気がついたらテレッテでお手上げ侍   作:TTT

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勧誘と葛藤

 「えー、まとめますと、この不可思議な夜は『影時間』と呼ばれるもので、適性がない人たちは棺桶に入って眠っている状態、通称『象徴化』しているので影時間のことは認識できない。んで、俺たちの前に現れた化け物は『シャドウ』と呼ばれる存在でミナっちゃんが召喚? して戦わせていたのは『ペルソナ』っていう特殊な力……と」

 

 「その通り。理解が早くて助かるよ」

 

 俺の言葉を理事長、幾月がうんうんと頷きながら肯定する。

 

 俺がミナっちゃんを背負って寮へと連れていくと、寮の関係者が揃い踏みで待っていた。既に手配が済んでいたのかスーツ姿の男二人がミナっちゃんを病院へと連れていった。そのまま退散しようとしたが回り込まれてしまい何があったかを一部始終話させられ、さらに長々と話を聞かされ今に至る。

 

 「いや、どんな漫画だよ!? 授業中にテロリストが~とか言う妄想と同レベルだぞ!?」

 

 「伊織。気持ちは分かるが実際に君も体験したはずだ」

 

 「正直、キツネに化かされたような気分なんすけど……」

 

 桐条先輩、それ、いいから受け入れろってことですか? という言葉を飲み込む。事前に知ってはいるので驚きは少ないが実際に経験すると動揺がすごい。知らないことも色々起きたし。

 

 「そこで相談なんだけど、伊織順平くん。僕たちに協力してくれないか?」

 

 「理事長、いきなりそれは……」

 

 「そうですよ! 順平だっていきなり言われても困ると思います!」

 

 幾月の提案に真田先輩とゆかりが声をあげる。本来なら二つ返事で引き受けるところなんだが、ここまでイレギュラーなことがおきると慎重になってしまう。参加することでより悪化する可能性もある。逆もしかり。少し様子を見たいところだよな。

 

 「とは言え、こうなった以上なにも知らなかった頃には戻れない。それならばいっそ協力関係を築く方がお互いにとって有意義だと思わないかい?」

 

 「……それは、脅しってやつですか?」

 

 「まさか! ただのお願いさ。お互いにとって利益のある、ね」

 

 幾月はそう言って、クイッと眼鏡の位置を直す。早い話が影時間でもシャドウに対抗できる力を与える代わりにこちらの目的に協力しろっていう選択肢のない要求だ。適性を得た以上、このままだといつシャドウに襲われるか毎日怯えて過ごすことになる。そうはなりなくないだろう? と、この男は言っているのだ。脅し以外のなんだというのか。

 

 「理事長。あんた、ろくな死に方しないっすよ」

 

 「明日生きていられるのかも分からないのにかい? 僕たちが動かなければ、君の言うろくな死に方をしない人は増える一方だ。解決するためなら、僕は悪魔にでも畜生にでもなるさ」

 

 「「「…………」」」

 

 幾月の言葉に他三人が押し黙る。いや、騙されるなみんな。こいつ自分のことしか考えてないから。妄想に取りつかれた偏執病患者だから。

 

 「……ちょっと考えさせてくれ。今日は色々ありすぎたっつーか、未だに夢心地っつーか……それに、ミナっちゃんも心配だ。彼女が目を覚ますまでは待ってくれ。ここで決めて、協力させられてるって思いながらじゃ、みんなとも歩幅が合わないと思うんだよネ。安心してくれ、この男ジュンペー、逃げも隠れもしないからサ」

 

 「良い返事を聞けることを期待してるよ。それじゃあ僕はこの辺でドロンしようかな。みんなも眠くなってくる時間帯だけどソファーで微睡んだりしないでね。ドロンだけに。ぷっ! ふっくっくっくっくっ!」

 

 笑い声をあげながら幾月が寮から出ていった。あの駄洒落好きも演技の1つだと知っていると、もはや感心すらしてしまう。

 

 「理事長は相変わらずだな……」

 

 「私もアレはどうかと思うのだが、本人は面白いと思っているのでどうしようもない」

 

 先輩二人が呆れたように頭を抱える。実際、空気が少し軽くなったのを感じる。頭さえおかしくなければ普通に人格者なんだけどな、幾月って。

 

 「ねぇ、順平」

 

 「ん? どったの、ゆかりッチ」

 

 「わたしは、無理して協力してほしいなんて思ってないから。たとえ断っても、なんとかなるようにするつもりだから、安心して決めてほしいなって……」

 

 「……ゆかりッチ、誰彼構わず優しくするのはどうかと思うぜ? 今まで何人の純情な男たちが恋に破れていったことか……」

 

 「は、はぁ!? こっちは真面目なんですけど!?」

 

 「わかってるよ。ありがとな」

 

 「……っ!」

 

 なんか気恥ずかしくてちょっとからかってみたが、流石に失礼かと思い、素直に礼を言う。この初恋ブレイカーゆかりは根が優しいので一年のときからよく男を泣かせていた。

 

 「しかし、感心したぞ順平。危機的状況に陥ったとき、その人間の本質が垣間見えるものだが、誰かを守るために初めて見るシャドウに立ち向かうとはな」

 

 「とっさに身体が動いただけで、実際はなにもできなかったんですけどネ。それどころか助けられて、何があったのかも分からないうちに全てが終わったとサ。穴があったら入りたいって気分っすよ」

 

 「伊織、気を落とす必要はない。君の行動は称えられるべきだ」

 

「オレっち、あんまり褒められなれてないんでこのままだと木どころかビルに登っちゃいそうなんですけど!?」

 

 先輩二人から手放しで褒められるが、この空気に堪えかねて無理矢理話を終わらせる。

 

 「そんな君だからこそ、共に戦ってほしいと私は思ってる」

 

 「おい、美鶴…」

 

 「ウソ偽りない、本音だよ。それだけは誤解されたくなかったんだ」

 

 桐条先輩が自嘲気味に言う。そこにはどんな想いが込められているのだろうか。

 

 「今日はもう遅い。空き部屋があるから泊まっていくといい。ご両親には私から連絡しておこう」

 

 「あ、いや、結構頻繁に帰らなかったりしてるんで連絡は大丈夫っす!」

 

 「おや、そうか。ふふっ、意外に反抗期だったりするのか?」

 

 「そりゃもう。いつから始まったか忘れるくらいには長い反抗期っす」

 

 親父に居場所割れても面倒なだけで百害あって一利なしだしな。

 

 

 

 

 

 「おーす、ゆかりッチ! 一緒に病院行こうぜ!」

 

 「別にいいけど、放課後になってまっすぐにこっち来てその発言は空気読めなすぎ。お見舞いって言いなさいよ」

 

 次の日の放課後、ゆかりに声をかけるが呆れたように返される。確かに言葉足らずだったか。そのまま二人で湊の入院してる病院へと向かう。

 

 「で、どうするか決めたわけ?」

 

 色々と駄弁りながら歩みを進めていると、唐突にゆかりが聞いてくる。俺の答えが気になっていたらしい。

 

 「正直言うとまだ悩んでるんだよネ。オレってばあんまり頭よくないからさ。考えたとこでぐるぐるしてくるんだワ。何時もなら限界まで体力使って、頭真っ白のときにふっと沸いてくる考えがオレの本心なんだけど……」

 

 「けど?」

 

 「その答えがやっぱりわからん! だったんだよね~……もうお手上げ侍」

 

 いや、もうほんと分からんかった。原作からずれちゃったから指標がなくてさらに悪化したらどうしようかって考えちゃう。頭空っぽにしてもこれなんだから、どうしようもない。

 

 「えぇー……?」

 

 「えぇーだよネ」

 

 「なんで他人事なのよ……」

 

 ハハッと軽く笑って流した所でちょうど病院にたどり着く。1階の受付で声をかけ、病室を聞き、そこへと向かう。

 

 「…………」

 

 「あれ? もうお目覚めだった?」

 

 「どう? 元気そ?」

 

 病室にはいると、湊はボーッと窓の外を見ていた。軽く声をかけ、ベッドの横の椅子に座る。

 

 「おはよう」

 

 「相変わらずのマイペース。流石ミナっちゃん」

 

 「目が覚めてよかった。体調はどう? ナースさんが、目が覚めたらそのまま帰っていいってさ」

 

 二人で湊に話しかけるが、反応が弱い。というか気がついたら病院だったのに第一声がおはようなのは大物過ぎる。

 

 「無事でよかった」

 

 「おう! おかげさまでなんとかな。ありがとな」

 

 「ゆかりも来てくれて嬉しい」

 

 「や、私はべつに……うん。それで色々と気になってると思うけど、今日の夜に4階の作戦室まで来てほしいの。そこで、詳しい話がされるから」

 

 「わかった」

 

 ゆかりの言葉に湊は小さく頷く。何故か湊の後ろに昨日見たペルソナが見えた気がした。

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