実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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今回もほぼ原作なので、今夜は2話投降。
19:02 第12話
20:02 第13話 

とします。
確認お願いします。


第12話  本陣決戦2

《趙本陣対秦本陣 総大将同士一騎打ちの場》

 

 信を隊長とする、もはや五十人もいない飛信隊は、左右の歩兵隊が敵軍に突撃を仕掛ける中で、こっそりと戦列を離れていた。

 その行先は、秦軍総大将王騎と、趙軍総大将龐煖が一騎打ちを行っている場である。

 

 普通に命令違反である。

 王騎が総大将龐煖とぶつかり足を止めている間に、左右軍の歩兵と、王騎の副官騰が率いる騎馬隊によって趙本陣を壊滅させるのが、秦軍の狙いなのだ。

 その中から勝手に離脱し、王騎の戦いを見に来るのは、兵士としてとても褒められたものではない。

 

 言い訳をするならば、飛信隊のみが、この戦場において王騎直下の特殊歩兵隊という独自の役割を与えられていることだろうか。

 そのため、王騎自らの指示以外は無視してしまっても問題はあるが、強く咎められる訳では無い。

 

 そうやって一騎打ちの現場に到達した信が見たのは、わずかに龐煖に押されている王騎の姿であった。

 

 自分の知る、目指す大将軍が押されている姿に信が動揺している前で、王騎に対して優勢に戦っていた龐煖が口を開いた。

 

「身に受けた傷の痛みは時とともに消え去る」

 

 それは、かつて王騎に切られながらも、傷を癒やして再び鍛え上げ、王騎に戦いを挑んだ男の言葉。

 

「だが、魂魄に刻まれた傷の痛みは消え去ることはない。たとえどれほど時がたとうとも」

 

 そして同時に、王騎によって心に刻まれた傷が、未だに癒えず傷んだままの男の言葉だった。

 

「お前も同じはずだ。怒りは力を生む。あの、九年前の奴の死に様を思い──」

 

 そう語りかける龐煖に対する王騎の返答は、上から鋭く振り下ろされた矛の一撃だった。

 わずかに龐煖が顔を退いたことで、その先端がわずかに龐煖の顔を傷つけるにとどまる。

 

 その攻撃と龐煖の流した血に周囲を囲う兵たちがざわつく中、王騎もまた、龐煖に答えるように口を開いた。

 

「ンフフフ、勝手に殺さないでほしいものですねぇ、あの子を。しかし、安心しなさい龐煖」

 

 その王騎の放つ凄みに、趙軍秦軍ともにジリと包囲網が外に広がり。

 

「私の怒りもまた、あの頃から癒えていませんよぉ」

 

 『亜ッ!』と、王騎が放つ裂帛の気合に、更に数歩勢いよく後退した。

 大将軍の放つ本気の威に耐えられるものなどわずかしなかいないのだ。

 そのわずかな一部が、龐煖であった。

 

「来い王騎!! 今の貴様を砕くために我は来た!!」

 

 互いに小手調べの時間が終わり、本気の殺意がぶつかり合う。

 その戦いは、周囲からしてみれば既に圧倒的だったそれまでの戦いを容易く踏み越えるほど激しいものだった。

 

 続けざまに振るわれる矛がぶつかり合い、命を許さない音が周囲に響く。

 激しく吹き飛ばし吹き飛ばされする二人の戦闘は、ときに取り巻く兵士たちを巻き込みながら続いた。

 

 そんな打ち合いの中で、龐煖は、やはり湧き上がる疑問を抑えることが出来ない。

 

『なぜこの男はこれほどまでに強いのか』

 

 龐煖は、武将ではない。

 戦には興味がない。

 

 だが、個人としての武、圧倒的なまでの武を極めるための道を歩んできた。

 

 資質の足りぬ求道者が、力ある者に敗れることはままある。

 道を降りた求道者が、道に登らずとも武を修めたものに届かぬことも当然ある。

 道半ばの資質ある者でさえ、道を知らぬものに散らされうる。

 

 だが龐煖は違う。

 

 龐煖には、道の果に到達するための資質が最大限にあった。

 そしてその道を邁進し続け、ついに武の極みに到達したと。

 

 かつて王騎に斬られたときには届かなかった極みに到達していると断言できる。

 

 なのに。

 

 道のなんたるかを知らず、戦などという世迷い事に明け暮れている王騎が龐煖を押している。

 

 龐煖にはそれが理解できなかった。

 

「腑に落ちないようですねぇ龐煖」

 

 そんな龐煖に、王騎は告げる。

 

「十三の頃より終わりなく戦場を駆け巡り、数万の戦友(とも)を失い、数十万の同胞(てき)を葬ってきました」

 

 それは、戦場に生き、積み上げてきた王騎の知る将軍の姿。

 

「彼方へと旅立った彼らの遺した思いが、全てこの双肩に重く宿っているのですよ」

 

 ただ道を極めるのではなく、無数に積み上げた人の繋がりから力を得る、一人では得られない強さ。

 

「一人で歩んできたあなたには、理解出来ないでしょうねぇ」

 

 龐煖が無価値と断じ、そしてけして得ることの出来ない強さだ。

 

 その王騎の言葉に、敵味方関係なく、戦の場に身を置く者たちは、例外なくどこか納得する気持ちを抱いた。

 

 死んだものは死んだ。

 どれだけ軍で戦おうと、敵の一兵士と武をぶつけ合うのは己一人。

 

 だが、強さとはそれだけではないのだ。

 隣で戦う友がいることで発揮される力。

 先に逝った戦友を思い、討った強敵を偲んで湧き出す炎。

 

 戦場にはときに、理屈ではない力が宿るのである。 

 

「その通りだ。だから俺たちは強くなるし、そこを渡ってきた将軍ってのは強えんだ」

 

 まだ戦場に出始めて幾ばくも無い信であったが、王騎という大将軍の元で戦い、戦友を多く失い。

 それでも湧き出す力を確かに感じていた。

 

 そしてまた、それを認めない者も当然ながら存在する。

 戦場を数と理で捉える者。

 戦をただ利と結果だけで捉える者。

 戦場の空気を知らぬ者。

 

「語るに足らぬ」

 

 一人武の道を極める龐煖もまた、その一人である。

 

「いつの時代もお前たちは同じ思い違いをしている。死人の思いが力を与えるなど、お前たちの勝手な夢想に過ぎぬ」

 

 龐煖にとって武とは、ただ一人極める道である。

 誰かに支えられる、誰かが共にいる。

 

 そんなもので変わるほど優しくはなく、その程度のものが変えられるほど軽くもない。

 ただ一人、己との戦いの中を先に進み続ける孤独な道程をこそ、龐煖は武というのだ。

 

「武とは、ただ弱きは力尽き、強きが高みに昇る。その理があるだけだ」

 

 龐煖が振り下ろした矛が、王騎の矛によって受け止められる。

 

「龐煖。あなたとは最後まで相容れないようですねぇ」

「当然だ」

 

 二人。

 異なる道を歩み、異なる形で強さを手にした男たちの戦いは、一層激しさを増していく。

 

 矛と矛がぶつかり合い、激しい音をかき鳴らす。

 武の証明と将軍の矜持。

 共に掲げる武器が、一歩も下がることなく己を主張する。

 

 二人の強さを正確に評価するならば、純粋な個としての武力は龐煖が明確に上。

 これは純粋に武という道を高め続けた龐煖と、戦の中で一つの武器として武を使った王騎の違いによるものだ。

 

 だが、こと戰場の戦いにおいて、王騎の強さは武だけではない。

 

 人というのは不思議なもので、二千と余年後の時代においても、人について分からぬことは山のようにある。

 

 時折人の箍を外し、普段の全力の数倍が発揮されることもあれば。

 道を極めた者たちが、同等の者との戦いの中で究極の更に先へと踏み込んだり。

 あるいは人体の不可思議で、死ぬはずの人間が生きながらえたり。

 体内で特殊な薬物を生成して発揮する能力を増幅したりもする。

 思い込みだけで人が死ぬかと思えば、思い込みで何倍も早く成長したりするなんてこともある。

 

 そしてこの大いなる戦の続く戦国時代では、戦場で戦う兵や将たちは、共に戦う仲間と、先に逝った戦友と、己が打ち破った敵の思いを背負い、それを力に変えるのである。

 

 結果。

 極まった個の武を誇る龐煖と、ともに戦い散った者たちの思いを背負う王騎の戦いは。

 

 戦場で積み重ねた王騎の将軍としての強さが、上回った。

 

「これでお別れです、龐煖!」

 

 王騎の一撃が、龐煖の矛を弾き体勢を崩し。

 最後の一撃が、上から振り下ろされた。

 

 その刹那。

 矛を振り抜く最中に、後背の彼方から響く音と僅かに大地を揺らす震動に気づいた王騎。

 龐煖の首を切り落とすはずだった矛は、王騎の意識がわずかに逸れたこともあり龐煖がわずかに躱そうとしたこともあり、狙いから逸れて、龐煖の背中から腕にかけてを浅く切り裂くにとどまった。

 

「なんで止めを刺さないんだ!?」

「待て、さっきからこの地鳴りの音はなんだ……!?」

 

 止めを刺さずに勢いよく振り返った王騎に、信が疑問の声をあげる。

 しかし、より視野の広い羌瘣は、先程からわずかに聞こえる地鳴りの音に気づいていた。

 

 王騎も同じように、うつむく龐煖に背を向けて、秦軍全体の背後へと視線を向ける。

 そこには、秦軍が通ってきた道を通るように、整然と並んだ軍勢が進行してきていた。

 

「ンフフフ、これが敵の策ですか。私の索敵をかいくぐってこれほどの数を用意するとは」

 

 進行してくる軍を見た王騎は、矛を肩に載せてトントンと叩く。

 偶然によって敵の自分を嵌めに来る策があることには気づいていたが、どんな策かはついぞわからなかった。

 ここまで見事にやられたのは王騎としても久しぶりである。

 

「しかし、早いですねぇ。いや、私が知らないからこそ、ここに持ってきた。そういうわけですか」

 

 王騎は、策がある上で、敵の策が到達する前に趙荘の本陣を破壊し切る自信があった。

 王騎自身が龐煖とぶつかって足を止めたのは確かだが、それでも、敵の到達速度は王騎の想定から見ても遥かに早かった。

 

「ここまでしてやられたのは二十年ぶりぐらいですか。良いですよ、この感じぃ。実に良い」

 

 敵の軍勢を前に、焦った様子を見せない王騎に注目していた王騎の周辺の秦の兵士達。

 彼らは、王騎がこれまでに無いほどの、壮絶な笑みを浮かべるのを目撃した。

 

「久しぶりに血が沸き立ちます」

 

 そして、進軍してくる敵の体勢が整う前に、兵士たちに続けざまに指示を出す。

 

「さあ、皆さん敵の新手に備えますよ。玄維、周央はしんがりで新手の突撃に備えてください」

「は!」

「西登は歩兵の先導を。急ぎ隊形を整えさせなさい」

「は!」

「胡岸兄弟は趙荘軍左翼の裏に拠点を。私も後ほどそちらに入ります」

「は!」

 

 

 

 

 

 王騎が指示を出し、王騎の周囲の指示を受けた指揮官たちが動き出すと同時に、後から攻め寄せた趙軍三万は隊形を整え、旗を掲げた。

 

「大天旗を掲げよぉ!!!」

「「「「おおおおおおおおお!!」」」」

 

 掲げられた旗は、龐煖が務めるのと同じ三大天を示す旗。

 趙の武力の象徴である三大天のうち二人が、この現場に揃ったのだ。

 

 そのもう一人である李牧は、後から攻め寄せた四万の軍勢の指揮所の中で、冷静に秦軍を見つめていた。

 その李牧に、後ろからこの軍を率いるもう一人の将である魏加が声をかける。

 

「やはり敵の反応が鈍いですな。流石の王騎も、雁門から情報封鎖されているとは思いますまい。手間をかけた甲斐があったというものです」

「討ち取る相手はあの王騎ですから。これぐらいしなければ討ち取れません」

 

 李牧のその言葉が、彼を至上と慕うカイネからすれば信じがたかった。

 

「たかが一将にやりすぎですよ……匈奴相手でもここまで手の込んだことはされなかったのに」

「ハッハ、そうか、カイネは王騎を知らんのか」

 

 そんなカイネを、かつての王騎の悪名を知る魏加が諭す。

 

「奴の首は五十の城を取るより価値がある」

「五十!? そんなわけ……」

「それが王騎という男なのだ」

「そうですね。魏加殿の言う通りです」

 

 李牧の言葉に、カイネは疑わしげな視線を向ける。

 カイネは基本的に、雁門で騎馬民族とばかり戦ってきた。

 そのため、将軍の名が中華に轟く意味と、中華での力関係に寄与するほどの将軍の存在というのを知らないのだ。

 

 どれほど李牧が恐れられようと、どれほど馬南慈が鬼人と呼ばれようと、それでも懲りずに攻め寄せるのが、多数の部族にわかれた騎馬民族であった。

 故に、たった一人の将軍の存在が国を守るなど信じがたかったのである。

 

「国を代表する大将軍というのは、その国の軍事の象徴です。それを失えば、秦の武威は大きく落ち、趙の武威は中華に轟きます」

「この戦国の世、弱い国には人は集まらぬ。それはすなわち才人を遠ざけ、国そのものの更なる弱体化に繋がる。逆に強いところには人が集まり才が集まり、それが国を強くする。大将軍というのは、そういう存在なのだ。そしてあの王騎はその中でも、今の秦の武威を一手に引き受ける存在だ。その首の影響は計り知れないぞ」

 

 それが、この戦国の世における大将軍という存在。

 そして李牧もまた、雁門の一指揮官から、その大将軍に名を連ねることになったのだ。

 

「かくいう私も三大天という地位を頂いて、趙国の武威の象徴となりました。故に最初に王騎を狙ったのです」

「厄介な敵は先に仕留めておこうというわけですな」

 

 そのために李牧は、この策を練り、雁門から情報封鎖をして王騎の不意をついた。

 あるいは雁門の指揮官のままなら、こんなことをする必要は無かっただろう。

 だが、三大天という地位を王から命じられたのだ。

 断るという選択肢は、李牧には取ることは出来なかった。

 

 

 

 そして李牧が練ったこの策は、確かに秦軍の不意をつき、兵士たちの士気をどん底に叩き落としていた。

 王騎とその周辺だけはいち早く動き始めたが、端の歩兵達などは、趙軍が完全に隊形を整え突撃の準備を開始しても、ほとんどの兵は愕然とするしか無かったのである。

 

 そして。

 

「第一陣突撃ぃ!!」

 

 後から到着した李牧軍三万による突撃が、始まった。

 

「歩兵全隊急げぃ!! 敵を迎えうつぞぉ!!」 

「敵騎馬来るぞぉ!! 騎馬隊防御体勢!!」

 

 一方の秦軍は、王騎の指示を受けた指揮官達が、なんとか一部の兵をまとめて李牧軍の突撃に対抗しようとしたが、遥かに数に勝る李牧軍の突撃を受けては、全軍の隊形が整っていないのもあってほとんど焼け石に水だった。

 

 それでも、局所的に敵軍に対抗する兵たちが現れたところで、それを見た付近の兵が奮起し、部分敵に趙の突撃に抵抗を始める。

 蹂躙するつもりで突撃してきた趙騎馬隊は面くらい、一時的にその速度を大きく落とした。

 

 その指示を出した王騎も、周囲に指示を出し終えて後方の本陣に移動しようとしたのだが。

  

「王騎ィ!!」

 

 一度は王騎に圧倒され、うなだれていた龐煖が復活してしまった。

 そのまま王騎に襲いかかった。

 

 だが今度は、先程までのようにはいかない。

 

「殿をお守りしろ!! 龐煖を殿から引き離すんだ!!」

「王騎を殺せぇ!!」

 

 李牧軍という増援が出現したことで、秦軍から余裕が失われ、趙軍はその余裕にのって王騎を仕留めてしまわんと、二人の一騎打ちを無視して秦趙入り乱れる大乱戦が巻き起こったのだ。

 

 その中でもやはり数に勝るのは趙の兵士である。

 秦の兵士は、二人を囲っていた包囲のうちの半分近くが、突撃してくる李牧軍の兵対策に前線に回されていたのだ。

 

 故に王騎は、龐煖の相手をすると同時に、襲いかかる趙兵の相手もしなければならなかった。

 それは王騎の足を止め、次第に傷を蓄積させていった。

 

 

 

 

 それは、離れた李牧本陣から見ている者たちにも見えていた。

 

「怪鳥が地に堕ちる……か。ふふっ」

 

 一時的に押し止められていた李牧軍の突撃が、隊形が整わなかった秦軍の陣形を崩し、ついに趙兵の波が王騎を飲み込んだのだ。

 それを見た魏加は、喜びとも悲願とも言えぬ思いを胸に浮かべる。

 

「あまり嬉しそうではないのは何故だ?」

 

 そんな魏加の奇妙な表情を見たカイネの問いかけに、魏加は王騎という存在について話す。

 ありとあらゆる戦場に顔を出しては敵を打ち破り、結果六国全てから恐れられ死を望まれる“怪鳥”。

 

 しかしその恐れは同時に、王騎という存在を皆が英雄と認めていたという証でもある。

 

 そんな王騎も、今ここで李牧の策に討たれる。

 

「これこそが戦場よ。数多の傑物が現れ、時代を回す。そして今かつての傑物達の多くが世を去り、今またその一人が討たれんとしている」

 

 それは、ある種戦に、戦国という時代に夢を見る男の言葉だった。 

 

「無名の者たちが作り上げる新しい時代の幕が上がろうとしているのだ。その場にいられることに、心震えずにはいられんのだよ」

 

 その言葉が、カイネには理解出来なかった。

 李牧もまた、意味は理解出来ても本当の意味で理解は出来なかっただろう。

 彼らがその熱を、恐ろしさを知るのは、これからの話である。

 

「では、御免」

「魏加殿、何を?」

「この舞台に、わずかでもこの魏加の爪痕を残したく。龐煖様にも、曲がりなりにも三大天として、ここで命を落とされては困りますからな」

 

 つまり魏加は、今まさに一騎打ちを行う王騎と龐煖の戦いに割って入り、王騎を確実に殺そうというのである。

 

 しかしこれは、ある種将軍同士の一騎打ちなどが神聖視される部分のある中華の戦において、不意打ちで一騎打ち中の敵を討つというのは、場合によっては恥ずべき行いと見なされる。

 更に、王騎と一騎討ちをする龐煖の武威を貶めることにも成るだろう。

 

 それでも魏加は、汚れ役としてでも、この中華の戦に自分の弓をもって名を残さんと出陣したのだ。

 その背中を、李牧は拱手とともに見送った。

 

 

 

 

 

 そのすぐ後、続けざまにいくつかの出来事が起こった。

 

 一つ目は、ついに騰騎馬隊の突撃から逃げ回っていた趙荘の本陣が壊滅し、趙荘が討たれたこと。

 

「ふふっ、先に行って待っているぞ王騎! この趙荘が死すとも、もはや貴様に未来はない!」

 

 最後にそう叫んだ趙荘は、追いついた騰の剣によって討ち取られた。

 

 これでこの場に元からいた趙荘軍はほぼ壊滅し、残る趙軍は後からやってきた李牧軍ばかりとなった。

 とはいえ王騎本軍も大きく数を減らしており、残存したわずかな趙荘軍の生き残りも十分な脅威である。

 

「殲滅しますか」

「いや」

 

 しかし、それらに目もくれず、趙荘を討ち取った騰は次の攻撃先を定める。

 

「我らは敵左軍から突入して敵本陣を狙う。拠点づくりは胡岸兄弟に任せるぞ」

「「「おおっ!」」」

 

 突撃先としては、少々間を飛ばしているがおかしな位置ではない。

 趙荘本陣が李牧軍から見て左の方向に逃れていたために、それを追っていた騰騎馬隊もそちらに戦場を移していた。

 故に今度はそこから、李牧軍第一陣と秦軍が戦うその脇をすり抜けて李牧の本陣を狙うというのだ。

 

 王騎の助けに行くか、あるいは秦軍と戦う李牧軍第一陣を攻撃しないことが不思議にも映るが、ここで助けにいったところで、李牧軍を抜かなければ撤退することは困難である。

 故に騰は、自軍の救援より李牧本陣を狙っている。

 そう騎馬隊の動きから判断した李牧は、この突撃が届く前に左軍の一部に陣形を整えさせ対処を行わせた。

 

 そして次に、騰騎馬隊が敵左軍に狙いを定めるのと機を同じくして、王騎が全軍に檄を飛ばす。

 

「ンフフ、ここから打てる策はもはやありません。ですが、策が無いならば力技です」

 

 龐煖という巨大な障害と、周囲から迫る趙兵の猛攻にさらされた王騎は、ついに策を捨てた。

 敵に三万の兵を率いる自分を策にはめるほどの優秀な策士がいて、自分には龐煖という強力な武人が張り付いている。

 

 兵力の差を見ても、自分が動ける幅を見ても、策でどうこうできる局面ではもはやない。

 故に。

 

「この声を聞く王騎軍の兵士に言い渡します」

 

 王騎は、兵を激励し爆発させることで、その戦力差を埋める一つとする。

 

「敵の数は我らのおよそ十倍。ならば、一人あたり十人を討ちなさい。それまで倒れることは認めません。皆ただの獣と化して戦いなさい」

 

 それは、数を集め策で戦う戦を馬鹿にするような。

 けれど、王騎のような戦場を見続けてきた大将軍ならば、けして甘く見てはいけないと知っている兵士の覚醒であった。

 

「ここからが王騎軍の真骨頂です! この死地に活路をこじ開けます! 皆の背にはこの王騎がついていますよ!!」

「「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」」

 

 王騎の言葉が、追い詰められつつあった王騎軍に火をつけた。

 押し込まれていた前線の兵士たちが奮起し、大きく趙軍を押し返す。

 

 

 そしてそれを見た李牧が、王騎に突破の取っ掛かりを作らせないために、第二陣を突撃させた。

 左の軍については、第二陣は突撃に向かい、その後ろの軍が騰軍への防御隊形を整えることになるが、入れ替わりで僅かな引っ掛かりが生じたところから騰によって斬り込まれることになる。

 それでも李牧は、本陣の隊形よりも王騎の対処を取った。

 

 その波及を受けて、というわけではないが、王騎軍に突入しようとしていた魏加の一団は、一度第二陣の突撃を待ち、秦軍が追い払われてから突入するために足を止めることになった。

 

 そして最後に。

 

「っ! 左方より敵襲!! 敵騎馬隊が出現しました!!」

「何っ!?」

 

 王騎が兵を鼓舞したことで、それを警戒した李牧が第二陣を突撃させ、騰が騎馬隊を趙左軍から突撃させたことで、大きく上がった李牧軍左軍。

 

「左方展開急げ!」

「正面から趙荘本陣を討った騎馬が来ます!!」

「何だとぉ!?」

 

 そこに、横から飛び込んできた数千の騎馬隊が食らいついたのである。

 

 これより、戦場はより一層の混迷を極めていくことになった。

 




アンケートはしておきたいんだけどなんか思いつかんな。
皆の意見見るの結構好きなんだけど。
何か考えます。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?
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