ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
「そんなにシルベールが気になるか、シグルド公子」
「うむ。エルトシャンと戦うかも知れないと思うと……」
「エルトシャンとはどんな仲なのだ?」
「彼とは王都バーハラの士官学校で出会ってな。キュアンもその時に出会った。互いに夢を語り合い、どんな時でも助け合うと誓ったのだ」
まさしく親友、か。そんな奴と戦うかも知れないとは、戦争はやっぱり嫌な物だ。
「だがシグルド公子、指揮官がそんな弱気では勝てる戦も勝てなくなるぞ」
「分かっている。説得はするが、もし断られたら……全力で戦おう」
それが起きないのが一番良いんだけどね。まぁ現実はそんな甘くは無い。もし戦う事になったらシグルドも全力を出すだろう。
そんな話をしていると、ガンドルフとレックス達が帰って来た。村を回ったノイッシュによれば、マディノ城はほぼ陥落、ベオウルフ達が帰還途中だそうだ。流石は傭兵軍団、踏んできた場数が違うか。
「エスリン、エーディン公女、ラケシス王女。帰って来た者達の治療を急いでくれ」
「はい、兄様!」
「分かりました、シグルド様」
エスリンとエーディンが治療に取り掛かる。ラケシスだけが、シグルドを見た。
「シグルド様……」
「どうした?」
「本当に、エルト兄様と戦うのですか?」
「……出来れば戦いたくない。だが、戦う事になるかも知れない。しかし私からも説得しよう」
「ありがとうございます、シグルド様」
そう言ってラケシスは向こうに行った。俺はふとマッキリーの方を見る。すると、二人の男女がこちらへ来ていた。武器は持っていない。……司祭か?
「……む?誰か来たぞ、シグルド公子」
「あれは……エッダのクロード神父だ!すぐにお通しするんだ!」
しばらくして、クロード神父が入って来た。隣には長髪の女子が。まさかクロード神父はロリk(こらこら、私はそんなのじゃありませんよ)……地の文に乱入された、だと!?(衝撃)
「あれ?この人、シグルド様にそっくり」
「あ、あぁ。私はサムソン。今はグランベル軍にいる」
「私はクロードと申します」
クロードの手を握る。めっちゃ強く握りしめられた。いてぇ。
「クロード様、何故こちらに?」
「実は、国で大変な事が起きたのです。……クルト王子が遠征の帰路の途中、何者かに暗殺されました」
「何!?」
その場にいた全員が驚いた。クルト王子といえば、あの若い王子か。確かイザークには国中の諸侯を率いて出撃したらしいな。村にこもってたとは言え、そのくらいは知ってるよ?
「クルト王子のお側にはいつもバイロン卿がおられました。ですが王子が暗殺された日から、彼の姿が見えないのです。……シグルド公子、言いにくい事ですが、王子暗殺の疑いは貴方の父上にかかっています」
「そんな馬鹿な……」
「国では良からぬ噂が出ています。陛下も心痛のあまり倒れてしまわれました」
「ですが父上は陛下に信頼されておられました。何故暗殺などをする必要が……」
「私も真実を調べる為に、北西にあるブラギの塔に行くつもりです。シグルド公子、真実が分かり次第貴方の軍に合流します」
「分かりました。所で……何故ティルテュがここに?」
「だって神父様一人じゃ不安でしょ?」
「だが君はレプトール公爵の娘なのに……」
「難しい事は分かんない!でも神父様は大好き!」
ティルテュがクロード神父に抱き着く。神父はまんざらでもなさそうな顔だ。さっきはごめんね。
「困った子です……ではシグルド公子、また会いましょう」
「はい」
クロード神父とティルテュはブラギの塔へと向かって行った。そうこうしてる間に、ヴォルツも帰って来てたようだ。
「やはりシャガールはいなかった。シルベールに逃げ込んだんだろうよ」
「やはりか……」
「シグルド様!たった今、シルベールからクロスナイツが出撃しました!」
「……遂にか」
その知らせで、戦いは始まった。大陸最強と名高いクロスナイツ。これまで以上に苦しい戦いになるだろうな。
俺達は急いで出撃し、クロスナイツと向き合った。先頭にはエルトシャンがいる。
「待ってくれ、エルトシャン!アグスティ返還の約束は、私の命に賭けてでも果たしてみせる!だからもう少しだけ私を信じてくれ!」
「……すまない、シグルド。もう喋るな。この上は騎士として恥じない戦いをするのみだ。我が魔剣ミストルティン、貴様に破れるか!!」
エルトシャンが剣を抜く。その漆黒の刀身は禍々しく、黒いオーラがエルトシャンを包んだ。
「全軍!グランベル軍に突撃!!」
「……迎撃せよ!!」
シグルドも、覚悟を決めた目で叫んだ。二つの軍が、アグストリアの大地で激突する。シグルドはエルトシャンと戦うつもりだ。数は敵の方が多いので、俺も囲まれる。頑張ってくれ、シグルド。
「行くぞシグルド!」
「来い!」
銀の剣とミストルティンが激闘する。しかし、いくら強力な銀の剣といえども神器であるミストルティンの前には通じず、シグルドが一方的に攻撃を受ける形となった。
「これが、ミストルティン……」
エルトシャンの苛烈な攻撃は続く。シグルドはそれをかわすか、防御するのに手一杯だった。周りを見るも、皆がクロスナイツの前に苦戦している。
「そこだ!!」
「ぐうっ!?」
ミストルティンが一際強く振り下ろされる。それを受け止めたシグルドの腕に衝撃が走り、一瞬だがシグルドの動きが止まった。その一瞬が戦場では命取りとなる。
「……さらばだ!」
「……ここまでか……!」
必殺の一撃が繰り出されようとしたその時、戦場に大きな声が響き渡る。
「シルベールで反乱が発生!シルベールで反乱が発生!!」
兵士の一人が、そう叫んだ。エルトシャンは動きを止め、シグルドに背を向けないよう距離をとった後、その兵士の下に駆け寄った。
「どういう事だ!?」
「大変です。シルベール城で兵士達の大規模な反乱が発生、シルベール城が陥落しました!」
「陛下は!?」
「先程、ロレンス将軍率いる重騎士団に保護されてシルベールから脱出、こちらに向かって来ています!」
「良かった……陛下は無事か」
「陛下からのご命令を預かっております。『グランベル軍との交戦を止め、アグスティ城で兵力を整えてシルベールを奪還せよ、グランベル軍には一時休戦を申し出ろ』との事です」
「分かった。……シグルド!グランベル軍とは一時休戦をしたい。アズムール王も戦いは望まぬ筈だ」
「分かった。だが一体何が……?」
「シルベールでの反乱だ。陛下はアグスティで兵力を整えて反乱を鎮圧せよと仰られた」
「そういう事か。……みんな、戦いは一時休戦だ!!」
「クロスナイツ!直ちに戦闘を中止せよ!!」
二人の言葉で、戦場は一瞬で静まった。その後シグルドはアグスティ城に、エルトシャンはシャガールを保護してからアグスティに向かった。
「シグルド様、どういう事なんですか?」
「シルベールで反乱が発生したらしい。シャガール王も我らと一時休戦し、反乱鎮圧に専念したいのだろう」
「ようやっと戦いが終わったか。……しかし、何故グランベルが介入していないシルベールで?」
レックスが呟く。確かにこの時期に起こる反乱はハイライン、アンフォニー、マッキリー、アグスティのいずれかで、俺達グランベル軍に向けての物の筈だ。それがシルベールでシャガールに対して?何か引っかかる物があるな。
考えていると、重騎士団に守られたシャガールが入って来た。横にはエルトシャンと老齢の重騎士が……老齢の重騎士?
「や、やっとアグスティに帰って来れたか……」
「陛下、直ちに戦力を整えましょう」
「うむ。しかし助かったぞ、ロレンス将軍」
「ロレンス将軍!?」
「む、なんだシグルド!」
「いや、サムソンだ。……それより貴方は……」
黒い眼帯、そして白髪に白髭。何よりロレンスという響き。間違い無い。グルニアで城ごと爆破して自害した筈のロレンス将軍が、俺の前に立っていたのだ。
「おぉ!サムソン殿、久しぶりですな」
「ロレンス将軍……何故このユグドラルに?」
「あの時、運良く生きておりましてな。付近の村の人々に治療を施して貰ったのです。左手は義手ですが……」
ロレンスは左手を俺に見せた。どうやら鎧と盾が一体化しているらしい。まぁ精巧な義手はこの科学レベルの世界じゃ無理か。
「サムソン、この人は?」
「ロレンス将軍だ。私の古い戦友でな」
「ロレンスと申します。以後、お見知りおきを……」
丁寧に礼をするロレンス。う〜む、タフネスおじいちゃんだな。
ロレンス……生きてた。タフネスおじいちゃん。今はアグストリアで働いている。
エルトシャン……黒騎士ヘズルの末裔で、魔剣ミストルティンの継承者。ぶっちゃけCCしたジャムカとかでしか勝ち目が無い。
サムソン……毎回シャガールに間違えられる。