悪辣なる大罪   作:垂直抗力

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レグルスさんが就活するそうです。


『強欲』の面接マニュアル

 

 

「では、自己紹介の方をお願いします」

 

「僕の名前は、レグルス・コルニアス。無欲で満ち足りていることを知り、清貧に甘んじることが出来る男さ。この小さな手の中にある財産だけで、僕は十分。これ以上もこれ以下も望まない。あるがままを受け入れているんだ。当然だよね? 人間、求めたとしても手に入る物なんてたかが知れている。結局、運命と言った大きな力の前ではみんな平等に無力な物さ。僕はその運命を捻じ曲げるようなことはしない。あるがまま、無為自然の内に、行動することを是としている。僕の花嫁たちはそんな運命のもと集まった人たちだ。こうやって、自然と過ごしていれば人並みの幸せを手に入れることが出来るのに、それさえできない愚図が多すぎる。何かを欲して、身の丈以上の幸せを願って、そのまま破滅に向かっていく人々を僕は数多く見てきたんだ。どいつもこいつも身の程知らずだと思わない? 自身の『強欲』を自覚せずにのうのうと、どうやって生きてきたのかが不思議だよね。ま、そう言った人間たちにはすぐに正義の鉄槌が下されるだろうけど」

 

「ありがとうございます、コルニアスさん。では、今までの経歴や実績を、教えてください」

 

「経歴? ああ、なんてことはないよ。僕の人生なんてただ運命の導きのもと、辿ってきただけだからね。そうだなあ。やったことと言ったら、権利の行使ばかりだったかな。そう、『権利』だ。人なら誰でも持っている、悪辣な行いに対する正当な報復という権利だ。僕は、魔女因子に選ばれてから、権利の元、たくさん報復してきたんだ。まず、押しつけがましく施しを与え、僕を惨めな存在とみなしてきた家族を葬った。まさか、僕の家族が、身内をこき下ろしてくるようなクソ共とは思わなくてね。生まれてきた家庭が悲惨だったことも、僕の数少ない汚点の一つさ。その次の相手は、村や国だ。急に規模の大きい話になっているけど、本当の話だからね。僕をあんな惨めな家に閉じ込めた村の連中が許せなかった。厄介払いかのようにあんな巣窟に押し込んで、貧乏やらなんだのと見下しやがった異常者たちを根絶やしにしてやったんだ。そして、こんな風になってしまうまで、村を放置した国も滅ぼしてやった。あんなに病巣が根付くまで村を管理できなかった国なんて、さっさと消えた方がいいと判断した結果だよ。こうして僕の正当な報復によって、国の負の歴史に終わりを告げてやった後、幼馴染を花嫁にしたんだ。でも、その過程に僕と妻たちのささやかな幸せを妬んでいたのか、様々な障害が立ちふさがったんだけどね。ま、それを片付けた後は、幸せを享受する満ち足りた日常を営んでいたさ。でも、なぜか僕の妻は笑わなかったんだ。今思えばそれは当然だし当たり前のことなんだけど、当時の僕にはそれが不思議でね。最後の最後で表情を崩したけど。でもそのときに見た妻の顔がとっても不細工でね。僕を見下して陥れて、辱めて踏み躙ってやったっていうあの顔が、本当に自然美の喪失って感じ? 自分から美しさを損なわせるなんて馬鹿馬鹿しい話もないから、今の妻たちにも笑顔を禁じているんだ。ま、経歴と言ったらこんな感じかな。日々の生活がもたらしてくる等身大の幸福の元、僕がこうして健やかに生活できるのは過去の行動があってのことなんだ。分かった?」

 

「分かりました。懇切丁寧な回答に感謝いたします。では、『強欲』の大罪司教への志望動機を教えてください」

 

「志望動機? そうだなあ。ま、欲深な人々の救済ってとこ? さっき経歴を語ったと思うんだけど、そんな人生を歩むうちに思ったんだよね。この世には『強欲』をひた隠しにして生きている人々が多いってことに。満たされない満たされないって、いつまでも空っぽの状態で喚いてる人間の多いこと多いこと。そういう人は必要最低限の私財を大事にするもなく、欲に駆られて不相応な行動を取ったりするようになるんだ。際限のない『強欲』の前に、人は無力な物さ。それを言い訳にする人間は、クズとしか思えないけど。ま、でもそんな言い訳を前にして一歩踏み出せないような人を導いてあげるのが、僕の天職だと思ったんだ。どんなに貪欲で、欲深で、剛欲な、そんな『強欲』に満ちた人々を、僕のように満たされた存在にはできなくとも、それに近しい人くらいにはしてあげられる。誰にも迷惑を掛けず、自分に備わった私財を尊重し、毎日の小さな幸せに満足感を得られるような存在が、この世界には必要だと思うんだ。そう、『強欲』の司教が必要なのは、そんな存在を作り出すのに、最適だからなんだ。でも逆に言えばさ、そもそもそんな高尚な地位が必要になるのってさ、世の中にそう言ったどうしようもない人間がいるからだよね? 自分が世界の中心に立っているかのように、身勝手な正義を押し付けてくるような厚顔無恥のクズ共のせいだよね? そのような連中をどうして今まで放置してきたのかな? 魔女教って、そう言った類の人間を良しとする異常者の集まりなのかな? まあ、一部の人間が暴れまわっているのは理解しているけどさ、そんな奴らにも、放置してはいけない人間がいるってことは分かっているはずだよね? むしろそれすら分かっていなかったとしたら、君の監督不行き届きだ。職務怠慢だ。君の『怠惰』のせいで、僕がつけを払わないといけないんだとしたら、それはもはや、僕の日常を侵害している。僕の貴重な時間を、君の無能が奪っているのだとしたら、それはもはや立派な侵略だ。いくら自分が欲深だからって、他人の財産に手を出すほどの害虫が、どうして僕の前でおめおめと——」

 

「ありがとうございます、コルニアスさん。最後に自分の強みを教えてください」

 

「あのさあ、今僕が話していたのが聞こえなかったのかな? 人の話を最後まで聞くってことなんて、今時子供でもできることなんだけど。良識ある両親のもと育てられていたら知っていて当然の常識だよね? もしかして君はその例に漏れた人なのかな。だとしたら、ご愁傷様だね。あ、別に他所の教育方針に口を出すほど僕は無粋な人間ではない。人の家庭の問題は、その人たち自身で解決すべきだからね。外野が横槍を入れたところで、悪化するのが関の山さ。でもさ、その家庭が生み出した問題が、周囲に被害を及ぼしたらそれはもう然るべき対処をするよね? むしろしない方がおかしいでしょ? 君の両親の不出来な教育のせいで、僕は話を遮られた。話す権利を遮られた。人々に平等に与えられた権利を剥奪した。それはもはや、立派な暴力だ。疑いようのない僕への被害だ。だったら、僕はその贖いをさせるべく、権利を行使せざるを得ない。次はまともな親の元、生まれてくるのをせいぜい——」

 

「ありがとうございました、コルニアスさん。これにて面接は終了です。もう、お帰りになって構いませんよ」

 

「何回同じことを言わせるんだこの女ぁ!! どいつもこいつも人の権利を軽んじやがって! どうして僕に不条理な行動を強いるんだ。どうして言われたこともできない? どうしてそうやって、僕の意見を通さない? 通すどころか聞いてすらいない? 僕の話す権利と言う与えられた財産にも手を出すのかこの盗人め。それは許さない、許せない、許すという選択肢すらもはやない。当たり前のことも碌にできない常識知らずが! そんな欠けに欠けた常識しかないから、そんな痴女染みた格好してるんだろ厚顔無恥の売女め! 満ち足りない欲深のクソ女の分際で、完全に個人で満たされた僕の前に立ったことを後悔しろ! いや、もはやそんなどうしようもない『強欲』を抱えた状態でこの世に生まれさせた、クズ親共を憎みながら死ね! そしたらどこまでもちっぽけな君の願い通り、家族もろともあの世に送り付けてあげるからさあ。そう、決めたよ。僕の『強欲』の司教としての初仕事は、病巣に塗れたお前ら一族の一掃だ。今、僕が決めた。今、僕が迅速で正当な判断を下した! 覚悟をしろよ、人類悪!! お前らが侵害した僕の権利の数だけ、その貧相な体に風穴を開けてやる! ただでさえ不完全なお前を、生きるのに不完全な形に変えてやる! 僕の記念すべき初仕事の祝福を真正面から受けられることに感謝しながら朽ち果てろ! 不完全!」

 

 凶人が指を動かすごとに、面接官の体に穴が開いていく。致命傷を越えてもなお、行われる蹂躙は止まらない。

 やがて、開けられた穴が体の表面積の半分を越えた瞬間、凶人が腕を振るい体全体を消し飛ばした。

 だるま落としのごとく落下して転がる面接官の顔を見て、凶人が口を開く。

 

「君の笑わない顔だけは認めてやるよ。ま、僕には生首を妻にする趣味はないから、このまま立ち去らせてもらうけど」

 

 満足したかのように背を向けて、凶人は去っていく。部屋の扉を破壊しようと、空気を掴もうとした瞬間——————、

 

「とても気高い覚悟と執念です。誰よりも満ち足りたあなたは素晴らしい」

 

「は?」

 

 聞こえるはずのない声が、背後から響いた。

 どうしようもない不完全は掃除したはずだったのに。

 満たされた自分がきっちり消し去ったはずだったのに。

 権能を行使し、邪悪を真っ先に抹殺したはずだったのに。

 

「あなたを『強欲』の座に加えましょう、コルニアスさん。——いいえ、コルニアス司教」

 

 そんな哀れな犠牲者となったはずの不完全が、白金の美しい髪を垂らした元の完全な状態で、そう言った。

 

(fin)

 

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