ユグドラルにアリティアの元剣闘士をブチ込んだ話 作:塩焼きそば啜郎
逆襲のエリオット
シグルドがエバンス城の城主となり、俺達が滞在してからしばらくが経った。俺は町を探索し、「闘技場」なる懐かしい施設を発見したのだが……そこで一人の友人が出来た。
「待たせたな、ホリン」
「サムソンか。何、少しだけさ」
金髪で、俺と同じ位の背丈の男だ。なんと俺が来るまで闘技場では無敗を誇ったらしい。実際俺もかなり苦戦した。ホリンの必殺は、敵の防御を無視して攻撃する「月光剣」。アイラの流星剣とは対になる、一撃を重視した技だ。以前は金の為に戦っていたが、俺に負けて虚しくなったとの事。結構話が合う奴だったので、無事に友人となった。
「今日も行きつけにいくのか?」
「うむ。このエバンス城にはグランベルの幸とヴェルダンの幸、両方が流れてくるからな」
「酒は飲めんが、今日も食うか!」
最近行きつけになった飲食店へと向かう。久々に日常を取り戻した俺だったが、やはり戦いは付く物で……翌朝、俺の幸せは終わりを告げた。
「みんな、よく聞いてくれ。暗殺されたイムカ王の長子、シャガール王子がヴェルダン侵略の命を出した。アグストリア諸侯は強い反グランベルの意思を示していたから、いずれこうなるとは思っていたが……我々はエバンスを守り抜くと同時に、もう一箇所で戦わねばならない。オイフェ」
すると、奥から一人の子供が出て来た。彼は数年前にシグルドの所へ来た、騎士見習いらしい。
「先程、エルトシャン様がアグスティに囚われ、ノディオンがハイラインに攻撃されているという情報が入りました。ラケシス王女から援軍を請う書状がまいりました」
「シグルド公子、そのエルトシャンという者は……」
「私の親友だ。彼が要らぬ野心を持つとは考えにくい。恐らくシャガール王子の怒りを勝ったのだろう」
「……諸侯同士で仲間割れとはな」
「貴族というのはそういう者さ」
横で呟いたホリンに、俺は頷き返した。しかしノディオンか、ここからじゃ結構離れてるな。電撃戦という訳だ。歩兵にはきついものがあるが。外に出て、簡単に隊列を作る。
「てめぇら、ヴェルダン戦士の力の見せ所だ!気合入れてけよ!」
「俺達はガンドルフの兄貴の部隊の援護射撃を行う。隊列を崩すな!」
「よし、ノディオンに出撃するぞ!」
こうしてシグルドを先頭に、戦地ノディオンへの大進撃が始まった。
「うおぉおぉぉおぉ!!走れ走れ走れ!置いてけぼりにされるぞ!」
「「「「歩兵に厳しい……!!」」」」
「やはりこうなるのか……」
やっぱそうだよね。馬に乗った騎士達はともかく、俺達歩兵のスタミナがそう長く持つ筈も無く。先頭を走るガンドルフも少しづつスピードが落ちて来ている。置いてかれたらそこまでなので、皆全力疾走を続けているのだ。
結局俺達が国境を抜けてノディオン城を目にしたのは、シグルド達が到着した後だった。幸いにも戦いは始まったばかり。ノディオン城の城門前でハイライン軍と拮抗している。
「よし、あれが敵だな!お前ら突撃するぞ!」
「は?おい兄貴、そんな無計画に……」
「敵は今隊列が長く伸びてるだろ!そこを横から叩けばちょろいもんよ!」
「あっ、待てよ兄貴!……お前ら、着いていくぞ!サムソン、アイラ、ホリン、悪いが兄貴の護衛を頼む!」
「了解した。だがなんて脳筋だ……」
「ヴェルダン兵が哀れに見えてくるな……」
兵士を憐れみながらも、俺達も戦いに加勢した。やはり相手は訓練を積んだ騎士なだけあって、以前までとは全く違う。そんな中でもガンドルフは果敢に突撃していった。
「俺に続けぇ!止まったら死ぬぞ!」
「畜生、なんて無茶な王子だ!」
「もうやけくそよ!死んだら恨みまくってやる!」
兵士ももう諦めの境地に達したようだ。手当たり次第に手斧と斧を振り回して、ハイライン軍の隊列に穴をブチ開けている。まるで台風みたいだな。それが功を奏したのか、次第に俺達が優勢になってきた。
「くっ、何故ここにヴェルダン兵共が……!?」
「お前が敵の大将か」
「……フン、そうだ。俺がハイラインの王子、エリオットだ!こうなったら俺が蛮族共を片付けてやる!」
「……ガンドルフ、一旦退却しろ!」
「あぁ?……ゲッ!?」
エリオットの銀の槍の鋭い一撃が、ガンドルフに向けて放たれる。ガンドルフは危うく手斧でそれを防いだ。
「チィ……」
「エリオット王子、何故ノディオンを攻撃する!?」
「シグルド公子!」
「フン、エルトシャンさえいなければこちらのものだ。あの女には散々恥をかかされて来たからな」
「貴様……」
「シグルド、奴の得物は槍。ここは私に任せてくれ。君はハイラインへと向かうんだ。」
「キュアン!……頼んだ」
シグルドを始めとした数騎が離脱した。俺も着いていく事にしたが、一つだけキュアンに言っておきたい事がある。俺は去り際にキュアンへと叫んだ。
「キュアン王子、相手は一国の王子だ。出来れば殺さず、国に送り返して欲しい」
「……分かった、善処しよう」
「助かる」
「話は済んだか?」
「あぁ。お前の相手は、レンスター王子キュアンが相手しよう!」
エリオットとキュアンが同時に馬を走らせる。そしてそれぞれの得物を交錯させた。
「そんな物で俺が倒せると思ったか!」
「一対一ならな。お前の部下はとっくに倒されたぞ」
「何!」
エリオットが周りを見渡す。するとそこには、戦いを終えたノディオン騎士を治療するラケシスの姿があった。
「エリオット!あなたがここで退いてくれるのなら追撃はしないわ!」
「チッ、調子に乗りおって……たかが三騎!この俺に倒せないとでも思ったか!」
「こっちも忘れるなよ!」
「うおっ!?」
ジャムカ隊の矢が一斉に飛ぶ。エリオットはなんとかそれをかわした。
(どうするか……弓兵に突撃するのは自殺行為!ならば残るはキュアンと三騎士……)
「考え事は終わったか?」
「やはり、ノディオンを攻めるとしよう!」
エリオットはラケシスに向けて走り出す。当然騎士が行く手を阻むが、エリオットは途中でハイライン軍の死体から手槍を取り上げ、騎士へと投げた。
「これで俺を討つ手は無くなった!」
エリオットは無理矢理防御をこじ開けると、ラケシスを掴む。そして剣を取り上げ、抱え込んだ。
「フハハハ!馬鹿共めが、人数差におごるからこうなるのだ!さて、ゆっくりと始末してやろう……」
「貴様!」
「姫を解放しろ!」
「フン、ならば力づくで取り戻してみろ!」
エリオットはゆっくりと後退を始める。彼はラケシスを人質にとっても優位に立ったとは考えていなかった。
(逃げ過ぎればシグルドの軍にぶつかる……ならここで逃げながら各個撃破していくのが得策よ!)
「いやっ、離して!」
「無駄だ。剣を無くした以上、俺には勝てん」
「エリオットォォ!!」
「しつこいぞ、キュアン!」
「騎士としての誇りを無くしたか!」
「誇りとは勝利の上にある物だ!負ければ惨めな運命が待つのみよ!」
再度、両者の槍が交錯する。鋭い音を立てながら、空中で火花を散らした。キュアンは休む間を与える事無く、エリオットを攻撃し続ける。実際、ラケシスを抱えながら攻撃を防がなければいけないエリオットは疲労が溜まって来ていた。
「くっ……!」
(……今しかチャンスは無いわ。私も覚悟を決めなければいけないけど……)
「何をする、ラケシス!?」
「覚悟ぉぉっ!!」
「ラケシス王女!?」
ドゴォッ!!
「ふごぉおぉぉっ!?」
ラケシスの放った渾身の肘打ちが、なんとエリオットの股間に直撃した。顔を真っ青にしたエリオットは、ラケシスを手放しゆっくりと落馬していく。
「……ラケシス王女、中々恐ろしい女性だ……」
地面にうずくまり動かなくなったエリオットを横目に、キュアンはラケシスに戦慄していた。
エリオット……可哀想な王子。
ラケシス……容赦のない姫。重度のブラコンが判明した。
キュアン……エリオットにほんの少し同情した。