ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話   作:塩焼きそば啜郎

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王子と魔導士

俺の肩を、アゼルが支えてくれる。次いでレックスが傷口を包帯で縛り、止血をしてくれた。

 

「……すまない」

「いや、いいのだ……それにしても恐ろしい剣技だな。それよりアイラと言ったか、お前は早くシグルド公子の所に合流してその子の安全を確保してやってくれ」

「分かった。行こう、シャナン」

「うん……」

 

アイラは申し訳無さそうにこちらを見てから、シャナンと共に走って行った。にしてもとんでもない技だったな、流星剣……正直生きた心地がしなかった。俺は二人の助けを借りて立ち上がる。

 

「それにしても随分とやられたな、サムソン。自分で動けるか?」

「いや、正直言って無理だ。五、六年前くらいならまだ無茶出来たが……」

「ひえっ、年は取りたく無いもんだな」

「レックス、そんな雰囲気じゃないだろ」

「ったく、アゼルは真面目だな。ほれサムソン!乗ってくれ。エスリンやエーディンに治療してもらいに行くぜ」

「頼んだ」

「あ、アゼルは徒歩な」

「……」

 

ちょっと不満そうなアゼルと共に、俺はアイラの後を追って行った。

 

 

 

俺が着いた頃には、シグルド率いる軍がマーファ城の眼前まで迫っていた。後方にいたエスリンに俺を乗せたレックスが近付く。

 

「よう、エスリン!」

「レックス!ジェノア城を落としたのね」

「あぁ。だがサムソンがちとしくじってな。両腕と右足なんだが……治療を頼みたい」

「勿論よ。サムソンさん、動かないで下さいね……」

「助かる」

 

エスリンがライブの杖を取り出し、力を込める。すると杖の先端から暖かい波動が広がり、両腕と右足の傷に当たった。すると先程までのズキズキとした痛みをがだんだん引いていき、傷口が塞がっていくのが分かった。

 

「これで大丈夫です。ですが気を付けて下さい。もし同じ所に傷を負えば、治療はもっと時間がかかってしまいます」

「それは充分承知している」

 

エスリンの忠告を聞いてから、俺は前線に向かった。どうやらピークは過ぎたらしいが、まだまだ敵の数は多い。

 

「シグルド公子!」

「サムソン!怪我はいいのか?」

「うむ。しかし誰からその事を?」

「先程軍に合流してきたアイラという剣士から聞いた。彼女は凄いな。さっきなんか一瞬で五人を斬り倒したぞ」

「それは心強い。ここからは俺も加わろう!」

「頼む」

 

アイラに負けないよう、俺も頑張らないとな。向かって来る敵を撃破しながら、少しづつマーファ城に近付いて行く。キュアンやミデェールの手槍と弓、アゼルのファイアーによる援護を貰いながら、着実に前進していった。

そしてマーファ城手前まで来た所で、城から現れた人物がいた。……あいつがガンドルフか。

 

「ちぃ、女には逃げられるし城は攻められるし、俺はなんて不運なんだ!」

「貴様が要らぬ野心を抱いた結果だ!覚悟しろ!」

 

シグルドが珍しく声を荒げた。だがガンドルフは負けじと言い返す。にしてもいかにも蛮族って顔だな。武器は鋼の斧と手斧を両方装備してるが、多分力で押し切るタイプだ。

 

「よく言うぜ。先に野心を抱いたのはてめぇらグランベルの連中だろうが!」

「何!?ヴェルダンのバトゥ王はグランベルと同盟関係を結ばれていた。何故野心を抱かねばならぬ!」

「同盟を結んでおいて安心させてからヴェルダンに攻め入る算段だったんだろ。俺達を蛮族と蔑んでいると、サンディマから聞いたぜ」

「サンディマだと?」

「あぁ。旅の魔導士だとよ。グランベルに立ち寄った時に耳にしたそうだ。……長話はこれぐらいにしとくか。こうなったら俺一人で片付けてやる!!」

 

ガンドルフが鋼の斧と手斧を両手に持った所で、俺は待ったをかけた。気になる事が出来たのだ。「魔導士」だと?

 

「待った!」

「あ?……なんだてめぇ、随分とそっくりじゃねぇか」

「それは後だ。今『魔導士』と言ったな?」

「そうだが……」

「そいつのローブは黒っぽくなかったか?」

「確かに黒っぽかったな」

「具合の悪そうな顔色をしてなかったか?」

「……そーいや、妙な顔色だった……」

「最後に……おどろおどろしい魔導書を持って無かったか?」

「持ってたな。で、そいつがどうしたってんだ」

「……サムソン、何が言いたいのだ?」

「シグルド公子、後は私に任せて欲しい」

「う、うむ……」

 

確信した。そのサンディマって奴、確定であの魔王(ガーネフ)ポジだわ。ガンドルフの野郎、見事に騙されてるわ。俺はガンドルフに近付いた。勿論奴も突進してきたが、アイラの流星剣を見た後じゃ余裕でかわせる。奴の一撃を受け流し、うなじに手刀を叩き込む。

 

「うげっ」

「サムソン、何を!?」

「誰か縄を持ってきてくれ。こいつを縛る」

「縛ってどうするんだ?」

「シグルド公子、こいつは十中八九そのサンディマに騙されている。現実を教えた方が殺すより良いだろう。何よりこいつはヴェルダンの王族だしな……」

「……」

「エーディン公女、少しだけ我慢して貰えるか」

「……はい。その人が正しい心を取り戻してくれるのなら……」

「すまない」

 

彼女からしたらたまったものじゃないだろうが、我慢して欲しい。王がいない国がどれだけ苦しいかはグラの前例で分かっている。バトゥ王も高齢らしいし、後継ぎはこいつになるだろうからな。

 

「しかし、マーファ城を制圧した訳だが……」

 

シグルドが森を見た。ここからヴェルダン城まで行くには精霊の森と呼ばれる深い森を通らなくてはいけない。ヴェルダン兵ならともかく、俺達が突破出来るのか……

 

「……シグルド、ここで止まっていても仕方無い。ヴェルダンをサンディマの支配から解放するには、我々も覚悟を決めねばならぬ」

「キュアン王子……」

「それと、その『王子』とつけるのは止めてくれ。君と私の仲だろう」

「……そうだな。キュアン、改めて頼む」

「うむ」

「みんな、我々はこれから森を突破し、ヴェルダン城を目指す。過酷な戦いになるだろうが、頑張ってくれ!」

 

シグルドの言葉に不満を投げかける者はいなかった。ここまで来たら皆覚悟は出来ているのだ。

俺達は敵の本拠地ヴェルダン城を目指し、昼なお暗いヴェルダンの大森林へと足を踏み入れて行った。




ガンドルフ……ヴェルダン王国第一王子。顔はアレだが根性はある。やはりというか脳筋。

サンディマ……本人のいない所で勝手に株が下がった。
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