ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
「シグルド様!王宮にディアドラ様のお姿がありません!」
「ディアドラが!?」
俺達は今までアグスティ城の入り口近くで話していた。だからディアドラがいないのは当然だったのだが、王宮にいないとなると話は別だ。
「みんな!急いでディアドラを探してくれ!」
兵士達が一斉に散らばる。俺もディアドラを探し始めた。だがどこに行こうと彼女の姿は見当たらない。しばらく探していると、城内で倒れているシャナンが見つかった。エルトシャンやシャガールも合流する。
「シャナン!しっかりしてくれ、シャナン!」
シグルドが呼びかける。シャナンはゆっくりと目を覚ました。
「あれ……?」
「シャナン、一体何があったんだ!?」
「シ、シグルド……ディアドラは……」
「ディアドラは見つかっていない……」
「た、確か……いきなり黒いローブの魔導士が現れて……それで、ディアドラを魔法で連れ去って行って……」
「黒いローブ……そうだ、セリスは無事か!?」
「セリスなら、無事だよ……ほら、僕が咄嗟に隠したんだ……」
「良かった……」
……今の会話から推測するに、やはり暗黒教団の仕業と見て間違い無い。しかし何故彼女が?
「シグルド公子、これからどうする?」
「……ディアドラの事は心配だ。だが連れ去られたとなると、今はどうしようも無い。まずはシルベールでの反乱についてだ」
「シグルド様、マッキリー方面から騎士団がこちらに接近しています!」
ノイッシュが言う。ここまでの国々は全て制圧した筈だし、ノディオンの騎士団か?と思ったが、俺の予想は外れた。外を見たキュアンが叫ぶ。
「あれは……エリオット!?ハイライン軍だ!」
「何、ハイラインが!?……いや待て、何か様子が変だぞ……」
シャガールが驚く。俺も外を見た。先頭にいるのは確かにあのエリオットだ。だがおかしい、どこもかしこも傷だらけだ。部下達も全員ボロボロだし。
「シャガール王。ここは何があったか聞くべきです」
「そんな事分かっとるわい!エリオット達を中に入れろ!」
アグスティ城に着いたエリオットは満身創痍の状態だった。立っているのもやっとのようで、兵士達に肩を支えられている。そして終いには気絶してしまった。エルトシャンがエリオットを見る。
「酷い傷だ……ハイラインで一体何が起こったのだ?」
「分からない……彼が目を覚ましてから聞くしか無いだろう。彼らの治療を急いでくれ!」
「おいシグルド、貴様偉そうにしとるがな、ここは儂の国だぞ!」
「陛下、今は堪えて下さい。シグルドはいずれグランベルへと帰還します」
「ぐぬぬ……」
この王、よっぽど欲深いらしいな。前回あんな痛めつけられたのに(二章最終話)まだ懲りないとは。呆れを通り越してほんの少し尊敬しちゃうね。こらこらアイラちゃん、俺の隣で僅かに殺気立つのは止めなさい。
こうして俺達は不安を抱えつつも、エリオットが目を覚ますのを待った。
エリオットが目を覚ましたのは、翌日の早朝だった。皆がエリオットがいる部屋に眠気を抑えながら向かう。俺も途中でホリンとアーダンと会った。
「よう、アーダン、ホリン」
「サムソンか。こんな早朝に叩き起こされるとはな」
「ホリンの言う通りだぜ。最近は夜遅くまで守備の仕事があるってのに……」
「アーマー系じゃなくて良かった……」
そんな話をしながら、小走りで向かう。部屋に辿り着くと、大体の面子が集合していた。その中央にはベッドに座るエリオットがいる。シグルドが質問を投げた。
「む、来たか。……エリオット王子、一体何があったのだ?」
「……ハイラインで兵士の反乱が発生した」
「何、それは真か!?」
「はい、陛下。恐らくアンフォニーでも同じ事が起こっているかと」
「アンフォニーでも?」
「アンフォニー城から複数の騎士団が出撃するのが見えた。あれはアンフォニーの鎧じゃない。見た事も無い物だったな……父上とマクベス王は殺されただろう。俺と少数の部下だけが逃された」
「そうだったのか……」
「恐らく反乱軍はアグスティに向かって来るだろう。いくらここにグランベル軍がいるとはいえ、あの量を受け止められるとは思えん」
「それだけじゃない、シルベールでも反乱が発生した」
「シルベールでも……」
……どうやら、俺達の知らない所でとんでもない陰謀が動き始めたらしいな。じゃなきゃこんな反乱祭りなんぞ起こる筈が無い。
「とにかく今は、反乱軍の侵攻に備えるべきか……」
「忌々しいが……ここはグランベルと共闘せねばならんか」
シグルドとシャガールが部屋を出る。他も続いたので、俺も部屋を出た。
「……エリオット」
「なんだ、エルトシャン」
「ラケシスには礼を言っておけ。あいつがお前を必死に治療したのだからな」
「……」
そう言い残し、エルトシャンも退出する。エリオットは一人残された中、黙りこくっていた。
会議は難航していた。なんせ敵の戦力の詳細は不明な上、確実にこちらより多いからだ。流石に三国の総戦力が相手となるとこちらが圧倒的不利となる。
よって、このアグスティに留まって迎撃するかマディノに逃げるかの二択だった。
「陛下」
「エリオット、何かあったのか」
「ここは、我らハイライン騎士団が反乱軍を食い止めます。陛下はその間にマディノにお逃げ下さい」
「何!?あの少数で、反乱軍に敵う訳が無かろう!」
「陛下、父上は既に殺され、ハイラインは事実上滅亡しました。俺だけがおめおめと生きる訳にもいきません」
「…………良いだろう、好きにせい!」
「シャガール王!」
「奴も騎士よ!戦いで死ぬのなら本望であろう」
「……」
「それに、ハイラインやアンフォニーにはグランベルの役人も介入してきている。グランベルも黙っておく訳には行かん筈だ。よし、早速マディノへの移動を開始する!」
「シグルド様、ここは一旦マディノへと避難しましょう。我らがやられてはシアルフィはどうなるのです」
「……分かった。我らも出るぞ!」
こうして、今後の方針が決まった。エリオットも出撃準備をしている。奴にどんな心境の変化があったかは、俺には分からなかった。
「いよいよか……」
エリオットはマッキリーを見つめていた。まだ反乱軍の姿は見えないが、ノディオンを攻略し終えたらこちらに進撃して来るだろう。
「エリオット!」
その声に、エリオットは振り向いた。
「ラケシス……」
「何故?何故そんな無謀な役を買ったの?」
「言っただろう。父上が殺されておいて、俺がおめおめ生きる訳にはいかん」
「でも……」
「ただでは殺されん。父上が預けてくれた、このセプトネイルの槍があれば……」
エリオットはその槍を強く握った。その黒い刃は、太陽光を反射して輝いている。
「確か、ハイラインの家宝……」
「そうだ。代々受け継がれて来たこの槍さえあれば、俺は負けん。……それに」
「?」
「……惚れた女に良い格好を見せずに終わる訳にもいかんしな。……ハイライン騎士団!出るぞ!!」
「!」
エリオットが叫ぶ。エリオットを先頭に、最後の戦いに騎士達が向かった。ラケシスは、それをじっと見つめる。
「何よ、それ……。……あんたなんか、あんたなんか大っ嫌いよ!この大馬鹿王子!!」
ラケシスは力の限り叫んだ。エリオットにこの気持ちが届く事を願って。