「なるほど、お二人は知り合いだったんですね」
「モモンガさん、知り合いなんかじゃありませんよ、この正義厨とは」
「私だってゴメンです、頭のイカれた悪魔の知人など」
「あ゙っ? やんのかゴラっ」
「私に勝てるとでも? 負けたことを覚えられないほど、記憶力がないようですね?」
一先ず立ち話もどうなのかということで、モモンガ宅へ一同移動する。
険悪な騎士と悪魔を前にして、アンデッドは予想外な繋がりに驚きはした。
口を開けばいがみ合い、殺伐とした空気が燃え上がろうとする。
従者は従者同士で犬猿の仲らしく、黙ってはいるが互いに牽制し合っていた。
それを傍から見たモモンガは、むき出しの顎を擦りながら興味深そうに見ている。
「モモンガさん、何見てるんですか?」
「いえっ、みんな仲がいいなぁと」
「はぁっ!? ちょっ、いくらモモンガさんでも言っていいことと悪いことがあるでしょ!?」
「そうです! モモンガさん、こんな人とは今すぐ縁を切るべきです!」
「そりゃテメェの方だろうが! 正義の味方様がアンデッドと友達だとか、笑い話にもならねぇわ!」
「この人だからです! 大体そんな事を言ったら貴方だってモモンガさんの友人にふさわしくありません!」
「何でてめぇに指図されなくちゃならねぇんだ! いい気になるんじゃねぇぞ、たっち・みー!」
「それはこちらの台詞です! モモンガさんに余計なことを吹き込むのは私が許しませんよ!」
特に意味はなかったが、感じたままの言葉を放った死の支配者が二人の導火線に火を付けた。
すると舌に油が乗ったように悪口の応酬を繰り広げ、互いが互いを理解しているように言い争いは過熱する。
主人に加勢したいところだが、仮にもここは主の知人宅なのでデミウルゴスもセバスも、余計な真似はできなかった。
主二人が殺し合いにならないのも、家主に迷惑をかけるわけにはいかないという思いがあるので何とか踏みとどまっている。
そんな彼らの心情など知るはずもなく、呑気なアンデッドは微笑ましく見ていた。
「はぁっはぁっ……、やめだやめだ」
「ぜぇっぜぇっ……、そうですね、癪ですが休戦しましょう」
「あっ、俺のことならお気遣いなく。 見てるだけで楽しいですから!」
「だから!? モモンガさんの生温かな視線が気まずいから止めたんですよ!」
「そうです、だから勘違いしないでくださいね! 私と
「おい、さん付けすんな! 気持ち悪りぃんだよ、クソたっち!」
「仕方がないでしょ!? 貴方もモモンガさんの前で下品な言葉は慎んでください!」
「悪魔に求めることじゃねぇよ! つうかアンデッドに対して気を遣い過ぎだろうが!?」
「この人のどこがアンデッドだというんですか!? 世にも奇妙な存在ですが、世界に害悪ない方に導くのも私の努めです!」
「たっちさん? それどういう意味です?」
「お前はモモンガさんの親か!? これだからてめぇは気に食わねぇんだ! モモンガさんには悪こそ相応しいんだよ!」
「ウルベルトさんも何言ってるんですか?」
アンデッドとは思えない穏やか雰囲気に絆されたのか、悪魔と騎士は虚しくなる。
大してモモンガはやり取りが面白いと見ていたいなどと言う始末で、それこそ恥ずかしいものはなかった。
仲が悪いというレベルではないはずなのに、この時ばかりはウルベルトもたっちも気持ちが一つになる。
けれど譲れないものもあり、それはたっち·みーにしろ、ウルベルト・アレイン・オードルにしろ、のんびり死の支配者に関わる動機だ。
「この際です、はっきりさせましょう! モモンガさん、私と一緒に正義を為しましょう!」
「モモンガさん、俺と世界征服しませんか! モモンガさんがいればきっとうまくいく!」
「えっ? えっ? あっ、あの……」
「はんっ! 異形種のくせに人間の味方をするってか? 笑わせるなよ偽善者!」
「貴方に言われたくありません、そしてそんな不埒な企みは今ここで潰します!」
「不埒ねぇ? てめぇのいう正義なんて、どうせツアーも関係してるんだろう?」
「ーーっ」
「ほらな? あの蜥蜴のことだ、少しでも疑いがあれば消しにかかろうとする、そんな奴とつるんでる時点でお前の正義なんてハリボテなんだよ!」
「私は……!」
「ストップ、ストップ! 落ち着いてください二人とも! 熱くなりすぎです!」
雌雄を決すべき、そう言わんばかりにたっちとウルベルトはモモンガに迫る。
隠れ住んでいたアンデッドは突然のことに戸惑い、騎士と悪魔の言い争いは激しさを増した。
殺し合いになろうとしたところで、たっちがウルベルトの指摘に思わず言葉を詰まらせたところで、骸骨が場を宥める。
『本当にアンデッドらしくない』、仲は本気で良くないのに息はぴったりな二人は知らぬうちに考えが一致した。
「まず、たっちさんは正義を為すと仰られましたけど、先ほどのウルベルトさんが殺した人たちには特に言ってませんよね?」
「ーーそれは、その……」
「まぁこんなところへ真夜中に来る辺り、人間の中でも訳アリなんでしょう? もしかして、あの人たちのことをご存知なんじゃないですか?」
「…………はぁ、そうです。 彼らは死を撒く剣団と呼ばれる傭兵崩れの犯罪集団です。 気になったので、モモンガさんに会うついでに討伐しようかと思ってまして」
「ほぉ? 面白いことを聞いたな、そんな奴らの生き残りをてめぇは助けた訳だ! ははっ、語るに落ちたな!」
「ウルベルトさん、ちょっと黙っててください」
「ーー確かに彼らのしてきたことを考えるなら、同情の余地はありません。 ですが私は、あくまで団長と手練れだけを斬り捨てるつもりでした。 ウルベルトさんのように、虐殺などするつもりはなかった」
モモンガの指摘にたっちは言葉が詰まるも、仕方なしと事情を語り始めた。
傍らのセバスは少し驚きながらも、主の決断は決して間違えていないという確信を得る。
途中に悪魔からの茶々が飛んできたが、骸骨のいつになく真剣な声色に制される。
騎士の言い分に納得しつつ、続いてウルベルトにモモンガは尋ねた。
「ウルベルトさん、世界征服と言いますけど、俺なんて大したことないですよ?」
「いやいやっ、超位魔法まで使えるのにそういう態度だと、ただの嫌味にしか聞こえませんよ。 自覚がないようなので言いますけど、モモンガさんや俺達は
「超越者?」
「この世界において規格外の存在、という意味です。 俺や貴方みたいな魔法詠唱者なんて、数えるくらいしかいないんですよ?」
「そうなんですか!? でも、俺は何もせずすぐ使えているので、難しくはないんじゃ……」
「残念ですが、この世界の人間はせいぜい第6位階までが良いところです。 マジックアイテム込みなら第8まであるかもしれないですけど、一般的には第2位階までできればいいところなんですから」
「えぇ〜……」
自分など大したことない、謙虚すぎるアンデッドに悪魔もだが騎士も頭を抱える。
己の凄さがどれくらいなのか説明されて、ようやくモモンガは自身の異常さに気づいた。
当たり前のように使っていた魔法が、実は人間には使えないなど一大事。
つまりそれは、今後どのように生きていくかにも影響を及ぼしていた。
「俺も超位魔法を使えますし、奥の手も含めればモモンガさんとなら世界を掌握するのも容易いです!」
「うーん、でも世界征服だなんて大変じゃないですか?」
「大変、とは?」
「管理しにくいじゃないですか、俺的にはのんびりノホホンと暮らしていきたいというか、平和に過ごせればいいかなぁと」
「……モモンガさん、あんたホントに不死者か?」
「失礼な、見た目から骸骨で立派にアンデッドですよ!」
「ーーくっ、あはははははっ! モモンガさんらしいですね、それを聞いてると安心しますよ!」
「随分楽しそうだな、クソたっち」
「それはもう。 ウルベルトさんの甘言に惑わされるどころか、悪魔を手球に取ってるなんて愉快じゃないですか」
だがモモンガ的には支配者としての苦労が見えたのか、気乗りしていなかった。
それどころかどうすれば平和に暮らしていけるのかと、人間じみた悩みを抱える。
これにはウルベルトも呆れてしまい、やり取りを見ていたたっち・みーは大笑いした。
悪魔的には癪だが、自分がアンデッド一人に翻弄されているのは自覚している。
だからこそ籠絡させたいとも考えているのだが、ハードルは高いと突きつけられた気分だった。
「やる云々はともかく、ウルベルトさんは世界征服して何がやりたいんですか?」
「ん? 力があるならやりたいじゃないですか! その前に国興しをしようかと!」
「国、ですか?」
「ええっ、せっかくなので我々みたいな異形種の国を造ろうかと! モモンガさんもこんなところに引きこもっているよりは楽しいですよ!」
「うーん……」
「なるほど、興味深い。 それでしたら私も参加させてもらいますよ」
「はぁっ? 誰もてめぇなんかお呼びじゃねぇんだよ!」
「異形種の国なのでしょう? なら私にだって参加する権利はあるはずです。 それに、私がいないと貴方の暴走は助長しそうですしね。 ツアーのことも考えたら、私という駒がいれば立ち回りしやすくなると思いますがね?」
魅力を語るウルベルトに対して、モモンガはあまりやる気が浮かばないようにみえる。
ならばと前段階である計画を語ったとき、従者であるデミウルゴスが驚きを露わにした。
それだけ死の支配者を評価しているとの意思表示に、主がかける信頼は高いと悟る。
内容はさておき、考え込むアンデッドが悩んでいると、何故か騎士のほうが反応した。
悪魔もまさか参加するなどと言うとは予想していなかったようで、すぐに拒絶を示す。
しかし異形種の国というのならば、たっちにも参加するだけの資格があった。
同時に彼が提示した条件は、確かに立ちはだかる壁として現実にあり得る。
「……お前は俺と組むことに嫌気がねぇのかよ?」
「それはもちろん少なからず、でもウルベルトさんだってそうでしょう? ですが、ねっ?」
「まぁ、そうだよな……」
「えっ、何ですか?」
「モモンガさん、貴方が私達の間を取り持ってくれればきっとうまくいきますよ」
「ーーえっ? えっ!? そ、それってまさか、俺が頂点に立つってことですか!?」
「それはそうでしょ? 俺にしろこいつにしろ、反目し合うのは目に見えている、つまりトップには立てないし、立たせたくない」
「私達二人をまとめられるのは、モモンガさんだけです。 それに、貴方なら指示されても納得できます」
「こいつの意見に賛同したくねぇけど、モモンガさんは指導者に向いてる性格してますよ」
「いやっ、だからって、それは、う〜ん……」
ウルベルトにしろ、たっちにしろ、どちらともがどちらも上に立つなど許せない。
しかし間を取ってモモンガが上に立つなら、うまく行くと確信していた。
二人のある意味で一致した意見に、アンデッドは突然の展開に戸惑いを露わにする。
腕を組んで悩む姿は人間そのもので、見た目と中身のアンバランスさが魅力でもあった。
ダメ押しをするように、悪魔と騎士はそれぞれの従者に声を掛ける。
「セバス、お前はどう思う?」
「はっ、モモンガ様であれば私もお仕えするにふさわしい方だと愚考いたします。 慈悲深くあらせられる御方ですので、たっち様もご納得できるかと」
「デミウルゴス、お前はどうだ?」
「はい、ウルベルト様の仰る通り、モモンガ様であれば異存など御座いません。 それに、そこにいる方々が上に立たれるよりは同格であれば納得もできますので」
「……同格? それは私であってたっち様のことを指してはいませんよね?」
「さぁ? どう捉えるかは君に任せるよ、セバス」
「貴方に名前を呼ばれる日が来るとは、驚きですよデミウルゴス」
「本当だね、それだけ我らが主人が認められた方だ。 我々にとっても損のない話のはずだよ?」
「そうですね、その通りかと」
話に加わらずにいた従者の鑑とも言うべき二人の意見は一致していた。
ただ悪魔の発言に老執事の視線が鋭くなり、室内にただならぬ緊張感が生まれる。
主同士もだが、下僕同士もあまり仲が良くないようだが、モモンガ的には気にすることではなかった。
「なるほど、セバスとデミウルゴスも仲が良いんですね。 俺だけ蚊帳の外だなぁ……」
「ッ!? し、失礼ですがモモンガ様! 我々は別にそういうわけでは!」
「ーー失礼しました、お見苦しいところをお見せいたしました。 しかし、モモンガ様もたっち様とはとても仲が良いと私は見ております。 そちらのウルベルト様ともですが、悲観されることはないかと愚考いたします」
「あっ、はい……。 たっちさん、セバスって本当に完璧ですね」
「ええ、自慢の側近ですから。 ウルベルトさんだってそうでしょ?」
「当たり前だ、俺の最高傑作でもあるんだ。 智謀に関しちゃ、誰にも負けねぇと自負してるぜ」
「確かに、所作はセバスに負けないくらいセンスが良いですよね〜。 この面々を俺が率いるのかぁ、う〜ん……」
まさかの発言にデミウルゴスは無礼と思いつつも異議を唱えるが、セバスが発言を被せる。
それは意図したものなのか、自分たちよりも主同士の方が仲が良いと遠回しに伝えていた。
言いたいことはあるものの、騎士と悪魔はとりあえず納得して、アンデッドは執事の言動に感心する。
主従関係として似て非なる部分はあるかもしれないが、どちらも理想的な上下関係と言えた。
そんな四人をまとめる立場になるなど、自分にできるのかとモモンガは悩みに悩む。
「モモンガさん、今すぐ返事しなくていいですよ、将来を見越した提案ですから」
「まぁ、可能なら早めに返答していただけると嬉しいです。 じゃないとウルベルトさんが居なくなりますからね」
「はっ? それはお前だろうが、消し炭にしてやるぞこの虫が!」
「貴方こそ、キレイに捌いて美味しく調理してあげますよ、クソ山羊」
「はいはい、分かりましたから喧嘩しないでくださいね! とりあえず、少し考えるので時間ください。 それに、どうせならこのまま少し話しましょうよ、親睦を深めるという意味でも!」
気長に返事を待つと言いつつも、隙あらば殺る気満々の二人に死の支配者が宥める。
その後はモモンガの言葉通り、無理やりお茶会へと突入し、常に喧嘩しまくる騎士と悪魔をアンデッドが仲裁するやり取りが朝まで続いた。