ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
ザクソン城とリューベック城を隔てる平原はかなり広い。いくら騎兵と言えども、移動にはそれなりに時間がかかる。それが俺達にとっての幸運だった。
ランゴバルトの息子、ダナンが率いるグラオリッターは未だに遠くに見えるのみだからな。
「お、アレク!」
「ようサムソン!ノイッシュも一緒だぜ」
「随分と揉みくちゃにされたがな……」
他も次々と重騎士団を貫き、包囲網を作って行く。騎兵にはちと辛い仕事のようだった。
「シグルド公子は?」
「私ならここだ!エルトシャンももうすぐ来る!」
「シグルド様!」
シグルドも大軍を抜け出た。粗方人数が揃った所で挟撃を開始する。
「しかしシャガール王はお強いな」
「シャガール王?」
見ると、中央ではシャガールが銀の大剣で敵をぶった斬ってた。勇ましいこって。
「先程近くにいたのだがな、あの方はなんの戸惑いも無くボルガノンを使用し始めてな。流石に距離を取った」
「マジかよ……」
「まぁ撃てば当たる状況ですが……」
「ロレンス将軍も諦めた顔で避けておられた」
「ロレンス将軍強くない?」
あのおじいちゃんそんな速かったっけ?スピードリングガン積みして来た?まぁ戦闘経験もあるのだろうが……。そう思っていると、中央付近から火柱が上がった。アルヴィスのファラフレイムと比べれば弱いが、ボルガノンもまぁまぁ迫力あるな。
「そろそろ片付くか……」
前線部隊は大分片付いた。後方もミネルバがほぼ全滅させたし、残りは付近の村を襲う盗賊とグラオリッターだ。まだ遠くにいるが、近付いて来ている。
「私は付近の村を救出して来る。ノイッシュ、ここは任せた!」
「シグルド公子、一人では危険だ。私も同行しよう」
「……助かる、サムソン!」
俺はシグルドが駆る白馬に乗った。こうして乗るのもユングヴィ以来か。
「久々に乗るな」
「いい乗り心地であると良いがな」
村に到着した頃には、盗賊が何人か入り込んでいた。だが、既に盗賊の死体もある。
「何……村の自警団か?」
「いや、シグルド公子。どうやらあの騎士が賊を殺ったらしい」
俺は広場を見る。そこには、白髪の老騎士が剣を振るっていた。何人もの死体があるから、間違いは無いだろう。すると、シグルドが目を見開いた。
「……父上!」
「何!?」
父上!?俺は慌てて駆け出したシグルドを追った。老騎士に群がる賊を斬り伏せ、シグルドが駆け寄る。
「父上!ご無事でしたか!」
「シ、シグルド……儂も運が尽きたな。ランゴバルトに我がグリューンリッターを潰され、逃げ込んだ村で賊に襲われるとは……」
「父上、もうお休み下さい。今すぐ治療をします」
「いや、シグルド、儂はもう駄目だ……お前が二人に見えてくる……」
「それは違います、サムソンです」
「……傭兵のサムソンだ」
「おお、それは失敬……サムソン殿、息子を頼む。……シグルドよ、今回の件、裏で糸を引いているのはレプトールだ。儂は死は厭わぬが、汚名を被ったままでは死にきれん」
「ご安心下さい、必ずや父上の汚名を晴らしてみせます!」
「すまぬな、シグルドよ……これを受け取れ。シアルフィに伝わる、聖剣ティルフィングだ……」
「父上……!」
「頼んだぞ……」
「父上!!……」
「……行こう、シグルド公子。父上の仇を討つのは貴方しかいない」
「あぁ……サムソン、私は必ず父上の汚名を晴らしてみせる!」
シグルドがティルフィングを天高く掲げる。その瞬間、俺にはシグルドの体が光に包まれるように見えた。次の瞬間には、シグルドが馬に跨っていた。
「行くぞ、サムソン!」
「……あぁ!」
平原を白馬が駆ける。視界の向こうでは、既にグラオリッターとクロスナイツが接触していた。ランゴバルトの息子、ダナンとエルトシャンが向かい合う。
「フン、ランゴバルト卿の息子か……レックスとは大違いだな」
「あの愚弟と一緒にしてもらっては困るな。奴は所詮傍系、直系の俺こそが聖戦士に相応しい」
「……まぁいい、シグルドから殺すなと言われたからな……捕えるだけにしておくか」
「生意気な!」
ダナンが勇者の斧を持ってエルトシャンに突撃する。剛腕から放たれる斧の攻撃を、エルトシャンはミストルティンで弾き続けた。
「馬鹿な……!?」
「そこだ!!」
ミストルティンの一撃で、勇者の斧が切断される。あれ結構希少な素材で出来てたよな?やっぱ神器ってとんでもないね。
「サムソン!」
「おっと!」
「相手はグラオリッターだ。エルトシャンに見惚れてる暇は無いぞ!」
「確かにな……!」
「チッ……ティルフィングが渡ってしまったか……!」
目の前からも、勇者の斧を持った長髪の騎士が迫って来る。
「私の力を思い知るがいい!」
「斧に手数で劣ると思うか!」
銀の剣を抜き、応戦する。辺り一面に激しい金属音が響き、火花が散った。
「シグルド公子!レックスと共にリューベックに向かうのだ!ここは任せて貰おう!」
「フン、行った所でアンドレイ卿のバイゲリッターには敵わんがな……」
「アンドレイだと……」
相変わらず火花が舞う中、騎士が答えた。奴のバイゲリッターは強力な弓騎士団、近接を得意とするシグルド公子ではきついか……?
「シグルド!!」
「エルトシャン!」
「バイゲリッターならクロスナイツが引き受けよう。お前とレックスを護衛しながらリューベックに向かう!」
「感謝する!」
「何、ダナン公子がやられたのか!?」
「戦闘中によそ見とはな!」
「しまった……ッ!?」
剣を一閃、騎士の腕を深く抉った。そしてもう一撃でとどめ。
「ラ、ランゴバルト様……」
騎士は馬から崩れ落ちる。全く、甘っちょろい奴だな。さて、後はシグルドに任せるか。
シグルドとレックスは、クロスナイツに守られながら平原を駆けていた。遠方にはシューター部隊とバイゲリッターがいる。
「そろそろ接敵か……シグルド、隙を見て側面から脱出してくれ。バイゲリッターはクロスナイツが止める」
「分かった。行こう、レックス」
「感謝するぜ。兄貴の分もな」
「来るぞ」
エルトシャンがミストルティンを抜く。クロスナイツは途轍もない速度でバイゲリッターを包囲した。
「これが大陸一の騎士団か……」
「レックス!」
「おうよ!」
クロスナイツの壁に沿って、シグルドとレックスはリューベック城に乗り込む。そこには、ランゴバルトが一人佇んでいた。
「シグルド……クソッ、スレイダーとダナンはやられたか!」
「俺もいるぜ、親父」
「レ、レックス……!まさか、儂を裏切ると言うのか!儂に刃を向けるのか!!」
「……これも運命さ。許せよ、親父……あんたをバーハラに連れてって、洗いざらい吐いて貰う」
「ランゴバルト卿……いや、ランゴバルト!父上の仇だ!」
「…………良かろう、そのティルフィングごと我がスワンチカで叩き斬ってくれるわ!!」
レックスが勇者の斧を掲げ、全速力でランゴバルトへ突撃した。渾身の力で振り下ろされた斧が、スワンチカと激突する。
「ほう……少しはやるようだが、所詮貴様は傍系よ!」
ランゴバルトは片手でスワンチカを持ち、レックスの攻撃を受け止めた。そしてそれ以上の速さでレックスに刃を叩き込む。
「グハッ……」
「レックス!!」
レックスは落馬し、地面に鮮血が飛び散った。ランゴバルトはレックスを見下ろす。
「……愚かな」
「ランゴバルトォォ!!」
シグルドがティルフィングを構え、ランゴバルトに斬りかかる。だがその全てを、スワンチカが弾き返した。
「哀れだな。父を失い、反逆者として汚名を被され、そしてここで死んでいく……リング卿のようだ」
「何!?」
「リング卿はアンドレイに殺された。奴め、実の父を殺しておいて悪びれもせん。生意気な小僧よ」
「リング卿が……くっ、アンドレイにその野心を焚き付けたのは貴様ではないのか!?」
「どうかね……奴の心境は儂にも分からん」
徐々に、シグルドは壁へと追い込まれて行く。ティルフィングを持ってしても、両者には経験の差がありすぎた。
「そろそろ終いよ。神器を手にして浮かれたのが貴様の運の尽きだ!」
「くぅっ!」
ランゴバルトが下からの一撃で、ティルフィングを跳ね上げる。
「まだ……終わっちゃいないぜ」
「!?」
スワンチカを振り下ろそうとしたランゴバルトの動きが止まった。落馬したレックスがランゴバルトの足に勇者の斧を投げたのだ。
「……はあぁッ!!!」
「ぐぁっ!?」
シグルドが、全身全霊の一撃をランゴバルトに叩き込む。それさえもスワンチカの加護の前では致命傷には至らなかったが、ランゴバルトの手からスワンチカを落とすには十分だった。シグルドはスワンチカを遠ざけ、ティルフィングを収める。
「……バーハラへ来てもらうぞ」
「……」
「なぁ、お、親父……」
「レックス!」
レックスが立ち上がった。シグルドがその体を支える。
「なぁ、あんた……手加減してただろ。あの間合いで神器の一撃を貰って、俺が生きてる訳無いからな……」
「……」
「俺を見下ろしたあの目だってそうさ……あの目は悲しみの目だ」
「…………」
しばらく、沈黙が続いた。その中、ランゴバルトが立ち上がる。そしてレックスに近付くと、一本の杖を取り出した。
「それは……」
「儂を誰だと思っておる。この位、朝飯前よ」
リライブの杖をレックスに向けると、傷がゆっくりと塞がっていった。ランゴバルトは杖をしまう。
「ランゴバルト……卿……」
「儂の未来は決まったような物……なら強欲の名の通り、好きにやらせて貰う。貴様のような小童に負けたのは気に食わんが……」
「……ありがとな、親父」
「…………愚息が」
その後、拘束されたランゴバルトが出て来た頃には、戦いは終わっていた。バイゲリッターも壊滅し、アンドレイも合流して来たブリギットの手により殺された。
そして全軍を集めたシグルドが次に見た光景は、異様に静かな砂漠だった。