気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「わかった」
「いやいやいや! もうちょい真剣に考えろって!」
その日の夜、シャドウ討伐を目的とする特別課外活動部に勧誘された湊は二つ返事で了承した。あまりの即決に声をあげてしまう。
特別課外活動部は、幾月曰く「シャドウを倒すための選ばれた集団」らしいがこの特別感を演出する謳い文句は俺の不快感を煽る。とは言え主人公が入部しないことには話が進まないのだが……
「なんで?」
「いや、なんでって、何が起きるか分からないし危険だろ。昨日みたいな怪物と戦うんだぜ? 昨日まで普通の学生だったのにさ。もうちょい慎重に考えた方がいいだろ?」
「なにもしない方が危険だ」
「それは……そうかもしんないけどさ。でも、影時間だって永遠に続く訳じゃないし、部屋に引きこもって寝てれば朝になるだろ」
「それじゃ、なにも変わらない」
「それってさ、オレたちがやらなきゃいけないことなのかよ……」
よく分からなそうに首をかしげる湊に歯切れ悪く答える。湊と話しながら、俺は自分が2つの視点で考えていることに気がついた。1つは伊織順平としての視点。巻き込まれ、さらに身の丈に合わないリスクを背負わされそうになり、戸惑っている。
2つ目は俺個人としての視点。曖昧ながらもこの先の展開を既に知っていて、それから逸れることに不安を感じている。死なないためにも原作通りに進めたいが、伊織順平としてのオレはこのまま関わることによって死ぬかもしれないと感じている。
とどのつまり――――
「ああ、そうか。俺は死ぬのが怖いんだ」
いくら順平になりきっても結局は真似事でしかなくて、俺にはヒーロー願望はなく、盲目的に自分を信じることができない。だから、死ぬのが怖い。自分は絶対に死ぬことはないと信じれない。原作の順平は考え付くことすらないことに俺は囚われていた。
「まだまだやりたいことが沢山ある。夢だって……なのに、たった1日変な体験しただけで、そう言うの全部なくなっちまうかもしれねぇって言われて、はい分かりましたってなるわけねぇだろ!」
「順平……」
俺のみっともない叫びにゆかりの表情が曇る。
俺はこの世界で生きていて、この先も生きていたい。やりたいことが沢山ある。心のどこかで物語だからと他人事で、でも実際に影時間を経験し、それが、現実になった。
「僕が守る」
「……なんだって?」
「順平は死なない」
「…………」
「だから、順平は断っていい」
心ばかりが冷静で、身体がついていかない感覚が緩やかになくなっていき、バラバラだった二つがピタリとはまった感じがした。
「は、ははっ……なんだよお前。物語の主人公かよ。欲しい時に欲しい台詞言ってくんなよ」
「頼ってくれていい」
淡々と答える湊に思わず甘えそうになる。だが、そうなると湊は誰に頼ればいい。全部一人で抱えて、一人で犠牲になるタイプの人間だぞ。
「あーあ、ダセェ。ほんとーにダセェじゃん、オレ」
「俺も美鶴も、引けない理由があってここにいる。誰もが理由を抱えている訳じゃないからな。順平の反応は、当たり前のことだ」
「すまない……私は……」
「気にしないで大丈夫っすよ。覚悟、決まりましたから」
神妙な面持ちの先輩二人に笑いかけ、気にするなと意思を伝える。明日を迎えるために今日を全力で生きようと心に決める。
「んじゃ、この不肖ジュンペー微力ながら力添えいたしますってネ!」
「無理しなくていい」
「無理なんかしてねーよ? いや、怖いけどね? まあ、でもさ、ミナっちゃんが守ってくれるんだろ? オレの背中、預けるぜ。だからさ、その、さっきの今で、頼りないかもしれないけどよ、オレにもミナっちゃんの背中、預けてくれよな」
「よろしく」
「おう! よろしくされた!」
差し出された湊の手をガッチリと握って握手する。うまく言語化できないが、湊との絆のようなものを感じた。
「話はまとまったようだね。僕たちは君たち二人を歓迎するよ。これが君たち専用の召喚機だ。自分に向けて撃ち込めば、ペルソナを召喚できるはずだ」
幾月がアタッシュケースをこちらに渡してくる。中には銃と腕章が入っていた。
「かっこいい」
「無邪気だねえ、ミナっちゃんは……」
「気に入ってもらえたようで何より。有里くんもまだ病み上がりだし、詳しい使い方とかは明日にしよう。何か聞きたいことあるかな?」
「それなら、ゆかりッチが戦う理由ってなんなのサ」
ここぞとばかりにゆかりに質問を投げ掛ける。お互いの相互理解をしておかなければこの先なにが作用するか分からない。
「えぇ!? 私? 私はべつに……」
「おいおい! オレだけ丸裸にして自分は隠すなんて、たとえお天道様が許しても、このオレっちが許さないぜ!」
「気持ち悪い言い方しないでよ、気色悪い! そんなんだから彼女ができてもすぐに別れるのよ?」
「言葉のナイフがオレの心を抉ってくるんだけど……」
真面目に聞くところだったらしい。カウンターどころか滅多刺しにされた。彼女ができてもすぐに別れるのは言わなくてよくないか? 湊から滅茶苦茶視線を感じるんだが。
「だいたいそれなら私よりも先に聞く人がいるじゃない。ねぇ、桐条先輩! この際だから聞きますけど、先輩たちが戦う理由はなんですか?」
「そうだな……ここで話さないのは不誠実……か。落ち着いて聞いて欲しい。影時間が発生したのは……桐条が原因なんだ」
桐条先輩の言葉に皆が息を飲む。それを聞きながら俺は、そういえばそうだったなーと内心思った。