ドラゴンボール、孫悟空が活躍する冒険アクションバトル漫画。その物語はもはや漫画アニメの金字塔、トップオブトップ。
そんな物語の主人公、孫悟空には師匠がいる。
亀仙人、またの名を武天老師。
悟空を始め多くの戦士に自らの流派、亀仙流を教えて説いた。
その亀仙人にも師匠がいる。
武泰斗、亀仙人がまだ二十代そこそこの師匠。
ではその武泰斗の師匠は……一体誰であろうか。
この物語は地球人として初めてドラゴンボールに願いを込め、武泰斗の師匠になった男の物語だ。
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その男は田舎の山村に生まれた、名を刑 亥項(ケイ ガイゴウ)
元気な男の子だった、男はすくすく育ち瞬く間に見目麗しい少年となった、近所の女子達は彼の噂を良くしているが彼からすればそんな物は当たり前に感じるほどに。
少年、10歳の時。高熱に侵され三日三晩床に伏す。
両親は心を痛め医者は原因不明だと匙をぶん投げた、それもそうだ、原因は精神の覚醒だったのだ。10歳の脳に人間一人の人生が詰め込まれた。いや持っていたものが花開いた。
それからだ、少年はしきりに外のことを気にしだした。まるで人が変わったようにだ、周囲の大人たちはなにか悪いものに取り憑かれたのではないかと心配したが……生憎と、それが彼の元々の精神性なのだ。
「そうなんだ、ここはきっと……」
空を見上げる、少年は微笑む。遥か彼方最も高い所でぐっすり寝ているだろう破壊神に思いを馳せて。その付き人の困った表情も鮮明に想像できた。
少年は走った、もっと山の中を駆ける、山の頂上から自分の第二の故郷を見下ろす、今はまだ大きく見える。だけど空が飛べるようになれば小さくなるだろう。もっともっと遠い所にはここより高い塔がある、カリン塔の上で寝転ぶ猫の仙人が毛づくろいしてそうだ……そんな妄想もする。
「会えるかな……」
この世界の主人公、もはや誰と言うまい。
この世で最も強いやつ、ずっと成りたかったヒーロー。
「いや、会える!」
確信している、だって願いが叶う方法がある。何年かかるかも分からない。だけど叶わない願いじゃない。だから行く、少年は願いを叶えるために。
そして夢を叶えるために。
「孫悟空! 俺はアンタと肩を並べる!!」
少年は叫んだ。
★
エイジにして紀元前元年、少年は修行を始めた。
村の人々はそれを見て何とも思わない、だって彼は良い子だったからだ。大人のように考えて、親のことをよく労る良い子だった。
まぁ、彼のワガママに目を瞑ってもらうためのカモフラージュだが。彼は大人のように計画的に親孝行していた。
そんな事は置いといて、一番初めに彼が取り組んだのは体を鍛えることだった。ドラゴンボールを知っているからこそ、体の大事さは知っているつもりだ。
「うっ……うっ……ぐっ……」
とはいえ子供、大人がちょっと頑張れば持てる物を持ち上げるので精一杯。だが侮るなかれ、彼の世界とは物理法則が違うのだ。
こんな持ち上げるだけの修行でも彼は一ヶ月で前世より強くなった、伸び代はサイヤ人と比べられないが確実に強くなっている。
彼のやる気はますます高まり、一ヶ月が三ヶ月、半年、一年と続き、2年も経てば彼は一足飛びで民家を越えられるようになっていた。これには村の大人たちや子供も驚いた、天才だと褒め称えた。
彼は満足しなかった。目指す所はまだ遠い、山を駆け巡りパンチ一発で太い丸太をぶち破る力を持っていても足りないのだ。
次に彼は気を感じる訓練をした、無闇矢鱈に出来るものではないが教われるような師匠が居ないのだ。無闇矢鱈しか方法がなかった。
自ら組んだ丸太小屋の中で、村から離れた場所で、一人モクモクと座禅を組んで気を感じる。
あるあるある……無いかもしれない、やっぱりあるかも知れない、そんな心の雑念が渦巻く一ヶ月を通り過ぎると、僅かに何かを感じるようになった。
「(ふわりとした温かいもの……湯気のようでしかし湿り気がない)」
掴めそうで掴めない、でもあることはある、コレが気なんだと少年は喜んだ。転生者らしくチートを持っていた……訳でもない、そもそも彼の前世に超自然的エネルギー『気』の存在は空想の中でしか語られず実在していなかった。
だからこそ、前世に無かった気を違和感として捉え掴むことが出来る。この世の異物だから、誰よりも気を感じ取れる。
そのことに気が付いた少年、いや刑は早かった。メキメキとその気を自分の物にしていき、一年で技術として操るまでになった。2年も有れば技として昇華できた。
刑 亥項、15の春。空を飛んだ。
「完成したぞ……舞空術!」
刑は舞空術を編み出した、流石に村の大人たちは腰を抜かしている、子供達も刑に寄り付かなくなった。人が空を飛ぶなんて筋斗雲でも無ければ無理な話なのだ。独力で羽の無い生き物が飛ぶなんて自然に反している。
だが出来る、やれている。この刑 亥項は地に足付けず飛んでいるではないか。
刑は舞空術を覚えたが、彼の快進撃はそこまでだった。かめはめ波やどどん波、気功法等の光線技は彼の気の総量では無理だったのだ。だがそんなことで止められてたまるか、夢がそこに見えているのだ。壁なんて殴り壊せと言わんばかりに修行がより過酷、より辛辣になっていく……彼は得てして修行ジャンキーになったのだ。
百キロを超える大岩を背負い、険しい山道を山頂まで無呼吸で走り切る。素の身体能力も伸ばすためにこんな事を繰り返した。死んでしまう、死んでしまいそうになった、何度も死にかけた。木の根に足を取られ川へ転落し溺れかけたこともある。
だが辞めない、狂気じみた修行は全て夢という甘い餌が鼻先にぶら下がっているからだ。
両親は何度も止めた、大人になった友達からも何度も止められた。だが辞めない。辞めてしまったら意味がない。
「ふ……ふはは……アハハハハハ!!!」
度重なる極限状態に遂に体が壊れた、四肢が全く動かなくなったのだ。阿呆、馬鹿、無謀の極み、無茶をすればその分だけ強くなると勘違いしている子供だった。そのことを痛感した。
「……もうやめましょう……一体何を目指しているのよ貴方」
「九蘭(くらん)……俺は……強くなりたい。成長って麻薬なんだ、一度知ったらやめられない、限界が知りたくなる……だから俺は……限界まで……いや……限界すらも壊して強くなると決めたんだ」
「亥項……だったら一つ、約束して、死なないで」
刑の幼馴染、九蘭鈴(くらんりん)は懇願した。九蘭はよく出来た女性だ、刑は転生者であるが、九蘭は刑と同じだけ思慮深くまた優しさを持っていた。人としての完成度では九蘭に軍配が上がる。
そんな九蘭は刑が好ましく思っていた、刑はそれに気がついていない。そんな気持ちを汲み取るほど人を見ていなかった、タダひたすら己を高めることだけを考えていた。
そんな刑は四肢が粉砕して動けない時にも気の鍛錬をしていた、そして一つの解を得ることになった。
手足が動かない故の脱力、どこにも力が入らないのでいつもよりハッキリ気のめぐりを認知した、気がどのような動きをしているのか詳しく観察し、一つの技を閃く。
『内気治癒』気を患部に集中し、回復を促進する技だ。ただ気を回すだけではない患部を気で読み取り効果的に操作することで回復速度を何十倍にも跳ね上げるのだ。気はこの世界の人間にとって第二の栄養素だ、気を補給するだけでも生き永らえることができる。
この技の開発で刑は常人から外れた耐久性を手に入れた、怪我を端から全部治してしまえるのだ。
刑派ますます修行にのめり込む事は請け合いだった。
刑が16の時、ピンチが訪れた。