気がついたらテレッテでお手上げ侍   作:TTT

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不思議な少女

 

 「ば、バカ重い……いくらなんでも買いすぎたか……?」

 

 三連休も最終日となり、皆一人の時間を楽しむとのことで一人寂しく街へとくり出した俺はなにを思ったのかタルタロス用の買い出しをしていた。

 

 「もうすぐ試験だし、勉強しといた方がよかったかね。とはいえ、色々と切らしてたしな……」

 

 袋一杯の薬品やら包帯やらを抱えてペンチに腰かけ、空を見上げる。春先とはいえまだまだ肌寒い。

 

 「そこ、どけてくれない?」

 

 「あぁ、ゴメン。オレ一人で占領してた―――」

 

 声をかけられ、謝罪をして場所を空ける。視線を向ければそこにいたのは赤いパッツンのロングヘアーに白いロリータ服を着た少女だった。その両手にはスケッチ用の道具を持っていた。

 

 「あー……っと、素敵な服だな。君によく似合ってる」

 

 「……なにそれ」

 

 驚いているのを誤魔化すためにも、洋服を誉めてみる。不快そうな反応は帰ってこなかった。彼女は俺の横に座るとスケッチブックを取り出し絵を描き出す。

 

 「風景画ってヤツ?」

 

 「話しかけないで。気が散るわ」

 

 「そこは、ほら、席代ってことでサ。少しは付き合ってよ」

 

 「別に、あなたのベンチってわけじゃないのだけれど?」

 

 「そりゃそうだ! ってなんか独特な絵だな。前衛美術って言うの?」

 

 「勝手に覗かないでよ。私の描いたものは、私だけしか分からない」

 

 横から覗き込めば美術の教科書でしかみたことのないような絵が描かれていた。よく言えば前衛的。悪く言えば落書き。そこにどんなものを見出だすかは人それぞれ。とはいえ、目の前の風景を見ながらかいているのだからこれは風景画なのだろう。

 

 「んー……でもさ、俺は分かりたいって思うナ。自分に理解できないものは無視するっての、オレは好きじゃなくてさ。ってなんか馴れ馴れしいかな」

 

 「……なんなの、あなた」

 

 「オレは伊織順平。ジュンペーって呼んでくれていいぜ」

 

 「……自己紹介を求めたわけじゃないのだけれど? ヘンな人ね、あなた」

 

 「よく言われるよ。いい男ってサ」

 

 「バカみたい」

 

 彼女はため息混じりに呟き、またスケッチブックへと視線を落とす。さらさらと描き加えられていくもの全てが俺には理解できず、首を傾げる。彼女は俺がスケッチブックを見ていることをとがめなかった。

 

 「ところでさ、君の名前は何て言うの?」

 

 「チドリよ」

 

 「じゃあ、チドリんだな」

 

 「……好きに呼べば」

 

 「チドリんはさ、絵描くのが好きなのか?」

 

 「別に。ただ、描きたいから描いてるだけよ。こんなのただの落書き」

 

 チドリは目の前の風景とスケッチブックとを何度も視線を往復させながら、スケッチブックに描き足していく。凄いおどろおどろしいが。描きたいから描いてるってことは好きってことだよな……?

 

 「熱中できるものがあるってのはいいよな。オレも野球やってんだ。よかったら今度試合見てくれよ」

 

 「気が向いたらね」

 

 「じゃあ、ここらでアピールして、気を向かせないとな!」

 

 「逆効果よ」

 

 立ち上がって素振りをするが一瞥すらしてくれない。いたたまれなくなりまた座る。

 

 「ゲージュツっての? オレはよく分かんないけどさ、なんかスゲーな。色使いとか。特にここの柱? の赤色なんてホントに血みたいなどす黒い赤で、こっちの空の青との対比が……って、これマジの血か……?」

 

 「え……? あぁ……描き直さないと」

 

 スケッチブックを指差しながらチドリに聞くと、チドリは自分の手首を確認する。そこからはドクドクと血が流れていた。しかしチドリは狼狽えることなく当たり前のような反応をする。

 

 「オイ、ちょっとその手! 怪我してんじゃんか!」

 

 「ちょっ、何なの!? いきなり掴まないで!」

 

 「なんでそんな平然としてんだよ!? 消毒してからガーゼと包帯か……?」

 

 袋から治療品を取り出し、手際よく処置をしていく。タルタロスや部活で慣れたものだ。チドリは最初こそ抵抗していたが途中で諦めたのか退屈そうに周りを見渡していた。

 

 「ほい、完成! てかこんな傷を放置とかあり得ないっスよ、マジで」

 

 「あなたには関係ないわ」

 

 「あなたじゃなくてジュンペーね。あ、ちょい待ってて」

 

 「?」

 

 近くの自販機に飲み物を買いにいく。その道すがらチドリの傷を思い出す。傷は見たかんじ、刃物による裂傷。血管に沿った切れ方ではなかったので大事には至らなかったってところか。

 

 「ほい、お待たせ。トマトジュース」

 

 「いらないわ」

 

 「まあまあ、そう言いなさなんって。出てったもんは戻らないんだからさ、新しく作らなきゃ。リコピン? ってーのが豊富で血を作るのに良いらしいぜ」

 

 「さっきからなんなの!? 付きまとわないで!」

 

 「不快だってのはわかる。けどさ、やっぱり見て見ぬふりはできねーよ。心配なんだ。チドリが」

 

 「……意味分かんない。今日あったばかりの他人になんでそこまでするの?」

 

 「んー……なんでだろな。自分でも分かんないんだけどほっとけないんだ。それに、俺は今日だけで終わらせるつもりはないぜ」

 

 言い訳が思い付かないので、ウインクしながらとぼける。今後どうなるか全くわからないが、目の前で怪我をしているのにほっとけるわけもない。今のところ本当に拒絶はされていないし。

 

 「……もういい」

 

 チドリが短く言って立ち上がる。手早く道具を片付けると来たときと同じように抱えて立ち去ろうとする。なぜかわからないがこのままなにも声をかけなければ二度と会えない気がした。

 

 「またな、チドリん」

 

 口をついて出たのはそんな言葉だった。俺の言葉に一度チドリが立ち止まる。

 

 「……またね、ジュンペー」

 

 意外にもチドリから返答があった。それ以上はなにも言わずにチドリは駅の裏路地の方へと去っていく。

 

 「これは、セーフってことかナ……?」

 

 

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