ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
トーヴェの天馬騎士
さて、現在のシレジアの状況を整理しよう。このセイレーン城は北東のトーヴェ城に狙われており、本拠地シレジア城は東のザクソン城に狙われている。東西戦かな?(すっとぼけ)内乱だらけじゃねぇかよこの世界。まぁ国なんて基本そんな物か……
「ん?どうした、ガンドルフ」
「なんだ、そっくりか……」
「サムソンだ。顔色が悪いぞ」
「畜生、ここは寒すぎるぜ!しかもあの野郎、当然のように俺の部隊にシレジア城へ援護に行けと抜かしやがった!」
「あの山を越えるのか……」
「下手したら凍死だってんだ!」
そりゃ南国のヴェルダン出身にはきついだろう。まぁ騎馬兵ばっかだし、多少はね?(鬼畜)
「頑張ってくれ、ガンドルフ君」
「けっ!腹くくるしかねぇか……」
ガンドルフは文句を垂れながら歩いて行った。大丈夫かな、あいつら。
「いよいよ戦いが始まる。トーヴェ城のマイオス公が動き出した。恐らく天馬騎士団とも戦う事になるだろう。ガンドルフとジャムカ隊の半数はシレジア城に向かい、他はトーヴェに進軍する。シャガール王には、この城の守護をお任せしたい。エルトシャンも頼む」
「大丈夫なのか?相手は風魔導士共だろう」
「いつドルーアが動き出すか分からない。その時の迎撃はシャガール王の重騎士団やクロスナイツが頼みなんだ。トーヴェ軍は私の手勢で撃退してみせる」
「そうか……では俺はセイレーン城に残ろう。……キュアン、お前はどうするつもりだ」
「私は一度レンスターに戻り、ランスリッターを組織して戻って来よう」
「キュアン、レンスターへの道は遠いだろうが頑張ってくれ。旅の無事を祈ろう。エスリン、フィンも無事でな」
「分かりました、兄様」
「シグルド様、お世話になりました」
キュアンを始めとした三人は、セイレーン城を出て南へと走って行った。次会えるのはいつになるだろうか。その時まで生き残らなくてはな。
「では出撃するぞ!」
シャガールからも特に異論は出なかった。正直そこが一番不安だったけどね。フュリーの情報によると、トーヴェ城にはマイオスに仕えるディートバという天馬騎士がいるらしい。シレジア四天馬騎士の内の一人だとか。なにそれ強そう(小並感)マイオスの兄、ダッカーがいるザクソン城にはディートバの姉のパメラがいるらしい。
「寒い……」
「イザークはイード砂漠の隣にあったからな。なんて寒さだ……」
アイラとレックスが震えてる。アカネイアにいる時アンリの道を通ってて助かった。あそこに比べればここはマシな方だ。俺達は森の前までやって来た。敵の不意打ちを警戒しつつ、少し速度を落として進む。
「おいホリン、気を付けろ。魔導士の強襲があるかもしれん。……ホリン?」
俺は気になって最後尾にいたホリンの方を向いた。そこには、既に倒れているホリンの姿があった。
「……!?おい、ホリン!くそ、スリープの杖か!」
ホリンを抱え、叫ぶ。
「攻撃は始まっている!敵はスリープの杖を持っているぞ!!」
「何!?……サムソン、後ろだ!」
振り向くと、そこには巨大な風の刃が。やばい、ホリンを抱えたままじゃ動けない!
「サムソンさん!」
「ミデェール!」
咄嗟にミデェールが放った矢は、刃を放とうとしていた魔導士に命中。魔導士が倒れた隙に、俺はホリンを移動させた。
「囲まれているのか!フュリー、上空から司祭を見つけだせるか!?」
「分かりました、レヴィン様!」
フュリーが飛び立つ。幸い敵に弓兵はいなかったらしく、彼女に向かって矢が飛ぶ事は無かった。
「レヴィン様、見つけました!エルウインドを!」
「分かった!」
嵐のように風の刃が飛び交う中、レヴィンはフュリーが指し示した方向にエルウインドを放った。しばらくして、木陰からは一人の司祭が出て来た。
「馬鹿な……何故儂の位置が……」
手にはスリープの杖が握られている。こいつが敵のリーダーと見て間違い無いだろう。司祭は地面に倒れ、沈黙する。それを皮切りに、攻撃もだんだんと収まっていった。
「おいホリン!起きろ!」
「う、うぅ……眠っていたのか……」
「なんとか切り抜けられたが、やはり厄介な敵だ。シグルド公子、さっさと森を抜けよう」
「いや、そうはいかないらしいぜ……」
レックスが空を見て悪態をついた。見上げると、遠くから天馬騎士団が迫って来ている。あれがディートバの部隊か。
「次から次に来やがって!」
「ミデェールとジャムカ隊は弓を構えろ!ブリギット、イチイバルで迎撃してくれ。クロード様はエーディンと共に回復の準備をお願いします!他は強襲に備えるんだ!」
シグルドから指示が飛ぶ。各員が準備している間にも、敵はどんどん接近して来た。やがて巨大な天馬騎士の塊がはっきりと見えてくる。
「我が名はディートバなり!可哀想だが死んで貰おう!!」
「私達はここで負ける訳にはいかない!弓を放て!!」
「そんな物が通じるか!」
何本もの矢が天馬騎士団に向かって飛んで行く。だが部隊は当たる直前に散らばり、全ての矢を避けてしまった。
「空から仕掛けろ!我らの力を見せてやるのだ!」
ディートバが命令する。すると天馬騎士団が猛スピードで空から迫って来た。
「くっ、地上戦か!」
「地上戦なら俺達傭兵軍団に任せとけよ!」
「シグルド様、ヴォルツに置いていかれない内に敵を叩きますよ!」
「あぁ、敵を迎え討つぞ!」
騎馬兵が天馬騎士を足止め、その隙に歩兵が敵を叩く。だがディートバも素早く指示を飛ばし、天馬騎士の一撃離脱が繰り返された。
「畜生、勇者の斧でも攻撃が当たらないぜ!」
「レックス!君は一旦退いてクロード様の援護を頼む!」
「任された!」
「しぶとい奴らめ……!」
レックスは馬を下がらせた。そこに出来た穴に、苛立ったディートバが突撃してくる。振り下ろされた剣をノイッシュとアレクが受け止めた。
「何!」
「悪いな、女性に手を出すってのは嫌なんだが……」
「仕方無い、これも戦争だ」
動きが止まったディートバは、剣撃をもろに喰らった。呻き声を上げ、なんとか上空に離脱する。だが、最早速度を失った天馬騎士は的でしかなかった。彼女に更に数本の矢が突き刺さる。
「こ、こんな所で……」
ディートバは天馬から落馬し、地面に叩きつけられる。司令塔を失った部隊は、シグルド達の敵ではなかった。次々と各個撃破されていく。
「……終わったか」
「らしいな。だがこの先も森が広がっている。また魔導士の奇襲があるかもしれん」
辺りは先程の喧騒が嘘のように静まり返っていた。聞こえてくるのは疲労による荒い息遣い。シグルドは皆を集め、トーヴェ城目指して歩き出した。
「……さようなら、ディートバ……」
フュリーが振り返り、別れの言葉を告げる。だが、その言葉への返事は無かった。