ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
マッキリー城を制圧したのも束の間、王都アグスティから大規模な騎士団が出撃したとの情報が入った。だが一向にその姿が見えないので、恐らく相手は自身の射程内に引き込んでから一気に叩くつもりだろう。攻め手のこちらが不利となる。
「どうする、シグルド公子。迂闊に攻め入ればシューターと重騎士に迎撃されるぞ」
「分かっている。アグスティ城への道は狭いし、全軍で突撃しようにも入り切らない……どうするべきか」
シャガールはアグスティの全兵力を投入してくる、というのがシグルドの予想だ。まぁ多分そうだろうが。しっかし本当に厄介だな。前方には重騎士とシューターが所狭しと並んでいる。
「……重騎士とシューターは歩兵達に任せよう。敵の騎士団は私達がなんとかする。電撃戦になるな」
「止まったらそこで終わり、か」
シグルドとキュアンが言う。皆もそれに納得したらしい。俺達はマッキリー城を出て、アグスティに向けて隊列を組んだ。
「行くぞ!」
その声と共に、俺達は走り出す。シグルドを始めとする騎兵は重騎士の横を通り抜けようと速度を上げ、俺達歩兵はシグルドを阻もうとする重騎士達を撃破する。そして、そのままアグスティ城への道を駆け上がった。何本もの巨大な矢が降って来るが、それを必死に避ける。
「流石は本拠地か!」
「止まるな!止まれば恰好の的になる!」
アイラがヴェルダン兵達に呼びかける。ヴェルダン兵は重い斧を装備しているので、今回アグスティ城に向かうのは俺とアイラとホリン、そしてジャムカ率いる軽装備のハンター達だ。俺は未だに遠くに見えるアグスティ城目指し、坂道を登り続けた。
サムソンを始めとする歩兵の活躍により、シグルドはアグスティの騎士団と対峙していた。
「私はアグスティ騎士団団長ザイン!侵略者共め、このナイトキラーの餌食にしてやる!全軍突撃せよ!」
「ナイトキラーだと!?」
「あの原理がよく分からん騎士特効の槍か!」
ザインは自身の白馬を駆り、シグルド達に向かって来る。ミデェールが矢で牽制するが、ザインはそれをかわして槍を構えた。
「シグルド公子!ここは俺がやる!」
「レックス!」
「この中で槍に有利なのは俺だけだ。ナイトキラーは脅威だが、だからってやらん訳にもいかんしな……」
「レックス……頼んだ!ミデェール、レックスの援護を頼む」
「はい!」
レックスはザインと向かい合う。
「よう。ナイトキラーとは随分反則気味のを持ってるじゃないか」
「貴様のそれは勇者の斧だろう。お互い様だ」
「かもな」
同時に駆け出した両者の刃が激突した。火花が散り、金属音が鳴る。互いに必殺の威力を持っているが故に、中々距離を詰めれない状況だった。だがその間にも、兵力で上回っているアグスティ騎士団がシグルド達を押していく。
「畜生、グズグズしてられねぇって事か!」
「馬鹿め、焦ったな!」
レックスが仕掛けたのは、その時だった。勇者の斧を振りかぶる……と見せかけ、手斧を投擲。ザインが防御をした隙に撃破するつもりだった。
「小細工を!」
だがザインは一瞬で槍を横に構え、手斧を柄で受けた。手斧が命中した反動で即座に縦に構え直し、渾身の力を込めてレックスを突く。だがレックスも、斧を振り下ろしていた。
「……グッ……」
先に命中したのは、ザインのナイトキラーだった。その長い刃が、レックスの脇腹を深く抉る。勝利を確信したザインは、ナイトキラーを引き抜こうとした。だがその時、ザインの足に鋭い痛みが走る。ミデェールが放った矢が命中したのだ。
「何!?」
その一瞬が、ザインの運命を分けた。引き抜こうとしたナイトキラーの柄を、レックスが掴んで固定していたのだ。そして先程地面に落とした筈の手には、新たな斧が握られている。
「ぐあっ!」
「……念の為、鋼の斧を買っといて助かったな……」
鋼の斧が首元に深く突き刺さったザインは、ゆっくりと落馬して行く。それを見届けたレックスにミデェールが駆け寄った。
「レックスさん!」
「悪いなミデェール、この傷じゃいっとき戦うのは無理だな。畜生、なんて威力してやがる……」
団長であるザインが戦死したのを始めとして、優勢だったアグスティ騎士団は徐々に劣勢に追い込まれていった。レックスは安全な場所まで退避し、エーディンの治療を受けると同時にその意識を暗闇に落とした。
坂道を登った俺達は、城門前のシューターを撃破した。そしてアグスティ城で待ち受けるシャガールと対峙する。
「ぬぅ、ここまでやって来たか!こうなったら、儂が成敗してやる!!行くぞシグルド!!」
「いや、俺はサムソンだ」
「どっちでもいいわそんなもの!!」
シャガールが銀の大剣を振り下ろす。盾を構えたが、直感で受け止めてはいけないと悟った。俺は間一髪でそれを避ける。
「相当重い一撃に見える……」
「サムソン、私達もいる事を忘れるなよ!」
「アイラ、ホリン、気を付けろ。そいつは攻防一体だ!」
「そうだ!この分厚い鎧の前にはそんな細い剣など……」
「これ斬鉄の剣だぞ?」
「えっ」
そこからは早かった。シャガールとすれ違い様に斬鉄の剣で鎧を斬り裂いて、反転してすれ違ってまた斬り裂いて……正直出る幕が無かった。シャガールも抵抗してたが、アイラも刀身で防ぐ。弾き飛ばされても見事な受け身をとられて実質ダメージは0だった。
「な、何者だ!」
「私はイザークの剣士アイラ!覚えておけ!」
その一撃で、シャガールは地面に沈んだ。
「な、なんという……」
「あの敵を前にしてこうも一方的に……」
やっぱアイラはこえぇわ。次元が違う。そこにシグルド達も到着して、俺達は無事にアグスティ城を制圧した。
「シグルド」
その一言で、場が静まる。その声は、凄みと怒りを含んだ物だった。シグルドが声のする方を見る。
「……エルトシャン!」
エルトシャンと呼ばれた男は、金髪の騎士だった。その目は鋭くシグルドを見据えている。
「陛下はこちらで治療させて貰う。……そしてシグルド、これはどういう事だ?王都アグスティは制圧され、マッキリー以外はボルドー王とマクベス王が政治をしているが、徐々にグランベルの役人が介入してきていると言う。返答次第ではお前とて容赦はせん!」
「すまない、エルトシャン。だが私も腑に落ちないんだ。国王は治安維持の為にもこの地に留まるように私に命じられた。エルトシャン、頼む。一年、後一年だけ待ってくれ!そうすればアグストリアとの関係も修復されると国王も約束された」
「……一年か。分かった。所でシグルド、お前いつから影武者を雇った?お前らしくもない」
「……私は影武者ではない。ただのしがない傭兵だ」
「……まぁいい。クロスナイツがいれば、グランベル軍などいつでも撃破出来る。それを忘れるなよ、シグルド!」
「分かった。私を信用してくれ、エルトシャン」
エルトシャンはシャガールを連れて去って行った。
「一年、か……」
その間に、何も起こらなければいいが。