五億年を虚無で過ごした女、魔女となって異世界へ   作:ブナハブ

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ファーストコンタクトは不穏な空気

 よーし落ち着けー私。まだ慌てるような時間ではない。まずは状況の把握から行こう。

 えっと、確か仮眠を取ろうと思って寝る準備をしてて、寝る前にドラちゃんにしっかり守ってねと言った。で、起きたらドラちゃんが人間達と戦っていると。

 

……うん、なにごと?

 

「GRRRAA!!」

 

 人間相手に大立ち回りを見せるドラちゃん。だけどお相手さんの四人組の人間も中々の手練れらしく、剣を片手に斬り込んだり後方から水の槍をぶっぱなしたり、彼我の体格差をものともせずに立ち向かっていた。

 そういえばサラッと流したけど、始めて他人の魔法を見たな。見たところ精神世界でマナを利用した物とは別物っぽいかな?

 

(にしても凄いなあの人達、ドラちゃんって此処でもかなり強い部類に入る筈なんだけど)

 

「ハァー!!」

 

 特に目を見張るのは、最前線でドラちゃんと戦っている金髪ポニーテールの女性。彼女、他の三人と比べて一つ上の強さを持っていそうだ。

 

 もう一人、大きな剣を振るって一緒に前に出てる茶髪の青年もいるけど、見たところドラちゃんはそっちより金髪の女性の方を危険視していた。

 細身の剣……レイピアって言うのかな? そんな大剣と比べるとドラちゃんの鱗を破るには心細い武器を使ってるにも関わらず、バッサバッサとドラちゃんの肉を削いでいった。

 しかも剣を振るう傍らで風属性っぽい魔法も使ってるし……いやホント凄いわね。

 

(───って! なに余裕綽々と観戦してんのよ私!)

 

(はっ!? そ、そうじゃん。どどどうしようもう一人の私ぃ〜!)

 

(私だって何が起きてるか分からず困ってるのよ! と、とりあえずドラちゃんを止めた方がいいわよね?)

 

(うん、それもそうよね)

 

 私は急いでドラちゃんに戦わないよう命令しようとした……けど、

 

(いや待って、このまま命令すると向こうさんが勢い余ってドラちゃんを殺しちゃうんじゃ?)

 

 ドラちゃんが野生のモンスターとかだったら私も何も言わないけど、ドラちゃんは私の命令を忠実に従ってるだけだ。しかも深淵魔法を使って無理矢理やらせて、だ。

 

(うん、それはダメ)

 

 ただでさえ魂を弄ぶという冒涜をやっているんだ。その上で私の勝手な都合で命を失わせたとなれば、私は自分を許さない。

 

(……まあ、同じ私だからその理屈には同意するけど、だったらどうするの?)

 

(う、うーん)

 

 結局振り出しに戻ってしまった。どうすれば穏便に事を収めれるのかと考えていると、

 

「〜〜〜っ!」

 

 後方で待機していた小柄な少女が、私を指さして何かを言う。

 

「〜〜〜!?」

 

 それに金髪の女性が反応し、こちらに顔を向けた。

 

(あ、そうじゃない。普通に声を掛ければいいだけの話じゃんこれ!)

 

 何を小難しい事を考えていたんだろうか。相手は人間なのだから、話しかけて仲裁に入ればいいのだ。

 

 早速声を掛け……ようとして土壇場で気付いた。

 

「◯△☆×□!!」

 

(……なんて?)

 

 そう、ここは異世界。地球でも難しい言語ランキング上位に入る日本語が伝わる訳ないのだ。

 

▽▽▽

 

「だあ〜クソ! 鱗硬すぎんだろ!?」

 

 振り下ろす大剣を阻む鱗に苛立ちを見せる茶髪の青年、グレイル。

 

「早まらないでよねグレイル! 着実にダメージは入ってるんだから!」

 

 そんな彼の隣で私、エレノーラは鱗の隙間を縫うように細剣を振るう事でなんとか傷を負わせていた。

 

「GRRR!」

 

 それでもなお相手は止まらず、前衛の私達に向かって大顎を向ける。

 

「───GRRA!?」

 

……が、それは後方から放たれた水の槍によって妨害される。

 

「サンキューなルキウス!」

 

「助かったわ!」

 

 私達の呼び掛けに後方で魔法を放ってくれた青髪の男、ルキウスは平静を保った声で私達に言う。

 

「お礼は結構です。あなた達はグレータードラゴンの足止めに専念を」

 

「分かってるわ!」

 

「……しかし、流石は脅威度Aのモンスターですね。あれだけ魔法をぶつけたというのに未だ健在とは」

 

 ルキウスの呟きに私も心の中で同意を示す。

 

 竜種系統のモンスターが蔓延る事で有名な此処、『龍々跋扈の大森林』でも目の前で対峙しているグレータードラゴンは間違いなく上位の強さを誇るモンスターだ。

 

 私たちのパーティーランクはBで個々のランクもB以下、本来なら脅威度Aのモンスターに手を出すのは得策じゃない。だけど、

 

「マーヤ、どう! いけそう!?」

 

「す、すみませんエレノーラさん! あのグレータードラゴン、妙に女の子の事を気にしていて救出が難しいんです!」

 

 私の呼び掛けに小柄な少女、マーヤは悲鳴にも似た声で私に叫ぶ。

 

「くっ……!」

 

 なにも私達は嬉々として格上に挑んだ訳じゃない。あのドラゴンの傍らで眠る女の子、彼女を救い出す為に戦っているのだ。

 

 私達がその瞬間を目撃したのは本当に偶然だった。深い眠りに落ちる少女とそれを眺めるグレータードラゴン、恐らくドラゴンは彼女を喰らおうとする瞬間だったのだろう。

 その事実に気付いた時……私は考えるよりも先にドラゴンへ特攻しに行っていた。

 

 パーティーのリーダーである私がいの一番に危ない橋を渡った事、それは反省している。だけど、

 

(ここで見捨てるのも違うでしょう!)

 

 それは私が目指す冒険者像からかけ離れている。それはダメだ。

 

「ハァー!!」

 

 私は密かに詠唱していた風属性の中級魔法『旋風刃(スラッシュストーム)』をグレータードラゴンの顔面目掛けて解き放った。

 

「GRRAAA!?」

 

(よしっ!)

 

 今まで以上に大きな隙を見せたグレータードラゴン、今のうちにとマーヤへ指示を出そうとするより先に、マーヤがこんな事を言ってきた。

 

「あ、エレノーラさん! 女の子が起きました!」

 

「えっ!?」

 

 その言葉に思わず私は眠っていた女の子が居る方へと顔を向ける。

 

 そこには、呆けた様子でこちらを眺める少女の姿があった。

 

「っ! 早く逃げて!」

 

 私は彼女に逃げるよう訴えた。

 

「???」

 

 けど、何故か彼女は困惑した表情で私を見てくる。

 

「混乱するのも分かるわ! けど今はとにかくここから離れてちょうだい!」

 

「……?」

 

(……っ、どういう事? なぜ逃げないの?)

 

 様子を見るに聞こえてはいる筈だ。なのに彼女の表情に焦りは微塵も無く、側に佇むグレータードラゴンに恐れを感じていない。

 

(もしかして、私は何か思い違いを……?)

 

 何か、何かが思い浮かびそうになった時だった。

 

「……」

 

 少女は静かに、腕を引くような動作を大袈裟に取った。

 

「GRRRR……」

 

「え?」

 

 するとどうだろう、さっきまで戦っていたグレータードラゴンは私達から逃げるように飛び退いたじゃないか。

 

「グレータードラゴンが……退きました?」

 

「どうなってんだあこりゃ?」

 

 マーヤとグレイルも突然の事に驚きを隠せずにいた。

 

「……皆さん、あの少女から離れて下さい」

 

 そんな中、ルキウスだけは冷たい声色で私達に指示を出す。

 

「ちょ、ちょっとルキウス!?」

 

 私はいつでも魔法を放てる状態にいるルキウスに、何を馬鹿な事をしてるんだと止めようとする。しかし、

 

「エレノーラ、彼女は先ほど不審な動作を取りました。そしてそのすぐ後、グレータードラゴンが退いたのです」

 

「……っ!」

 

 それは私も見ていた。彼女が怪しい行動を取っていたのも事実、だから私もこれ以上突っかかる事が出来なかった。

 

「おいおいどういうこったあルキウス? その口ぶりだとあの子がグレータードラゴンを操ってるという風に聞こえるんだが?」

 

「にわかには信じ難い事ですが……というより、私も半信半疑なんですよ」

 

 当たり前だ。脅威度Aという強力なモンスターを操る力を、こんな少女が持っているなんて到底信じられる話じゃない。

 かく言う私も信じられず、なによりこの子が悪意を持っているとは思えなかった。

 

「……えっと、ねえあなた」

 

 だから私は、意を決して少女に話しかける事にした。

 

「……☆☆×△%」

 

(ん? 今なんて)

 

 しかし、返って来たのは全く聞き慣れない言葉だった。

 どう返事すれば良いか分からず困っていると……。

 

「……っ!?」

 

 突然、強烈な悪寒が私を襲った。

 

「ん? どしたエレノーラ?」

 

「……い、いえ、なんでもないわ」(今のはいったい)

 

 身も心も、何もかもを覗かれたような冷たい感覚。それを私はほんの一瞬だけど確かに感じた。

 

「……ぁ」

 

「あ? なんか嬢ちゃん喋っちゃいねえか?」

 

「え?」

 

 けれどグレイルの言葉を聞いた私は、後で考える事にしようと意識を切り替えて少女の方を見る。

 

 改めて彼女を見れば、やはりグレータードラゴンを操るような実力を持ってるとは思えない。あの服装は……学園に通う子が着るものに似ているわね。

 

「……ぁ、ぁの、ぇ……っと」

 

「……」

 

 何か言おうとしているが、しどろもどろになって全く聞こえない。話すのが苦手なんだろうか?

 

「あー!? なんだってー?」

 

「ひぅっ!? ぃ、いやそのえっと」

 

「ちょっとグレイル、怖がってるでしょう」

 

「いやだってよー、何言ってんのか全然分かんねーだもん」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「あーいいの! あなたは謝らなくてもいいから! ……えっと、そっちに行ってもいいかしら?」

 

「……」

 

 コクリと、少女が小さく頷いたのを確認すると、私はゆっくりと彼女に近づいていく。

 

「待つんだエレノーラ! まだグレータードラゴンが近くに」

 

「あ、すみません。そうですよね」

 

 私を引き止めようとするルキウスの言葉に、なぜか少女が反応を示す。

 

「◯◯★※¥$」

 

 彼女はグレータードラゴンに向けて聞きなれない言語を使って話しかけた。すると、

 

「……うそ」

 

 グレータードラゴンはその言葉に理解を示したかのように頷き、そのまま後ろへ退いていった。

 

「……」

 

「あ、あなた……いったい何者」

 

 思わず出た言葉に少女は何も返さない。ただじっと、その黒い眼をこちらに向けるだけだった。

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