メスガキゲーマーはわからせたい!   作:にゃあたいぷ。

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何時も遅筆で申し訳ありません。


6.プロゲーマー

 プロゲーマーという存在に商品価値が付いたのは何時頃か。

 海外のトッププロが出演したエナジードリンクのCMは売り上げを伸ばし、VRゲーム機の周辺機器には必ずと言っても良い程に広告塔にプロゲーマーを起用する。ゲームとは関係のない企業も特定のゲーミングチームとスポンサー契約を結ぶことで効率的に知名度を上げており、最早、プロゲーマーと社会は切っても切り離せない存在となっていた。八目鰻もまたプロのゲーミングチームに所属した時に少なくない企業とスポンサー契約を結んでいる。

 週の配信回数も厳正に定められており、スポンサーのロゴが画面内に入るなどの配慮が求められる。

 

「最強のアマチュアプレイヤーは誰かだって?」

 

 戦場となる地下鉄のホーム駅。複数の路線の中間地点である本駅には、八本の路線に対して九つのホームが存在する。

 4番ホームと5番ホームの間を飛び越えるのはフード付きのパーカーを羽織った青年。前を開いて、はためくパーカーから覗かせるTシャツの胸元には八目鰻の三文字が刻まれていた。目元を隠したサングラス、口元には隠し切れない喜色の笑み。浴びせられるのは突撃銃の弾幕で八目鰻は愛用の突撃銃で応戦し、途中にある巨大な柱に身を寄せながら相手との距離を適切に詰める。5番ホームと6番ホームの間にある線路に身を隠された時、対戦相手の男性は舌打ちを零して6番と7番の間に停められた電車の中に身を退いた。

 中には開閉ボタンが設置されており、対戦相手は扉を閉めながら反対側へと飛び出す。

 

「去年までなら簡単に答えられた質問だな。何故かって、そりゃ俺様一択だからよ」

 

 少し遅れて線路から6番ホームに飛び出した八目鰻は、間もなく電車が閉じる光景を見た。

 しかし八目鰻は足を止めず、むしろ加速する。電車に向けて愛用の突撃銃を撃ち鳴らし、砕けた窓硝子にドロップキックを叩き込んだ。硝子片と共に錐揉み回転しながらミサイルのようにかっ飛ぶ青年は、勢いのまま車内を突き抜けて反対側の窓硝子も砕いて突き抜けた。眼前に飛び出した八目鰻に電車の反対側で待ち構えていた男性が目を見開いた。

 だが彼もダイヤモンド帯の猛者だ、考えるよりも早く体勢不十分で着地する八目鰻に突撃銃を構えた。

 

「CODE:ダブルスピード」

 

 ホームの床に着地した八目鰻は、CODEを起動して対戦相手に二発の弾丸を撃ち込んだ。

 命中したのは右肩と腹。不安定な体勢だった為、AIMよりも速度を優先した。男は通常ならば先ず撃ち負ける事がない状況から撃ち負けた事に驚愕し、そして八目鰻が愛用するCODEを思い出して舌打ちを零す。CODE:ダブルスピード。その名を通り、動作速度を二倍にする近接戦で無類の強さを誇るCODEだ。

 シールドを削り切れた訳ではない。作れた時間は一秒未満、八目鰻は地面を蹴って柱の壁に飛び移った。

 

「小春日和はプロみたいなもんだし、アマチュアの枠に入れたくないんだよな~」

 

 相手の突撃銃が火を噴いて、床に壁と無数の穴を空ける。

 迫る弾幕を背に八目鰻は柱の側面に右足を添えて一歩、二歩と壁を走って三歩目で大きく跳躍した。対戦相手の失敗は近接戦闘における銃器の選択を間違えた事、突撃銃では八目鰻の動きに付いていくことが出来なかった。

 片手に拳銃を構える八目鰻に頭上を取られた男は、無防備に見上げる他にない。

 

「RENを最強論争に入れるには実績が足りてなくない? 俺の評価では日和の方が圧倒的に上なんだけど、去年のPU(ピーユー)の日和を見てたら一度の二先でRENの方が上なんて言えないと思うんだよなあ。実力で格付けするならせめて50戦はやってくれねーと、まあ大会とかじゃそういう事も言ってらんねーけど」

 

 八目鰻が握り締めた拳銃の引き金を絞る。

 発砲音は四発。柱の側面を蹴り、電車の上に着地するまでに四発だ。

 その四発の銃弾が的確に相手の脳天を捉えた。

 シールドが削り切られる。

 相手の攻撃に対して無防備になった。

 次の一発を受ければ、肉体に直接、ダメージを受ける事を承知の上で、男は突撃銃の銃口を八目鰻に向ける。

 事此処に至っては短機関銃を用いた撃ち合いでは負けてしまう為だ。

 ならば少しでも威力の高い武器を用いるべきである。

 

「でも、ま。日和を入れても俺が知るアマチュアで最強なのは……あ~、名前出しても良いのかな、これ? 兎も角、俺が負け越してる奴が居るんだよね。プロの名簿とかも調べてみたけど全然わかんねえ。たぶんアマチュアじゃないかな、確証はないけど。サブ垢じゃないと思う」

 

 CODE:ダブルスピード。と八目鰻は再びCODEを起動し、突撃銃を構えた相手が発砲するよりも早く拳銃の引き金を引く。

 

「そんなに喋っていて危なくないかって? 危なくねーよ、まじでヤバかったら集中してっから」

 

 パンという発砲音と共に対戦相手の眉間に穴が空いた。

 肉体は1と0に分解される。

 YOU WIN.と表示されるも余韻に浸らず、視界の端に流れるコメント欄を眺め続けていた。

 

「そんで話を戻すけどIDから相手の情報を調べてみたらCODE:Fを始めたのが三年前なんだよね。半年前の時点でよ? つまり発売当時からバリバリでプレイしてる古参も古参、大会に出ていたら間違いなく有名になってると思う。それぐらいに強いんだよなー、いや、ノラクロさんよりは強くねーよ? あくまでアマチュアの中での話だから」

 

 彼は喋りながら自身の視界に映される文字に向けて指を差す。

 さりげない仕草に視聴者の大半は気付かない。

 気付いたとしても傍からでは虚空に指を差しているようにしか見えなかった。

 

 

no name:鰻倒せるアマチュアって誰だよ

no name:去年時点で負け越してたらアマ全1名乗れねーのよw

no name:実質、日本のナンバー2がなんか言ってますね

no name:ポイントだと国内6位だけどな

no name:人間性能全一だから

no name:海外相手に対抗できるのってまじで獣と鰻の二人だけなんだよな

no name:あー、まじで強いよな

no name:海外勢は基本性能が強いよ

no name:ノラクロはガチのレジェンドですし

no name:対ありでした

no name:VR黎明期の英雄

no name:アマで強い奴とか知らね、日本人じゃないのでは?

 

 

 トレーニングルームで流れるコメント欄に目を通し八目鰻は小さく笑みを浮かべた。

 とりあえず、対ありのコメントを頂いたので「ありがとうな~」と小さく手を振って応じる。トレーニングルームに戻されたので、一先ずカスタムされたトレーニングコースを呼び出した。これはネット上に転がっていた良い感じのパルクールコースをダウンロードしたものだ。

 次の対戦相手とマッチングするまでの暇潰し、そう考える彼の下にすぐ次の対戦の通知が入った。

 

「随分と早いな」

 

 しかし早い分には問題ない、と直ぐに頭を切り替える。

 10秒のカウントダウンの後に呼び出された戦場は、ショッピングモール。一階から四階まで吹き抜けになっているフィールドで南北に長い縦長のマップになっている。左右には通路が店舗に面した通路があり、左右の通路を繫げる連絡通路が随所に散りばめられている。同様に各階を繫げるエスカレーターの存在も特徴のひとつだ。他にもフードコーナーを始めとした大きな店舗や内に入る通路もあるのだけどシングル戦では封鎖されている。

 吹き抜けになっている大きな空間だけが今回の戦場だ。

 

no name:相手はRENじゃん

no name:うお、まじかよ

no name:昨日の今日で?

no name:まだプラチナじゃなかったっけ?

no name:昨日の時点でプラチナ下位、今日は今見るとプラチナ中位に戻ってるね

no name:連勝したんじゃね? 日和の時もそうだったし

 

 対戦相手の情報に目を通れば、確かにプレイヤー名はREN。

 初期アセットで長い金髪の少女、Tシャツに短パンのアバターには親近感を覚える。去年のPUに参加した時、自分は八目鰻と書いた白Tに短パン、そしてサングラスを掛けた姿だった。今にして思えば失笑ものだけど、あの時は本当に対戦しか興味がなかった。ちょっとした腕試しのつもりが世界まで飛び立つ羽目となり、今はプロゲーマーだってんだから人生というのは分からないものである。

 それにしても、と虚空を眺めて「持ってるなあ」と小さく零す。

 

「ま、お手並み拝見と行こうかな」

 

 八目鰻は獲物を前に舌舐めずりをする。

 確かめてみたかったのだ。RENの実力が本物か、それとも周りが囃し立てる話題性だけのプレイヤーなのか。

 RENは強い。強いけど、俺が意識するレベルだとは思えなかった。

 だけど対戦を見ているだけでは分からないものがある。

 二人の間でしか通じない駆け引きがある。

 傍から見ているだけでは分からない特別な何かを秘めた奴ってのは、確かに存在する。

 そういった人間の周りには、不思議と人が集まるものだ。

 カウントが0を表示した瞬間、八目鰻は愛用の突撃銃と一緒に駆け出す。

 

 

 ショッピングモールはCODE:Fの中でも人気のあるマップの一つである。

 二階までの高さであれば一息に飛び越せるCODE:Fの身体能力を以てすれば、高低差を駆使する派手なアクションを期待できる事もあって視聴者数を稼げるし、CODE:Fのゲーム性として下手に足を止めるよりも動いて攻める方が強いというのもある。遠距離での撃ち合いが難しく、相手との距離を詰め易いショッピングモールは単純に戦っていて楽しいのだ。

 彼女、RENにとっても遠距離での駆け引きを省けるショッピングモールは好きなマップの一つだ。

 カウントダウンが進む中、肝心の対戦相手の情報を確認する。ランクはダイヤモンド中位、小春日和ってのがダイヤモンド下位だった事を思い出し、彼女よりも強いのかと笑みを深める。はだけたパーカーから覗かせる八目鰻の文字を見て、そういえば鰻重って食べた事がないなって思った。何時か食べてみたい。

 カウントが0を刻むと同時に、一階の開始地点から二階の西側通路へと跳び移る。

 

「先ずはお手並み拝見」

 

 愛用の片手剣を右手に握り締めて、全速力で相手との距離を詰める。

 RENの得意戦術は速攻、対する八目鰻も速攻を得意とする。奇しくも二人の戦術は嚙み合って、マップの中央で二人は接敵した。相手の接近に気付いたのは八目鰻の方が早い。足音から相手との距離を感じ取った八目鰻は二階から三階へと移動し、相手が姿を見せるのを待ち構えた。しかし相手の姿を視認する事が出来ない。

 この時、RENは相手が二階から三階の連絡通路に跳び移るのを視認していた。

 故にRENは、あえて二階から一階へと飛び降りて、相手の位置からでは二階の通路で阻まれて見えない位置に移動したのだ。同時にRENは相手の足音が極端に小さいことにも勘付いた。その為、相手が足音に注意深く耳を立てる人物である事を察する。RENは足音を殺して相手との距離を詰める。

 そして八目鰻の待つ三階連絡通の真下の位置まで移動し、対戦相手を目掛けて思い切り跳躍した。

 

 

 真下から衝撃音が聞こえた。

 RENがCODE:バーストを愛用する事を八目鰻はVsの生配信で知っている。己の失態に歯噛みをして連絡通路の前後、どちらから攻められても良いように西側通路へと大きく飛び退いた。背中は見せず、突撃銃で連絡通路の左右を確認しながらだ。視界の端にキラリと光る何かを見た。直後、CODE:バーストの衝撃音が鳴る。

 何故、もう一度? 八目鰻が謎を追求するよりも前に金色の長い髪が階下から飛び出す。予測した位置よりも近い、連絡通路の西側に近い位置だ。八目鰻を追尾するように二度目のCODE:バーストで切り返す──大きく跳躍した時の足音で位置を悟られた。八目鰻は動揺を悟られない為に不敵な笑みを浮かべて、突撃銃から片手剣に持ち替える。

 近接戦は、こちらの望む処だ。

 躊躇なく切り掛かる金色の少女の一撃、刃と刃が交差する甲高い金属音がショッピングモールに響き渡った。RENは金色の瞳を凛と輝かせて笑みを見せる。八目鰻は、少女の小柄な身体を力任せに振り払って、笑みを浮かべたまま息を零す。

 嗚呼、楽しそうだな。と青年は思った。

 

「良いね、その顔を歪めたくなってきた」

 

 八目鰻は、あえて拳銃に持ち替えるのを止めて、彼女の挑戦を片手剣で受ける。

 相手が自分の事を知っているかどうか分からないが、自分は相手の手の内を知っている。ならばプロの矜持として、受けて立たない訳にはいかなかった。何故ならば、RENは心底、このゲームを楽しんでいるからだ。プロではない、プロはもっとストイックにプレイをする。この対戦は大会ではない、選手生命が関わっている訳でもない。優先すべきは自尊心、魅せるは最高のエンターテイメント。独自の嗅覚でRENがプロではないと看破した八目鰻は相手の全力に付き合ってやる覚悟を決めた、それが八目鰻のプロフェッショナルの在り方だった。

 そんな彼の態度を見て、RENは胸をときめかせた。

 内心では無邪気な子供のように身を震わせて、しかし態度は獰猛な獣そのもの。振り払われたRENは床に着地をし、極上の得物を前に堪え切れないと云った様子で再度、真正面から斬り掛かった。斬り刻まれる無数の剣閃、反響する無数の金属音。CODE:Fの身体能力にモノを言わせたRENの連撃を、人間性能は日本で一番だと評される八目鰻は持ち前の動体視力と反射神経で捌いた。

 二人の対戦を観戦する視聴者は、八目鰻が涼しい顔で捌いているように見えた。

 

「くっそ、戦り難いな」

 

 しかし八目鰻の頬には冷や汗が流れる。

 RENの野性的な動きは、八目鰻のゲームセンスを以てしても読み切れない。四つん這いになる程、低い姿勢になったかと思えば、飛び上がる程に急に切り上げて来るし、飛び込んできたかと思えば、交えた刃を軸に空中で器用に身体を入れ替えて、着込んできた位置とは反対側に着地する。縦横無尽の四次元殺法、今までRENとまともに斬り合ってきた相手がいなかったので気付かなかったけど、彼女は相当、このゲームをやり込んでいる。軽い身の熟しは猫を彷彿とさせる。悪戯好きな金髪の子猫は息を吐く暇も与えず、八目鰻を一方的に翻弄する。

 安易に白兵戦を選んだのは、悪手だったのかも知れない。

 

「だけど今更、距離を取るのもカッコわりーよなッ!」

 

 それまで相手の攻撃を受け止めていた八目鰻が突如、身を屈める。

 横に薙ぎ払った一撃を躱されたRENは、僅かに体勢を崩す。八目鰻は片手剣で斬り掛かろうとして、視界の端に捉えた嫌な予感に右腕を上げて頭部をガードした。直後、RENの後ろ回し蹴りが右腕の上から叩き込まれる。器用だな、と八目鰻が口角をあげる。まじか、とRENは驚愕に目を見開きながらも楽しそうな笑みを浮かべていた。

 二人は弾かれるように距離を取り、漸く息を零す。

 

no name:おいおいまじかよ! 鰻と格闘戦でやり合ってんぞ!

no name:なんで拳銃使わないの?

no name:やっべー、俺見えなかった!

no name:接近すれば強いのは分かっていたけどプロに通用する程かよ

no name:日和相手でも押し勝つ訳だな!

 

 沸き立つコメント欄を視界の端に覗いて、八目鰻はコメント欄の表示をオフにする。

 

「サービスタイムは終わりだ」

 

 八目鰻は右手に片手剣を構えたまま、左手に拳銃を呼び出す。

 それを見て、RENは、やはり、より楽しそうな、より凶悪な笑みを浮かべた。

 

「節操なしの悪い子は、お兄さんが分からせてやるよ」

 

 この時、八目鰻には、RENがまるで新しい玩具を前にした無邪気な子供のように見えたのだ。

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