ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
幸いと言うべきか、森には道があった。だがそれも、最低限整備されたものらしく、正直心許ない。俺達はシグルドを先頭に隊を騎兵で囲み、エーディンなどの女性陣やミデェールと言った弓兵は隊の中にいる。俺は最後方の防衛だ。
皆が声一つ発さない、静かでいて、緊張感に包まれた時間が過ぎた。この深い森の中、どこからか見られてるかも知れないと思うと中々に怖い物がある。俺もまだまだ根性無しって事か。
「……!」
ふと、後ろから何かが迫って来る感じがした。咄嗟に剣を構えながら振り向く。
「なっ!!」
視界には、もうそこまで迫って来る手斧の刃が。俺は反射的に剣を振り抜いた。甲高い金属音が響き、手斧が地面に落ちる。俺は必死になって叫んだ。
「シグルド公子!後ろだ!後ろから攻撃されているぞーッ!!」
「何!?……総員、反転するぞ!」
「シグルド!敵は後方だけにいるとは限らん。君の後方は私に任せて貰おう」
「頼んだ、キュアン!」
騎兵達が反転していると、森の中から斧を構えたヴェルダン兵がわらわらと出て来る。そして奥には、アレクと同じくターバンを巻いた青年が弓を構えていた。あいつが恐らく、エーディンの言っていたジャムカだろう。……ん?あの弓、どこかで見た気が……
「っ!!迂闊に突撃するな!奴め、キラーボウを持っている!」
「キラーボウ!?確か、とんでもなく殺傷力が高いって代物か!」
ノイッシュが驚愕して言う。それにしても思い出せて良かった。あの
「クソッ……まさか一目で見破られるとは!まだ奴らは木々に挟まれたも同然!一気に突撃するぞ!」
ジャムカが号令をかける。ヴェルダン兵がこちらに突撃してこようとしたその時、エーディンが駆け出して来た。
「エーディン公女!」
「待って!ジャムカ王子!」
「……待て、突撃を止めろ!……君はエーディン!?」
「もうこんな戦いは止めて下さい!サンディマはあなた達を騙しているのでしょう!?」
「何故奴の事を……そうか、ガンドルフの兄貴から聞いたのか。だがマーファ城は落とされた。もう兄貴はいない筈だ。俺一人では親父を説得出来ない」
「いえ、ガンドルフ王子なら生きています。あなた達二人が説得すれば、バトゥ王もきっと分かってくれる筈です!」
ヴェルダン兵の間にざわめきが起こる。そりゃそうか、いきなり女性が飛び出して来て力説し始めたらそりゃ困惑するわ。エーディン、顔に似合わず中々度胸が有る人だ。
「兄貴が生きているのか!」
「はい。ヴェルダン城まで連れて行きます。ガンドルフ王子がいないと思い本性を表したサンディマを見たら、きっとこの人も分かってくれる筈です。だからどうか、もう武器を降ろしてくれませんか……」
「……」
駆けつけたシグルド達も加わり、しばらくの沈黙が続いた。ヴェルダン兵達は困惑した表情でジャムカを見つめている。
「…………分かった、そこまで言うなら俺も君を信じよう。シグルド公子、お前達には本当にヴェルダンへの野心は無いのだな?」
「あぁ。私も光神バルドの末裔。決して、ヴェルダンへの野心は無いと誓おう」
「……信じよう、シグルド公子」
「ありがとう、ジャムカ王子」
「皆、俺はこれからヴェルダン城に行く。これからどうするかは、お前達で決めてくれ」
「俺らはジャムカ王子について行きますよ。な、お前ら!」
一人のヴェルダン兵を皮切りに、皆が歓声を上げた。こうして俺達は、頼もしい戦士達を仲間に迎え入れたのだった。
しばらく森を進んだ俺達の前に、更に深い森が現れた。ここが「精霊の森」と呼ばれる森らしい。
「深いな……先が全く見えん」
「ここから先は俺が案内しよう」
ジャムカが先頭に立つ。俺達はジャムカの案内の下、ゆっくりと精霊の森を進んで行った。俺は後方でノイッシュと共に歩いていた。
「なんて暗い森だ……まだ昼間だと言うのに」
「同感だ」
ノイッシュが珍しく愚痴を言う。すると俺達の横から、人の気配がした。どうやら俺達二人以外は気付いていないらしい。
「あの……」
「ん?君は?」
出て来たのは、美しい女性だった。薄い桃色の髪に、清楚で大人しそうな顔立ち。純白のローブは気品溢れる物だった。ノイッシュが近付く。
「私はディアドラと言う者です。この辺りにシグルド様が来ている筈なのですが……」
「シグルド様か。ハハハ、あの人の名声はこんな所まで届いているとはな。だがディアドラさん、今我々は戦争の真っ最中なんだ。これが終わってからでも遅くは無い。もう少し待っていてくれ」
「でも、サンディマは……」
「何、自分は手を汚さず、他人に手を汚させる奴なんかに我らは負けはしないさ。……そろそろ行かなくては、はぐれてしまう。また会えるといいな、ディアドラさん。行こう、サムソン」
「う、うむ」
……え?こいつこのディアドラって人の見た目に全く惑わされずに会話を断ち切ったぞ!?なんて節穴の持ち主なんだ……(失礼)
「しかしノイッシュ、彼女は何か言いたげだったぞ?」
「うむ。しかし恋する乙女とは良いものだ。シグルド様もあんな美しい人に恋心を抱かれるなんて、羨ましい物だな」
なにかズレてる気がするが、もう気にしない事にした。ここで戻って迷ったら元も子もないからな。俺は若干の不安を残しつつ、シグルド達の後を追った。
ディアドラ……ノイッシュに一方的に話を断ち切られた。
ノイッシュ……美女の前でも惑わされず戦いに巻き込むまいとする騎士の鏡にしてサイレスの杖の登場を遅らせた人間の屑(酷評)
でもこれを書いたのは作者なのでつまり作者は人間の屑だった……?