「結局のところさ、力を持つ者たちに必要なのって慈悲だと思うんだよね。相手の心を推し量り、できる限りの配慮をする。身に余る力に溺れた猿同然の奴らには到底できない芸当だけど。ま、言いたいことは分かるでしょ。思考回路まで溶け切ってて、何と混じったかも分からない君の脳みそでも察せると信じたいけどさあ。僕は君のことを言っているんだよ粘土女」
会話相手をまるで慮らない『強欲』、レグルスの一方的なヘイトスピーチ。
それに対し、その会話相手の『色欲』、カペラは手の中の生物を撫でながら、
「世界のどこを探しても見つかりゃしねー程に慈悲深い。そう名高いアタクシに慈悲を語るなんて、一体いつから器極小の童貞野郎は偉くなりやがったんですかぁ? そういうことは、テメーの趣味の悪いお人形さん遊びをやめて、さっさとまともな人間にまともな愛とやらを囁いてみてから言ってくれれば良いんじゃねーですか。知らんけど」
「慈悲の定義を、ちゃんとその出来損ないの頭に入れてから言ってくれないかなあ。君が愛玩動物のように愛でているその生物の前身を、僕は知っているわけ。いくら
「清純ぶった処女厨のきめー妄想をどう呼ぼうと知ったこっちゃねーんですが。ま、本当の愛を知らねーかわいそすぎるクズ以下肉にご高説してやってやりますか」
そう言ってカペラがよろしく愛でていた生物を分離させ、無数の虫に変化させた。
とても元は一人の人間だったと思えないその有様に、レグルスはわかりやすく表情を変える。
嫌悪感に歪むその顔を見て、カペラは口元を歪め、
「愛なんて幻想は見た目が全て! 実際、テメーが汁ダクの思考の元見つけたこの顔の良い女は、とっても愛せない状態になっちまいました! そう、それは悪いことじゃねーんです。性格が良い。声が良い。気配り上手で、誰よりも頼れる。手と手が触れ合うだけで熱を帯びるし、そばにいるだけで幸せ。…………そんな甘ったれたような言葉は全て、テメーら勘違い男共の見た目至上主義の思想が根底にあった状態で、な・ぜ・か、認めたがらないドス黒い肉欲を綺麗に飾っただけに違いねーのです。どんなに内面が良かろうが、見た目が悪けりゃクズ同然! 興味も好意もなくて、あるのは気持ちわりー嫌悪感だけ! そこに、正義面だけが一丁前の偽善者共がひたすらにのたまいやがる不条理なんてどこにもなくて、誰もかれもが無意識に受け入れているという事実があるだけ!………………アタクシが言っていること、何か間違ってやがりますか?」
特に疑問も感じてなさそうに首を傾げ、疑問を投げかけるカペラ。
それを見たレグルスは鼻を鳴らし、つまらなそうに腕を振るった。
その動きに連動するように地面が爆発。カペラの足と無数に分かれた元女性の存在があった場所に、半径二メートルほどのクレーターが生じた。
当然、両足を失ったカペラが崩れ落ち、その顔を踏み荒らしながら、レグルスが口を開く。
「君の言っていることに一部は同意できる。愛なんて顔が全てだ。内面がいかにできていようが、整った顔がなければ話にならない。いや、むしろ顔が良いのに内面の悪さが露になった女性を見て幻滅する方がおかしい。ま、君の場合は内面の悪辣さと、今の崩れに崩れ切った顔面が揃っているから、誰にも見向きされないのは確定だろうけど。……でもさあ、全ての人間が生殖行為なんて理解不能な蹂躙行為のために生きているなんていうのは心外だなあ。少なくとも僕は違う。あんな体を貪るような下品で醜悪で気持ちの悪い、他者への依存の仕方を当然とする異常者共と、個で完結している僕を一緒くたにする時点でどうかしている。それはもはや、一種の名誉棄損だ。君がいつも日常のように行っている、他者の価値観への侵略行為だ。つまり、僕の価値観を自分勝手に捻じ曲げようとする、一種の見えない暴力だ。その精神的な強姦行為に対処するべく、君を誰にも愛せない顔に変えてやるよ」
そう言ってレグルスは地面と足の距離をゼロにし、間にあった存在を破裂させた。
見るに堪えないスプラッター状態のカペラを見ても、レグルスの顔は晴れない。
その理由を、数秒後の異常現象が説明する。
「——まったく、どんなに美辞麗句を並べても足りないこの顔を踏み潰すなんて。もう少しで佳人薄命という言葉の存在理由を証明しちまうところでしたよ。テメーみたいな変態のイカれた愛情表現の行き先のクズ肉共が、哀れで仕方がねーですが」
バラバラとなった肉片は醜悪な匂いと共に消え去り、それと代わるように元の姿のカペラが蘇る。
それを分かっていたレグルスは大きく舌打ちをしつつ、
「今の君への殲滅行為を、僕の見目麗しい花嫁たちへの手向けを一緒にしないでほしいんだけど。君の場合、どんなに権利を行使しようが大人しく死に腐ってくれなくて、永遠に印象は最悪のままだ。それに対し僕の妻は、意見の食い違いであの世に行ってしまったとしても、僕の彼女たちへの印象は最高の花嫁のままだ。そう、いつまでも惨めったらしくこの世にしがみ付いている君とはちがい、彼女たちには運命を受け入れる器がある。それが彼女たちと君との間の、絶対的な壁だと僕は思うね」
「運命とかいうくっせー言葉を免罪符にクズ肉どもを花火にしている人間がそれ言います? 説得力がひとかけらもねーんですがそれで良いんですか? その薄っぺらいにも程がある理論を掲げて平気な顔ができるなんて、本当にどうかしてやがるとしか思えねーですよ。世界中の全てを愛するアタクシでも、テメーだけは管轄外。大人しく孤独に愛されながら、惨めったらしく死にやがってください。——誰も、中身のねー箱なんて見てる暇ねーですから」
「僕もいくら君が顔の良い女になろうとも、花嫁には絶対に選ばないと言えるね。そもそも、ありのままの姿に満足せず顔だけを後から付け焼き刃で整える、君の卑しい感性が、僕とは究極的に合わない。世界中の女性が死に絶えて君一人が生き残ったとしても、僕は君には見向きもしない。せいぜい、誰にも愛されずに惨めな気分で生き地獄を体験しなよ、勘違いブス女が」
そう言って、レグルスとカペラ。二人の男女の目が合う。
だが、二人の瞳に愛慕や恋情はかけらもなく、あるのは互いに対する憎悪と嫌悪。人間の感情の中でも最底辺の代物だけだ。
そんなゴミでも見るような四つの瞳に、殺意が宿りそうになったところで——、
「興ざめだ。体をドロドロと変化させる気持ちの悪い女に、構っている時間は僕にない」
「飽きた。こんな何の変化も面白味もねー童貞男に、アタクシの貴重な感情表現を向けるのが勿体ねーです」
互いに聞こえるような舌打ちをして、二度と見たくもない顔から背けるように、二人は互いとは別の方向に去っていった。
醜悪の塊である魔女教。その幹部である大罪司教。
彼らの思考回路は、悪辣に悪辣を重ねても、まだ足りない。
そんな人間の悪意の極致である彼らには、当然のように協調性はない。
だがこの瞬間、協調性皆無の集団の内の二人の思っていることは、奇跡的に一致した。
——自分以外の大罪司教は、どうしてクズしかいないのだろう。
二人の人格破綻者は、何の疑いもなく、そう疑問に思ったというのだ。
(fin)