ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
広間を出た俺達の前に、再びドルーア軍が牙を剥く。恐らく、今度はメディウスに操られた死霊兵だろう。これまでは簡単に剣を振るえたが、今は違う。複雑な感情だ。多分シグルドも同じ思いだと思う。
「……それでも前に進まなくてはならない、か……」
誰にも聞こえぬように小さく呟き、ひたすら剣を振るった。
「こんな狭い通路でトルネードを連発されては避けられるものも避けれぬわ!」
「トールハンマーを持つ貴公が言うか」
老人二人の会話を聞き流しながら奥へと進んで行く。その間にも咆哮は大きくなっていった。そして再び、開けた場所に出る。
「あの男が……」
キュアンが呟いた。部屋の中央の玉座に鎮座するのは、豪華な衣服を着た一人の老人。白髭を生やしたその巨体がゆっくりと立ち上がる。
「久しぶりだな、光の王子よ。そして、神々の血を受け継ぎし戦士達よ……貴様らはここで死に、再び我ら竜族が世界に君臨するのだ」
「メディウス……今度こそ、僕は全てを終わらせる。それが……この戦いで傷つき、倒れていった者達への報いだ!!」
「愚かな!我は既にロプトウスの力を取り込んだ。最早貴様らに勝ち目なぞ無いのだ!!」
メディウスが手に持っていた竜石を掲げる。その瞬間、あたり一帯に凄まじいオーラが漂った。ロプトウスのものとは比べ物にもならない。
やがて黒いオーラが晴れた時、そこには巨大な竜が降臨していた。今までのどの竜よりも巨大で凶悪で、強い。今ここに、最強の暗黒竜が復活した。
「暗黒竜、メディウス……!」
「愚カナ人間ドモ……今度コソ、一人残ラズ殺ス……!!」
「みんな構えろ!これが最後の戦いだ!」
マルスがファルシオンを高々と掲げる。それに呼応した聖戦士達がメディウスに向かっていった。
「シグルド、先陣は俺が切る!」
「レヴィン!」
真っ先にメディウスへと攻撃を仕掛けたのは、レヴィン、レプトール、アルヴィスの三人だった。炎、雷、嵐が合わさった魔法がメディウスに向かって放たれる。しかしメディウスはそれを簡単にブレスで相殺してしまった。
「小細工ヲ!」
「ファラフレイムとフォルセティとの合わせ技じゃぞ!?」
「さっさと退くぞレプトール!あのブレスを喰らえば一撃で即死だ!」
「喰ラエ!」
新たなブレスをレプトールは何とか避ける。当たった地面は大きく砕け、破片が飛び散った。
「ならば空からだ!」
トラバントがグングニルを構え、メディウスの上空から強襲する。だが勢いを加えたグングニルの一撃でさえも、メディウスにわずかな傷を付けるに過ぎなかった。……かなり硬いな。奴は元々相手の力を半減させるが、それにロプトウスが加わって更に強力になったって訳か。
「くっ……一箇所に固まるな!決して喰らってはいけない!」
シグルドが大きく右に回り込んだ。エルトシャン、キュアンも馬を走らせ、メディウスの狙いを定めにくくしている。
「おいダナン、どうやら儂のような重装兵は活躍出来んらしい……今ここでお前にスワンチカを譲ろう」
「父上!?」
「あのブレスを喰らえば、スワンチカごと焼かれるかも知れん……悔しいが、スワンチカの聖なる護りも奴の前では無意味だ。何、スワンチカが無くとも杖での支援くらいは出来る」
「……分かりました、父上。レックス!俺について来い!」
「了解したぜ、兄貴!」
ランゴバルトが自信を無くすってどれだけヤバいんだよあの暗黒竜は……。ダナンとレックスがメディウスに突撃していく。ブレスを上手く交わした二人は、それぞれ斧の一撃を脚に叩きつけた。
「ソンナ斧ガ我ニ通用スルト思ッタカ!死ネ!」
「あっぶねぇ!?」
メディウスは二人を踏みつけようとするが、なんとかこれも回避。……ん?
「おいアーダン……」
「あぁ分かってるぜ。完全にこっちを狙ってやがる……」
「フン、コノ舞台ニ立ツ資格スラ無イ者共ヨ……マズハ貴様ラカラダ」
「走れアーダン!」
その瞬間。目の前の床がブレスで砕かれると同時に俺達は走り出した。やっべぇあれ喰らったら何も残らんわ。髪の毛一本さえ塵になりそうな威力してんなクソったれ!!
俺の後ろを、アーダンが必死になってついてくる。メディウスが俺達に標的を絞っている間にも聖戦士達の攻撃は続いたが、奴はまるで相手にしていなかった。マルスのファルシオンでさえあまり効果があるとは言えない。
「チョコマカト……!」
「うぐっ!?」
闇のブレスが俺の直ぐ側に直撃した。その衝撃で砕かれた石畳が俺目掛けて飛んでくる。慌ててそれを銀の剣で防ぐも、俺は吹き飛ばされてしまった。くそ、頭がクラクラする……
「ヤット動キガ止マッタカ……ヨウヤク始末出来ル」
当たりどころが少し悪かったか……ぼやける視界で剣を見ると、なんと刃が折れていた。畜生、とんでもない速度でレンガが飛んで来てたって事か……。
それはそうと、脚に力が入らない。見えるのは、メディウスのブレスの輝きだけ。俺は思わず目を瞑った。
「サムソンッ!!」
次に感じたのは、ブレスに焼かれる苦痛……ではなく襟首を掴まれる感触。
「ちょっ、シグルド公子!?」
「間一髪だったか……」
直後、俺達の後ろで衝撃音が鳴り響く。ブレスを外したメディウスは怒りを露わにしていた。
「オノレ!」
「っておい、いつまで走って……苦しい!襟首苦しいから!尻も擦れて痛いから!!」
「むっ、そうだったな。すまん」
シグルドは速度を緩めて襟首から手を離す。俺は地面を二、三回転してから止まった。
「貴様ラァ!我ノ前デソンナ茶番ヲスルカ!!」
「茶番で悪かったな!だが茶番に夢中になりすぎたな」
「何……?」
メディウスがゆっくりと後ろを振り向く。その目線の先には、ナーガの書を開いたディアドラがいた。
「サセルカァ!!」
「光よ、再び舞え!!」
闇のブレスとナーガの光が同時に放たれ、空中で激突する。だがロプトウスを倒した光でさえも、メディウスの前では劣勢だった。
「ナーガが押されている……!?」
「暗黒竜二体が相手では分が悪いのか……」
「フハハハ!ヤハリ我ノ勝利ニ変ワリハ無イワ!」
「ディアドラ!」
「シグルド公子!?」
シグルドが馬を走らせ、ディアドラに近付く。
「ディアドラ、君には私がついている!君は決して闇には負けはしない!」
その瞬間、ティルフィングに埋め込まれた石が淡く輝き出した。そしてその光はナーガの書に吸い込まれていく。……もしかしてあの石、竜石なのでは!?こう考えたのはどうやら俺だけでは無かったらしい。
「なるほど、そういう事か!」
「今こそ我らの力を一つにする時だ!」
エルトシャン、キュアンも続く。彼らの神器からも光が立ち昇った。
「ナンダト……」
次々と光は集まっていく。そして、全ての光が集結した時、ナーガの光が闇のブレスを押し返し始めた。
「束ねられし希望の光よ……今こそ大いなる闇を消し去り、絶望に終止符を!」
「フザケルナ!カ、必ズ、必ズヤ!我ラ竜族ノ世ガ来ル筈ナノダ!愚カナル人間ハ滅ビル運命ナノダ!!」
「……裁きの光!」
闇のブレスは完全に破られ、光がメディウスに直撃する。メディウスは苦悶の叫びを上げながら壁に激突する。
「メディウスがあそこまで……ディアドラ!」
最大限の魔法を放ったディアドラは、シグルドに支えられながら床に崩れた。
「だがこれで……!?」
エルトシャンの言葉を遮り、再び咆哮が響く。全員がメディウスを見た。メディウスは胸に大きな傷を負いながらも、何とか立ち上がって来たのだ。……クソ、時間を稼ぐ手立てが思いつかねぇ。
「まだ立ち上がるのか……」
「いや、もう終わりだ」
一人だけ、そう宣言した。皆の前に立つのは、英雄王。
「ディアドラ公妃がしたように、神器の力を合わせれば奴を倒せる。何より奴はナーガの光で傷を追っているんだ」
「舐メタ口ヲ……例エソウダトシテモ、貴様ヲ焼キ尽クス力ハ残ッテイル」
「……勝負だ、メディウス!お前が僕を焼くか、僕がナーガの牙をお前に突き立てるか!!」
マルスはファルシオンを天高く掲げる。その刃に、十一の眩い光が集まった。
「行くぞ!」
マルスは全速力で走り出す。闇のブレスを紙一重でかわし、迷わずメディウスへと一直線に進む。メディウスが徐々に焦り始めた。
「小僧ガ!調子ニ乗ルナァァァ!!!」
マルスが接近したのを見て、メディウスは広範囲に闇のブレスを放った。逃げ場を無くそうって作戦か!
「ハァッ!!」
「何!?」
「嘘だろ!?」
俺は思わず驚愕した。なぜなら、放たれた闇のブレスをマルスはファルシオンで
「これで終わりだ!!」
マルスは飛び上がり、メディウスの胸の傷に深々とファルシオンを突き刺す。
「グギャァァァァァアアァァ!!!」
「うっ……!?」
耳をつんざくような咆哮がドルーア城を揺らした。そしてその衝撃で、城の倒壊が始まる。マルスは俺達を連れて、崩れ行くその場を後にした。
「ハァ……ハァ……メディウスの姿は……無いな」
オーガヒルの入り口まで戻って来た俺達は、ドルーア城へと振り返った。そこにはもう、あの暗黒竜は居ない。マルスは再び皆の方に振り向き、こう言った。
「暗黒竜は倒された!……今ここに、我らの聖戦は終結した!!」
一言。たったその一言で、ユグドラルの戦士達の中から歓声が沸き上がった。グランベル王国のイザーク遠征から始まったこの聖戦は、今幕を閉じた。はは、ここまで安堵したのはいつぶりだろうか?英雄戦争が終結したぶりか。
「サムソン、行こう。皆が我々を待っている」
「あぁ、行こう」
俺はシグルドについていく。そして、割れんばかりの歓声の中へと身を投じていった。
「……あの時の喜びは未だ忘れる事は無い。貴方もそうだろう、シグルド卿」
「うむ。しかし感謝しているぞ、サムソン。仕事帰りにここに立ち寄ってくれるとは」
「何、久々にキュアン王の姿も見れた。アルテナ王女も大きくなったものだ。アリオーン王子との仲も悪く無いらしい」
「それは良かった」
あの日から十七年。シグルドの子、セリスはすっかり大きくなり、今は新たなシアルフィ公国の公子として活躍している。対して俺はまだ傭兵稼業だ。最近は日常的な依頼ばかりだが。シグルドは立派な公爵となって、貫禄たっぷりだ。
「失礼します。……お久しぶりです、サムソン様」
「こちらこそ、ディアドラ公妃」
ディアドラは更に丸くなった。穏やかな顔で、シグルドの隣に座る。……うん、やっぱりこの二人は絵になるな。お似合いの夫婦だ。
「サムソン。もし良かったら後でセリスに会ってやってくれ。あの子は君の話を楽しみにしているからな」
「こんな私の話で良ければいくらでも。……だが、今は貴方と話したい事も沢山ある」
「ははは、いくらでも良いさ。ディアドラもそうだろう?」
「えぇ、シグルド様」
大きな満月が輝く平和な夜空の下。俺達三人はゆっくりとワインを乾杯した。
なんとか年内に終わった……これにてこの物語は終幕です。今まで読んで下さった読者様。誠にありがとうございました!