気がついたらテレッテでお手上げ侍 作:TTT
「これ……学校の廊下? なんかすぐ迷いそう」
「迷路みたくなってるしな。そう簡単には行かせないぞってか。いよいよこっから本番か……」
「慎重に進もう」
「そうだな」 「そうだね」
湊の言葉に二人で頷く。真田先輩は後ろで腕を組んで静観してる。
「皆、聞こえるか。ここからは私が声でサポートする。私のペルソナの特性でな。中の構造もわかるのだが、実はこのタルタロス。日によって構造が変わってしまう」
「本当に迷路じゃない……」
トランシーバーを通して聞こえるような桐条先輩の声が脳内に響く。なんとも不思議な感覚だ。
「私もそちらに加わりたいが、外からのサポートが欠かせないんだ。明彦、私の分まで三人のことを頼むぞ」
「任せておけ」
桐条先輩に真田先輩が力強く答え、拳を握る。ギチギチとグローブが軋む。
「君たちのいる場所は、いつシャドウに襲われるかわからない。習うより慣れろと言う言葉もある。十の言葉よりも一の経験の方が得るものも大きいものだ。気をつけて進んでくれ。私も、全力でサポートする」
「「「了解!」」」
俺たちの初めてのタルタロス探索が始まった。
「――――――――」
「前方にシャドウがいるな。岳羽と順平にとって、初めての実戦だ。落ち着いて、危険だと思ったらすぐに下がるんだ。慎重に対処してくれ」
やけに長い廊下のような道を歩いていると、桐条先輩から通信が入る。前方のシャドウに思わず武器を握る手に力が入る。
「シャドウに攻撃する際はそれぞれの持つ武器を使う方法とペルソナによる攻撃がある。まずはペルソナを召喚して戦ってみて欲しい」
「わかった」
桐条先輩の声に湊は迷うことなく召喚機を頭に当て引き金を引いた。
「オルフェウス!」
「ん……?」
湊が呼び出したペルソナは白髪と、背中に背負う竪琴。首元には赤いスカーフが巻かれ、首から下は機械のようになっているペルソナだった。それはまさしく、湊本来のペルソナだった。
「…………」
「お、おう?」
なにかを言いたそうな俺に気がついたのか、湊は人差し指を一つ立てて、まるでいたずらが成功した子どものように微笑みながら口元に当てた。正直、ドキリとした。
「アギ!」
湊の言葉と同時にシャドウが燃え上がる。火が消えたあとにはなにも残っていなかった。明らかに火力がおかしかった。あれほんとにアギなのか……?
「……凄まじいな。湊のペルソナは別格だな。っ! シャドウの反応2つ! 前方と……順平の後ろだ! 明彦!」
「わかっている!」
不意打ち気味に襲いかかってくるシャドウを真田先輩が回し蹴りで蹴り飛ばす。気がつかなかった。一歩間違えればそのまま……
「あ、あざっす! 真田センパイ!」
「見返してみろ、順平」
冷や汗をかきながら真田先輩に礼を言う。真田先輩は追撃はせず、そのまま一歩下がり俺の肩に拳を当てる。真田先輩らしい激励に力が沸いてくる。覚悟決めたんだろ、俺!
「よ、よしっ! やるぞ! やってやろうじゃんよ! 俺の……俺の
目を瞑りそうになるのを必死に堪えて召喚機の引き金を引く。鈍い衝撃が頭を突き抜け、自分の身体から自分が抜けるような感覚に襲われる。それは別の形を形成する。
我は汝……汝は我……
我は汝の心の海より出でし者……
夢を形作るもの『モルフェウス』なり!
振り返ればそれは、宝石があしらわれてる指輪やネックレスなどの煌びやかな装飾を見につけ、肩から上が煙に包まれており不可視で、筋骨隆隆な体型のペルソナだった。
「こいつが……俺のペルソナ……!」
「くるぞ! 順平!」
「っ! モルフェウス!」
真田先輩の声に我に帰り、シャドウと向き合う。
「ソニックパンチ!」
俺の声に応えるようにモルフェウスは拳を振るい、シャドウを的確にとらえる。シャドウはものすごい勢いで壁へと叩きつけられ、その姿を消した。
「よ、よしっ!」
思わず拳を握りしめる。できる……できたぞ……!
「よくやった」
「真田先輩……」
若干、涙目になってる俺に真田先輩が微笑む。きっと今、俺はすごい顔になってると思う。
「もう、男子二人で盛り上がっちゃってさ。私だって……私だってできるんだから! 額に当てて、引き金を引くだけ……! ……っ! ペルソナ!」
ゆかりは目をとじて心を落ち着かせ、意を決して目を見開き引き金を引く。ゆかりが呼び出したペルソナは牛の玉座のような物に座り、両手を鎖で縛られた姿をしており、ゆかりと同じようなピンク色の衣服を身に纏ったペルソナだった。
「ガル!」
突風が吹き荒れ、シャドウを切り刻むと、シャドウはその場に倒れる。ゆかりはその隙を見逃さずに弓で追撃する。シャドウはそれに耐えきれず、黒い煙になって空気に溶けていった。
「やった!」
「周囲に敵性反応無し。見事だ三人とも。とくに順平、岳羽は初戦闘なのによくやってくれた。誇っていい」
桐条先輩の声を聞き、戦闘が終わったことを実感する。生き残った……俺は、抗う力を発揮できたんだ!
「だが、順平は改善点が多いな。一つ、戦闘中に人に気を取られ背後がおろそかになっている。二つ、目の前のシャドウから視線を外し、反撃のチャンスを与えた。三つ、いまだに足が震えてる。だが、そんな心理状態で周りに悟られないようにと自身を奮い立たせて、よく戦った。見事だ」
「さ、真田センパイ……!」
堪えていた涙が溢れだす。真田先輩に男として認められた気がした。
「ちょっ!? あぁ、もうほら、涙拭いて!」
ゆかりがあわててピンク色のハンカチを差し出してくる。遠慮なく受け取り涙を拭く。
「よかった」
「へっ、余裕かましちゃって! これからは頼りになるとこガンガン見せてやるから、見てろよナ!」
涙を流しながらも精一杯笑顔を作り、笑いかける。そんな俺を見て湊は柔らかく微笑んだのだった。