キング・アーカイブ 作:寿司
──夢を見ていた。
ある少年の覇道、そして王道の軌跡。
かつて世界を救い、しかしそれ以外を守れなかったが故に“最低最悪”と呼ばれた未来。そうならぬ為に彼は仲間と共に“最高最善”と目指した。
多くの悲劇があった。
多くの悪意があった。
歴史を作り替えようとする者、ただ純粋に力を求める者、憎しみに支配された者。
かつて孤独だった少年は唯一無二の友と出会い、先人から力と想いを受け継ぎ、より良い未来を夢見て巨悪に立ち向かった。
その果てにあるのは、覇道ではなく王道を選んだ結末か。或いは、全ての時代をしろしめす最終王者か。
どちらにせよ、それはあまりにも歪で凸凹だらけで決して美しいとは言えなかったが、瞬間瞬間を必死に生き、希望と祝福に満ちた“
羨望した。
憧憬した。
渇望した。
『◼️◼️◼️はさ。将来何になりたい?』
場面が変わる。記憶の果て、或いは奥底。
朧気で、しかし確かに覚えている問いかけ。幼き日の他愛の無く、掛け替えのない思い出の一幕だった。
「…………んぅ?」
意識が覚醒する。
どこまでも澄んだ青空。それに似つかわしくない乾いた銃声と爆発音が喧騒と共にあちこちから響き渡り、
「やば。もう始まってるじゃん」
目を擦りながら起き上がると、彼女はまるで遅刻した学生のように少し慌てた様子で鉛弾が飛び交う戦場を駆け抜けていく。
視線の先には周囲の街並みと比べても一際巨大な高層ビルが聳え立っている。その入口前を前時代的な所謂“スケバン”と呼ばれる不良のような格好をした集団が銃火器で武装して占拠していた。
「うおっ!? な、何だこいつ!?」
「ああん? 知らねーよ! とにかく味方じゃないなら撃て撃て!」
無謀にもこちらへ突き進んでくる少女の姿を認識するとスケバン達は驚きながらも即座に銃口を向ける。
それは玩具などではなく、紛れも無く本物。明らかな凶器と敵意を目の当たりにしながら少女は一切動じず、小さく笑ってみせた。
「──なんか行ける気がする!」
少女の名を、“常磐ソウコ”。
この硝煙の臭いが漂う透き通った世界で、“最高最善の魔王”を目指す普通……とは言い難い女子高生であった。
学園都市“キヴォトス”。
成人に満たぬ子供が自治権を有し、武器を手に取り、銃弾が飛び交う。それはこの街ではありふれた出来事。かといってビルが溶けることも、人が死ぬことも滅多にない。
そんな外と比べて特異なこの街では現在、そのトップである“連邦生徒会長”が失踪し、治安が有り得ない程に悪化したことによって混沌を極めていた。
彼女、“狐坂ワカモ”はその混沌に乗じて矯正局から脱獄した犯罪者の一人である。
「……おや?」
ふと、ワカモはあることに気付く。各地の不良共を扇動して引き連れ、連邦生徒会へと攻撃を仕掛けた彼女は想定よりも奮闘されてしまい、不利と判断して退却している最中だった。
外に居る仲間の数が明らかに少ない。連邦生徒会の勢力は内側から制圧していっているはず。
ここに来て増援? そのような余裕があるようには見えなかったが──。
「あ、ここに居たんだ」
「!」
声。反応するなりワカモは即座に発砲するも、銃弾は何か硬い物に弾かれる。
「狐のお面に和装……君があれだよね? えっと、脱獄犯の人」
「……何者ですか?」
そこに居たのは、一人の少女だった。
短く整えられた茶髪。時計のような形をした“ヘイロー”。黒と白を基調に、ピンクのラインの入った見慣れないブレザー型の改造制服。スカートではなくズボンを履いており、代わりに時計の短針と長針のような物がローブのように腰から垂れている。
右手には長剣、左手にはハンドガン。どちらとも一見すると玩具かと思ってしまうようなメカニカルなデザインだった。
只者ではない。その立ち振舞いから本能的にそう察したワカモは警戒心を強める。恐らくここに居た不良共を無力化したのも彼女なのだろう。
「君を捕まえに来た通りすがりの王様……ってところかな? 自首してくれると助かるんだけど」
「──ふざけているのですか?」
「やっぱり駄目?」
敵意を感じない、気安い言動。これを挑発と受け取ったワカモは即座に短刀を投擲する。
「おっと──」
少女はこれを難なく避け、ハンドガンを発砲して応戦する。放たれたのは実弾ではなくエネルギー弾のようなもの。やはり普通の銃ではないようだ。
(──そこ!)
銃撃を潜り抜け、接近したワカモが短刀を振るう。卓越した動きだったが、少女はこれを長剣で弾き、そのまま一直線に振り下ろす。
その一撃をワカモは愛銃の先端に備え付けられた刃で受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
「!?」
しかし、徐々に押し込まれていく。咄嗟に短刀を捨てて両手で銃を握り締めるも、完全に力負けしてしまっていて一向に押し返せない。
片手にも拘わらず純粋なパワーは少女の方が上だった。
(何という怪力……! 接近戦は分が悪い……!)
瞬時にそう判断してワカモは飛び退き、距離を取った。この行動を読んでいた少女はすかさず銃撃を行うも、僅かに掠るだけだった。
その程度ではワカモからすればダメージの内にも入らない。
「へぇ……速いね」
少女は感心した様子で呟く。
まるで獣のように縦横無尽に動き回ながらも遮蔽物を利用して的確にこちらの視線から外れるワカモを少女は捉えることが出来ず、翻弄されてしまう。
その中でワカモは隙を突いて銃撃する。少女はこれを刀身で防ぐも、反撃しようにもそのスピードで撹乱されて防戦一方だった。
(このまま削り、仕留める……!)
相手が相応の強者であることを認めたワカモは、時間が掛け過ぎれば内部の連中に追い付かれるリスクを理解しながらも着実に消耗させ、確実に打倒することにした。
しかし、内心訝しむ。こちらの攻撃を一方的に受けているにも拘わらず敵の少女は依然として余裕の笑みを浮かべていたのだから。
「でも──」
チクタクと、小刻みに時計の針が進むような音が響く。
「それは私が既に視た未来だ」
その一言と共に、徐に引き金を引いた。
「ぐぅっ!?」
どこを狙う訳でもなく、闇雲に撃ったとしか思えないそれは、しかし
「ッ……な、何が──」
「悪いけど、一気に決めさせてもらうよ。スレスレ撃ち!」
動きを止めて隙を晒すワカモ。間髪入れずに少女は奇怪な技名を叫ぶと同時に銃身にあるボタンを押し、チャージしたエネルギー弾を連射して撃ち込んだ。
「がぁッ……!?」
まともに受けたワカモは派手に吹っ飛び、壁に叩き付けられると同時にエネルギー弾が炸裂したことによって、これまた派手な爆発に包まれる。
それを確認し、少女はふぅと一息付く。
「よし……いやぁ結構強いね、君。どう? 良かったら私の王室のSPにでも──あれ?」
爆煙が晴れ、そこにあったのは壁に空いた大穴と狐の面の破片のみ。
肝心のワカモの姿は無かった。
「嘘ぉ!? あそこから逃げたのっ!?」
確かに直撃したはず。それで意識を保っているだけでもおかしいのだが、まさか動くことができ、逃亡を選択するだけの思考力まであるとは。
どうやら単なる脱獄犯ではなかったようだ。相手を少々見縊っていたと少女は己を恥じ、追跡しようとしたその時である。
「敵の数がやけに少ないと思えば……何故貴方がここに居るのですか。常磐ソウコさん」
「うん?」
名を呼ばれる。振り向けば、そこには数人の少女と一人の男性が居た。
そのうち一人、背に黒い翼を生やした長身の女性は面識のある人物だった。
「ハスミじゃん。奇遇だね」
羽川ハスミ。
トリニティ総合学園“正義実現委員会”の副委員長。少女とは
“ハスミ、この子は?”
すると男性が尋ねる。よく見れば“ヘイロー”が無い“大人”の男性だった。
何故そのような人物がこんな所に? という疑問はすぐに解消される。直感的に理解したからだ。
彼こそが、今はこの街に居ない
「……彼女は私と同じトリニティ総合学園に通う“常磐ソウコ”さん。またの名を」
──“トリニティの魔王”。
そう紹介され、男性は物騒な呼び名に困惑するも、対する少女──常磐ソウコは気にした様子も無く好奇に満ちた笑顔で応対する。
「大丈夫。魔王は魔王でも“最高最善の魔王”だから安心していいよ。よろしく!」
こうして、“魔王”と“先生”は邂逅した。
ソウコちゃんの見た目はジオウ風の制服を着たボーイッシュな女の子のイメージ。ライダー少女とかその辺。詳しい見た目は読者のイメージに任せます。