気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「明日からゴールデンウィークで三連休じゃん? どこ行くよ?」
「前に言ってた映画とかいく?」
「どこでもいい」
「なんだ、順平。暇ならオレと一緒に連休用のトレーニングメニューをこなすか?」
「いやいや、三連休は学生らしく遊びましょうよ……」
土曜日の夜、ラウンジに集まっている皆に声をかける。せっかくの三連休、少しは遊びたい。
「遊ぶのもいいが中期にはテストもあることを忘れるなよ。タルタロスや部活で忙しいのもわかるが学業を疎かにしていいと言うわけではないからな」
「そっちの方も着実に進めてるんスよね、これが。赤点回避は確実ッス!」
「もう少し高めの目標を設定して欲しいところだが……とは言えその姿勢は素晴らしい」
桐条先輩が頷きながら言う。毎週末の放課後には学校の図書室で勉強会を実施している。ゆかりは教え方が丁寧だし、湊はわからないことがない。なにを聞いても答えが返ってくる。超人か?
「順平に教えるのも復習になるし、わからないところは湊に聞けるし、今回はわたしも自信ある、かも?」
「おっ、ゆかりッチも自信満々じゃん! こりゃもう遊ぶしかないネ。真田先輩もトレーニングじゃなくて、たまには息抜き必要なんじゃないッスかー?」
思い返せばいつもゆかりと湊と一緒にいる気がするので真田先輩も誘ってみる。
「俺は身体を動かしている方がストレス解消になる。それに、先輩がいてはせっかくの連休も気が休まらないかもしれないからな。今回は三人で行ってくるといい。美鶴の面倒は俺が見ておく」
「おいおい明彦。お前に面倒を見てもらわなければならないほど私は子どもじゃないぞ?」
「子どもじゃないと言うのなら、一日くらいは休め。睡眠不足だろう。オレの目は誤魔化せないぞ」
「……やれやれ、付き合いが長いのも考えものだな」
「お互い様だな。仮に俺が怪我でもしていたなら勝手にトレーニングをしないように付きっきりで見張るだろう? その点、俺はまだ優しいと思うが」
「負けたよ、明彦。三連休の初日は休むとしよう」
肩をすくめる桐条先輩。なんだ海外ドラマでも見せられてる気分だった。二人とも無駄に面がいいし。
「順平。映画を見るなら実家でもらった優待券がある。人数分あるからもらってくれ」
「え? それなら……あ、でもいいんスか?」
一緒に誘おうとも思ったがゆかりが気まずいかなと思い躊躇してしまう。
「君たちにはなにかと世話になっている。これで返せるとも思ってないが受け取ってもらえると嬉しい」
「今度、美鶴の休暇がてら俺が連れてくさ。たまには映画を観るのも悪くない」
「明彦、私はこういうものは……」
「俺が観たいんだ。付き合ってくれ」
悪いなと思ってる俺に気を遣ったのか真田先輩がフォローしてくれる。人数分あるって言われて誘わないのもなんか変な感じだし、かといって桐条先輩が映画観るのかってのもあるし判断に迷うところだったので助かった。というか最近、真田先輩が俺への理解を深めてきてて困惑する。
「おっ、ひょっとして真田先輩ってば桐条先輩が好みな感じッスか?」
「抜かせ。腐れ縁だ。それよりどうだ? 順平も相手がいないのだろ。美鶴もフリーだぞ」
「うぇえ!?」
「あ、明彦っ! お前なにを言っている!」
からかうつもりが手痛いカウンターを受ける。この人、こんな冗談言う人だったか……?
「一歩引いて全体を見れば見え方が違って見える。今までの俺たちは余裕がなかった。美鶴、お前も少し肩の力を抜け。他者にも自分にも理想が高いのは結構だが、それは自分を追い込むだけでなく、周りもついてこない。わかるだろう」
「くっ……私は、お前ほど単純ではない! 失礼する」
言葉につまり、苛立ちを隠さず桐条先輩は階段を上がってラウンジから出ていく。
「……何かしたか?」
「マジで言ってるんスか……?」
「言葉を選ばなすぎです」
「筋肉バカ」
「……? なにか間違ったことを言っていたか?」
「オレの時もそうだったけど、ストレートに相手の問題点を指摘するのって基本逆効果なんで……」
「付き合いが長いからあの発言じゃないんだ……」
「……筋肉バカ」
「なぜ俺をそんな目で見る」
呆れる俺たちに真田先輩は不思議そうな顔をしていた。本当に脳まで筋肉でガチガチなのかもしれない。
「なんやかんやあったけど、ちゃんと優待券をラウンジのテーブルに置いておいてくれる桐条先輩、優しくね?」
「あれでなくなったものだと思ってた」
「よかった」
次の日、無事にタダで映画を観れた俺たちは駅前のカフェで映画の感想会をすることにした。
「しっかし、暑苦しい映画だったナ」
「今どき時代錯誤ってカンジ?」
「楽しかった」
「ミナっちゃん、あーいうのが好みなの? 1に根性、2に根性みたいなの」
「現実離れしてて面白かった」
「現実じゃ一発で体罰で問題になるよね、あれ。わたしは合わなかったかな。なに言ってるか分かんなかったし」
「凡人は失敗に学び、天才は失敗を超越するってやつでしょ? 鳴り物入りして入ってきた天才部員にまで根性論押し付けてて正直笑ったよネ。あと意味も分かんナい」
湊にはウケたみたいだけど俺とゆかりには微妙だった。半分以上は勢いとノリだった。
「あと監督の過去どう? なんか悪者でいてくれないのが気にくわないってゆーか。主人公に自分の息子を重ねるのはいいけどやり方がなー」
「事情があった」
「辛い過去がありましたって言うの、いいわけじみてるっていうかさ。わたしは無理」
ゆかりが頼んだコーヒーを飲みながら顔の前で手を振る。本当にイマイチだったらしい。
「んじゃ逆にさ、主人公があそこまで堪えて乗り越えれた理由に妹の存在があったわけじゃん? ああ言うのは?」
「心の支えがあってっていうのは好きかも。一途っていうかさ。そういう信じれるものがあるのっていいかも」
「よかった」
「ミナっちゃん、なんかもう全肯定マシーンみたいになってね?」
なんとなくゆかりの好みみたいなのが分かってきた。とりあえず根っからの善人らしい。
「チームメイトに暗い過去があったら?」
「チームメイトってあの盛り上げ役の?」
「そう。ムードメーカーの親友」
「暗い過去……例えばどんなの?」
「いじめとか?」
湊が言っているのは常に主人公を奮い起たせ、励まして苦楽を乗り越えてきたチームメートのことだ。烏滸がましいかもしれないが、なんかシンパシーを感じてしまった。
「いじめか……自分が辛い思いをしてきたから、周りには笑顔でいて欲しい、みたいな? うーん……なんだろ、凄いイヤかも。それってさ、自分はどうなんだろうって」
「いやいや、わざわざそんな暗い話を頑張ってる友達にするわけないじゃん?」
「それでも、わたしなら頑張ったねってちゃんと誉めて、ありがとうってお礼を言いたいかな。あの、主人公だってチームメイトがいたから頑張れてたって部分もあったと思うし、力になれるなら力になってあげたいでしょ?」
「ゆかりッチったら優しいんだから、もう~」
「ゆかりは優しい」
「な、なによその目は!」
仮の話について真剣に考えるゆかりに、俺と湊は温かい目で見つめた。
ゴールデンウィーク最終日は誰と過ごそうかナー?
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湊とゲーセン
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ゆかりと部活の買い出し
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桐条先輩と映画
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真田先輩とトレーニング
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一人でブラブラ(チドリ)