ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
ついに集合です。さてとバーハラ回避させなくちゃ……
「静かだ……」
それが、シグルドが前方に広がるイード砂漠を見て放った最初の一言だった。
「討伐軍で残るのは、レプトール卿とアルヴィス卿だったな」
「うむ。だがフリージ家はグランベルの北西、ここにいるのはアルヴィス卿のロートリッターの筈だ」
ロートリッター……炎の魔導士軍団か。やはりメティオやボルガノンも持ってると見て良いだろう。ノイッシュやアゼルも辺りを見回して警戒しているが、敵影一つも見つけられない。
「岩山に隠れているという可能性は?」
「それもある。だが、それを踏まえても静か過ぎる……それ程敵が隠密に長けているとも取れるが」
シグルドは何かを考えているかのように、イード砂漠をじっと見つめた。そして、奥に控えていたオイフェに向き直る。
「オイフェ、このリューベックから北東に行けばイザークに入る。ダナン公子もこちらで確保しているから、今は安全な筈だ」
「待って下さい、まさか私に落ち延びろと!?」
「あぁ。ここまで辛い戦いの連続だったが、これからは更に激しくなる。私はセリスまで失いたく無いんだ……」
そこに、シャナンが出て来て横槍を刺した。
「待ってよ。セリスを守るのは僕の役目だ。ディアドラと約束したんだ!」
「……シャナン、もう良いんだ。ディアドラの事は……今までずっとセリスを守ってくれていた事、感謝している」
「イザークの民はグランベルを憎んでるから、オイフェが行っても守ってなんかくれないぞ!守れるのは、イザーク王子の僕だけだ!」
「私も、シャナン様がいてくださると心強いです。ですから、約束して下さい、シグルド様。いつか必ず迎えに来ると……」
「あぁ。約束しよう。この戦いが終われば、必ず迎えに行く」
「ありがとうございます、シグルド様。……勝利の日が一日でも早く来る事を祈っています」
「元気でな、オイフェ」
「……はい!」
オイフェとシャナンは、セリスを抱えながら数名の騎士と共にイザークへの道を進んで行った。シグルドはそれを見届け、再びイード砂漠に目をやる。
一気に突破するか、奇襲を警戒して慎重に行くか。外せば敗北の二択が、シグルドを迷わせる。
「俺は一気に行くべきだと思う。元々クロスナイツは砂漠では戦えんからな」
「儂も同感する。こちとら重騎士団じゃぞ!」
「俺たちゃまだ機動力がある方か……騎馬兵の護衛行きだな」
次々と意見を言う大将を見渡して、マルスが前に出た。こん中じゃ一番若いってのにすげー威厳があるな。流石
英雄王。
「みんな、ミネルバが単騎で様子を見に行くと言っているんだが……」
「無茶です、マルス様!いくらミネルバ殿が歴戦の戦士だと言っても、メティオの奇襲に遭えば致命傷は避けられません!」
「安心してくれ」
「ミネルバ殿!」
「私にはこの『アイオテの盾』がある。これさえあれば、メティオを恐れる事は無い」
そう言われれば、シグルドも黙る事しか出来なかった。自分より戦歴が長い猛者が言う事に、簡単に反論するのは如何な物かと判断したらしい。
飛び立ったミネルバは、南で何かを発見したようで、急いで戻って来た。
「砂漠の南で、騎士団が竜騎士団に襲われていた。シグルド殿、何か心当たりは?」
「竜騎士団……まずい、トラキアにつけられていたのか……!ミネルバ殿、キュアンとエスリンが危ない!私達も南下するが、どうか先に竜騎士団の足止めを頼まれてはくれないか……!」
「安心してくれ。マケドニア竜騎士団の力をとくとお見せしよう!」
「決まりだね。急いで南下しよう!」
マルスの号令で俺達は走り出し、マケドニア竜騎士団は砂漠の空に舞って行った。
ミネルバが戦場に辿り着いた頃には、キュアン率いるランスリッターはほぼ壊滅状態だった。何騎もの竜騎士に囲まれながら、必死にゲイボルグで応戦している。
「フン、砂漠では思うように戦えまい」
「トラバント、貴様……!」
「トラバント様、北方から竜騎士団が接近しているとの報告が!」
「何……?」
トラバントの部下、マゴーネの報告に、トラバントは一瞬思考を停止させた。何せこのユグドラルでは竜騎士団を保有するのはトラキア王国だけなのだ。
「竜騎士団だと……?」
これにはキュアンとエスリンも戸惑う。やがて、マケドニア竜騎士団はトラバントと相見えた。
「キュアン殿!私はミネルバ。シグルド殿の頼みで加勢に来た!」
「シグルド……って、ミネルバだと!?」
「何故ここにアカネイアの勢力がいるのだ!?」
トラバントは予想外の展開に少し狼狽えたが、既に平常心を取り戻す。
「マゴーネ!お前達はあの竜騎士団を始末しろ。キュアンは私が殺る!」
「はっ!」
トラバントは僅かな兵と共にキュアンに突撃して行った。だが、その間にミネルバが割って入る。
「貴様の相手はこの私だ!!」
「チッ……」
ミネルバの銀の槍がトラバントに襲いかかる。だがトラバントも、同じく銀の槍で弾き返した。
「フン、やはりグングニルを持って来ておくべきだったか……」
両者は全くと言って良い程互角の戦いを繰り広げた。空中で何度も火花が飛び散り、甲高い金属音を砂漠に響かせる。絶体絶命だったランスリッターも、マケドニア竜騎士団という力強い援軍を得て、徐々にトラキア竜騎士団を押し返しつつあった。
「トラバント様、もうすぐシグルドの反乱軍が南下してくるとの事です!」
マゴーネの知らせが、トラバントを動かすきっかけとなった。
「クソッ!……全軍、撤退だ!反乱軍にはユングヴィの弓騎士とヴェルダンのハンター共もいる!」
「全軍撤退ーッ!」
トラバントの命令とマゴーネの号令によって、トラキア竜騎士団は一瞬で戦場から離脱した。その後ろ姿を睨みながら、ミネルバが地上に降りる。
「何とか撤退させたか……キュアン殿、もうすぐ北からシグルド殿が来る。貴殿は奥方と休んでるが良い」
「あぁ、そうさせて貰う……」
「キュアン!」
キュアンが馬上から崩れ落ちそうになった所を、エスリンが支える。その体にはあちこちに痛々しい傷跡があった。
「シグルド……また君の顔が見れると思ったが……しばらくお預けのようだな……」
キュアンの体が力無くエスリンの体に覆いかぶさる。
「キュアン……キュアン!…………良かった、気絶しただけだったわ……」
「余程厳しい戦いだったのだろう。すまない、私達がもう少し早く来れれば……」
「いえ、良いのです。貴方達が来てくださらなければ、私達は今頃死んでいたでしょうから……」
キュアンを労るように彼の頭を撫でたエスリンは、兄、シグルドの南下を待った。