ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
ユングヴィ城を目指して
どうも皆様。私、サムソンと申す者です。……いや、正しくは「サムソンって人に転生した一般人」です。
アカネイア大陸という場所で剣闘士やら傭兵を経験しながらなんやかんや二十七年を過ごしてきた自分ですが、一ヶ月前にこのユグドラルに越して来ました。現在はシアルフィ公国のとある農村に在住しています。
今日も朝から一日元気に過ごそうと家を出たら、なんと盗賊に遭遇しまして。勿論ササッと始末した訳なんですが……そこに一人の騎士が現れました。そして私を見て一言。
「……君は……?」
なんだこのそっくりさん!?(驚愕)えぇ?なんか目元が似てるし青髪って所も同じだし……村人さん達も困惑してるし!あ、これが俺本来の喋り方ね。さっきは動揺しすぎて丁寧な口調になってたけど!とりま自己紹介しとくか。
「わ、私の名はサムソン。一ヶ月前にここに越して来た者だ。失礼だが、貴方は?」
「私はシグルド。このシアルフィの公子だ」
「……色々似てると思う?」
「あぁ。色々似てるな……」
え?公子?つまり偉い人?(知能低下)……やっべ、めちゃめちゃ失礼な態度とってんじゃん俺。他に部下はいないみたいだけど、もしいたら重罪確定だな。と、俺が一人驚いてる間に一人の村人が口を開いた。
「あの……シグルド様、本日はどのような御用で……?」
「そうだった。実はこの先のユングヴィ城がヴェルダン軍に制圧され、エーディン公女が攫われた。近い内にこの辺りも戦場になる。だから村門を閉じて守りを固めてほしい。今シアルフィに残っている勢力は少ない。ヴェルダンと戦うだけで精一杯なんだ」
「……その戦い、俺も加勢させて欲しい」
「君は……確かサムソンと言ったか」
「うむ、俺は旅人。この村に少しでも恩を返したい。元より俺には帰る故郷も無いからな……何度も失いかけたこの命、今更どうなろうが後悔は無い」
「……分かった。私達の力となってくれ、サムソン」
「あぁ」
……俺も変わったもんだなぁ。俺は数年前、アカネイアにいた時に二つの戦争を経験した。俗に言う「暗黒戦争」と「英雄戦争」の二つだ。それを経験したからかも知れないが、俺は自分の身を危険にさらす事になんの抵抗も示さなくなっていた。温室育ちの俺がここまで変わるとは思ってもいなかったな。
「乗ってくれ、サムソン!」
「失礼する!」
俺はシグルドが駆る白馬に跨り、草原を駆けて行った。しばらく南に進むと、二騎の騎士と数人のヴェルダン兵が戦っていた。それを見て、シグルドが更に速度を上げる。にしてもイケメンしかいねぇな、おい。俺なんて二十七のおっさんだぞ?
「ノイッシュ!アレク!」
「シグルドさ……え!?」
「おいおい、シグルド様に双子がいたなんて聞いて無いぞ!?」
「事情は後だ。今は敵を片付けるぞ!」
「はい!」
「後で説明して貰いますからね!」
「分かっている。頼んだぞ、サムソン!」
「了解した!」
俺は馬から降り、銀の剣を抜いた。剣闘士時代に大金をかけて買った愛用品だ。これにはヴェルダン兵達も驚いて、後退りをする。しかしそれをシグルド達が許す訳が無かった。
ノイッシュは鋼の剣による豪快な一撃を、アレクは軽い鉄の剣による華麗な連撃を繰り出す。それぞれの得意戦法で次々と敵を撃破していった。俺も負けてられないな。
「はっ!」
「ぐあっ」
「てめぇよくも!……ぐおっ」
「遅い!」
シグルドの援護も加わり、増援を含めたヴェルダン兵達を一気に殲滅した。このまま勢いよくユングヴィに直行……と行きたかったが、弓兵に行く手を阻まれる。
「こっちに弓兵は……いないみたいだな」
「仕方無い。時間はかかるが引き付けて一気に叩く!」
それが無難だろう。俺達は弓兵の放つ矢を避けつつ、後ろに後退していった。そしてある程度開けた場所に誘い込めれば、後は簡単だ。
「今だ!」
シグルドの号令と共に、俺達は一斉に駆け出す。弓兵を始めとしたヴェルダン兵は対応出来ず、次々に倒れて行った。
「他に増援らしき奴はいないみたいだが……どうする?シグルド公子」
「この勢いのままユングヴィを奪還する!」
「やはり向こう見ずな所は変わっていないな、シグルド」
ふと後ろから聞こえた声。一斉に振り返ると、そこにはやはりイケメン騎士達が。顔面偏差値高くない?(疑問)
「キュアン王子にエスリン、君はフィン!」
「覚えて頂き、光栄です。シグルド様。ところでそちらのお方は……」
「シグルド、君はいつの間に影武者を……」
「兄上とそっくりですね……」
「事情は後で説明する。結構長引きそうだからな」
「同感だ。自己紹介だけしておくが、私はサムソン。旅人だが、今はこの軍に加わっている」
「レンスターのキュアンだ。彼女は妻のエスリン。彼はレンスター騎士のフィンだ」
「よろしく頼む」
「ではこれより、ユングヴィ城を奪還する!私とノイッシュ、アレク、サムソンの四人で突撃を行うから、キュアン王子とエスリンとフィンは周辺の村の救出を頼む」
「分かった。行くぞ、エスリン、フィン!」
「はい!」
そうして俺達は二手に分かれ、別行動を始めた。ここでふと気になった事がある。
「そういえばシグルド公子、まだ他の村がある筈だが……」
「ユングヴィ城を制圧したら急いで救出に向かう。全ての村を救出してからだと遠すぎるんだ」
「シグルド様、あれを!」
ノイッシュが北を指さして言った。見ると、一騎の斧騎士と魔導士が村に向かい走っている。
「あれは……アゼルとレックスか!」
「彼らも応援に来てくれたみたいですね」
「あの二人がいれば勝ったも同然だな、ノイッシュ!」
「アレク!まだ我々はユングヴィ城すら制圧して無いんだぞ!」
「はいはい。全く、お固い奴だ」
「そろそろ着くぞ!」
シグルドが声を上げる。もうすぐそこにユングヴィ城の城門が迫っており、大量のヴェルダン兵がやって来た。
「数が多いな……」
俺も馬から降りて、剣を抜いた。しっかし多いな、十数人はいるぞ、これ。
「敵は大軍だ。飛び出さず、固まって対処する!」
俺達は四方を向き、囲んでくる敵を処理しながら少しずつ城門に向けて進んで行った。俺はなんとか耐えているが、ノイッシュとアレクが負傷してきた。やばい、どこか突破口を開かないと……。
「そこまでだ、ヴェルダンの蛮族共!」
「……キュアン王子!」
「今行くぞ、シグルド!……あっいや、サムソン!」
「何故間違えるのだ……?」
ともかく、今ここでの援軍はありがたい。キュアン達が外側からヴェルダン兵を突き崩してくれたおかげで、なんとか脱出出来た。
「ふぅ……さて、後はユングヴィ城の奪還だけだが……」
「来やがったな、グランベルの腰抜け共め!」
城の頂上から出て来たのは、ゴツいヴェルダン兵。どうやらあいつがリーダーらしい。……ん?
「なぁ、シグルド公子」
「何だ?」
「いや……あいつ鋼の斧しか持って無くないか?」
「え……?」
「キュアン王子、フィン!手槍だ!手槍を投げまくるんだ!」
「そ、それは確かに有効だが流石に卑怯なのでは……」
「同盟を破って攻めて来た奴になんの情けがいるのだ!」
「ぬ、ぬぅ……フィン!手槍を投げるぞ!!(やけくそ)」
「は、はい!!」
「んなっ、ちょ、てめぇらには騎士の誇りとか、いでっ、止めろ!卑怯だぞ!あいたっ!分かった、止めてくれこの通りだうげっ」
「勝てば官軍負ければ賊軍とはまさにこの事か……」
「兄上……あの人何者なの……」
終わったか。そりゃあ負傷してる状態で突っ込ませて反撃されたら怖いし、槍を折られでもしたら面倒だしな。シグルド兄妹がなんか言ってるが、気にしないどこう。
因みに救出されたミデェールがこの事を聞いて青褪めたのはまた別の話。
シグルド……シアルフィ公国の公子。向こう見ずな性格。そっくりさんに出会った。
サムソン……そっくりさん。騎士の誇りなんて物は無かった。
エスリン……シグルドの妹。キュアンの嫁。サムソンに軽く戦慄する。
キュアン……レンスター王国の王子で、エスリンの夫。思い切りが良い。
フィン……レンスター騎士。キュアンの命令と自身の良心に板挟みにされる可哀想な奴。
ノイッシュ……赤緑の赤担当。言うほど赤くは無い。
アレク……赤緑の緑担当。未だにシグルドとサムソンが双子だと思っている。