実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する? 作:匈奴人
馬陽の戦い、山陽の戦いを中心に、主人公の活動によって出現したオリキャラや諜報網を描写していきます。
《秦国 王都咸陽 嬴政視点》
ときはわずかに遡り、趙が馬央と馬陽に侵攻してきたすぐ後。
王都咸陽では、今度の軍を率いる総大将王騎や、軍総司令官昌平君他軍師達が、今回の馬陽攻防戦における戦略を練っていた。
軍の副将が、王騎の下につくことを嫌がっていた蒙武に決まり、戦略会議も一段落ついた休憩時間に、昌平君が王騎に声をかけた。
「王騎将軍」
「ンフフ、どうしましたか昌平君」
玉座に戻ろうとしていた嬴政は、その声を聞いて二人の会話が気になり耳をすます。
「昌文君が、『あの者は今度の戦には参加できぬ』と伝えるように、と言っていた」
その昌平君の言葉を聞いた王騎は、ピクリと表情を動かす。
更に副官の騰も、バッ、と勢いよく昌平君の方に視線を向けていた。
「……そうですかぁ。昌文君には、余計な気を回す前にもっと立場を上げるように言っておいてください」
「……『あの者』とは?」
王騎の言葉をあえて無視した昌平君の言葉に、王騎は『コココ』と特徴のある笑い声を上げる。
「昔、私が一線を退いたときに私の軍から出奔した者たちがいましてねぇ。今はどこぞで戦っているそうです」
「……名前をあげていないということは、王騎軍においてはそこまで重要な役回りではなかったということか」
嬴政も昌平君と同じ事を考えた。
それを昌平君が口にしたのは、王騎からより情報を引き出そうという考えだろうが、王騎軍で軍長として活躍していた者ならば、王騎の麾下から離れれば将軍以上の能力は確実にある、というのが通説だ。
そして昌平君や嬴政がそういった話を聞いていないのだから、王騎のもとを離れた後に大して活躍はしていないのだろうということが予想出来る。
「ンフフフフ、彼が何を思って名を大きくあげていないのかは知りませんが」
そのままいつもの口角を上げた笑みで、されど一切笑っていない目で王騎は昌平君を見る。
「私の部下のことを知ったように語られるのは、少々不愉快ですねぇ」
「……失礼した」
王騎にとって、自分の元を隊を率いて離れたその男は、大切な部下であると同時に、自分の大切な者をこの世に繋ぎ止めてくれた恩人でもあった。
そして何より、多くの戦場をともに駆けた友でもあった。
故に、揶揄されるような言い方は、例え探りでも許す気は無かったのである。
「そろそろ軍議を再開します!」
そんな声が聞こえ、休憩していた者たちが再び中央に設置された地図の前に集まってくる。
それに合わせて、自然とにらみ合っていた王騎と昌平君を、互いに目線を外してそれぞれの場所に戻っていくのだった。
そんな光景を軍議の間に見ていた嬴政は、軍議が終わり王騎ら、そして呂不韋陣営も退出した後に戻ってきた自分の右腕に尋ねる。
「昌文君」
「は、なんでしょうか」
「軍議のときに、昌平君が王騎にお前からの伝言を伝えていたが、あれは何だったんだ?」
昌文君が王騎にそれを自ら伝えなかったのは、末席に座る昌文君は軍議に参加できなかったからだというのは理解出来る。
が、それをわざわざ呂氏四柱である昌平君を介して伝えた理由がわからなかった。
それこそ、嬴政自身に伝えられていれば、王騎に伝えることも容易かったはずだ。
「陛下の口から王騎に伝われば、呂不韋陣営に大きく警戒されることとなります。故に、あえて昌平君を通して王騎に伝えさせました。お許しを」
「その者が誰かは知らないが、昌平君に言えばいづれにしろ呂不韋には伝わるぞ」
「は、しかし、その者は王騎にのみ忠誠を誓う男です。知られること自体は問題の無いことです」
「つまり、俺が目立つのを避けた、と?」
嬴政の言葉に、昌文君は頷く。
『あの者』について知られること自体は何も問題はない。
知られたところで王騎の下につく者であり、呂不韋陣営に取り込まれるようなことはない。
問題は、それを嬴政の口から王騎に伝えることで王騎と嬴政の繋がりを呂不韋に警戒され、余計な圧がかかる可能性があったことだ。
故に、あえて呂氏四柱である昌平君を通して伝えさせたのだ。
「陛下と王騎がお二人で会話なされたときに思い出していれば良かったのですが、私もその後に思い出しましたので昌平君を通すという手を使いました」
「……そうか、それは理解した」
その配慮自体は嬴政も理解した。
確かに下手に嬴政が王騎に話しかけるだけで、呂不韋の余計なちょっかいが増える可能性がある。
「それで、その者とは誰だ?」
「かつての王騎軍の第一軍長です。今は王騎軍を離れておりますが……」
「何? それはつまり……」
思わぬ大物に嬴政は目を見開く。
名前が上がっていないので、あっても王騎の護衛隊の隊長など、将ではなく兵士としての実力が高いものだと思っていたのだ。
「王騎軍の組織はご存知ですか?」
「すまない、教えてくれ」
有力な将軍や武功をあげた者の名前は嬴政も知っているが、例えば王騎軍の軍団式の組織や、あるいは麃公の全軍一体の組織などといった、各将軍大将軍の下の軍の構成については知らない。
国から階級として伍長から将軍、大将軍までの位を与えるが、それとは別として、有力な将軍は軍を形成していることが多いのだ。
例えば、階級としては同じ将軍だが、昔から副官としてやっているので将軍の下に将軍が副官としてついている、というような状況も普通にありえる。
階級と実際に構成される軍における立場は違うのである。
「はっ。王騎軍は、王騎の率いる本軍の他に、第一から第六までの軍団をおいていました。それぞれの軍団に軍長がおり、それらが戦の際には軍を率いて戦います。軍長一人一人が将軍級の実力を持つと言われており、王騎軍だけで大将軍一人と、副官も含めて将軍七人の指揮官を持つ軍となっています」
「聞くだけでかつての王騎軍の強さがわかるな」
通常そこまで一人の将軍、大将軍のもとに将軍級の実力者が集っていることはない。
大軍を構成する際に大将軍の下に将軍が入ることはあるが、常から同じ軍として行動することは稀だ。
それを七人もの将軍級の指揮官を抱えるからこそ、かつての王騎軍の強さがあったとも言える。
もう既に多くが戦死したり軍から身を退いているが、かつての六大将軍や趙の三大天などは、大抵そうした配下に単体でも強力な武将を複数抱えていた。
故に単独だけでなく、軍としてとてつもない強さを誇った。
「そのうち、それぞれに得意とするものに差はありますが、第一軍から順に軍として強く、また軍長も第一から順に能力が高いと考えられます」
「実際にはわからない、ということか?」
「私の知る限りですが、第二軍長は純粋に能力が高い猛将であり、第三軍長は一転して戦局の見える万能型の将といったように、軍長ごとに得意とするところがかなり大きく違ったのです。しかしやはり、格をつけるのであれば第一軍長から順に王騎の信頼を得ていたかと」
その特色の多彩さも王騎軍の強さだったと昌文君は思っている。
通常であれば、戦ごとに攻に長けた将、守に長けた将、軍を鼓舞するのが得意な将、激戦が得意な将など、将軍ごとに得意とするところを考えて戦場に配置される。
それを全て自分のところで賄ってしまえるのが、かつて中華を震撼させた王騎軍の強さを支えていた。
「その、王騎の信頼を最も集めていた第一軍長が、王騎のもとを離れたのか?」
「理由はわかりませぬ。昭王が亡くなり王騎が一線を退いてしばらく後に、自らが率いた第一軍の一部とともに王騎のもとを離れました。その後は兵をそのまま率いて将軍の地位につき、数年間は西南の夜郎と戦を行っていました。今現在は麃公将軍とともに魏ににらみを効かせているようです」
その言葉に嬴政はピクリと反応する。
韓に攻め込み趙に攻め込まれている今の秦が、絶対に守らなければならない場所だ。
「どのような武将だったのだ?」
「……王騎の第一の刃と言われた男です」
「第一の刃……すまないが戦には少々疎い。具体的に説明してくれ」
「王騎軍において最も強力だった第一軍を率いて、敵の主力を破壊するのが第一軍長・氷牙の役割でした。その戦い方は多岐に渡り、策を用いて敵陣を崩して大きく兵を討つこともあれば、真っ向からぶつかりあって戦うことも、あるいは敵将を狙って刈り取ることもありました。能力自体は、今秦国にいる将軍の中でも相当に高い部類です」
「それほどの将なのか」
「噂程度ではありますが、王騎がいない間に強襲した趙三大天廉頗の軍を相手に、真っ向から戦って時間を稼いだとも聞きます。それほどに能力が高い将であり、あの者が第一軍で敵とぶつかり合ったからこそ、王騎が敵本陣に対して全力を発揮できたとも聞きます」
それほどまでに能力が高い将軍は、しかし、それ以上の出世には一切興味がなく、ただ王騎に心服し、王騎の元で矛を振るった。
だからこそ昌文君は、その情報が呂不韋陣営に伝わることを警戒していない。
どうせその者は王騎のもとに戻ると知っているからだ。
「その氷牙という将無しで、王騎軍は力を発揮できるのか?」
「確実に力は落ちるでしょうが、他の軍長たちも能力も高く、王騎自身もいるので問題無いでしょう。むしろ氷牙がいるころは、一部では副官の騰も合わせて『王騎が三人いる』と言われるほどでした。六大将軍だからこそ許された軍の規模だったと言えるかもしれません。今とあっては過剰戦力です」
「そうか……」
むしろ昌文君などは、王騎が第一線を退いたときに、氷牙だけでも前線に残ってくれたことを感謝しているほどだ。
それだけで安定した戦線がどれほどあるか。
それも西南で夷狄である夜郎との戦いを続けていたので中華の戦いには関与していなかったが、それでも当時は安心したのである。
「ん? では今の王騎軍は第一軍はどうなっているのだ?」
「王騎に聞いた話では、全て繰上げ残った元第一軍は解体し他に併合したと」
「そうか……その男、陣営に取り込むことは出来ないか?」
主の言葉に昌文君は首を横に振る。
「不可能でしょう。よくも悪くも氷牙という男は王騎に身を捧げると決めた男でした。心酔したような様子を表に大きく出してはいませんでしたが、己の生き方はこうであると決めているような男です。おそらく今度の戦が終わった後に、将軍職を辞して王騎のもとに戻るかと」
「そうか……」
それほどの将ならばついてくれれば大きいと嬴政は思ったが、そうも行かないらしい。
いずれにしろ、この秦国において王騎陣営というのは、呂不韋陣営とはまた別に大きな力を持つ者たちだ。
その彼が再び翼を広げたからこそ、今後の動向を注視しなければならない。
しかしまずは、この戦に勝つことである。
それを嬴政は、王宮から祈ることしか出来なかった。
******
《秦国 移動中の軍 騰視点》
「騰」
「なんだ録嗚未」
進軍中の王騎軍野営地。
幹部たちの天幕があるところで、焚き火の前に座って食事をしていた騰は、録嗚未に声をかけられて顔をあげる。
主である王騎は、考えることがあるのか既に天幕に入っており、騰も食事を終えれば休むつもりだった。
「あいつは来ねえのか」
あいつ、と。
その指し示す者に騰は心当たりがあった。
あったが、かと言って明言されなければわからない、という以上に、その者に対抗意識を持つ録嗚未に対するちょっかいもあって、あえてとぼける。
「あいつ、とは?」
「あ? あいつだよ。ほら、いるだろうが出てったやつが」
「確かに隊を離れた者は何人もいるが……」
そこでようやくからかわれているのに気づいた録嗚未が、縁深い男のことを思い出さない騰に説明しようと眉を潜めていた表情から一転、表情を険しくする。
「お前わかって言ってんだろ!」
「静かにしろ録嗚未。もう夜なのだ」
そしてこの騰である。
こういった若干不憫な扱いを受けるのが、今の王騎軍第一軍長録嗚未の立ち位置でもあった。
王騎も騰もそれを若干楽しんでいるような部分がある。
一方野営中の夜間に騒ぐなという正論で黙らされた録嗚未は、不機嫌そうにしつつも話を続ける。
「っくそが。あの氷牙の野郎だ。あいつは戻って来ねえのかよ。てかお前俺にあいつの名前言わせたかったとかじゃねえだろうな」
「まさにその通りだ」
「ああ゛っ!?」
「うるさいですよ録嗚未」
録嗚未が騰に声を荒らげた直後、背後から彼らの主の声がした。
「と、殿っ!」
「殿、録嗚未が失礼いたしました」
「相変わらず録嗚未は騒がしいですねえ、コココ」
お、俺ぇ? と録嗚未がうめいているが、王騎と騰はそんなことは気にせずに会話を続ける。
録嗚未は、大抵こういう役回りになるのだった。
「二人は、こんな夜更けに何の話をしていたんですかぁ?」
「は、録嗚未が氷牙のことが気にかかる、と」
「はあっ!? そんなこと一こっ……! そこまでは言ってないだろうが……!」
実際には言ったにも関わらず一言も言っていないと怒鳴ろうとした録嗚未は、王騎の視線を受けて声を抑えた。
流石に夜半に叫ぶのは、明日も行軍があることを考えてもやりすぎである。
多少他の兵から離した広い位置を確保しているとはいえだ。
「氷牙は今回の戦には来ませんよぉ。彼は今魏との国境線の抑えに入っているそうです」
「魏との……、わかりました。」
「氷牙は正式に将軍になっているのでしたな」
「まじかよ……」
録嗚未は氷牙が王騎を敬愛していたことを知っているが、流石に今の秦国の状況で魏の国境線を空けられるはずもないというのも理解出来た。
それは、王騎の元を離れて秦国直下の軍として活動することを決めたときに氷牙も納得しているはずである。
が、それはそれとして、かつて競った相手が正式に将軍職を拝命していると聞いて驚きの声をあげる。
ちなみに録嗚未についても、王騎軍にいなければ将軍になれる程度の戦果は挙げている。
「明日は早いですよぉ。二人も早く休みなさい」
「はっ」
「はっ」
そう言って去っていこうとした王騎は、少し離れたところで立ち止まり、振り返る。
「録嗚未」
「は、はっ」
何かと顔を上げた録嗚未は、王騎の力強い視線を受けてたじろいだ。
「今も昔も、私の第一の刃はあなたです。今回も頼りにしていますよぉ」
「っ! はっ!」
口が達者な方ではない録嗚未は、王騎の言葉から受け取った力強く熱い塊に、礼の言葉を返すことが出来ない。
だが、その無骨な拱手を受け取った王騎は、満足気に笑うと天幕の中に消えていった。
「……氷牙がいないのは不安だったか?」
「はあっ!? そんなこと思うわけが無いだろうが」
残った騰の言葉に録嗚未は勢いよく反駁する。
たかが軍長の一人がいない程度。
まさかその程度の事で不安になるはずが無い、と。
だが確かに。
「確かに、王騎軍で主力を担ってきたのは元第一軍と氷牙だった」
「……」
かつての王騎軍において、主力として最大の敵と正面からぶつかっていたのは、第一軍長氷牙の率いる第一軍だった。
敵の中央軍、主力が集められた右翼左翼。
最大の数を持つ敵に対して、全力を持ってぶつかり、それを正面から受け止め打ち砕く。
それがかつての第一軍だった。
「だが、戦を決めていたのは氷牙の第一軍ではなく、いつもお前の第二軍だった」
「……んなこと知っとるわ」
しかし、だからと言って王騎軍の戦が、第一軍に寄りかかって行われていたかと言えば、そんなことは断じて無い。
「あの野郎みたいに、腰を据えて戦うような根気が俺にあるのか心配なだけだ。俺は気が短いからな」
敵の本軍、たいてい中央軍か、戦場によっては増軍された左翼右翼。
そうした、最も数が多く、純粋に強いであろう軍とぶつかって、それを受け止める『真っ向からのぶつかり合い勝負』が氷牙の第一軍の主な役目だった。
無論それ以外にも敵将を狙ったり敵を策で崩壊させたりと、真っ向勝負一辺倒では断じて無いのが元第一軍長氷牙だったが。
大軍故に簡単には崩せない敵の主力を、真っ向から受け止め抑え込み押し返すのが氷牙の基礎とする役目だった。
それに対して、敵の力の弱いところに当てられ、一局面を武力によって破壊することで戦場全体を有利な状態に持っていく。
あるいは、敵が繰り出した必殺の策にぶつかり、敵の本命を一撃のもとに粉砕するのが録嗚未率いる第二軍だった。
その性質は、万能に戦場の中で猛攻から堅守まで使い分け、王騎の戦を完全に描き切る第一軍に対して、圧倒的な勢いと破壊力を誇り、敵の弱きを砕き、強きをねじ伏せる第二軍。
全く異なるものである。
「確かに、お前の安定性は氷牙ほどは信頼できない」
「……チッ」
「だがぶつかり合ったときの勢いと破壊力ならば、お前の方が上だ」
故に王騎は、周囲が言うように氷牙ではなく録嗚未を自分の第一の刃だと呼んでいる。
実際のところ、王騎という頭の指示に従って自在に動き、ときに相手の攻撃をがっぷり組んで受け止め、ときに足払いや打撃技で敵の体勢を崩し地道にダメージを与えていく
そして時折手足が敵の首を捻り切ったり、刃が敵の刃を打ち砕いたりもするのだ。
その第一軍を率いた軍長がいなくなったところで、王騎軍は微塵も揺るがない。
と言えば流石に嘘になる程度には元第一軍長氷牙の実力は高かったが、いないからと言って崩壊するほど王騎軍は弱くない。
それに軍自体も氷牙が全て連れて行ったわけではなく、その過半は第一軍になったかつての第二軍に合流している。
「お前の出番が無くても後で騒ぐなよ」
「いや、騒ぐ」
「おい」
王騎軍に、穴など一つも存在しないのだ。
オリキャラ。
主人公陣営が強いんだから他も盛っていいよね!!
という以上に、色んな役回りのあるオリキャラです。
なんかアンケート置いておきたいんですが、何をアンケートしておくべきか。
IFの方は馬陽が一段落ついたら続き書きます。
最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?
-
欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
-
欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
-
それより早くあの将軍と会え
-
合従軍まだ?