気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「しっかし、一日で色々ありすぎたナ……オレっち頭がパンクしそう」
「どうなるかと思った」
「それな! ゆかりッチなんてすごい剣幕で噛みついてたし」
「もう! 蒸し返さなくてもいいでしょ!」
ラウンジのテーブルで湊とゆかりと三人で話す。先輩二人は作戦室で今後の方針を打合せするらしい。
「……ところでさ、理事長の話、どう思う?」
「始まりの12のシャドウを倒せば影時間がなくなるって話?」
「そそ。なーんか都合よすぎるっつーか」
結局のとこ12体の大型シャドウを倒しちゃうとゲームオーバーなんだよな。どこかで止めなきゃいけないんだが、そうすると影時間はなくならなくて皆困る。かといって原作通りに進めれば――――
「?」
「どしたの? 急に湊のこと見て。あ、なんかやらしいこと考えてないでしょうね!?」
「ち、ちがわい!」
首をかしげる湊を見て、絶対に犠牲になんてしたくないと思った。
「ただ、腹くくるしかねぇなと思ってさ。頼むぜ、リーダー」
「僕が?」
「ミナっちゃんが一番適任っしょ。実戦経験もあって度胸もある。あ、勘違いするなよ? 押し付けようってんじゃないからな。オレたちも全力でサポートするからさ。な、ゆかりッチ!」
「そうね。私も湊が適任だと思う。戦闘じゃジュンペー、頼りなさそうだし? 私がしっかりサポートしてあげるわね」
「ぐっ……見てろよゆかりッチ。頼りになるとこ見せてやるからサ。まあ、でも? ミナっちゃんがどーしてもリーダーやりたくないって言うならオレっちがリーダーやってもいいんだぜ?」
「大丈夫」
若干やりたい雰囲気を出しつつ聞いてみたが、特に気にした素振りもなく湊は短く答えリーダーを引き受けてくれた。でも、その言い方だと俺にはリーダー任せられないみたいな感じに聞こえるのだが……
「ふっ、ダサッ」
「鼻で笑うのはちがくねぇかなぁ!? いいのか? 泣くぞ? 高校生がみっともなく泣くぞ!?」
「ゴメンって。ジュンペーって気安いからつい、からかっちゃうって言うかさ」
顔の前で手を立てて謝罪するゆかりに思わず毒気を抜かれる。
「くそー、怒る気失せるワ。卑怯はどっちだよ。美人はずりぃよなァ……これも男のサガってやつですかねー……」
「んなっ! さらっと恥ずかしいこと言うな!」
「おごっ! わ、脇腹ァ……!」
「仲良いね」
「「仲良くない!」」
照れ隠しなのかゆかりは俺の脇腹を殴り付けてくる。結構いいところに入り鈍い痛みが走る。そんな俺たちを見て湊は微笑んでいた。昨今流行らないぞ、暴力系ヒロインなんて……ん、今って2009年か。……どうなんだ?
「そういや、ミナっちゃん割りと笑うようになった?」
「自分じゃわからない」
「そう? なんつーの? こう、ガハハって感じじゃなくてふわって微笑む感じの。儚げつーか、消えそうな感じつーか……」
「なに? 湊をナンパしてんの? 引くんだけど」
「オレ、ゆかりッチになにか恨まれることでもしました……?」
「や、ホントに落ち込まないでよ。悪いことしてるみたいじゃん」
「自覚がないってか!? オレっちのガラスのハートはボロボロだヨ!? 照れ隠しなのはわかっけどサ、照れ隠しでもオレ以外には攻撃的な発言は控えた方がいいぜ。絶対にゆかりッチのためにならねーし、頻度が多けりゃ敵作るだけだって」
「…………」
妙に攻撃的なゆかりに思わずたしなめてしまう。なんか本当に気持ち悪いことを言ってしまった。
「あぁ、いや、悪い。ナニサマのつもりなんだって思うよな――――」
「……ゴメン」
怒らせてしまうと思い慌てて謝罪しようとするが、俺に投げ掛けられたのは意外にも怒号ではなく謝罪だった。
「あ、あれ? 今のは余計なお世話とかナニサマのつもりとか気持ち悪いって怒られると思ったんだけど……?」
「そっちこそ私をなんだと思ってるのよ……順平の優しさに甘えて、酷いこと言ってた。ゴメン」
「いや、オレは気にしてねーけど……」
「ちょっと、部屋に戻るね。色々と整理したいって言うか。今日はありがとね。これからも、その、よろしく」
「お、おう?」
ゆかりは少し頬を赤らめ、少し気恥ずかしそうにそう言って階段を登ってラウンジから出ていく。
「なんだ……なんだ? なんかした、オレ?」
「人たらし」
「人たらし!?」
湊に問いかければ、湊は呆れたように首を振り、短く答えた。
「おや、君たちか」
「あ、あぁ、桐条センパイ。ちっす!」
打合せが終わったのか、桐条先輩が階段を降りてラウンジへとやってくる。軽く挨拶をすると、桐条先輩は先ほどまでゆかりが座っていた席に腰かけた。
「ふっ、部活動という体裁はあるが、私たちは仲間だ。先輩後輩の上下関係は気にしなくていい。自然体で接してくれ。その、距離を作られてる感じかして、あまり好ましくない」
「そっすか? んじゃ、自然体で!」
「あぁ、そうしてくれ」
「……人たらし」
「ミナっちゃん!?」
湊の言葉に思わず叫ぶ。ヤバい、湊からの好感度が下がっているかもしれない。なぜだ……?
「? 改めて、仲間に加わってくれたお礼を言いたい。ありがとう」
「いえいえ、どうせ放っておけない問題だし、ミナっちゃんにも命助けてもらった恩を返さなきゃいけないんでネ」
「無理に返さなくていい」
「オレがそうしたいからそうすんの。男の子の意地、ないがしろにしてくれんなよナ」
「…………」
「え、なに、その顔」
オレの言葉に湊はなんとも言えない表情をする。悪感情は感じないが、大丈夫だろうか。
「話は変わるが、明日はタルタロスへと行こうと思う。準備しておいて欲しい」
「さっき話に出てたやつっすね。学校がダンジョンみたくなるんでしたっけ?」
「あぁ。シャドウも出る。準備をしておいて損はないだろう」
「準備といわれてもなにをすればいいんすか?」
「気合い?」
「流石に心持ちの問題じゃなくネ……?」
俺の問いかけに湊が斜め上の回答をする。この子の考えていることがよくわからない。
「ふっ、確かに心持ちも大事だが、今言っているのは怪我をしたときの薬や装備のことだな。薬はポロニアンモールで買えるはずだ。装備に関しては明彦が詳しい。曖昧な情報ですまない。実は私はあまり詳しくなくてな……今、手持ちはこれしかないのだが、足りなければ言って欲しい。用意しよう」
桐条先輩はおしゃれな財布を取り出しそこから紙幣を何枚か渡してくる。なんとなしに受け取り確認すると、万札だった。
「ごっ、五万!? 多くないですか!?」
「太っ腹」
「なーに、受けとる気満々なんですかね、ミナっちゃんは……」
「気にしなくていい。君たちに渡すにはそれでも足りないくらいだ。余った分は自由に使ってくれて構わない」
「いや、こっちが構うんすけど……」
「足りない気がする」
「ミナっちゃん!?」
学生の身分で五万は大金が過ぎる。遠慮なしに受け取れる湊は大物なんだろう。
「それくらいの態度でいてくれた方が気持ちがいい。役立ててくれ」
「そこまでいってくれるなら受け取りますけど……貸しってことで必ず返すんで!」
「それを言うなら私はキミに返しきれないほどの貸しがある。私だけでは近い未来、必ず不和が生じていたはずだ。むしろ、なにか力になれることがあるならなんでも言って欲しい。全力を尽くす」
「あー、じゃあ、こんな感じで言うのも気が引けるんすけど、桐条センパイのお父さんに装備お願いできないっすか? ゆかりッチは弓道部だし多分弓使うと思うんすけど矢とかは消耗品なんで、その補充とか。あと、オレは日本刀とか使いたいっすけどどう考えても銃刀法違反なんで、安全に持ち運び出きる方法とか、万が一警察のお世話になったときの根回しとか」
「なるほどな……しかし、お父様に頼るのは……」
俺の提案に桐条先輩は若干の難色を示す。助けたいと思いつつも父親には遠慮がちで、コミュニケーションもあまりとれていないと見た。桐条先輩の性格じゃ仕方ないかもしれない。
「いくら大人ぶっても、結局のところオレたち高校生は世間一般じゃ子どもだからサ。桐条センパイを利用するみたいで申し訳ないっすけど、一緒に食事でもしてもらって、おねだりしてもらえれば助かるなーなんテ。娘に頼られて嬉しくない父親なんていないっしょ!」
「一緒に食事……お父様と……?」
これを機に親子関係も円満にしてもらいたい。俺にはどう足掻いても手が届かないものだから。
「桐条センパイのお父さんも影時間消すために動いてくれてるんすよね? お互いの近況報告も含めて、お願いできないっすか? もちろん、どうしても気まずいとかで無理なら全然我慢するんで! お願いできたらものすごい助かるってだけなんで!」
「しかし……いや、そうだな。近況報告も必要だし、仲間の頼みでもある。明日、タルタロスに行くと言ったが、明後日に延期してもいいだろうか? その代わり、必ず結果を持ち帰ることを約束しよう」
「もう全然オーケーっす! なっ、ミナっちゃん」
「問題ない」
「あ、今回はふざけないのね。突っ込み用意してたのに」
桐条先輩の提案に即答し、湊に同意を求める。今回は普通に同意してくれた。この子、ふざけるのにも緩急つけてくるんだけど。
「では、お父様と連絡をとってくるので、これで失礼する。……その、ありがとう、順平」
軽くお礼を言うと桐条先輩は小走りで階段を登っていく。心なしか浮き足だっているようだった。
「うまく行くといいよネ。センパイとお父さん」
「人たらし」
何度か言われた返しをされるが、湊は不思議と柔らかい表情をしている。
「……ひょっとして褒めてくれてるの、それ?」
「褒め言葉では?」
「あ、そう言うことネ……」
責められてるのかと思っていたが褒められていたらしい。この子難しすぎないか……?
この日は軽く雑談して解散したのだった。