気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」
「がんばれ、がんばれ」
バットを振ると、時折応援の声がかかる。もはや日課となっている自主練になぜか湊までついてきていた。
「ただバットを振ってるだけで、見ててもなんも面白くないっしょ? てかもう暗いしいい加減帰りなって。送ってくからさ。寮も門限とかあるでしょ」
「さっき連絡入れた」
「女子の門限破りを許容する寮の責任者ってどうなのサ……」
「早く帰ってこいって」
「そりゃそうだよな!? 帰ろうぜ!」
恐ろしいほどに肝が据わっている湊。マイペースと言うか危機感覚があさっての方向というか。そもそもなんでこんなに居座ってるんだろうか。
「順平は帰らないの?」
「オレは日付が変わるまでは毎日ここで自主練してんのよ。試合で結果を残すには1に練習2に努力ってね! ん? 1も2も同じようなモンか?」
深夜に危機感を覚えてない当たり、湊はまだ覚醒してないし俺に付き合って深夜まで残ったら大変なことになりかねない。たしか順平は主人公が覚醒した次の日に覚醒してたし、俺はまだ大丈夫。
「終わるまで見てる」
「あー……じゃあ、今日は練習やめましょーかね。ミナっちゃんったら頑固なんだから」
「本当は家に帰りたくないのでは?」
「…………」
その瞳に全てを見透かされたような感覚に陥る。周りは暗くてほとんど見えないようなものなのに何故かはっきりと湊の顔を認識できていた。
「まあ、そうだよ。簡単な話、オレは目の前の問題から逃げてるってワケ。解決できるとも思わないしな。そこら辺の話はもっと仲良くなってからってことで! 進んで聞かせたい話しでもないしネ」
「わかった」
湊はそう言いうと、それ以上はなにも聞いてこなかった。今はそれで納得してやるって感じかな。とはいえ事業に失敗してDVになった父親から逃げるように母親を説得して逃がした結果、手がつけられないくらい自棄になってる父親の対処なんて考え付かないし、高校生には手が余る。いずれは寮に移るから、のらりくらりやってるわけだが。
「さて、と。んじゃ、帰ろうぜ。もう8時になる。約束通り送ってくからさ」
「そのあとは?」
「そりゃオレも帰るよ」
「嘘つき」
「ぐぇっ、なーんか信用ないね、オレってば」
湊は俺はここに戻って自主練を続けることを確信してる。どうやら心配してくれているらしい。これ結構好感度高くないか? 毎日話しかけたりした甲斐があるってもんだ。
「物足りない顔をしてる」
「あー……確かにようやく身体が暖まってきたって感じだな。階段ダッシュとか鉄棒で腹筋とか基礎トレは欠かせないし、何がいつ、自分を助けるかわからないからサ。物足りないって言えば物足りないかも」
「野球が好きなんだね」
「そりゃ、花の高校生球児ですから! 夢はでっかくメジャーリーガー! は、無理かもしんないけど、中途半端に野球と向き合いたくねぇんだ」
最初は順平だから野球っていう安直な考えで打ち込んでいたけど、これが意外と楽しかった。正直いくら練習しても上達が感じられないのは辛いし、練習もキツい。でも嫌ではない。それはひとえに―――
「好きだからな!」
中学から続けてきた野球は順平にとっても俺にとっても、なくてはならないモノになっていた。きっと、原作の順平は野球を楽しいと思えなくなるのが嫌で、離れてしまったのだろう。その気持ちがわかるからこそ、辛さもキツさも、野球を全力で楽しみたいと思ってる。
「いいと思う」
「ん、んん゛! その、なんだ……ミナっちゃんって、そんな風に笑うんだな。はじめてみたワ……うん」
ふわりと薄く笑みを浮かべる湊に顔が熱くなった。流石主人公顔面力が高すぎる。いや、その顔は反則でしょ。ホントに。
「……まさか同時に覚醒していたとは。この順平にも見抜けなかった」
深夜のコンビニで棺桶になった店員を前に俺はへたりこむ。夜飯を買うためにレジにならび、お金を出して渡そうと財布から店員に視線を戻したらこの様である。
「まあ、でも確かコンビニで半べそかいてるところを真田先輩に助けられるはずだから……」
「順平?」
「はいはい、ジュンペーですよーっと……?」
レジで頭を悩ませるオレに声をかけてきたのはやけに聞き慣れた声だった。
「ミナっちゃん!? なんでここに!?」
「差し入れ」
Tシャツにジーパンと言うラフな格好のミナっちゃんが手に持っているかごを軽く持ち上げる。
「……誰の?」
「順平」
「オレのせいかーーーーーっ!」
「?」
その場で四つん這いになり叫ぶ。俺が色々と壊してしまったらしい。こんな展開ではなかったはずだ。
「と、とにかく! 明らかに様子がおかしい。ひとまずはミナっちゃんの寮まで避難しよう。一応、学校の施設だしかくまってくれるでしょ」
「? わかった」
もっともらしい理由をつけて湊の手をひき、寮へと向かうため、コンビニから出る。とりあえず銃がなければ話にならない。蹂躙されて今生の終わりだ。
「…………いや、マジか」
「…………」
「―――――――――!」
コンビニから出た俺たちの前には謎の生き物。無数の手の集合体で、その其々が剣やらお面を持っている。ソレは無数の手にもつ剣の切っ先をこちらに向けることで、明確な敵意を表していた。
「ミナっちゃん。逃げてくれ。どうみてもアレはヤバイ。そんで、可能なら警察を呼んできてくれ。なんとか注意をひきつつ逃げるからさ」
「……そう、アレが……」
湊の前に立ち、バットを構えて叫ぶように伝えるが湊から返答がない。それどころかただボーッと化け物を見つめていた。そしてそんな俺たちを化け物はほっておくわけがなく、その体躯から想像もできない勢いでこちらに跳んでくる。
「クソッタレ! ミナっちゃん早く逃げぇええっ!?」
後ろからいきなり手を引かれ、後ろにたおれこむ。そして、俺が立っていた位置には化け物の剣が突き刺さっていた。
「いぃい!?」
「大丈夫。守るから」
「はい!? いや、ダメだってミナっちゃん! なにしてんのさ!?」
湊はゆっくり化け物へと進んでいく。無様に転がっている俺ではミナっちゃんを庇えない。すぐに立ち上がり彼女を連れ戻さなければ。最悪身代わりになってでも彼女を助けなければ。そう覚悟したとき―――
「ペ…ル…ソ…ナ…!」
湊はなにかを確かめるようにゆっくりと告げる。同時に青白い光が湊を包み、不可思議な風が吹き荒れる。
「ファルロス!」
「ゥォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
「なんだぁあああ!?」
突然、湊の背後に怪物が現れ、咆哮をあげる。その容姿は8つの棺桶を鎖で繋いだオブジェをマントのように背負い、飾り気のない一振りの直刀を構える処刑人のような出で立ち。顔には獣の頭蓋骨を模した無機質な仮面を付けている。俺は知っている。アレは、ペルソナだ。だがあのペルソナは湊の本来のペルソナではない。アレは―――
「(なんで最初っからタナトス呼び出してんの!? てか銃なくてもペルソナって呼べんの!?) ファルロスってなに? え、マジなんなの!? 何がおきてんの!?」
俺が混乱してる間にも状況は変化し、一気に詰め寄ったファルロスが化け物の手を直刀で切り払いながら喰らっていた。そう食べていた。
「食ってる……のか?」
それはまさに捕食と言うべき光景だった。戦いですらない。蹂躙でもない。ただ歴然とした力関係が広がっていた。強者が弱者を喰らう力関係が。
「ォオオ……」
「な、なんだ?」
ファルロスは食事が終わると俺を一瞥し、その体躯を光の粒子へと変えて消えていく。
「……よかっ……た……」
「お、おい! ミナっちゃん!」
ファルロスが消えたのを確認した後、こちらを振り返り湊がその場で意識を失う。すんでのところで受け止める。
「あぁ、もう、何がどうなってんだよ、コレは!」
俺の疑問に答える声は当然なく、後に残ったのは恐ろしいほどの沈黙だけだった。