気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「10年前に月光館学園でシャドウの力を利用する実験があって、それが失敗して影時間とタルタロス? が発生した。桐条先輩はその贖罪のために苦しむ父親を守って助けるために戦っている……と。えぇーと、なんか、壮大な話、だったナ?」
桐条先輩から飛び出した話はこれまたぶっ飛んだもので、皆は押し黙っている。
「なんですか……それ」
そんな沈黙を破ったのはゆかりだった。
「それってつまり、無関係なわたし達を使って、そのときの事故の後始末ってことですよね!? ……騙したんですか」
「……すまない」
ゆかりが怒気を孕ませながら桐条先輩を睨み付ける。その言葉に桐条先輩は顔を伏せる。
「なんですか、それ……これじゃあわたし達、都合よく利用されてるだけじゃない!」
「落ち着け、岳羽!」
「真田先輩だって、知ってたんですよね!? それとも、戦う理由なんてどうでもいいってことなんですか!」
「そんな風に言った覚えはない!」
真田先輩が止めにはいるが、ゆかりは真田先輩にも声を荒げる。あまりよくない状況になってきた。
「そうだよな、ゆかりッチ! ふざけるなって話だ! 聞いてたら腹立ってきたぜ!」
「順平?」
いきなり立ち上がってゆかりに同調しだす俺に湊が不思議そうにこちらを見る。どうやら本気ではないことを見抜かれてるらしい。
「こっちは死にかけて、選択肢なんかほぼないような中、この部活に参加させられてるのに、その理由は自分達の後始末ダァ!? ふざけんなって話だ! てめぇらの都合にこっちの命賭けさせてんじゃねぇよ! なぁ、ゆかりッチ!」
「え、あっ、うん……そう、そうよ!」
「オマケに事故起こした当人達もいやしないのに、それをなんで無関係のオレ達が後始末してやらなきゃいけないんだよ! 父親を守りたいだかなんだか知らねぇけど、桐条先輩一人で守ればいいだろ、付きっきりでサ! 皆、守りたい大切な人がいるんだからサ! やっぱり引きこもってやり過ごした方がいいって! 他の人の事情よりも今、オレは騙されたって不快感が拭い去れない! なぁ、ゆかりッチ!」
「あ、うん……」
「……どう? 落ち着いた?」
「……ずるいよね、ジュンペーって」
「いいオトコってことかナ?」
「耳腐ってんの?」
「ひでぇな!?」
ゆかりはため息を付き、不承不承に押し黙る。少し冷静になり、ここで騒ぎ立ててもなにも進まないことに気がついてくれたらしい。やはり人を落ち着かせるにはそいつ以上に騒ぐのが効果的だな。
「すべての発端は桐条だ。その贖罪のため、私のお父様は身を削りながら行動してる。私は、その手助けをしたい。最初に伝えてしまえば、君たちは協力してくれないかもしれないと思い、わざわざ伝えることをしなかった。だが、岳羽の言う通り、都合がよすぎた。本当に、すまない」
「…………」
ゆかりもどこか思うことがあるのか、なにも言わずに黙っている。
「まあ、結局のところシャドウと戦えるのはオレ達だけで、後はそれぞれが納得して戦うのか、それとも関わらないのかを決めるだけってことじゃないかナ。俺は覚悟できてるぜ。あとはそうだな……桐条先輩からは謝罪じゃない言葉を聞きたいっすね。騙してる訳じゃない、騙されてる訳じゃないって明確にするためにもサ」
「……伊織」
俺は努めて明るく、桐条先輩にウインクしながら言う。こっちの覚悟はできている。死なないために、そして死なせないために。俺はこの現実を足掻いて生きていく。最後まで。
「都合が良いことは分かってる。騙していたのも謝罪する。その上で、私たちに力を貸してくれないだろうか。よろしく、頼む」
そう言って桐条先輩は深々と頭を下げた。
「オレのことはジュンペーって呼んでくださいよ、桐条センパイ! この男ジュンペー! 力になりますよ。全部ぶっ飛ばして、センパイのお父さん、助けましょう! なっ、ミナっちゃん!」
顔の前で力強く拳を握り、ミナっちゃんへと同意を求める。
「イヤだ」
「この流れでふざけますか、普通!?」
ミナっちゃんは短く答え首を振った。相変わらずのマイペース。空気詠み人知らずだった。
「んで、ゆかりッチはどうする? あれ、なんかこの前と逆だな」
病院へ行く時はゆかりが、今は俺が、同じ質問を投げ掛けている。戦うのか、そうでないのか。
「順平が発端ってのは癪だけど、本格的に戦う前にこの話ができて、良かったと思う。まだ納得はできないけど、飲み込む。私も譲れない理由があるから、戦うわ」
「ほい! んじゃ、仲直りってことで! 皆それぞれ理由があって、その上で一緒に戦う仲間だからネ」
パンッと手を叩いて、まとめる。ひとまずは乗りきったと思っていいだろうか。
「すまない…」
「こういう時はありがとうって言ってくれた方が嬉しいっす」
「ありがとう……順平。……な、なんだ、照れるな。名前で呼ぶというのは…」
「……!?」
照れくさそうにお礼を言う桐条先輩を見て真田先輩が驚いている。そりゃ、真田先輩も名前で呼ばれてるのにこの反応されたら驚くよな。
「なーんだかなあ」
「…………」
そんな様子をゆかりと湊はなんとも言えない表情で見ていたのだった。