下位まで削がれてしまっていた。彼女は意外と大敗する事が多い。負けず嫌いなのか、彼女が連戦をする時は大抵、負け越している時だ。

 そしてまたプラチナ帯を相手に6人と対戦して、12連勝している。

 

「実力はダイヤモンド下位程度、だけどランクに固執してるって感じがしないんだよね」

 

 RENの対戦履歴を眺めていると新しく履歴が更新される。

 今も対戦中のようだ。彼女の対戦相手の名を覗いてみると糞鰻の名前があった。

 八目鰻。プロのゲーミングチーム「SCARS」に所属する若きエース。

 そして去年のPU初戦で私の事をボッコボコにした相手だ。

 

 

【ラスボス】CODE:Fバーチャルストリーマー総合スレ【小春日和】part132

 

332 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

【悲報】我らがラスボス、敗北する

 

333 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和、連コ拒否されてて草

 

334 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

言うて二戦してますし

 

335 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和はシングル戦では遊ぶからな

 

336 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

RENって奴、絶対にプロがサブ垢使ってるだろ

 

337 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

まあ数ある内の二戦負けただけで騒ぐ程じゃない

マスターだってダイヤモンドに負ける時は負ける

大会で負けなきゃ良いだけ

 

338 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

ダイヤモンド帯が相手でも近接縛りで戦えてるのって普通に凄いのでは?

 

339 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和はムラッ気が強いのが難点

 

340 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

大会だと百発百中の女

 

341 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

大会の日和はプロのゲーミングチームが専用の対策を取る程だしな

 

342 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和は格下相手だと意外と負けないぞ

同格以上の相手に惨敗する事が結構あるから印象悪いけど

 

343 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

企画もので負けた事がないからラスボスって呼ばれるようになったこと忘れてるだろ

 

344 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

まあ少なく見積もってもRENはダイヤモンド級を相手に二先で勝ち越せる実力がある事は証明されたな

 

 

 小春日和とRENの対戦配信を見た直後の話になる。

 観戦配信をしていた俺は配信を切り、VRゲーム機の電源を落とした。

 意識は電脳世界から現実世界へと引き戻される。

 

 真っ暗な視界、静かな駆動音と共にゆっくりと上半身を持ち上げられる。

 自動で目元を隠すVRゲーム機の部分が取り外されて、目の前には複数のPCモニターが壁のように並べられた光景があった。俺、世間的には八目鰻の名で知られる自分が座っているのは椅子と一体型のVRゲーム機、VRゲーミングチェアと呼ばれる代物である。一台で百万円もする最高品質の代物。小腹が空いたので席を立って、部屋に置いた冷蔵庫の中身を漁る。魚肉ソーセージを発掘した俺は何本かを手に取り、再びVRゲーミングチェアに腰を下ろす。

 机の上に置いたマウスを操作して、日課にしているSNSの巡回を始める。

 

 小春日和のTsubuyaiter(つぶやいたー)には、書き込みがほとんどなかった。

 というのも日和という人物は、人気商売のVsにはあるまじき筆不精である為だ。彼女がSNSで書き込むのは業務連絡がほとんどで時折、配信やイベントの告知すらも忘れてしまう程である。彼女に関連する情報を得る時は、彼女の周りに居る人間から得るのが確実だ。

 同じ事務所に所属する歌風姉妹のアカウントは、日和とは対照的に書き込みが行われている。

 Vsとしての設定を忠実に守る妹に対して、姉は設定をガン無視して好き勝手に書き込んでいる事が多い。リアルで起きた話もガンガン書き込んでしまうので一時期、アカウントの管理を妹に託されていた事もある。今はサイバネに関連する情報だけを書き込んでおり、彼女のアカウントはVsの普段の姿を知る情報の発信源として彼女以外のファンから重宝されている。

 まあ姉の方も人気はある。

 どうしようもない人物というキャラ付けをされているので表立って彼女を褒めるファンは少ないけど、妹の方はVsとして見るには無個性だ。危なかっしい姉と比較して見る事で漸く、妹を安心感のあるキャラクターとして見る事ができる。

 まあ姉は姉で万人受けをするキャラではない。

 暴言に耐性のある人間でなければ、そっと配信を閉じる人も多いのが彼女の配信だ。

 

 歌風ハルカの最も大きな貢献は、普段の日和が相当な天然だという事がハルカの書き込みで判明した事だ。

 本来、日和は事務所を一年でクビになる人柄をしていた。去年のPUiJ*1までの彼女の登録者数は三桁しかいなかったのである。世界人口が百億を超えて高齢者がネット社会に浸かり切った今の御時世、企業の後ろ盾を持ったVsの登録者数が三桁なのは異例中の異例で逆に才能がある。

 しかし彼女にはCODE:Fがあった。

 eスポーツが社会に浸透した現代社会、名のある大会で上位を占めるのはプロゲーマーだ。シングル戦だと稀にアマチュアがプロ相手に勝利する事もある。だけど彼女がPUiJで参加した試合形式は、最も過酷と呼ばれるチーム戦である。チーム戦におけるプロとアマチュアの差は、プロ野球と高校野球に例えられる。個人が持つ高水準の実力に加えて、高い練度の連携。プロの独壇場とも呼ばれる環境で日和の率いるチームは、プロチームを相手に三度も勝利を収める。

 最初は、予選の決勝戦。この時はまだフロックだと呼ばれていた。

 次に本戦で当たった時もまだ半信半疑だった。三度目は、優勝候補のチームでルーザーズからグランドファイナルまで辿り着いている。

 そんなチームに勝ってしまったので小春日和の名は、一躍全国区にまで知られる事になった。

 

 彼女がVsだったのも話題に拍車を掛けて、今や彼女のチャンネル登録者数は七桁にまで跳ね上がっている。

 実際、彼女は強い。狙撃銃使いの中では、先ず三本指に入る。スナイパーと表記しないのは、小春日和の狙撃力は、スナイパーとして頼れるくらいには上手いといった程度の実力である為だ。残り二人の狙撃力は群を抜いている。だけど中距離から近距離にかけての日和の狙撃銃捌きは、他の狙撃銃使いを圧倒する。少なくとも企画や大会での日和は、並大抵の相手だと圧倒してしまえるだけの力を持っていた。

 PUiJで伝説を作り、最も有名なCODE:Fプレイヤーの一人でもある彼女の影響力は、理外の域にある。

 

 RENは元々、多くのVsを配信中に倒して来た。

 特徴的な戦い方をしていたので、Vsの配信を視聴する者達の間では、それなりに名が知れ渡っていた。本人が狙ったものかは分からないけど、次々とVsを打ち倒して来た彼女には下地があった。CODE:Fが強い事で有名なVsが軒並み倒された事で、Vs界隈のラスボスに挑むだけの状況が整えられいた。

 当人にとっては幸か不幸か、RENは明らかに持っている側の人間だった。

 

 Vs界隈を荒らす挑戦者とVs界隈のラスボスによる満を持した対戦。

 RENは勝利した。

 彼女にラスボスが負けた事は、少なからず視聴者に衝撃を与える。

 

 RENはSNSなどで発信をしておらず、謎の人物として認知されている。

 実は中の人はプロゲーマーなんじゃないか? という疑惑も込みで彼女の話題が伝播する。

 対戦を終えたばかりだというのに、RENの名がトレンド入りしてしまっていた。

 

「特別、強いプレイヤーには見えないのだけどな」

 

 俺から見たRENは、周りが囃し立てる程のプレイヤーには思えなかった。

 RENのガン攻めスタイルは見る者の目を惹く、だが、それだけだ。

 人間性能は並程度、突出した能力を持っている訳でもない。

 彼女の技術は、地道な努力で身に付けたものだ。

 真似できないものではない。

 プロの世界で目が肥えた自分には、彼女が特別なプレイヤーとは感じられなかった。

 才能という点でも日和に大きく劣っている。

 

「手合わせをして、確かめてみたいな」

 

 気になるのは歌風ハルカの抱くRENへの執着だ。

 彼女は風評を気にせず、己の目で見たものを己の判断基準で評価をする。

 曇りなき彼女の瞳は、RENに何を見出したのか分からない。

 対戦すれば、それが分かるかも知れない。

 少なくともRENは持っている側の人間である事は確かなのだ。

 

 日和を倒す実力はあるのだ、変に躓いたりしなければ直ぐにダイヤモンドまでランクを上げてくるはずだ。

 

 それまで大人しく待ち構えていれば良い。

 魚肉ソーセージを腹に収めた俺は再びランクマの世界に潜り込んだ。

 翌日、RENとの対戦は予想よりも早く実現した。

 対戦配信をしていた時の事だ。

 まだプラチナ帯を漂っている彼女とマッチングする。

 加速するコメント欄を視界の端に見て、やはり持っているな。と思った。

*1
「Plus Ultra in Japan」の略。世界最高峰のゲーム大会「Plus Ultra」の日本開催版、CODE:Fのシングル戦だと上位2名が「Plus Ultra World Cup」二次予選への優先参加権を得る。

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