「モモンガ様! オ茶ヲご用意イタシマシタ!」
「いや、私は飲めないんだが……」
「ナント!? 申シ訳アリマセン、デハ香リダケデモオ楽シミクダサイ!」
「あ、あぁっ……」
「モ〜〜モンガ様ぁ〜〜! 寝所の準備ガ終わリまシた!」
「えっ? いや、睡眠も不要なんだが……」
「そウなノでスか!? デは申シ訳ごザいマせン、私は一人寝ガでキまセんノで、添イ寝をシてイたダけマせンでシょウか!?」
「はっ?」
「ンモォ〜〜〜〜モンガ様ぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」
「……なんだ?」
「農園についての意見書をまとめましたァ! ご確認くださいまっせ!」
「ーー面白いな、採用」
「〜〜〜〜ッ!! ありがとう! ござぁいまっす!!!!」
「モモンガさん、どうしたらあんな奇天烈な性格になるんですか?」
「俺が聞きたいですよ!?」
無事、モモンガの直轄となる下僕が完成し、一同が喜びを示す中でパンドラズ・アクターは見る見る成長をしていく。
会話もわずか3日ほどでマスターし、歩くなどの動作も並行して覚え、さらに魔法なども凄まじいスピードで会得していった。
種族特性であり擬態についても、モモンガなどに化けることもできるようになり、まさに万能な存在へとなっていく。
ただ、どうしてこうなったのかと誰もが感じていることがあり、それは創造主も疑問に思っている、人格形成に影響をもたらしていた。
どういうわけかリアクションが一々大袈裟で、一言で言えば鬱陶しいと思ってしまうほど。 デミウルゴスやアウラたちも声に出さないが、もう少し落ち着けないのかと思っていた。
ただ設計理論である同格という点は忠実になっており、中でも頭脳面ではデミウルゴスに匹敵している。
現に周囲の開拓や今後の計画についても、意表を突かれるアイディアを提案し、智謀の悪魔がメラメラと対抗心を燃やしていた。
「なんというか、一つの動作に全力をかけてるよね、あの子」
「この前、俺が物を取ってって言ったら、くるくる回りながら渡してきたよ」
「私は、妙に芝居がかった話し方をしてきましたね……」
「俺んときもそうだな、ついでにモモンガさんのことを根掘り葉掘り聞かれたし……」
「すみません、うちの子がご迷惑を……!」
「いやいや、平気ですよ。 多分ですけど、生まれて間もないですから、楽しくて仕方がないのでしょう」
「へぇ、さすがはたっちさん。 あちこちに現地妻作ってるだけありますね」
「ペロさん? 誰がそんなことを?」
「えっ、違うの? 結構有名ですよ?」
「そんなわけないでしょう!? いやっ、その有名ってどこまで広がってるんです!?」
「そうなんだ、私てっきり種族問わず何人も作っているのかと。 ちなみに異形種業界では超有名な話だよ」
「このスケコマシが」
「茶釜さんも誤解と勘違いしないでください!? ウルベルトさん、モテないからって僻まないでください」
「んだとゴラぁっ!!」
異形種国家(仮)の主要メンバー5人が集い、モモンガのパンドラズ・アクターについて、忌憚のない意見を述べる。
こう言っては悪いが、あそこまで個性的になるとは思っていなかったのが、たっちたちの本音だ。
主の性格を反映して穏やかな従僕になると思われただけに、奇抜すぎる存在感に苦笑しか出てこない。
アンデッドは謝るものの、そこまで不快に感じていない。 ただもしかしたらと疑問を持っているが、口にはしないよう言葉に細心の注意を全員が払った。
話題を変えたほうが良いと思った時、なぜかたっちの風評被害とも言える話になり、そのたらしぶりが有名だという。
「たっちさん、そんなことしてたんですね。 まぁかっこいいですからね!」
「モモンガさんも悪乗りしないでください!?」
「まぁまぁ。 話は変わりますけど、最近お迎えしたっていう人間の従者さんはどうしてるんです?」
「あぁ、俺が殺し損ねた奴か。 お前も物好きだな」
「お好きなように言ってください。 私としては早く紹介したいんですけど、セバスが中々許さなくて……」
「セバスが? 何でまた?」
「たっちさんに意見なんてするんだね、あの人」
「ええっ、今日も教育している最中ですよ」
「やり直しです、腰の角度は45度」
「はっはいっ!」
「背筋が曲がってます! 足をきちんと揃えて! 私が良いと言うまで頭を上げてはいけません! これからお仕えする方々の前で無様を晒すのはたっち様だけでなく、皆様の品格を下げることになるのです、できるまで剣は持てないと思いなさい!」
「か、畏まりました、セバス様!?」
「ーーこんな感じです」
「鬼じゃん!?」
「まぁ、その筋に関しては凄そうだよねぇ……」
「何のために弟子入りしたのか分からねぇな、これじゃあよ」
「そっかぁ、なるほど……」
話はたっちが拾ったブレインに移るが、彼と言うよりはセバスの鬼教官ぶりが露わになった。
作法について乱れるなどあるまじきという執事の鑑からすれば、傭兵崩れの剣士は見るに耐えないのだろう。
だがモモンガを初め四人は理知的で落ち着いたセバスしか知らないため、想像し難かった。
ある意味で更生させる機会と思えば良いのかもしれないが、剣の弟子にいつかなるための名目はしばらくの間叶いそうにない。
そんな悲しき従者についての話の後で、死の支配者は考え込んでいた。
どうしたのかと面々は様子を伺うと、アンデッドは口を開いた。
「モモンガ様、お呼びでしょうか!」
「うむ、まずは座りなさい」
「はい!!」
「……待て、何故隣に座る?」
「隣以外の何処に座るのです?」
「ーー対面位置に座りなさい、大事な話をするのだから」
「はぁっ?」
しばらくしてからモモンガはパンドラズ・アクターを呼び出す。
創造主の呼び出しを嬉しく思いながら、座るよう言われて意気揚々とモモンガの隣に腰掛けた。
ソファだったのでスペース的に問題ないが、距離感がバグっているのか、主に問われても従者は逆に問い返す始末。
頭を抱えたくなるのを抑え、対面に座るよう指示すれば渋々と移動する。
「さて、呼び出した用件だがーー」
「はい、遂に父上呼びをお許しいただけるのですね!」
「違うぞ」
「違う!? では他に何が?? はっ!? もしや母上のお話ですか!?」
「落ち着け!?」
「私、個人的にはシャルティア殿は遠慮したいです、この前ノリで母上と呼んだら『テメェ、次呼んだら承知しねぇぞ!』と罵られまして」
「お前は私の見ていないところで何をしているんだ!?」
モモンガが話を切り出そうとするも、パンドラは勢いよく手を上げて頓珍漢なことを言い出す。
冷静に否定すると、気がついたように口にした内容も、また斜め上過ぎた。
おまけに真祖な彼女に大変失礼なことをしでかしたと知り、発生するはずのない頭痛がしそうになる。
何故自分からこんなハッピーな下僕ができたのかと悩みたくなるのを抑えつつ、本題を切り出した。
「話を戻すぞ、お前が誕生してから数週間が経過したな。 今のところ不自由などはないか?」
「それはもう! 問題などありません! しいて上げるならば、早くモモンガ様を父上と呼ばせていただければ完璧かと!」
「ふむっ、それはお前にとってそれほど重要なのだな。 問題ないのだが、条件がある」
「条件、で御座いますか?」
ようやく主導権を取り戻したモモンガが真剣になると、パンドラも雰囲気を察して落ち着きを得る。
この辺りしっかりできているのに、なぜ普段からできないのかと思ったが、解決できそうな可能性をアンデッドは思いついた。
父と呼びたい、それは大いに結構と言いつつ条件をつけると言われ下僕は首を傾げる。
どうしてと問いたくなるのを堪えつつ、パンドラは尊敬すべき創造主の言葉を待った。
「父と呼ぶのは仕事中以外かつ私と二人きり、この時にだけ許す」
「ーーモモンガ様、僭越ながら質問をしても?」
「なんだ?」
「何故そのように限定的な状況でしかダメなのか理由をお伺いしても? 私は、モモンガ様の側近として、常に御身に侍るため造られたはずでございます。 どうして、そのような酷な事を仰られるのですか……?」
許しはしたが、普段から呼ぶことは許可できないというパンドラには理解しにくい内容だった。
創造時に賢くあれと設定されたことで、その類まれな演算で答えを探す。
だが見つけることができず、生まれたばかりの子供は恐怖を抑えるよう身を引き締め、主の意図を尋ねた。
この時の彼はまさに理想的な下僕としての振る舞いができている、それに安堵してモモンガは慎重に諭していく。
「酷と感じるのか。 では仮に許した場合、お前はずっと私を父と呼ぶのだろう?」
「当然です! モモンガ様はーー」
「それは軽率なのだ。 主従関係を持つ以上、何事も体裁が付き纏う。 セバスやデミウルゴス、アウラたちを考えろ。 彼らは普段から主を父や母と呼んでいるか?」
「それは……」
「何も呼ぶなと言っているわけではない。 私はな、パンドラズ・アクター。 お前に彼らのような立派な下僕になってもらいたいのだ。 そして私は、お前が誇りにできる主として精進していくつもりでいる。 父にも意地はあるのだよ、子に立派な姿を見せ続けたいというな」
注意ではなく、父と子との会話で約束するようにモモンガはパンドラに語る。
真摯な思いと決意にパンドラは創造主の偉大な考えと、慈悲深い心に感動した。
そう考えるなら、確かにここしばらくはやっと自由に動けることを喜び、はしゃぎ過ぎていたかもしれないと従者は思う。
舞い上がって主が侮られる振る舞いをするなど、以ての外だ。
不意に、モモンガが席から立つと無骨な骨の手をパンドラの頭に乗せて撫でる。
生まれたばかりのときと同じ、温かくて優しい掌に子は昇天しそうなほど喜びがこみ上げてきた。
「焦らずとも良い、お前はまず学ぶことに専念しなさい。 従者としての振る舞いはセバス達に尋ねればきっとーー」
「モモンガ様」
「ん、なんだ?」
「私、早急に母上が欲しいです!」
「はっ?」
「母上です! そして叶うならば、川の字になって寝たいのです! それはまさに理想的な家族関係ではないでしょうか!?」
「おいっ待てこら、なにか話が飛躍してないか!? 良い話をしてるんだから、悪ふざけはやめなさい!?」
「いいえ! シャルティア様はあれですが、茶釜様やアウラ様は如何ですか!? 父上を半分こするの断腸の思いですが、まだ許容範囲内です! なのでーー」
「まだ続くか!? えぇい、落ち着けぇ!」
お叱りではなく諭す、これによって我が子の成長に繋がればとモモンガは考えていた。
事前にたっちなどへ説明し、問題ないと判断されたのだが、これがパンドラをさらなる暴走へと繋げることになるとは誰も考えられない。
勢いよく手を伸ばしたかと思えば、父の次は母が欲しいと強請られた。
その相手にはシャルティアの家族であるピンクのスライムとその少女従者などを推薦してくる。
何がどうしてこうなったと、ぎゃんぎゃん騒ぐ下僕にアンデッドは頭を抱えた。
「……なんか話が飛躍したな」
「あれ、本当にモモンガさんが造ったの? ウルベルトさん、何か面白おかしく改造したんじゃないの?」
「人聞きの悪いこと抜かすな、丸焼けにされてぇか?」
「てゆうか、姉ちゃん的にどうなのよ、今の話」
「こっちに振るな、黙秘を貫かせてもらうわよ」
「まぁ、静かなよりは賑やかな方が良いですしね」
「たっちさん、いつかに隠し子いたから連れてきたとかしそうだよね?」
「それは分かる」
「その時は全部てめぇで面倒みろよ」
「貴方たち、私を一体何だと思っているんですか……」
アンデッドとドッペル主従の騒ぎは少し離れた場所で、テーブルを囲んでいたウルベルト達にまで聞こえていた。
ペロロンチーノの疑問は全員思うで、どうしたらあんなことになるのかと謎が謎を呼ぶ。
考えても仕方がないとたっちの言葉で締め括られようとしたが、またしてもあらぬ疑惑が出された。
正義の騎士は、仲間となった者たちからのあるはずのない不貞を疑われ頭を抱える。
何はともあれ、この日からモモンガ率いる異形種共はまた一歩国造りに向けて前進するのであった。
ア「おはよう、お母さん、ぷぷっ!」
シャ「うるさい! 悪ノリしすぎでありんすよ!」
マ「で、でも、モモンガ様の正妃になるなら……」
シャ「やめるでありんす!? 妾はモモンガ様の妃になりたいだけで、あんなのの母になったつもりはないでありんす!」
デ「だが、現実問題として君が正妃になれば母親の座に落ち着くと思うのだが?」
シャ「いやぁぁぁぁっ!? 絶対いやぁぁぁぁっ!?」
茶「ところで、パンドラの性格について本当に何もしていないの?」
ウ「してませんよ。 原因があるとすれば、モモンガさん自身です」
た「どういうことです?」
ウ「意図した訳でなくとも、造物主の性格を良くも悪くも反映するんですよ、どういうわけか」
ぺ「それって、つまりーー」
三人『モモンガさんの抑圧された感情があれってこと……?』
ウ「そうとしか考えられませんよ。 まぁ、それが面白いと思うんですけどね♪」
ぺ「そっかぁ、デミウルゴスの何となく厨二臭いところはウルベルトさん譲りって訳かな?」
茶「なるほど、確かに」
た「親子揃って似たもの同士という訳ですね」
ウ「お前ら全員表出ろ」