「俺も下僕を作ってみようかなぁ?」
ある日の昼下がり、モモンガが物思いに耽りながら呟く。
すると直後、周囲にいたアンデッド達が一斉に活動を停止し、何事かと固まっていた。
作業指示をしていたデミウルゴスもどうしたのだろうと戸惑っていると、死の支配者に近づく影があった。
『い、偉大なる御方! わ、我々は何か粗相をしでかしてしまいましたでしょうか!?』
「えっ、いやっ……」
『な、なれば!? 我々はもう用済みと!? お願い申し上げます、どうか我々をお見捨てにならないで下され! 何卒、何卒……!』
「へっ!? そんなんじゃーー、って何事ぉぉっ!?」
持っていた羊皮紙を落とし、恐怖で震えるエルダーリッチの悲壮な叫びが響く。
骨しかなく表情はなくとも、声が絶望を物語っていた。
モモンガの何気ない一言で、彼のみならず
誰もが捨てられたくない、ずっとお側に仕えたいと訴える様に主たる骸骨様は盛大に混乱した。
「……モモンガ様、具申してもよろしいですか?」
「あっ、あぁっデミウルゴス、なんだ?」
「恐れながら、先程の発言は些か軽率ではないかと。 そのせいで皆モモンガ様に失望されたと、恐れているのでしょう」
「えっ……、あぁっ!? ごめん御免! そうじゃないんだよ! 君たちとは違う、もっと上位の下僕って意味合いだよ、デミウルゴスとかと同格の!」
『で、では我々はまだお側にお仕えしても……?』
「もちろん、今いなくなられても困るし、これからもよろしく頼むよ!」
『おぉっ、おぉぉぉぉぉっ……! いと慈悲深き御方、ありがとうございます……! 我ら一同、これからも御身に変わらぬ忠誠を捧げます……!』
「う、うむ、よろしく頼むぞ……、さぁっ作業に戻ってくれ!」
そんなモモンガに救いの手を差し伸べたのは、智謀家のデミウルゴスだ。
彼の言葉に、自分の発言が誤解を招いたとして配下であるアンデッド達に釈明する。
見捨てられるわけではないと分かり、誰も彼もが喜びを雄叫びで表し、喜んで作業に戻っていった。
突然のことに驚いたものの、言葉には気をつけなくてはと支配格のアンデッドは気を引き締める。
しかしモモンガの言葉に、悪魔は少なからず興味を惹かれた。
「時にモモンガ様、私どもと同格という下僕について、何か案がおありなのですか?」
「えっ? あぁっそこまで明確ではないけどね。 皆を見てたら、デミウルゴスたちみたいな下僕がいると便利かなぁと」
「なるほど、そうだったのですね。 モモンガ様の御手で創り出された下僕とは、なんと名誉なことなのでしょう。 もし何かお困りになりましたら、いつでもご相談にのりますよ」
「本当か? それは助かる! 今度ウルベルトさんに話を聞こうと思ってたんだよ。 その時はデミウルゴスも同席してくれ」
「畏まりました、では予定を先に取り付けましょう。 今ですと……」
見捨てられたわけじゃないと安堵するアンデッドたちがややどんちゃん騒ぎする中、デミウルゴスはモモンガの下僕発言がとても気になった。
自分たちを参考にしたいというのは、主人と同格ながら仕える方に認められている意味でもある。
嬉しくないはずもなく、助力することも吝かではないと乗り気だった。
「モモンガ様! 下僕を作るって本当ですか!?」
「あ、あの、どんな方にされるおつもりなんですか?」
「んっ? デミウルゴスに聞いたのか? そうだなぁ……」
「モモンガ様! 下僕をお造りになられるとのことで、正妃シャルティア・ブラッドフォールンが素体をご用意いたしましたでありんす!」
「あっありがとうシャルティア……、それとごめん。 アンデッドじゃなくて別のを考えてるんだ」
「ーーはっ!? し、失礼いたしました!? 早とちりしてしまったでありんす!?」
「いやいやっ、いいよ。 とりあえずその死体は勿体ないから安置所に氷漬けして保管しておくよ」
「モモンガ様、直属の下僕をお造りになられるとお伺いしたのですが」
「セバスもか、そんなに興味があるのか?」
「……僭越ながら、私と仕事が被らぬ者であればと切に願っております。 愚かな願いではありますが、考慮していただけますと幸いです」
「あっ、あぁっ、うん、分かった……」
「話がすごい勢いで拡散されてるんですよね……」
「それはそうでしょ、モモンガさんのアウラ達クラスともなれば皆だって興味は湧くし」
「それで、どういうのにするんですか?」
数日後、話が拡がりに拡がり、今では『モモンガが作り出す右腕的僕はどんなものか!?』と、一行の中で話題になる。
アウラにマーレに問われ、シャルティアに至ってはどこからか人間の死体(領民に悪さをしていた悪徳貴族とその一族)を持ってきた。
さらにセバスからは、自分と同じ仕事を担当するようなものでないようにしてほしいと、分からなくもない嘆願を出される始末。
軽いものと当人は考えていただけに、騒ぎように頭を抱える様に茶釜とウルベルトが苦笑しながら話す。
実際、彼らも気になっているところでもあり、この場にいないたっちとペロロンチーノもモモンガの下僕に興味を示していた。
「今のところアンデッドにするつもりはないんです。 もっとこう、器用にできる感じの配下がいればいいかなぁっと」
「そうなると、
「ドッペル? あの模倣するのが得意な?」
「そんな魔物がいるんですか?」
「えぇっ、まだ誕生したばかりの個体を持っているので、それを触媒にしてみます?」
「でもそれって、ウルベルトさんが研究する予定だったんじゃ……?」
「友人が困っているなら手助けしたいじゃないですか、デミウルゴスも頼ってくれて嬉しいって、毎日言っているんですよ」
「悪魔が親切なこと言ってる、モモンガさんマジ気をつけてね」
「余計なこと言わないでください茶釜さん。 本心で話しているんですから」
この日は拠点に主のモモンガを含めた三人だけだったので、自然と下僕創造の話題になった。
あれからデミウルゴスなどに話を聞くなどして、ある程度の構想は立てている。
しかし肝心の種族についてどうしたら良いかと、
そんなアンデッドに山羊の悪魔が良い案として、こうしてみてはどうかとアイディアを出す。
茶釜からすれば、自分のものを他人に譲るなど絶対にしないウルベルトらしからぬ行動に驚いた。
思わず本音からモモンガに注意するよう助言する辺り、それほどのことなのだろう。
ただ彼女にしてみれば、成り行きでモモンガの拠点に居を移してから、すっかり弟と同じく奇妙なアンデッドに親近感を覚えていた。
自分たちだけでなく、たっちとウルベルトという、異形種間で混ぜるな危険と言われるほど有名な険悪の仲をまとめているので、頼りにしている。
茶釜とウルベルトの意見を聞きつつ、モモンガは親切な二人と共にあーでもない、こーでもないと話し合いを続けるのだった。
「ーーよし! できた!!」
それからさらに一月が経過したある日のこと、モモンガがないはずの腹の底から声を絞り出す。
目の前には渾身の出来と言える、彼だけの直轄配下である下僕が無事完成したのだ。
その後ろから拍手を送る悪魔主従とピンクのスライム主従と真祖、さらに騎士主従も同席している。
ちなみにこの場にいない鳥人は現在、知り合いだという異形種の友人を勧誘するために出かけていた。
「おめでとうございます、ようやくできましたね」
「いやぁ〜、苦労しましたね、これは……」
「一から創るとなったら、これだけ大変なのね。 私はアウラとマーレは赤ん坊の頃に引き取って、そのまま下僕になってもらったから」
「まぁここまでは良いとして、問題はここからですよ」
たっちの祝辞にモモンガが喜びつつ、創造過程の労力を思い出し、苦労を滲ませる。
手伝いをしていた茶釜は、アウラとマーレという優秀な下僕を拾ったという幸運を喜びつつ、死の支配者の根気強い努力を称賛した。
主に助手として手伝ったウルベルトもやれやれと息を吐くも、ここからが本当に大切だと告げる。
その言葉にモモンガは気を引き締め、出来上がったばかりの椅子に座る下僕と向き合った。
卵型のつるりとした表面に開いた三つの穴と、特徴を持たない体つきは擬態を得意としている故なのだろう。
作ったばかりなので服は簡単に布を巻きつけているだけだが、きちんと動くかどうかはまだ試していなかった。
だからこそ、モモンガは緊張しながら言霊を放つ。
「ーー目覚めよ、我が下僕よ」
「…………………………ハ、ハ、イ」
「……ふぅ、おはよう。 調子はどうかな?」
「…………オ、オハ、オハヨウ、ゴザイ……マス……」
「そう焦らなくて良い。 お前はまだ起きたばかりだからな、ゆっくりで良いぞ」
「ーーうん、問題ないようですね」
「そうなの? なんかすごくギクシャクしてるみたいだけど」
「創造直後はこんなものです、あとは根気よく経過観察をしないといけませんね」
「なるほど、そうなるとウルベルトさんもそれなりに努力されているのですね」
「おい、テメェは一々喧嘩売ることしかできねぇのか?」
「これは失礼、何でもそつなく完璧にこなす偉そうな人だと思っていたものですから」
「よし表出ろ、塵一つ残さず燃やしてやる!」
「静かにしてください、まだこの子起きたばかりなんですから! あっそうだ、名前を教えとかないとな……」
拙い動作と言葉遣いで主の問いに答えるドッペルの様子に、モモンガは成功したと安堵した。
ウルベルトも問題ないと見なし、ここから第二工程と言える段階へ移れると一安心する。
魔法詠唱者たちが共有する苦労をいまひとつ理解し切れていない茶釜とたっちは、実に薄かった。
そんな苦労を頭を振って説明すると、息をするように嫌味を垂れる騎士に悪魔が喧嘩を買おうとする。
いつもの言い争いになりかけるも、すっかり仲裁役になったモモンガの一声で諌められた。
黙らせた二人を捨て置き、アンデッドは椅子の上で呆然と項垂れる下僕に、最初のプレゼントを渡すことにする。
「今日からお前は、”パンドラズ・アクター”と名乗れ、良いな?」
「……………………主、ヨ、オ名前ヲ、オ伺イシテモ、ヨロシイ、デショウカ?」
「モモンガだ。 よろしくな、パンドラズ・アクター」
顔を覗き込むモモンガに、ドッペルは未だ定まらない思考の中、主の言葉を咀嚼するように飲み込んだ。
それは自分の名前であり、目の前の骸骨が自分にとっての創造主であり、仕えるべき方だと理解する。
生まれたばかりの自分に名をくれた、その感謝を伝えたいのに口が思うように回らないのが歯痒かった。
カクカクと堪え切れず顔を動かすと、そっと頭を撫でて今は休めと気遣ってくれる。
この瞬間、パンドラズ・アクターは自分の主が偉大であり、慈悲深い御方だと感動した。
忠義を尽くさねば、その一心で彼は恐ろしい早さで状況把握を始めるのだった。
ー 名前についての妄想ネタ ー
モ「そうだ、名前を考えておかないと!」
ウ「良いですね、何にするつもりですか?」
モ「候補はあるんです、まずは「つるりんくん」!」
茶「えっ」
モ「あとは「テカテカくん」! それからーー」
ペ「あの、モモンガさん??」
モ「これも捨てがたいんですよね、「ツヤツヤくん」! とか!」
た「そ、そうですか……」
四人『(どうしよう、口が裂けても言えない、ネーミングセンスが0過ぎるなんて……!)』
モ「どれにしようかなーー」
ウ「モモンガさん、俺たちも案を出しますので、みんなで決めませんか?」
ペ「そ、そうそう! ここにいる全員が協力するんだから、俺たちにも命名の権利はあるはずです!」
茶「良いアイディアね、モモンガさん、ダメかな?」
た「直接的な上司はモモンガさんですけど、私たちにとっても子供同然ですからね」
モ「なるほど……、じゃあみんなで考えましょうか!」
四人『(この人に今後、何かを名付けさせるときは気を付けないとな……)』