ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
マーニャ隊とパメラ隊の戦闘の数日後。未だにザクソン城の動きは無かった。シグルドはこれ幸いと急いで全軍をシレジア城に終結させ、今はザクソン城攻略の軍議をしている最中だ。
「ふぅ……」
「極楽ですねぇ……」
そんな中シグルドのそっくりさんこと俺、サムソンは、シレジア城の一室でクロード神父とマッサージを受けていた。隣では神父が眠そうな顔をしている。
俺と神父はグランベル軍の中でも最年長組だ。アグストリアも含めるならロレンス将軍が最高齢だが。
「全く、この年で雪山を越えるのはきついですよ。サムソン殿のように傭兵家業の方ならまだしも……」
「運動をしといて良かったと思ってますよ」
シレジアが観光都市としても栄えてる理由が分かったかも知れない。こんなマッサージが受けられるのなら来る価値は十分にあるだろう。なんやかんやここが平和だしね。
「快適でしたね。そろそろシグルド殿の元に向かいましょうか」
「ですね」
俺と神父は部屋を出て、広間へと向かった。着くと、丁度軍議の真っ最中だった。
「来てくれたか、サムソン」
「うむ。それで、ザクソン城をどう攻略するのだ?」
「ガンドルフの報告で、ユングヴィのアンドレイ卿がダッカー公と密約を交わしていた事が判明した。バイゲリッターはヴェルダン軍が撃退してくれたから良いものの……」
「ダッカーは傭兵などを雇っている可能性が高い、と」
「そうです、クロード様。我々グランベル騎士団が前面に、左右をヴェルダン軍、そして中をシレジアの天馬騎士団が担当しようと思います。アグストリア軍ももうすぐシレジアに到着する頃でしょう」
「相変わらず多国籍だな……」
アレクがボソッと言い漏らした。まぁ四カ国の騎士が合わさってるから当然といえば当然か。結論を纏めると、グランベル騎士団とクロスナイツが前面に、ヴェルダン軍が左右、天馬騎士団が中央で途中までは地上を走るとの事。シャガールの重騎士団は機動力の差で今回はシレジア城の守備だ。
「では明日、ザクソン城へと攻勢を仕掛ける。各自体を休めておいてくれ」
シグルドの言葉で、軍議はお開きとなった。さて、剣の修繕でも頼んどくか。
軍議の後、シグルドは自室へと戻る為シレジア城の廊下を歩いていた。すると前から見覚えのある人物が歩いてくる。
「シグルドか」
「エルトシャン!無事に到着出来て良かった」
「全くだ。流石のクロスナイツでもあの雪山を越えるのには苦労した。ヴェルダンの連中はよく越えられたな」
「彼らの体力には期待しているからな」
「……少し話したい事がある」
「?……分かった」
シグルドはエルトシャンを自室へと案内した。ソファーに両者が座る。
「それでエルトシャン、話とは?」
「……俺は昔からあまり友を作らない性格だった。士官学校でお前とキュアンと出会い、仲良くなれたのは今でも不思議に思うくらいだ」
「……」
「アグストリアがグランベル軍に侵略された時はお前を疑った。……そして、怖かった。お前とキュアンという大切な友を失う事が怖かったのだ……」
「エルトシャン……」
「俺はあの時、お前を信じてやれなかった。すまない、シグルド。俺を許してくれ……」
「何を言うんだ、エルトシャン!例えどんな時だろうと私達は友だ。かつて士官学校で三人でそう誓った筈だ!」
「……ありがとう、シグルド。……恥ずかしい所を見せたな」
エルトシャンは部屋から出て行った。その後ろ姿を見て、シグルドは一刻も早くこの戦いを終わらせねばと決心した。
翌朝、シレジアの雪原をグランベル、アグストリア、ヴェルダン、シレジアの戦士達が埋め尽くした。
「あの時は少数だけだった味方も、今やこんな大規模な物になったのか……」
「シグルド様の人柄に惹かれたのですよ」
「ノイッシュの言う通りだな」
「しかしイザークは私とホリンの二人だけか。寂しいな……」
「ま、アイラにはこのドズル家のレックスがいるがね」
「全く、戦いの前だと言うのに……お熱いものだ」
「ふふ、仲がよろしい事ですわね。ミデェール?」
「はい、エーディン様」
各々が言う。俺にもいつか彼女が出来たら良いなぁ……。ま、戦いが終わったらナンパでもするかね。シグルドのそっくりさんだし(悪用)
「全軍、ザクソン城に進撃せよ!」
「クロスナイツ!久々の出番だ。我らの力を見せるぞ!」
恐らくダッカーは持てる全てを持って迎え撃って来る筈だ。これだけの大軍、ブリザードを連発されれば結構きつい。要は電撃戦だな。
一斉に軍が動き始めた。今回はヴェルダン軍がかなりきついが、彼らも何とか喰らいつく。まだ陣形に乱れは無い。
「敵が出撃しました!」
「あれは……傭兵部隊か!」
「おいおいヴォルツの旦那、ありゃあまさか……」
「だな。『地獄のレイミア』だ。数じゃ俺達が圧倒的だが……シグルドの旦那!あの女はとんでもねぇ奴だ。気をつけろよ!」
遠方には傭兵部隊と魔導士部隊、更にはパメラ隊が待ち構えていた。一気にケリを着ける気らしい。にしても『地獄のレイミア』?
「ヴォルツ、地獄のレイミアとはなんだ?」
「とんでもなく強い女傭兵さ。金を貰えりゃ誰彼構わず殺しまくる、殺人集団だ」
「おっかないな……」
そうこうしてる内に、互いの射程圏内へと入って行く。
「敗残兵共のお出ましみたいだね。お前ら仕事だよ!さっさと片付けてやりな!」
中央にいた長髪の女が言う。同時に、部隊が武器を構えた。
「シグルド、魔導士はクロスナイツに任せろ。お前は傭兵部隊を頼む」
「分かった。突撃するぞ!」
戦場には絶え間なく敵の嵐が吹き荒れ、俺達を、時には味方ごと襲った。空は天馬騎士で埋め尽くされ、地上には怒号が飛び交う。そんな中、俺達は何とか傭兵部隊とやり合っていた。
「くそ、スリープの剣なんぞ喰らったら終わりじゃねぇか!」
「だったら喰らわなければ良いだろ!」
「俺は斧だぞ!?」
レックスが勇者の斧を振り回しながら叫ぶ。今は当たらない事を祈るのみだ。俺も自分の事だけで精一杯だしな。
「くっ!」
「ほらほら、どうしたんだい!?」
なんでよりによってレイミアが相手なんだ!?こちとらもう三十路だぞ!?
「このっ!」
「危なっかしいねぇ。銀の剣じゃないか」
悔しいが、レイミアの方が俺よりも上手だ。致命傷は受けて無いが、ダメージが蓄積していっている。
「サムソン!」
「アイラ!」
「小娘が加わった所で変わらないよ!」
「試してみろ!」
レイミアは二人を相手取っても優勢を崩さなかった。今回ばかりは味方の救援は期待出来そうに無い。
「流星剣!!」
「ちっ、厄介な技だね!……なら、こいつの威力を試してみるとしようか」
レイミアが構えたのは、剣先が曲がった剣。ん?どっかで見た気が……。
「キルソードか!?」
「御名答」
「アイラ、離れろ!一撃でも喰らったら即致命傷だぞ!!」
畜生今度はキルソードか!長髪って所もナバールと一緒だし!!
「そらっ!」
「ぬぅぅ……!」
振り下ろされた一撃を、俺は何とか盾で受け止めた。だがその瞬間、何かが割れるような嫌な音が響く。
「どうやら盾がイカれたみたいだねぇ」
俺は即座に距離をとったが、レイミアは素早く剣を一閃。直後、俺の胸から血が流れ落ちる。アイラもキルソードの前には中々近付けない。
「ちょっと浅かったか」
「それでも十分苦しいな……」
「とどめ!」
レイミアは空中からキルソードを振り下ろして来た。俺は銀の剣でそれを受け止める。
「お、重い……!」
「剣ごと砕け散りな!」
……覚悟を決めるしか無いか。どのみち喰らったら終いだしな。キルソードを左手で掴む。
「なっ!?」
「アイラ、やれぇ!今しか無い……!!」
「分かった!!」
レイミアは力を込めて、キルソードを俺の手から抜いた。
「ぐおぉっ!?」
左手に、とてつもない痛みが走った。地面に削げ落ちた指がボトッと落ちる。
「流星剣!!」
「畜生、間に合わ……っ」
レイミアはもろに流星剣を喰らい、地面に倒れた。アイラが駆け寄って来る。
「サムソン……指が……」
「何……この位大丈夫……とは言えんが、人差し指と中指が残ったのは幸いだったか……」
俺は戦線離脱を余儀なくされた。包帯で止血し、アイラの助けを借りながら何とか吹雪の中を脱した。そして後方で支援をしていたクロード神父から出た言葉は……
「……体の欠損を治すのは私のリザーブでも不可能です。傷口を防ぐ事なら可能ですが……」
もう失った物は戻らない。だが、それが戦争なのだろう。そう自分に言い聞かせ、俺は襲ってくる痛みに耐え続けた。
最近かなり忙しいので週一投稿になるかもしれません