「モモンガさん! 貴方はもう少し大事なことを言うべきです!」
「ご、ごめんなさい! でも、タブラさんがそんな有名人だったなんて、俺知らなかったんですよ!?」
「有名どころじゃありませんよ!?
その後、落ち着きを取り戻した異形種の主たちがテーブルを囲み、椅子に腰掛けていた。
だが話の中心になっているタブラの話題になると、ウルベルトは珍しくモモンガを叱りつける。
意外な交友関係にたっちも驚かされたが、アンデッドらしからぬ気質と雰囲気に興味を持たない異形種もいないと考えるとふに落ちた。
若干話についていけないペロロンチーノとぶくぶく茶釜は、悪魔の怒りの火に油を注ぐ形になってしまうが、質問をする。
「えっと、このタブラさんってそんなにすごい人なの?」
「あのなぁ……、その人は魔法詠唱者としてだけでなく、錬金術方面でも知らぬ者がいないと言われるほどなんだ。 おまけに、その異名に違わぬ放浪っぷりも有名なんだよ」
「あれ? じゃあもしかして人間に擬態していたのって……」
「えぇ、人間の街にも拠点をいくつか持っているんですよ。 知識を得ることは私の趣味ですからね。 ただこの見てくれですから、流石に偽装する必要はあるんです」
「ウルベルトさん、貴方はこの方とどこで知り合いに?」
「そういえば、そちらのデミウルゴスくんが君の従者ですかね? なるほど、確かにこれは素晴らしい出来だ」
「ーーありがとうございます。 その申し方ですと、私の創造に関わりがおありになると?」
「そうだ、デミウルゴス。 お前を造るに辺り、タブラさんの知識を借りた経緯があるんだよ」
「そうなんですか!?」
「懐かしいですねぇ、あの頃の君は切羽詰まっているようでしたが、今は随分と落ち着きを得たようで、感慨深くなりますよ〜」
当たり前の事を聞くなとウルベルトは、事情を知らない者たちへ何度も説明する。
当のタブラは、自分なんてそんなものではないと思っており、彼の背後にいる娘は父のことなど彼我にもかけておらず、愛しい不死王のことしか見えていなかった。
そんな中、タブラが最上位悪魔の後ろに立つ従僕に目を向け、懐かしい思い出話を語る。
話題の種になっているデミウルゴスはある程度予期していたが、まさか主を助けてくれていたとは想像していなかったようだ。
それについてほのぼの語る脳食いに、若干雰囲気を変えたウルベルトがそっぽを向いている。
「どうかしましたか、ウルベルトさん。 もしや、柄にもなく照れてます?」
「相変わらず一言多いなてめぇは!? 良いだろう、長く生きてりゃ躓くことなんていくらでもあるだろうが!」
「分かります! いい感じの幼女がいても成長し、その次の世代に掛けてもなかなか好みの子が見つからないとやる気が失せるんですよね!」
「おい、鳥。 ひと思いに息の根を止めてやるからちょっと顔貸せ」
「なんで!?」
「そうだよ、ウルベルトさん。 そんなの駄目よーー、ちゃんと死ぬまで苦しませないとこのバカは治らねぇからな」
「姉ちゃんそれフォローになってないから!?」
たっちは分かっているのにあえて、ウルベルトを煽る言い方をする。
背後にて待機する新米従者は顔を青ざめながら、悪魔の半ばやけくそ気味な叫びを耳にした。
すると解釈の度合いが斜め上過ぎたペロロンチーノに対して、ウルベルトは明るい笑顔で死刑宣告をする。
気づけばいつも通りの雰囲気となり、茶釜も便乗して弟弄りが加速するかと思いきや、手を叩いて制するのは彼らのまとめ役である死の支配者だ。
「話が脱線してきてますよ。 それはさておき、たっちさんにはまだ紹介してませんでしたね。 こちらはタブラ・スマラグディナさん、そしてご息女のアルベドです」
「初めまして」
「お初にお目にかかります。 モモンガ様の正妃♡ のアルベドで御座います♡」
「初めまーー、えっ?」
「せ、正妃で御座いますか??」
「ゴラァ!? だから妾を差し置いてとち狂ったこと抜かしてんじゃねぇぞ、おばさん!」
「誰がおばさんよ、この若いだけしか取り柄のない胸だけ
「なっ!? な、なななな、しょ、食品サンプル、だなんて、ナニヲミテ根拠ノナイコトヲ!」
「片言になっているわよ、貴女。 盛りたいのなら盛りすぎず、自然にしなさい。 みっともない」
「ううう、うるさいでありんす!? 持って生まれたアンタには分からないのよ! 私だって、私だってねぇぇぇぇぇーー!!!!」
「えっ、あっあらっ??」
モモンガが改めてタブラをたっちと二人の従者に紹介するも、娘の暴走がここでも炸裂する。
既成事実を刷り込もうという魂胆か、突然の初出し情報に聖騎士はもちろん、セバスも柄になく驚きを露わにした。
当然、待ったをかけるは妻の座を狙うシャルティアだったが、彼女は自らの弱点ともいうべき部分をアルベドに攻撃される。
胸を押さえ、段々と涙声混じりに少女の苦悩が具現化すると、何とも言えない空気になってしまった。
まさかの展開にサキュバスは戸惑っていると、ため息をついて夫候補に祭り上げられている骸骨が声を出す。
「アルベド、今のは良くない。 謝りなさい」
「そ、そんな!? ですが、その……」
「アルベド」
「……ごめんなさい。 今のは言いすぎたわ」
「ーーひっく、ぐすっ……。 アンタがいつも胸をのことで何をしてるのか、教えてくれたら許してあげるでありんす」
「特に何もしていないわ、しいてあげるなら筋トレね」
「そこでも!? 参考にならないでありんす!」
「もう諦めなさいよ、吸血鬼でかつアンデッドなんだから見込み0でしょ?」
「はぁっ!? アンタだってないじゃないのよ!」
「アタシはまだ76歳だし、これからどんどんーーってぎゃっ!? な、何してんのよアンタは!?」
「縮め縮め縮め縮め縮め………!!!!」
「いやっあはははっ!? も、揉みながら不吉な呪いかけないでよ!?」
「大きくなってみなさい、その度にもいでやるわ……!」
「怖いこと言うなぁ!?」
「はいはい、じゃれ合いっこは後にしなさいね〜」
状況は火を見るより明らかで、アルベドの失言が原因だ。
言いたいことはあるが、自覚はあるようで彼女は蟠りを抱きつつも素直に謝罪する。
泣きながらもちゃっかりシャルティアが豊胸のコツを手に入れようとするも、まさかの脳筋発言に諦めるしかなかった。
そして次の矛先は諦めろと告げる闇妖精の少女で、無慈悲なまでの現実を突きつけてくる。
不死者であるのは仕方がないにしても、エルフとして成長の遅いアウラと比べると将来性の差は明らかだ。
ならば望みを断つべきと、褐色少女の胸を掴んで呪詛を揉みながら叩き込む。
そのやり取りを見ていた茶釜に制されたところでようやく落ち着きが戻り、たっちとセバスは先程聞きかけた内容を聞くべきか考え込んだ。
すると彼らよりも先に話しだしたのは、この場にて客人扱いとなる男性が先に言葉を口にする。
「はっはっはっ! アルベド、いつになく楽しそうだな」
「お、お父様! お戯れはよしてください!」
「まぁ良いじゃないか。 モモンガさん、すぐとは言いませんので、長い目でこの子のことは真剣に考えてもらえると、父としては嬉しく思いますよ?」
「……善処いたします」
「ーー! モモンガ様、私はいつまでもお待ちしておりますわ!」
「ふむ、しかしそうなると娘一人にこんな楽しい場は譲りたくないな。 よしっ決めたぞ!」
「えっ?」
「皆さん、国を造るとのことですよね? そのお話、私も乗っかってよろしいですか?」
タブラの心底楽しげな笑い声に、アルベドは思わず赤面する。
その姿だけなら絶世の美女らしく儚げで可憐に見えるが、ここにいる面々は彼女の本質を垣間見ていた。
黙っていれば美人なのに、等と決して口に出すことはなかったが、男の言葉には意表を突かれる。
まさかの参加表明にモモンガは驚きを見せるが、ウルベルトについてはホッと安心したような様子を見せた。
「良かった、どうやってそこまで話を持っていくか考えていたところだったんで、助かりました」
「えっ!? ウルベルトさん的にはありなんだ!?」
「俺はこの人の力も借りたくてずっと行方を追っていたんだよ。 放浪癖があるから捕まらなくて、半ば諦めてたんですけどね……」
「ここでもやっぱりモモンガさんが鍵になったわけだぁ、やっぱ私達のまとめ役はモモンガさん以外あり得ないね!」
「そうですね、私も同意見です」
「えぇっ、やっぱそれ決定なんですかぁ……??」
「おやっ、そうではないと? だったら私も参加は考えないといけませんね〜」
「よしっモモンガさん、覚悟を決めろ!」
「そうですよぉ〜、モモンガさんならできますって!」
「うぐぐ……! あぁっもう分かりましたよ! そうなったら、セバスやデミウルゴス、シャルティアにアウラにマーレ、皆の手を借りますからね!」
「勿論でございます、モモンガ様」
「我ら一同、モモンガ様を大主人としていただくことに誰も異存はございません!」
「微力ながら、妾たちもご助力するでありんす!」
「アタシもです!」
「ぼ、僕も、です……!」
誰が見ても分かるほどに安堵し、喜んでいる悪魔の姿に異形種たちは唖然とする。
それだけタブラの力が頼りになるということでもあることを意味し、同時にモモンガが決め手だと証明された。
以前からアンデッドこそ頂点に立つべきと誰もが考えていたが、当人だけ乗り気ではなく渋っていた。
死の支配者としての振る舞いはもちろんだが、その人となりこそが自分たちを統べるにふさわしいと全員からダメ押しされる形で、ここにモモンガがリーダーとして君臨する。
同時に、アルベドを除く下僕たちも自分たちの主人の判断に異論を唱えることなく受け入れた。
「ーーアルベド、お前の力も貸してもらうぞ」
「勿論でございます、モモンガ様。 さて、そうなると従僕たちの中でもまとめ役を決める必要があるわね」
「ふむ、それなら君が適任じゃないかな、アルベドさん」
「敬称は結構よ。 でも意外ね、貴方はゴネると思ったのだけれど」
「私だって馬鹿じゃないさ、真正面からはきっと勝てないだろうね。 それに君は一応モモンガ様の正妃候補なのだし、立場的にも問題ないだろう?」
「正妃ーー! くふふ、分かってるじゃない!」
「ちょっ?! デミウルゴス本気!? こんな脳筋ゴリラに黙って従えって言うの!?」
「そこは安心しなさい、ちゃんと能力は示すわ。 地頭は悪くないと自負しているの、せいぜい期待に応えられるよう証明してあげるわ」
協力を仰ぐのはもちろんアルベドも含まれるのだが、彼女は自然と話し始める。
内容は従僕感での上下関係についてだが、それについてデミウルゴスは真っ先にサキュバスを推した。
まさかの展開に意外と思われたが、それは主人を前にした悪魔にとっても情けないと感じている。
だが実際問題、戦闘となったら自分が負けるというのを明確に理解しているのか、素直に認めた。
納得が行かないシャルティアだが、アルベドの自信満々とも言える態度に一歩引いてしまう。
戦いとなれば自分も本気を出していないが、そうではない場での戦いとなると、勝てないと本能で察した。
アウラとマーレにしても、女悪魔の立ち居振る舞いから察して、異論は特にない。
「さて、仔細は後で集まって決めましょう」
「あぁっ構わないとも」
「アルベド様。 私はあくまで執事として御方々に仕えるつもりですので、ご容赦を」
「それが気になるのよね、貴方一人では十分な給仕はできないはずよ? その辺りの人員配置についてもきちんと話していきましょうか」
「ありがとうございます、実のところ上申させていただこうと考えていたところですので」
「えぇっ。 一先ず、
「ご安心ください、そうならないよう教育を続けてまいりますので」
「……わぁ、やり手だよこの子〜」
「タブラさん、ちなみにアルベドはどんな設計理論を……?」
「超絶敏腕秘書、というところでしょうか? 他にもいろいろあるんですよぉ〜? そもそもこの子の設計思想にはーー」
「お父様。 娘自慢は是非にモモンガ様へ語ってくださいまし。 恥も外聞も構いません、私の全てはもうこの方に捧げることは決定事項ですので♡」
「……愛が重いなぁ〜」
ツラツラと従者間でのやりとりをまとめあげ、あっという間にその立場をアルベドは確立した。
デミウルゴスだけでなく、セバスについてもすぐに認めるも、ブレインだけは金色の瞳に殺気がよぎる。
絶世の美女からの敵意に震える者は世に山ほどいる、ちなみにこの場で唯一の人間は死期を予感させた。
アルベドの存在感にペロロンチーノはただ圧倒され、ウルベルトがつい質問するとタブラの中で何かが入ってツラツラと長い解説が始まる。
それを一言で娘が制したと思いきや、モモンガにすかさずアピールする辺り、抜かりはなかった。
因果の巡り合わせか、ここに異形種共の国興しが本格化することとなる。
そして彼らの動きは少しずつ、着実に人間側に影響を及ぼしていくことになっていった。
やがて来る、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の成立へと目指す、始まりを告げる。