ボチボチ書いてはいるので、まだ鈍足ですが続き投稿していきます
「おのれぇぇぇぇぇぇ…………!!!!!」
『…………っっ』
しばらくして、ブループラネット率いる3人は大森林の中を闊歩している。
理由は、シャースーリューの話を聞いた異形種が居ても立ってもいられず、事件が起きた現場へ向かうと言い出したからだ。
ザリュースとシャースーリューの兄弟は付き添い兼助手兼宥め役として同行する。
だがそれも出来ない程の憤怒に苛まれた師に、蜥蜴人二匹は尻尾を縮こまらせていた。
下手に声をかけたら被害が大きくなる、それだけは避けなくてはならない。
八つ当たりで蜥蜴人を絶滅させられては敵わないと、騒ぎを起こした張本人を男たちは心底恨んだ。
「……ふぅっ、意見を聞きたい。 二人とも、好きに述べていいから議論をするぞ、歩きながら」
『はっはいっ!?』
「まず、あの惨状を見てシャースーリュー、部族の取りまとめ役のお前はどう見る?」
「……正直、恐ろしいという言葉以外ありません。 草木が跡形もなく燃えたのもですが、地面の抉れ方が尋常ではありませんでした。 あんな力を持った強大な存在がいるなど、考えたくありません」
「だろうな、私も同意見だ。 こんな事を言うのはアレだが、下手をしたら私よりも強いかもしれん。 もし万が一にも戦闘になるような事態になった場合は、分かるな?」
「勿論です、戦士階級の者達を導入させた上で、
「その誘導はクルシュが適任だな、彼女なら上手くやれるだろう」
「ザリュース……」
「良いんだ、兄者。 万が一を考えるなら、彼女なら上手くやってくれる」
「バカを言うな、その時はお前も一緒に行くんだよ」
「……はぁっ!?」
怒りを含んだ言葉に緊張する兄弟だったが、ブループラネットに促されて話す内に冷静さを取り戻していく。
シャースーリューは語りながら、現場の状況を思い出していた。
燃えカスになった樹木、息をしていない大地に衝撃で抉れた穴がいくつもある様は、並大抵などと生易しい言葉で表現できない。
大森林を揺るがす異常事態、それが起きたのだけは間違いなかった。
だからこそ魔物たちは生存本能に従って、安全な場所を求めているのだろう。
群れを率いる者であれば、移動に伴って勢力図も変わるのは道理だ。
その流れは確実に蜥蜴人の集落を巻き込もうとしている。
故に生き延びるためにも、戦えない者達を生かすというのは必要最低限の努力だ。
生き残れる可能性など皆無な戦いに巻き込みたくはない、それはシャースーリューもだが、ザリュースも例外ではない。
だからこそ、ブループラネットの指示には驚きしかなかった。
「先生、お言葉ではありますがザリュース抜きでは!」
「シャースーリュー、私の懸念はあの現場だけじゃない、
「もう一つ……? それは先に訪れたあの広場ですか? で、ですが見た限りで異常はなかったかとーー」
「あり過ぎたんだよ。 地面やら植物を調べたが、
「先生、それはどういう……?」
「……あの広場でも争いはあったんだ。 だが恐らく魔法で修復したんだろう。 それこそ大地を生まれ変わらせるほどの強大な力でな」
ザリュースもだが、シャースーリューも弟を逃がそうとする師の考えに反発する。
兄から見ても、弟は蜥蜴人たちの中でも最強に位置する戦士だ。
そんな存在が欠けては指揮にも影響を及ぼすと言おうとしたところで、ブループラネットは足を止める。
そして異形種は、先ほど訪れた灰塵と化した現場の前に調査したもう一つの現場での疑問を提示する。
話を聞けば聞くほど、異変はないと思っていた兄弟たちは師の言葉に青褪めた。
つまり、預かり知らぬ強大な存在が複数存在するという可能性もあることに気づいてしまう。
もし仮に徒党を組んでいたなら、例えクルシュたちを逃がしても全滅は免れなかった。
「こんなこと言いたくない、だが私は純粋な戦闘に特化していないんだ。 抑えられても一人が限度だ。 もし同格の相手が複数人にもなると、多勢に無勢だ」
「……クッ!」
「まだ決まったわけではないがな、だが備えは必要だ。 ザリュース、その時は死力を尽くして愛する者達を守れ」
「ーー分かりました」
戦力分散とは言えない策に、シャースーリューは反論できない。
ブループラネットの懸念が確実なら、蜥蜴人の全滅は必定だ。
ザリュースには勝てない相手のために戦い、そして死ねと言われているようなものである。
だが漢はそれを己を鼓舞するための糧であると、心に誓った。
「すまないな、まだ結婚したばかりだというのに」
「いいえ、先生。 むしろ愛する雌を守れるなら、雄としては本望ですよ」
「……先生、私たちは最期まで貴方と共に戦います、そして万が一にも生き残った者がいたならーー」
「それも考えたくないが、任されたよ。 やれやれ、指導者なんて柄じゃないんだけどな」
三人共が最悪の事態が起こらなければいい、そう考えるのは当然だ。
だが不測の事態とはいつ起こるか分からないからこそ、備えておかなければならない。
ブループラネットはザリュースに対して申し訳なく思いつつも、男は歴戦の戦士の瞳で勇ましく答えた。
弟の決意にシャースーリューも覚悟を決め、生き残りがいたら率いてほしいと師に頼む。
強敵との戦闘で、蜥蜴人たちよりも遥かに強いブループラネットは、もしかしたら生き残れるかもしれない。
確約はできないものの、そうなった際には学者肌の異形種も覚悟を決めるのだった。
そのまま生け簀への帰り途で万が一に備えて打ち合わせしていると、唐突に師の足が止まる。
「? 先生、どうされーー」
「しっ……、そこの茂みに姿を隠すぞ、気取られないよう注意しろ」
「一体どうされーー!?!?」
ザリュースが尋ねようとするのを、ブループラネットは遮る。
次の瞬間には隠れるよう指示を出され、何故かとシャースーリューが顔を上げた先にいる者を捉えて驚愕した。
その反応に弟も同じ方向を見て、息を呑む。
二人はブループラネットに合わせるよう気配を殺して茂みに身を隠した。
三人が集まっては気づかれる可能性もあるが、そのような事を考えてる場合ではない。
何故なら、三人の見る先には生簀があり、そこに怪しげな存在が立っていたのだ。
後ろ姿だが、黒いローブを纏った人間らしき者に警戒する。
このトブの大森林は近隣諸国からも魔境などと呼ばれ、ザリュースたちが生息する奥地まで踏み入った人間は誰一人いなかった。
そこに人のような格好をした存在がいるなどありえないことだと、生息地の事をよく把握している亜人や魔物はよく理解している。
さらにそれから感じる気配に、兄弟は全身が震えるのを抑えきれなかった。
「……どうして悪い予感は当たるんだろうな」
「先生、どうされるのですか?」
「突撃したい、今すぐ突撃して生簀を守りたい」
「止めてください!? アレは異常です、生簀は諦めましょう!?」
「諦められないから言ってるんだよ!? くそっ、何なんだよアレは!? どう見ても私よりも強いか、希望的観測でも同格だぞ!?」
気づかれないようこっそり覗き見る先の黒いローブの何某かは、じっと生簀を観察している。
ブループラネットのぼやきとも言える言葉に、シャースーリューは嫌な予感が拭えなかった。
念には念を入れて尋ねると、やはりとんでもないことを考えていたのがはっきりする。
ザリュースは思わず大声を出しそうになるのを堪えつつ、ヒソヒソと師の無謀さを諫めた。
確かに一人ではあるが、ブループラネットならまだしも、ザリュースとシャースーリューは戦いにならないと思えて仕方がない。
援護するどころか、足手まといになる以外の予感しかないのに、蜥蜴人たちにとっての恩人をここで失うわけにはいかなかった。
「でも、見るからに隙だらけなんだよな? 不意打ちでどうにか行けるか?」
「だからやめてくださいって!? そう見せているだけで、備えがあったらどうするんです!?」
「なら、お前は生簀を諦められるのか!? あんなに健康的に育った魚たちを、私の子供たちをむざむざ生贄に捧げろと!? そしてそんな子供たちを食べるお前たちに断腸の思いで引き渡していた私の後悔を、お前たちは何も知らないだろうが!」
「アンタここぞとばかりに託けて、言いたいことを言っているだけじゃないのか!?」
「やめろ、冷静になれ!? 先生、ザリュース、少し落ち着けーー」
「……ん?」
『!?!?』
ブループラネットは未だに活路を見出そうとしているのか、飛びかかる気満々でいる。
ザリュースは必死に説得を続けるも、自然を愛するがあまりに狂行へ傾きやすい師の不満は限界だった。
しかも普段からの生簀の魚たちに対する熱すぎる思いまで吐露したので、弟子は思わず口調を荒げて指摘する。
ここまで声を潜めて口論しているものの、白熱しすぎているのでシャースーリューが宥めようとした時だ。
気づいたように黒いローブが振り返ったので3人は口を塞ぎ、見えないよう身を低くする。
だがその姿を見て絶句した、何せ人と思われていた存在の顔は、骸骨そのものだった。
アンデッドという、生者を憎む魔物が現れた事実もだが、存在感の半端なさにザリュースは間違いなく敵だと認識する。
それはブループラネットも同じだが、今は気づかれないよう気配を殺すことに集中した。
「話し声が聞こえたような……?? 気のせいかな?」
「(よし、分かったぞ! あのアンデッドは少しノロマだ! 勝機はある! 構えろ二人とも! 3人よれば文殊の知恵的なアレだ!)」
「(意味が分かりません!? 無理ですよ、俺と兄者では絶対に歯が立ちません!?)」
「(援護も意味がありません!? 先生、どうか生簀のことは……!)」
「(くそ、お前ら二人役に立たねぇ!? 大体なんでアンデッドがこんな昼間から活動してんだよ!? 不死者らしく夜遅くの地下でゴソゴソと活動していろよ!?)」
キョトンとした様子で辺りを見渡すアンデッドは、何も見つからないことに頭を抱えつつ、再び生簀を見つめる。
ブループラネットはその姿に可能性はあると突撃しそうになったため、兄弟が両サイドから取り押さえた。
どう考えても異常な存在であり、アンデッドが昼間に活動しているのもそうだが、知性がとても高そうに見える。
不死者に対しての情報を多く有しているわけではないが、一般に恐れられている魔物たちと比較しても次元が違うことだけは分かった。
そもそもこんなところで何をしているのか、その疑問を3人は払拭できていない。
だがそれは、本人によって証明された。
「これ、やっぱり誰かが管理しているんだよな? すごいなぁ、水も他と比べると透き通っているように思えるし、手が込んでるなぁ〜」
「(ん……?)」
「魚もでかいし、食事ができる人からしたらご馳走だろうな。 あ〜、どうして俺はアンデッドなんだろうなぁ〜? お腹が減らないのは良いんだけど、食事はしてみたいのに〜」
「(……兄者、俺は今、なんかよくわからない言葉を聞いているのだが?)」
「(安心しろ、弟よ。 俺も同じ気分だ……)」
「まっ、魚のことは良いかな? そういえば水ってこの体で触るとどうなるんだ? ちょっと失礼してーー、あれ? 冷たさを感じた? へぇ、面白いな、ちょっと入ってみようかな? あっと、でもここはダメだな、せめて柵の外じゃないと……」
大きすぎる独り言に、ブループラネット他二名は凍り固まる。
アンデッドだからという括りで見ていたが、あまりの人間らしさに思考停止に陥ってしまった。
生簀の製作者は褒められたことに少し気分が良くなっているのだが、蜥蜴人二人は何が何やら理解が追いつかないでいる。
すると、アンデッドが腰を下ろして手を湖へつけたのか、何か思いついたようだ。
しかも生簀ではダメだとはっきり口にして、柵の外へ出て行ったので、ブループラネットたちは警戒も兼ねてその様子を見守るためついていく。
そして何を血迷ったのか、アンデッドがその体を湖へと体を沈めていったのだ。
大胆すぎる行動もだが、何をしたいのかが分からず見ていると、次第に頭まで浸かってしまい、見えなくなってから少し経って骨の頭が湖面に現れる。
「すごい! 湖の中ってこんなに透き通っているんだ! おまけに冷たくて気持ちが良いし、地上とは違う光景だよ! アハハ! すごいなぁ、やっぱり世界は本当に綺麗だ!」
恐ろしいことでも言い出そうとしているのかと考えていた潜伏者たちの思いなど尻目に、アンデッドは水の中を存分に楽しんでいるようだ。
バチャバチャと水面を水しぶきが跳ね、面白いと感じたのかまるで子供のように水遊びをしている。
キラキラと太陽光に照らされ、戯れに興じる生者を憎む存在であるはずのアンデッドの様子に、三人は警戒心が消え失せていた。
とりあえず自分たちを害する存在ではないのかもしれない、それだけ分かれば僥倖だろう。
だが接触するにはあまりの異質な存在にザリュースは悩んだものの、彼の苦悩など飛び越えるように師が動いた。
スクッと立ち上がるブループラネットに、兄弟たちが制止する暇もなく、男はスタスタとアンデッドへと近づいていった。
茂みから抜け、森から姿を現したことで気配もはっきりしたのだろう、水を汲み上げていたアンデッドが振り返る。
「……」
「ーー? あの、えっと……」
「……こ、こんにちは? その、楽しい、ですか?」
「あっ、こ、こんにちは! 楽しいって、えっと、その……、はい、楽しいです、というより興奮しています……」
「それは、何でまた?」
「綺麗、だからです。 うん、本当にこの辺りはすごく綺麗だなって、思っているんです」
ブループラネットの奇行に、ザリュースとシャースーリューは言葉にならない叫びをあげた。
何が起こるか分からない状況だが、それはアンデッドからしても予想外だったのだろう。
突然の登場に戸惑っていると、ブループラネットが恐る恐る話しかけるとその言葉通り、興奮気味で応答した。
会話が成立する、それもすごいことだが、アンデッドの嘘のない言葉に自然を愛する学者は直感する。
この不死者は自分の知っている存在とは、明らかに異なるというのが理解できた。
その瞬間、警戒を完全に解いてブループラネットは話を続ける。
「綺麗ですよね。 この自然は本当に貴重なものなんです、こうなるまで長い時間を積み上げた上で成立しているんですから」
「本当ですね、もっと世界に感謝しなくちゃいけませんね!」
「ーー自己紹介が遅れましたね。 私はブループラネットと申します、この辺りを拠点にしている自然学者です」
「あっ、ご丁寧にどうも。 俺はモモンガと言います、見ての通りアンデッドですが!」
「モモンガさんですか、とりあえず上がったらどうですか? 少しお話をしたいのですけど」
「良いですよ、ちょっと待ってくださいね!」
和やかに会話が進み、ブループラネットの言葉にアンデッドが同意を示す。
自らの価値観を否定されなかったのも嬉しかったが、何より自然の尊さを理解している様子に、異形種は心を許した。
もっと話をしたいと招けば、アンデッドがのそのそと湖から上がり、ブループラネットの側へ歩み寄る。
見た目は存在感が圧倒的なのに、中身は至って人間のようなアンバランスさに学者は興味を惹かれた。
「それで、モモンガさん? はどこかへ帰るところだったんですか?」
「いえ、今はあちこちを旅している最中です!」
「旅? アンデッドが、ですか? 目的をお伺いしても……?」
「見たことのないものを見に行く、ですね! と言っても、フラフラ見て回っているだけなんですが……」
「ーー少し座りましょうか。 貴方は何というか、面白そうな人だ」
「ええっ、ぜひ!」
「ほら、シャースーリューにザリュース、お前たちも出てきなさい、この人は間違いなく安全だから」
『……はい』
軽い自己紹介をして、ブループラネットはアンデッドらしからぬ行動に興味を惹かれる。
旅をしているというには軽装で、かつ身軽すぎるというのが印象だった。
だがもしかしたらという考えもあるものの、純粋に話してみたいという好奇心が勝る。
地面に座り、話をしようとする中で自然学者は後ろの茂みに隠れ続けている弟子たちを呼び出した。
まさかの指名に驚く二人だが、ここで出ていかなければ何をやらされるか分からないと、兄弟は観念して姿を見せる。
それを見ていたモモンガは初めて蜥蜴人を見たのか、少し驚きながら声に出した。
「へぇ、蜥蜴人という種族ですか。 もしかしてこの辺りに縄張りが?」
「ええっ、この湖の先にある沼地に生息地がーー」
「先生!?」
「何をサラッと話しているのですか!?」
「先生……? えっと、生徒さんなんですか?」
「いやぁ、少し色々ありまして、彼ら蜥蜴人とは交流があるんです。 で、この二人は私の助手兼弟子みたいなものでして」
「へぇ〜、異種族間での師弟関係ですか、興味深いです!」
見たことがないという不死者に、ザリュースもシャースーリューも生きた心地がしない。
アンデッドは生者を憎む存在だと伝聞でも伝えられている以上、警戒しなければならなかった。
それなのに、兄弟たちの目の前にいるアンデッドを模倣したような存在にどうしたらいいのかと分からなくなる。
おまけにブループラネットがサラリと蜥蜴人たちの住処を暴露までしてしまい、攻め込まれる危険性が増してしまった。
二人の師はモモンガという名の骨に興味を持ち、世間話をし始める。
何を言い出すか分からないため、ザリュースとシャースーリューもこのまま同席するのであった。
某白金竜「クソ、逃したか。 まぁ、逃げてくれたのは不幸中の幸いか。 さてと……、この被害をどうしたものかだけど、魔力が心許ないんだよね……。 時期を見て修復しに来よう」
某ツアーさん、修復しに来ようと思ったけど間に合わず、ブルプラさんから間接的に恨まれる展開もアリかも?