もし続きをお待ちになっていただいていた方がいらっしゃいましたら、お待たせしてしまいすみません。。
諸々が落ち着いてきたので、ストック分放出しつつ、更新再開していきます。
「あっ」
「げっ」
夕暮れ時、モモンガの拠点へ向かおうとしてたっち・みーとウルベルトが鉢合わせする。
彼らの横には従者たちも付き従っており、主に反応してピリピリと空気が緊張していった。
対して一人、たっちの弟子兼従者になったブレインは超越者共の覇気に押され、涙目になる。
ちなみに人間の男は今、セバスと同じ執事服を纏い、無精髭を剃って、髪は後頭部へ流すオールバックにしていた。
「げっ、とはなんですか。 相変わらず失礼な人ですね」
「おや、それは失礼。 見たくないものに対して嫌悪をむき出しにするのは、ある意味本能ではありませんか?」
「そうですか、それは良かった。 私も今すぐに貴方を斬りたくて仕方がないのは本能、ということで済ませられますね?」
「おやおやぁ、慢心が過ぎるのもいいですけど、いつまでも自分が強いと過信してんじゃねぇぞ
「
二人きりで顔を合わせれば自然と始まる嫌味というには生優しい口戦に、周囲のあらゆるものが震え上がる。
デミウルゴスとセバス(ブレインは論外)は黙って付き従い、指示があれば動けるよう構えた。
だが実際の攻撃に移行することはないと全員分かっている、なぜならここはモモンガの拠点だからである。
仮にこの場にいる主どちらかの拠点であれば、問答無用で殺し合いが始まるところだ。
人徳と言えるアンデッドのことを思えば、後で叱られるのは正直勘弁してもらいたいというのが本音。
そんな心中など知らないただ一人の人間は、いつ始まるやもしれない化物共の抗争に怯えた。
「そんなに心配する必要はありませんよ、いつものことですから」
「……これが、いつも?」
「えぇっ。 さて、ブレイン殿。 これからモモンガ様たちに御目通りいたしますので、決して粗相がないように」
「ーーそうだな、行こう」
「……ちっ、行くぞデミウルゴス」
「はっ!」
主たちの白熱する舌戦に漏らしてしまいそうなブレインに、セバスは序の口とフォローとは言えない言葉で説明する。
日常茶飯事なのかと信じたくない状況に、これからずっと悩まされるのかと、弟子入りは早まったかと剣士は後悔しそうだった。
これから師と己を殺そうとした悪魔が認める、大主人に会うというのだから緊張するのは無理もない。
それを早く会いたいと勘違いしたのか、セバスはにっこりと死の支配者の偉大さが伝わったと喜んでいた。
従者たちの会話を耳にし、たっちが歩き出すと同時にウルベルトもデミウルゴスと共に向かおうとする。
当然だが、目的地が一緒なので同行という形になるのだが、そんな悠長なことをする二人ではなかった。
「おい、俺が先に着いたんだぞ、譲れ」
「寝言は寝てからほざいてください。 私の方が数歩先に着いていました」
「俺は精神的にはもうモモンガさんとお茶してたからな!」
「私だってもう、モモンガさんと寝る前のおしゃべりに興じているつもりでしたよ!」
「じゃあ俺は一緒に寝ていた!」
「私は朝食を共にしていました!」
「……何だこれ」
二人が並ぶと、当たり前のように自分が先に行こうとして、同じタイミングで一歩を踏み出す。
ウルベルトの要求、たっちの反論、止まらない舌の動きに乗って二人はいつまでも言い争いを続けていた。
それも立ち止まってではなく、ズカズカと森の中を突き進む軍隊のような速さで歩き、あっという間に従者たちは置いてけぼりにされてしまう。
その後ろ姿を本音とも言える呆れから、ブレインはたまらず口にしてしまった。
だが、この場にいる教育係を思い出して口を閉じ、恐る恐る見れば、先輩従者が鬼の形相を浮かべている。
「せ、セバス、様? いいい、今のは……!」
「ーーまぁいいでしょう。 この場には幸いにも私たちしかいません、大目に見ましょう」
「セバス? 私がいるのだが、勘定に入れてもらえないのかな?」
「これは失礼しました、デミウルゴス様。 すでに向かわれたものかと」
「敬称は不要なんだが、君も相変わらずだね、まぁいいとも。 そして、一応はお久しぶりと言っておきましょうか」
「……っ」
「そう怯えずともいいですよ、ウルベルト様からも捨て置いて良いと言われています。 尤も、モモンガ様を始めとして害にしかならないなら、その命はないと思いなさい。 その時はセバス、君の監督責任も追求させてもらうからね?」
「ご自由に。 そうならないよう、私が教育しておりますので」
「それは結構。 ではそろそろ行こうか、我々が御方々をお待たせするなどしてはならない愚行だからね」
青ざめるブレインは威圧する執事を前に、今日までに経験した地獄すぎる特訓を思い出す。
剣の修行も楽ではなかったが、従属としての振る舞いは何たるかを学ぶ日々に、こんな世界もあるのかと思い知らされた。
血の滲むような努力がどんな場所でも必要になる、本物とはそうして生まれるものだと身を以て知ることになる。
だからといってまたやりたいかと言われたら話が違うので、釈明しようとすると意外なほどあっさり許しを得た。
拍子抜けしたが、いつの間にか近くに寄っていた悪魔の声に現実へ引き戻される。
主たちほどではないものの、少し緊張する空気の中でブレインは、目の前の理知的な振る舞いをする化物に悪寒が止まらなかった。
こんな連中の下にいるという事実をどう受け止めればいいのか、そしてこれから会う方々を前に、自分は正気を保っていられるのか、不安が尽きない。
とりあえず、先行してしまった主たちを追いかけるようセバス・デミウルゴスの後ろを付いていく形で、かつて死を経験した森の中を歩いた。
そうして開けた運命の場所にたどり着くと、以前よりも開けており、あちこちに開拓している箇所がある。
何をしているのか疑問に思ったが、三人のもとへエルダーリッチが近づいてきた。
『セバス様、デミウルゴス様も、ようこそいらっしゃいました。 おや、そちらは……』
「彼のことは気にせずとも良いです。 まだ教育している最中ですので」
「ところで、ウルベルト様たちはもう中にいるのかな?」
『は、はい、それが、その……、現在立て込んでいる最中でして、お二方をお止めしようとしたのですが……』
「ーー? モモンガ様たちに何か問題が起きたと?」
『御方に問題はございません、ですが、あの、お言葉ではありますが、たっち様とウルベルト様とはまた別ベクトルのいがみ合いが巻き起こっておりまして……』
「……どういうことだい?」
出迎えに声をかけるセバスとデミウルゴスだったが、何やら妙な雰囲気だと察する。
ブレインもそこまでではないが、少し緊迫した空気だと感じていると、エルダーリッチはボカすような喋りで説明していた。
うまく掴み取れないが、誰かが喧嘩し合っているのだと解釈する。
それがたっちとウルベルトのようだと言われると、少し思うところはある執事と悪魔だったが、モモンガ配下のアンデッドにその不満をぶつけることはなかった。
つまり、見て確かめるしかないと三人は入り口へ向かい、中を突き進んでいくと、奥の方から口論が聞こえる。
まだ終わっていなかったのか、その内容はすでに大の男がするようなものではなかった。
「俺が一歩早かったぞ! だから俺が先に入る!」
「私の方が早かったです! 手を離しなさい!」
「い〜〜や〜〜だ〜〜!」
「私が〜〜、先に〜〜、入るんです〜〜!」
どうやら余裕で追いついたのは、ここでずっと譲る譲らない争いを繰り広げていたのか、騎士と悪魔が扉の前を取り合っていた。
従者的には主を応援するところだが、この場所では武力による援護は御法度、つまり何もできない。
セバスもデミウルゴスもただじっと見つめるだけで、ブレインは介入するという選択肢を持たなかった。
このいつまで続くのか分からない決着に終止符を打つのはいつかというタイミングで、事態は動く。
「……このままじゃ埒があかねぇ」
「そうですね、ならーー」
『同時に開けるまで! オラァァっ! モモンガさん、こんばんは〜〜!』
喧嘩しても始まらない、なら同時にやればいいと、全く同じタイミングで二人は入室する。
『あの二人、実は仲がいいのでは?』などと、ブレインの的を射る感想はあながち間違いではなかった。
決して当人たちは認めないし、言おうものなら誅伐と鏖殺の嵐が待っている。
ちなみにこれについては指摘されたケースが二つあった。
一つ目は、二人も心から信頼している某アンデッドにニコニコと眼光だけの笑顔で『お二人は相変わらず仲が良いですねぇ〜』と言われる。 その時は『そんなことはない!?』と見事に被っていて、なおのこと拍車をかけてしまった。
二つ目に、某鳥人がうっかり口を滑らせた時のこと。 『相変わらず仲が良いですよねぇ、二人は〜』と言葉にした直後、どちらも無言かつ無表情で追いかけ回し、それは三日三晩続いたという。
ともかくたどり着いたとして、セバスとデミウルゴス、そしてブレインも続いて室内に入るも、直後に異様な雰囲気を察する。
それは目の前の主人二人も感じているようで、先ほどの勢いはどこにもなかった。
巨体が並ぶ後ろから、ブレインが何とか目の前で巻き起こっている状況を見て絶句する。
まず最初に飛び込んできたのは、スケルトンらしきアンデッドだ、だがその風貌は豪奢な黒いローブからも見てわかるように、ただのという冠をつけてはいけないと悟った。
そんな存在を中心に、両隣で見るものを魅了する絶世の美女と美少女がいる。 だが二人とも鬼の剣幕で睨み合っているので、せっかくの美貌が台無しだった。
さらにテーブルを囲むように座っている、蛸みたいな存在と鳥人とピンク色のスライムの異形種、さらに闇妖精の双子と思われる存在までいる。
この状況に自分などがいていいのかと思うより先に、たっちの困惑した声が響いた。
「……あの、これは一体?」
「やっほー、たっちさん、ウルベルトさん。 おひさし〜」
「え、えぇっ……。 茶釜さん、これは?」
「色々あってねぇ、絶賛モモンガさんが修羅場を迎えている最中なんだよ♪」
「はい? なんでまたーー」
「……タブラ・スマラグディナ?」
「ウルベルト様?」
「ーーおやっ? これはまた、懐かしい顔に会いましたね。 お久しぶりです、ウルベルトさん、お元気そうで何よりです」
「……
状況が掴めないたっちに、変わらぬ態度でペロロンチーノが声をかける。
ただ返事に応える余裕を無くしたのか、茶釜に詳細を尋ねても理解が追いつかなかった。
何がどうしてそんなことに、騎士が考えていると隣の悪魔がポツリと言葉を漏らす。
それに反応したのは従者の悪魔だが、それ以上に呼ばれた当人が触手を器用に動かして手を振った。
しかも、挨拶に挨拶を返すまではいいが、とても丁寧に頭を下げるらしからぬ姿に、たっちもだが、モモンガやペロロンチーノたちも唖然とする。
あのウルベルトがこうもしおらしくなるとは、という反応をアリアリと態度に出してしまった。
当然思うところはあるが、喧嘩腰になるのは良くないとして久方ぶりに顔を合わせた旧知に悪魔は話しかける。
「どうしてここに? 放浪者である貴方と会うなんて、滅多にないはずですが」
「方々への旅もある程度落ち着いたのでね、帰ってきたんですよ。 それでまずは、
「……友、人? あの、まさかーー」
「えぇ、ウルベルトさんも最近ご執心なモモンガさん、彼とは20年来の付き合いがあるんですよ♪」
ウルベルトの素直な疑問にタブラは笑って答える。
本来であればなんでもない世間話になるのだが、聞き捨てならない単語に思わず悪魔は聞き返してしまった。
すると事もなげに、ブレインイーターはアンデッドと古い友人だと言う。
それにはウルベルトもだが、騎士も顎が外れる思いだった。