五億年を虚無で過ごした女、魔女となって異世界へ   作:ブナハブ

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時間は有限だと誰かが言った。なら死ぬのは五億年後だよと言われたら?

「……なにこれ?」

 

 学校帰り、フラッと立ち寄った公園で私は奇妙な物を見つけた。

 

 真っ黒な長方形の石の上にある赤いボタン、石の側面には『五億年ボタン』とデカデカと書かれた張り紙、それが地面から突き出るように存在していた。

 

「五億年ボタン……?」

 

 五億年ボタン、確か一時期ネットで話題になった都市伝説だったかな。

 内容は……世代じゃないから良く知らないけど、大金を貰える代わりに何も無い世界で五億年過ごさなきゃいけないとか、そんな話だった気がする。

 

「うーん」

 

 まさか令和の時代に見る事が出来るなんてと感動する反面、いったい誰がなんの目的でこんな物を置いたんだろうと気になって仕方ない。

 それにこのボタンに付いてる張り紙、五億年ボタンと書いてるだけで説明みたいなのが無いのだ。仮に本物の五億年ボタンだったとして、ちょっと不親切過ぎやしないだろうか?

 

「えいっ!」

 

 まあ押しちゃうんだけどね。

 

 いや、本物な訳ない事は分かってるよ? でも気になるじゃん。別に押したところで死ぬ事なんて無いだろうし、だったら押しちゃえばいいじゃんってね。

 

 何が起こるかなーと、若干ワクテカしていた私だったが、

 

「…………え?」

 

 突然目の前の光景が切り替わった事で顔が真っ青になった。

 

▽▽▽

 

「誰か! 誰かいませんかー!?」

 

 ヤバいヤバいヤバい、何がヤバいってもう何もかもがヤバい。

 

 あれから暫く呆然としていた棒立ちする私だったが、ハッと我に返るとすぐに地面を駆け抜け、周囲に向けて叫び続けた。

 

 

 

 

「誰か! 誰かいないの!? ねえ! 聞こえてるなら返事して!」

 

 見渡す限り何も無い。あるのは石畳の地面と私だけ。上には青空なんて無く、夜とは異なる真っ暗な闇だけが広がり続けた。

 

 

 

 

「お願いだからっ! お願い、だから」

 

 周りも同様に何も無い。光が届いてるわけないというのに薄暗さは無く、けれど地平の彼方には闇しか見えない。

 

 

 

 

「誰か……誰か居てよぉ……!」

 

 私だけだ。この世界には私しか存在していない。何時間、何十時間、もしかしたら何日間だろうか? 時が進みにつれ、次第にそんな考えが脳裏に浮かび始めた。

 

 

 

 

「……ぅぅ」

 

 喉が裂けそうになるほど叫んだ後、私は立ち止まって泣いた。涙が出なくなるまで流し続けた。この世界には私しか居ないんだと確信して。

 

 

 

 

「……なんで……なんで私あんな事……なんで……なんで……なんで───」

 

 涙を流す事さえ億劫になると、私はその場で蹲って自問自答を繰り返した。なんであんな怪しいボタンを押したのか、どうして自分はああも単純なのか。自分に殺意が湧いて頭を打ち付けたが、痛いだけで血が流れなかったのでやめた。

 

 

 

 

「えっと、あの時は確か……そうそう、優子がバカやったから喧嘩して……あはは、結局喧嘩両成敗って事になったんだっけ」

 

 このままでは心が壊れてしまうと恐れた私は、思い出を振り返る事にした。記憶を巡って、巡り続けて、そうしたらいつの間にか五億年経ってるじゃないかなって。……まあ十五年分の思い出で五億年経過するとは思えないけど。

 

 

 

 

「ジャンケンポン……あいこ。ジャンケンポン……あ、左手が勝った。ふふ、これで百対九十五、左手が優勢」

 

 思い出を振り返っても虚しくなるだけだと気付いた私は、一人遊びをする事にした。じゃんけんにまるばつゲーム、しりとり、出来そうなものならなんだってやった。その甲斐あって二つの物事までなら同時に考えれるようになったんだ。こういうの並列思考って言うんだっけ、凄くない?

 

 

 

 

「死んで……死んで……死んで───」

 

 一人遊び作戦は結構上手くいってたんだけど、途中で急に両親の顔を思い出してホームシックになっちゃってダメになった。死ねば帰れるかなと思って頭を打ち続けてるんだけど、痛いのに傷一つ付かないや。ははは。

 

 

 

 

「八十九万六千六百七十……八十九万六千六百七十一……八十九万六千六百七十二───」

 

 いつの時か、漫画で見た事がある。体を動かせなくなった主人公がどれぐらい時間経過してるか秒数を数え続けて、それが功を奏して覚醒する事が出来たていう話。

 もしかしたら私もそれで……と思って始めてみたけど、やっぱり主人公のように正確にはいかないな。でもこれを続ければきっと五億年もすぐに……。

 そういえば、あの主人公は何年ぐらい数えていたんだろう?

 

 

 

 

「………………」

 

 ふと気になってどれぐらい秒数を数えたら五億年なんだろうと計算してしまった。もう何も考えたくない。

 

 

 

 

「あはは! そうそう……えーなにそれー!」

 

 私、斉藤魅夜! 春ヶ丘学園に通う高校一年生! 今は友達と一緒にカフェでお喋りしてるの!

 友達とのお喋り、最近気になる先輩についての恋の相談、そろそろ期末テストがあって憂鬱だけど、毎日楽しくエンジョイ中! こんな日々が一生続けばいいな〜。

 

 

 

 

「アハハハハハハハハ!!!」

 

 もうダメだ。心が壊れる───壊したい。でも心は健康なままだ───なんで?

 多分ここだと私の心と体は健康な状態が維持されるんだろう───やめろ。こんなクソみたいな世界だけど、それだけが唯一の救いだ───地獄だ。

 私が私じゃなくなる事は無い───そんなのどうでもいい。それだけ知れて安心した───早く私をコロシテ。

 

 

 

 

「ねえねえ、聞いてんでしょー? ……もー、いつまで無視するのー? かれこれ三年呼びかけてるってのにさあ」

 

 私を見る誰かが存在する。いつかは知らないけど、私はそう確信するようになった。

 神だろうか? 悪魔だろうか? それともこの世界が実は誰かが作ったお話で、私は五億年ボタンの犠牲者として描かれて、それを見ている読者達だろうか?

 なんでもいい、話せるなら誰でもいいからお話しようよ、私はいつまでも呼んでるからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 ボーっと、私は虚空を眺めていた。特に何かを考えてる訳じゃない。ただ、何も新しい事を思い付かないから、とりあえずボーっとして、それで何かひらめいたらそれを実行しようかなって、それだけ。

 

「……?」

 

 私はこの時感じた違和感に、変化に気付けた自分を心の底から賞賛する。

 

「……ぇ」

 

 小さな小さな、塵クズのような、それこそ肉眼で捉えれるか否かというような、そんな極小の光の粒が一つ。

 

 私の視界に映った。

 

「……ぁ、っぇ」

 

 それに意識を向けると、光の粒は急速に存在を消していく。

 

「待って!!!!!」

 

 私は必死の思いで叫んだ。それこそこの世界に最初に来た時ぐらい必死に。その光に触れようと手を伸ばした。

 

「……ぁ」

 

 しかしその手が届く事は無く。光の粒は消えた。まるで元からそこに何も無かったかのように。

 

「今の、は、なに?」

 

 もしかしたら気のせいかも知れない。幻覚を見たのかも知れない。それぐらい小さな小さな違和感だったが。

 

「どうやったらまた見れるかな? あれが見える直前に私がしていた事は? あれの正体は? 触れる事は可能なのかな? その場合はどうしたら───」

 

 それがどうした?

 

 生憎と、その程度で私はさっきのは気のせいだったなと思い直す事はしない。

 ここに来て起こった初めての異変なのだ。見逃す訳が無い。例えアレが私の脳が見せた幻覚だとしても、確証に至るまで考える事はやめない。

 

「……あはは、目標、出来ちゃったな」

 

 あの光の粒をもう一度この目で見る事。私の方針が決まった瞬間だ。

 

「焦らずじっくり、ゆっくりと考えていきますか」

 

 なんせ、時間だけは腐るほどあるからね?

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