異形種ども、集結する【武人主従・自然科学者編①】
猛るように荒れ狂う吹雪が辺りを支配する。 ここはアゼルリシア山脈の一角、氷結され世界に立つ影が2つ。
鎧を身に纏った2対は共に、人の姿をしていない。 まさに異形種と呼ぶ風体で、雪の中を物ともせずにしていた。
彼ら以外に命はなく、彼らだけを遺して全てが奪い尽くされる残酷な世界が成立している。 そんな中で、片割れが腹から声を出した。
「……暇だ!」
「ハイ、強者トイウベキ存在ハアラズ、誠ニ業腹デゴサイマス」
腕を組み堂々としながら、異形種の男は自分たちの状況を嘆く。 それに追随するように、従者の蟲人は同意していた。
片や荒々しさはあれども、不動明王のような振る舞いがあり、片や見た目こそアイスブルーで落ち着いているように見えるも、その手に持つ斧槍があまりに歪過ぎる。
そもそもこの中をまともに生きられるモノなどいるはずもないのだが、そのことに気づきながらもいるかもしれない敵を二人は探していた。
「あ〜……、やっぱこんな辺鄙なところじゃ戦いなんて期待できねぇよな? 拠点、変えるかねぇ〜」
「建御雷様、私ノコトハオ気ニナサラズニ。 ドノヨウナバショデモ凍ラセレバ、問題ゴザイマセン!」
「コキュートス、それが問題なんだよ。 あんまりやり過ぎると面倒くさいことになりそうだし……」
建御雷と呼ばれた異形種は、頭を抱えて今後のことを考える。 コキュートスという名の亜人は、敬意を持って主に追随すると意を示した。
そもそも二人がこの不毛の血にいるのは、一重にコキュートスの為でもある。 その体表からも想像できるように、氷結系の魔物に位置するからだ。
だがその強固な肉体の影響もあり、よほど過酷な環境でなければ平時の地でも活動できる。 ただし、従者の歩いた後は氷に閉ざされるため、かなり目立ってしまうのが難点だった。
故にアゼルリシアという、人間が極端に少ないこの地にいるわけだが、限界が来てしまう。 ぶっちゃけ暇すぎて、二人の苛立ちは最高潮になりつつあった。
今にも暴れて山脈を平地に変えてしまおうかとなる寸前のところに、建御雷たちは意識を変える。
吹雪に隠れて見えないが、誰かが近づいてきているのを感じとった。 それもかなりの強者と全身が訴えている。
コキュートスは持っている斧槍を強く握り、建御雷も腰に指す刀の柄に手を当てた。 相手の出方次第で、いつでも戦闘へと移れるよう準備を整える。
そんな戦闘狂な二人の前に現れたのは、3つの人影だった。
「ありゃ? たっちさんじゃねぇか!」
「セバス、久シイナ。 ムッ? ソノ人間ハナンダ?」
「お久しぶりです、建御雷さん。 相変わらず、すごいところにいますね」
「ご無沙汰しております、コキュートス様。 彼はたっち様の弟子兼従者見習いです。 私が現在指導をしている最中ですので、お気になさらずに」
建御雷は敵と思っていたが、それよりも嬉しい相手の登場に声が弾む。 姿を見せたのはたっち・みーと従者であるセバスとブレインだった。
ちなみにブレインには凍結無効となる魔法道具を貸し与えられており、何とかこの絶対零度の世界でも活動できている。
知己の来訪に建御雷はズカズカと雪をものともせず、たっちに近づいて肩を叩いた。 コキュートスにしてもセバスと久しぶりに会話しつつ、傍らの人間に興味を抱く。
一方、唯一の人間であるブレインはまたしても超越的な存在との邂逅に、萎縮していた。 ただ悲しいことに、段々と慣れつつあることに彼はこれでいいのかと嘆きたくなる。
「久しぶりじゃねぇか! よぉし、早速に
「それは良いんですけど、こんなところにいる魔物では、貴方の不満は増すばかりではないんですか?」
「そうなんだけど、コキュートスのことを考えたらな……」
「あぁっなるほど。 手合わせはいいとして、それが終わったら少し良いですか? 今日私がここに来たのは、貴方達に用があったからなんです」
「んっ? 勿体ぶるな、でも話が早いのは助かるぜ! コキュートス、セバス、審判を頼むぞ!」
「ハッ!」
「かしこまりました」
「それと、お前さん名前は?」
「ーーえっ!? あっ、その、ブレインと申します……!」
「ブレイン? な〜んか聞いたことあるけど、まぁ今はいいか!お前さんはコキュートスたちから離れないようにしておけよ! よっしゃ! 今日こそ一本取らせてもらうぞ、たっちさん!」
「はははっ、取れるものなら、とでと言っておきましょうか」
建御雷は意気揚々とたっちに対して、決闘を申し込む。 久しぶりの再会だが、変わらぬ態度に白銀の騎士は苦笑した。
従者たちは審判、ブレインについては危ないから離れないようにと気遣われたので男は驚きを隠せない。
そうして向かい合う騎士と剣士の間に、吹雪すら生温く感じるほどの闘気が満ち満ちていった。
直後、辺り一面の雪原が一瞬にして蒸発したかのように茶色い素肌を露わになるのを、ブレインは唖然とした表情で見つめたのだった。
「国興し? 異形種だけの?」
「いえ、私たちのまとめ役はそのつもりではないと言ってまして、やるなら種族関係なく求めようとのことです」
「はぁ〜、たっちさん面白いことやり始めたなぁ〜。 で、それに俺も参加してほしいと?」
「ええっ、武力面で貴方とコキュートスが加われば盤石になりますので」
相対後、たっち達は建御雷たちの根城にである洞窟に移動する。
一騎打ちは騎士の一手勝ちとなり、剣士は敗北を噛み締めながらも喜びに叫んでいた。
落ち着いたところで、たっちは来訪した理由を話すと、焚き火を囲むようにして建御雷に用件を伝える。
火の周りにはセバスが主たちのためにお茶を用意し、ブレインはその手伝いに回った。
コキュートスは建御雷の背後から少し離れたところで待機し、黙って会話に耳を澄ませる。
「質問いいか? 何でたっちさんがリーダーじゃねぇんだ?」
「私だと角が立つんです、それにメンバーに折り合いの悪いクソ野郎な悪魔がいまして、私がトップだと自然と殺し合いになってしまうんです」
「何でそんな物騒な奴と組むのかが不思議なんだが……、あれ? それってもしかして、ウルベルトとかいう奴か?」
「あぁっ、そういえば名前を出したことありましたっけ」
「益々分からん。 確かそいつ、アンタと同格くらいに強いって話だよな? それすら押し退けるリーダーって何者だ? もしかして、たっちさんより強いとか言うやつか!?」
建御雷はたっちの説明を聞いてから、気になっていたことを質問する。
それに苦笑しつつ答えるたっちに、剣士は何やら雰囲気が変わったと騎士の違和感に気づいた。
曲がりなりにも友人でもある彼が、相性最悪と言い切る悪魔と組むことに納得している。
そしてそんな二人をまとめられる存在に、強者を求める男の興味は自然と傾倒した。
たっちよりも強い可能性すらある、そんな高揚するほどのことがあるかと建御雷の顔は明るくなる。
「モモンガさんですか、そうですね……。 単純な火力なら私に劣ります。 ですが、手合わせを重ねるのは極力避けたい相手ですね」
「あん? どういう意味だ?」
「あの人、相手の情報を得ることをとにかく優先してるんですよ。 それで不覚にも、痛い一撃を受けたことがありまして……。 正直、魔法詠唱者に負けるはずがないと傲っていたと反省したものです」
「へぇ、アンタにそこまで言わせるか。 いいねいいねぇ〜」
「どうしますか?」
「もちろん参加するぜ! と言いたいところだが、まずそのモモンガって奴の強さを知りてぇな。 それで俺とコキュートスが納得するならって、とこだ! どうだ、コキュートス?」
「ハッ、問題アリマセン! マダ見ヌ強者デアルナラバ、マズハ手合ワセスルコトニ意義ガアリマス!」
「だとよ! よっしゃ、善は急げだ! 早速行こうぜ!」
建御雷はたっちの言葉に少し落胆するも、興味深いと感じた。
戦とは情報を持っているかで勝敗を左右する、それは彼も肌で常日頃から理解している。
故にたっちとも互角に渡り合えるくらいまで強さを身につけているが、それも騎士との勝負で培われてきた面もあった。
自分との力量さも気になるが、情報の重要性を認めているのは評価に高い。
建御雷はまだ会ったことのない強者と思しきモモンガと相対するため、コキュートスと共に赴くことを決意した。
従者も乗り気なのはいいことだが、たっち的にはやはりこうなってしまったかと内心苦笑する。
モモンガに迷惑をかけてしまう、そのことに罪悪感と共に他メンバーから非難轟々になりそうだと頭が痛かった。
それはセバス・ブレインも同じで、何も問題が起きなければと願うばかりである。