実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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第19話 前線視察

 やはりオルドだった燕の将軍との会談も成功裏に終わり、オルドが一度国に戻るということで、交流にはしばらく穴が空いた。

 一方南に張っているモクゼン軍は、そのまま燕北方に張り続けて、今も連絡のための兵を送り出している。

 その中で、燕北方の山の民との交流関係も築かれつつあるらしい。

 

 ずっとシャピンから遠出しているモクゼンの第七近衛兵団だが、このあたりは、まだ遊牧が過半の遊牧民族の強みが出ていると強く感じる。

 ゲルさえ持ち運んでしまえば、どこでも寝泊まりが出来るのだ。

 それも中華の軍のように雨の下地面の上で寝るのではなく、日常のようにゲルの下で眠ることが出来る。

 これは軍の移動の自由性と疲労に対して非常に大きな影響を持っている。

 

 まあその分遠出のときには荷物も増えはするのだが。

 

 南でそんな感じで頑張っている一方で、俺はシャピンを離れて、東方の北東胡や南東胡、それに朝鮮半島あたりから横に広い領域を持つ異民族連合との戦の最前線を訪問していた。

 

 原作でいう所の、昭王が前線の王騎や摎の軍がいる場所を訪問した場面と同じようなものだ。

 普段から専門の部署を作って前線での戦闘の情報は広く収集しているので、シャピンの宮殿にいながら戦の状況や前線のことを知るのは容易い。

 だが、俺自ら足を運ぶことで見れるものというのも確かに存在する。

 流石に全ての戦場を視察、調査する者たちに、俺と全く同じ目線で戦場や前線の状況を見て評価させ、着目すべき点を共有することは不可能なのだ。

 

 故に俺もこうやって、時折軍を率いて前線へと赴いているのである。

 

 もちろん、ずっと宮殿にいては息が詰まるので俺が戦場を見に行きたい、というのも当然いくらかはあるが。

 

 それに今回はそれだけではない用事もある。

 

「陛下、見えてきたぞ」

「将軍、敬語敬語」

「おう! 見えてきましたよ!」

 

 そして今回の俺のおともは、第八近衛兵団、ハイトが率いる兵団である。

 ハイトは普通に部下がいる前でも敬語をぶん投げるので部下にカバーされている。

 良い部下を持ったな、お前。

 

 

「申し訳ありません、陛下。将軍は他に移動させますので……」

「よい。下手なことをして俺とハイトが不仲だなどと噂が流れては困るからな。それより、ハイトの声が聞こえないようにもう少し周囲の兵士を離れさせてくれ」

「はっ、承知しました」

 

 ハイトの軍師を務めるバリュウは、こうやってハイトの尻拭いを大体いつもやっている。

 彼自身も非常に有能な指揮官で、それをさせるだけの求心力がハイトにはある、ということではあるのだが、やはり戦場に出ないとハイトの良さが存分に発揮されることは無いのだろう。

 そして俺の近衛兵を務めている限り、ハイトが俺の前で戦をするような機会もない。

 

 また数年後にハイトが近衛兵団から前線に戻って、そこで暴れているところを見せてもらうことにしよう。

 

「陛下はお優しいですねえ。将軍なんてすぐに左遷されちゃいそうですけど」

「おいマルモ、お前主に向かって失礼なやつだな」

「いやだって将軍絶対近衛兵団とか向いてないじゃないですか。そりゃ戦の腕は確かですけどね?」

「確かに単于の接待をするのは向いていないな」

「……俺も実際にそうおも、思いますけどね」

「お、今度は敬語使えてる」

「うるせえ」

 

 ハイトの側近にして独立千人隊を率いるマルモが言う通り、正直言ってハイトとその軍は、俺の近衛兵団を務めるのにはあまり向いていない。

 ハイトをバリュウら側近達が補佐してはいるが、それでもやはり、モクゼンの第七近衛兵団のような将から兵まできっちりかっちりした軍と比べると、幾分かあらが目立つ。

 例えば燕の将軍と会談する任務も、モクゼンには任せられてもハイトには任せられない。

 

「近衛兵団の将軍は、モクゼンみたいなかっちりしたやつの方が向いてる。それは俺にもわかる。けど選ばれた以上は俺は全力でやるぞ」

「その姿勢は好ましいが、そういうわけでもない。確かにモクゼンみたいな将や軍は近衛兵団にほしいがな」

「なに、そうなのか?」

「近衛兵団ってどういうところを見て選んでるんですか?」

 

 マルモの問いかけに、俺はハイトを近衛兵団に呼ぶことにしたときのことを思い返す。

 近衛兵団の選出は、部下たちが戦場の視察や城での振る舞いなど様々な観点から資料をまとめたものを見た上で、俺が選出している。

 故にハイトも、他の将軍と比較の上で招集したのを覚えている。 

 

「まず実力は大前提だ。将としての実力と、その下に集まる軍の実力。ここは必ず見る。近衛兵団は将軍と軍をまとめて選出するから、その繋がりの強さも見ている」

 

 これは単于と首都を守るのだから当然の話だ。

 近衛兵団に選出されるのは、強さの証、と言われるぐらいには、前線で戦う将軍とその軍の中でも強力な者を選出している。

 

「そして次に、その軍の戦い方の傾向を見る」

「傾向ですか?」

「単純なところで言えば、攻撃が得意か防御が得意か、といったところだ」

「俺のところは攻撃で選んだのか?」

「そうだ。当時、第七から第十までの俺の直下の兵団が全て万能か防衛を得意とする軍でな。偏らせないために攻撃を得意とする軍を探していた。近衛兵団全体と俺の直下兵団と両方の偏りを見て、次に選出する将と軍を選んでいる」

「そういうことですか。確か今だと、うちが来た時の兵団は第七しか残っていないんですよね? 第七は明らかにうちみたいな攻撃重視じゃないのはわかりますけど」

「兵団はそれぞれに任期がずれているし、場合によっては早期に交代することもある。以前教えたはずだがな」

「やべっ」

 

 バリュウの言葉にマルモがやっちゃった、と言いたげな表情をする。

 まだ若いマルモは、バリュウによって学習面の教育を受けていると聞いたので、頭の上がらない教師といった感じなのだろう。

 

「話を続けるが、お前たちを呼んだのはそれに加えて、足りないところがあると考えたからだ」

 

 ついでだから俺も、彼らにしようと考えていた話をここですることにする。

 

 明確に、単于からの言葉として、軍として不足している部分があるという指摘に、マルモが息を飲んだ。

 軽い風を装っているが、まだ若い指揮官だ。

 思わぬ言葉で動揺する、ということも当然だがあるのだろう。

 

 一方ハイトは、それを既に知っているので特に大きな反応をしない。

 彼はモクゼンや他の近衛兵団の将軍も含めた食事の際に言葉を交わすことも多いので、それを知っている。

 

 そして知らないバリュウが、意を決したようで口を開いた。

 

「……軍として、ということでしょうか」

「そうだ。ハイトにはもう以前から言っているがな。ハイト」

「俺の軍は、俺が前にどんどん出るから自然と攻撃重視になる。けどその分、防御したり丁寧に戦うのは得意ではない」

 

 ハイトの言葉に、側近たちが納得とばかりにうんうんと頷いている。

 それでも最近のハイトの軍は、多少改善されつつはあるのだが、そこにはっきりと気づいている者はいるだろうか。

 

「前線で戦う将軍と兵士にとって、近衛兵団を務める数年間は無駄な時間だ」

「いや、それは……」

「将も兵士も成長するのは戦場だからな。だろう?」

「……まあ、たしかに戦場の方が、とは思いますけど。でも演習が結構きついので成長してると思いますよ」

 

 俺の言葉に、マルモが言葉を選びながらも答える。

 一番疑問に思っている、というか不満そうなのがマルモなので、あえて彼を名指しで話しているのだ。 

 

「演習もそうだが、せっかく中央に来て他の地方から来た腕利きの将軍や軍と一緒にいるのだから、それを糧にしてもらえればと思ってな。わざわざ複数の兵団に合同でさせているのもそのためだ」

 

 俺のその言葉に、バリュウがはっとした表情をする。

 

「気づいたか? バリュウ」

「はっ……。つまり、攻撃しか知らぬ私達の軍を、防衛を得意とする軍や将軍のいる近衛兵団で経験を積ませて、防御も出来る軍に成長させようということですか」

「逆もまたしかり。圧倒的な攻撃を得意とするお前たちの戦いを見せて、他の近衛兵団の成長の糧とする、という考えも当然ある」

 

 近衛兵団というのを、ただ戦場から離れる時間とするのはもったいない。

 故に異なる系統の軍を集めて、近衛兵団で多くのことを学んで前線へ戻る際の糧とする。

 それが、大草騎国の近衛兵団という仕組みだ。

 

 故に選ばれる軍には、より成長の期待できる軍が呼ばれることも大いにある。

 

「最初から言ってくれれば、と思っているか? マルモよ」

「え゛っ。いや、その、……思いました」

 

 正直なことでよろしい。

 だが俺の軽い威圧でびびってくれるなよ。

 最初の飄々と話しかけるぐらいのノリを、全力で威圧する上将軍にも出来るぐらいになるつもりでいてもらわなければ困る。

 

「何もこの心持ちは、近衛兵団でだけやれば良いというものではない」

「……俺たちの一生は、死ぬまで学びである」

「良いことを言うなハイト。つまり、そういうことだ。この一年間は、お前たちに自発的に気づいて貰いたかったから敢えて言わなかった。だが少しばかり遅れているようだから、今こうやって口にしている」

「……すまん」

「お前も、より大きく軍を導く将軍になっても良い頃だと思うぞ。共に駆ける仲間であるだけでなく、皆を導く先駆者として、な」

 

 モクゼンのところは、そのあたり昔からモクゼンがそういう思考をしているからか、かなり初期から普通にやっていた。

 実際今のモクゼンの軍は、近衛兵団に招集されるまでの、守れば敵の侵入をほとんど許さず、攻めれば敵陣を崩す攻守を相当に併せ持つ万能な軍から、更にハイトを参考にした突破力と敵将を狙った全体攻勢を使える軍へと成長している。

 

 だがハイトのところは、ハイトを頂点とした勢いの軍が自然と完成してしまっている。

 それで成功してきたが故に、それを大切にしたいという思いが強い。

 故に、変わるのは難しかったのだろう。

 

 だがこの国の将軍となり、上将軍を目指すならば。

 我が国の軍として将としてあり続けたいと言うならば、一所にとどまって貰っては困る。

 常に進み続ける者にしか未来が無いのが、この厳しき北の大地を生きる我らの軍だ。

 残念ながら、現代のように取り敢えずで軍をやっていれるほど穏やかではないのである。

 

「お前たちの成長、期待しているぞ」

「「「「はっ!」」」」

 

 ハイトと側近たちの揃った返事が、青空の下に響いた。

 

 

 

 

 

 

「ああそれと、ハイトが近衛兵団に向いていないわけではないと言った理由だが、そもそもとして俺は近衛兵団に、俺に対する丁寧な対応も接待も求めていない」

「そうなのか?」

「確かに単于や目上に対する礼儀、敬意というのは一定必要だがな。だが近衛兵団に求めるのは、確かな実力だ。それが曲がることはない。故に、礼儀作法が出来ているからといって形ばかりの軍を呼ぶようなつもりもないし、例え礼儀が微妙でも実力があれば選ぶ」

「なるほど……」

 

 確かに西洋とかファンタジーの騎士団だと、近衛騎士団は実力ではなくきらびやかさや儀礼的な扱いをされていたりするが。

 残念ながら大草騎国の単于にそういう形での格は無いし、これからも過度にそういう方向に持っていくつもりはない。

 

 単于は単于であるが故に単于たる。

 

 そういう存在をこそ、俺は単于の形として残したい。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 数日かけて前線に移動し、ようやく前線の少し後ろで陣を張っている軍の元に到着した。

 基本的に前線は四六時中戦争をやっているので、戦っている軍を定期的に入れ替えて、一部を長期間の休暇に当てて都市に戻したり、一部はすぐに交代、支援に入れるようにしつつも前線より後方で休ませたりしている。

 

 今俺が訪れているのは、そんな前線後方で休息を取っている軍の一つだ。

 ちなみにこの後前線で戦っている軍についても戦場が見える場所まで見に行く予定なので、最初にここに来たのはあくまで順番の都合そうなっただけである。

 

 到着したらまずは、現地の兵士たちを全員集めて観兵式を行う。

 俺が到着するというのは事前に使いをやって知らせているし、将軍級ではない一般の兵士達にとっては、観兵式が終われば後は休息の続きとなる。

 俺が先に将軍達と歓談して下手にいつ観兵式になるかと待たせるよりは、先に終わらせて兵士を解散させてから将軍達とは言葉を交わしたほうが良い。

 

 観兵式は基本的に、左右に別れた兵士たちの間を俺と少数の護衛の兵士が通り抜ける形で行う。

 もっと簡略化するときは、全軍が整列した前方に、学校の入学式で前に立つ校長先生みたいに立って一言声をかけるだけだが、動きがあったほうが兵士の士気の上がり方が良いのだ。

 多分最初からずっと遠いところに立っているよりは、離れたところにいた俺が多少なりとも動いて近づいてくることで、気分の上がり下がりの波が明確に生まれて士気が高まりやすいのではないかと思う。

 

 そして一度端まで行った後は、兵士達の方を振り返って一演説。

 ここで下手に長い話とか、国家の威信とか守るべきものの話とかをするのはよろしくない。

 

 その話の内容を理解できるぐらいの教育は全兵士につけるようにはしているが、それでも、長い演説よりは短く一言二言激励する方が、兵士の士気が高まりやすい。

 ちなみに国や俺への忠誠心をあげたいならば、逆にそれなりの長さの演説をぶったほうが即効性もあるしじわじわ効いてきたりもする。

 戦という兵士たちと俺の共通項が存在するからこそ、短い激励が刺さると言っても良い。

 

「皆、これまでの戦い大儀であった!! そなたらの献身によって、我らはまた敵から我らが国を守ることが出来た!! だがまだ戦いは終わらぬ!! 皆にはまだ血を流してもらうことになるが、今後も諸君らの奮闘を期待する!! 今日は酒と家畜を持ってきた故、宴で英気を養ってくれ!!」

「「「おおおおおおおおお!!!!」」」

 

 演説はこれぐらいでいい。

 というかこれでもまだ長い方だ。

 これまでの感謝と、これからも頑張れ。

 この二つを伝えれば、それで良いのだ。

 

 理性、知性による理解と、気分の高揚は全く別のところにあるのである。

 

「陛下、兵たちへのお言葉、感謝します」

「いつも戦ってくれている兵たちだ。労うのは王の務めだ。ハギ将軍も、大きな戦果をあげたと聞いたぞ。見事敵大将を討ち取ったとな」

「敵が油断して前に出てきてくれたおかげです。女だからと侮られたのは悔しいですが……」

「ははは、その分痛い目を見せてやったようではないか。後で褒美を取らせる故、楽しみにしておれ」

 

 ハギ将軍は、西の方の都市に拠点を置く将軍だ。

 今は南東胡からの圧力が高まっているので、軍を率いて前線に出ている。

 うちの軍でも珍しく女性の将軍で、しかも見た目が美しい。

 戦場に出る女性兵士に多くある、男性よりも豪快で男らしい女傑、というわけではなく、本当に普通の女性らしさを持っている。

 無論それだけではないのは当然だが。

 

 そういう意味でも兵士たちからの人気の高い、稀有な特性を持つ将軍だ。

 こういう言い方は彼女には嫌がられるかも知れないが、それこそ中華を侵略したりしたときに、下手にごつい将軍を出すより彼女を出した方が民は落ち着くのではないだろうか。

 

 その実力も確かで、ハギ将軍が拠点を置く都市が重要地であるために上将軍が都市をあまり離れられない分、彼女がうって出て領域に侵入した敵軍を討つことが多い。

 能力だけでなくこなした戦の数も多く、かなり信頼出来る将軍だ。

 まあうちの軍では基本的に信頼できるレベルじゃないと将軍にはなれないのだが。

 

 そしてそんななんちゃってではなく俺基準でも信頼に足るレベルの将軍たちが、普通にカパカパ死んでいくのがこの北の大地である。

 俺が覚悟ガンギマリじゃなかったら絶対「やってられんわこのクソゲー」って匙を投げてる。

 そのレベルで中華の外の異民族はやばい。

 難易度ナイトメアが可愛く見えるレベルだ。

 

 なんせこっちに公式(神様認可)チートの俺を積んでようやくどっこいだぞ?

 うちも他所のことは言えないが、一体どこにそんだけの人口があるんだ異民族ども。

 

 さておき。

 

「軽く酒でもどうだ?」

「ありがたくご一緒させていただきます」

 

 お酒のあるなしに関わらず、将軍とのコミュニケーションは大事である。

 今日は俺の到着が遅くなってしまったので、これからちょうど日が沈む時間帯。

 ちょうど良いので酒に誘わせてもらった。

 

 中央から来た単于とはいえこんなおっさんに誘われても将軍からすれば鬱陶しいのかもしれないが、一応これでもかなり慕われている単于であるし、これまでの実績もあるので大丈夫だと思いたい。

 それに単于と将軍のコミュニケーションは大事なので、気が進まなくても、長くなりすぎない程度におさめるので付き合ってもらうとしよう。

 

 どうせ将軍が俺との歓談を嫌がっているか俺にはわからないし、立場を考えれば将軍も断ったり拒否したりするのも難しい。

 故に俺もいつもどおりにコミュニケーションを図る場の提案をするしかないし、将軍もそれを受けるしかない。

 こういうときは、あまり嫌がられるようなことをしない程度に楽しむのが一番良い。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 将軍との食事を挟んだ歓談はそれなりの時間続き、あたりはすっかり真っ暗な時間帯になった。 

 

 一応ハギ将軍は、俺との酒をかなり楽しんでくれていたようだ。

 というかまあ、この国の将軍には多いのだが、俺に対する忠誠心、というか憧れがかなり強いようだった。

 あれは忠誠心よりは憧れだろうと思うのは、熱が入った様子で俺のことを語ってくれたからだ。

 当人としてはいささか気恥ずかしい時間だった。

 

 それに将軍は戦に魅了されているらしく、俺の経験してきたこれまでの戦いについてかなり熱心に聞いてきた。

 しかも只の武勇伝、英雄譚のような大まかさでも誇張した話でもなく、戦術レベルの話をだ。

 普段なかなか語ることでもないので、俺も久々に懐かしいことを思い出しながら語った。

 

 ついでに酔っ払った将軍があられもない姿になりかけていたので、彼女の側付きの女性に押し付けておいた。

 下世話な話かもしれないが、女性の将軍なんかは、女性を相手に性欲は発散しているのだろうか、なんてちらと思ったが、人の個人的な部分に踏み込むのはよろしくないのですぐに忘れた。

 

 さておき、将軍の元を辞した俺は、自分の天幕に戻ってのんびりと持ってきた戦棋の駒と盤を磨きながら来客を待つ。

 今回俺が前線を訪れた理由の一つが、今から尋ねてくる客なのだ。

 

 しばらくして、天幕の外から兵士の声がかかった。

 

「単于様、ハンム様がいらっしゃいました」

「通せ」

 

 第八近衛兵団ではなく、数少ない俺が連れてきた専属衛兵が天幕を開け、客を一人だけ中に通す。

 

 入ってきたのは、まだ二十歳ほどの若い精悍な顔つきをした男だった。

 

「親父殿、来たぞ」

「よく来たな。まあ、取り敢えずは座れ」

 

 大草騎国、単于継承権第二位にして俺の第五子。

 それがこの、ハンムという若者の正体だ。

 

 

 俺は今回、息子に会うためにやってきたのである。

 

 

「最近、調子はどうだ?」

 

 対面して座る息子。

 切り出した俺の問いかけに、あろうことかハンムは吹き出した。

 

「ぶふっ、待ってくれ、親父。ははっ、なんか普通の、ぶっ、そのへんの父親、みたいだ……ふふっ」

「笑いすぎだ」

 

 どうも俺の言葉がツボだったらしい。

 だがその辺の父親みたいだと言われても困る。

 何しろ俺は今ただの父親なのだから。

 

「別に子供の前ぐらい普通の親父で良いだろう」

「ふふっ、うん、そうだな。最近も調子は良いよ。俺の今の主がそろそろ三千人将に出世できそうでさ。俺もそれと一緒に千人将に出世出来るかもしれない」

「それは良いな。千人ともなれば、その辺の戦場なら大きく動かせる。お前の主と合わせて、いよいよ責任は重大だ」

「やってみせるさ。目指すは主とともに将来の上将軍、だからな」

 

 俺の子供達は基本的に、みんな幼い頃に鍛えた後、軍に身分を隠して放り込むことにしている。

 もちろん学問の面でも、厳しい教育と実地体験をこなしてもらうことになる。

 これは俺の方針ではなく、単于のなすべきこととして法にも定めた。

 

 基本的に、というのは、単于の継承権を放棄した子に関しては、進路の自由を保証しているからだ。

 だが基本的には十代後半か二十代までは継承権を放棄したりする決定すらしないだろうし、十五歳以前に戦場に放り込むことにしているので、一度は戦場を経験するだろう。

 

 何故単于の息子をそんな環境に放り込むかと言えば、暗君を生み出したり、あるいは兄弟で継承争いをさせないためだ。

 一番下から軍を経験したならば慢心などする暇も無いだろうし、そうやって尽くす経験、誰かの下につく経験を本気でしていれば、兄弟の下につくことも苦にはならない。

 逆に性格的に問題があってそういう矯正が通じそうにない子が育ってしまったときは、残念だが処理することに決めている。

 そしてもちろん、そういうのに耐えられない、あるいはそもそも高い地位に興味が無い者もいるので、そういう場合は継承権及び血族の特権の大半を放棄させる代わりに、これらの試練も免除されることにしている。

 

 とにかく俺は、専制君主制でありがちな暗君だとか継承争いだとかで大草騎国が衰退することは認めない。

 無論いつか割れることはあるだろうが、それはそれぞれが国のためを思うからこその衝突であって、国に尽くせぬ王族を生み出すつもりはないのだ。

 そのために色々と策や法を定めていて、その一つが軍に子どもたちを入れることだ。

 

 当然軍に入るときは裸一環、まあ実際は頼りになる兵士を数人守りにつけて伍長から始めるので流石に一人ではないのだが、ほぼ一番下からのスタートになる。

 故に普通に将軍を目指して出世していくのではなく、誰かの副官や側近となって補佐するようなことも考えられる。

 そしてハンムは、単于の継承権を保持している身だが、自分の生涯を持って支えたいやつを見つけたらしい。

 

 実際俺の第一子は今現在俺の下で単于の役目の修行中だが、第二子は上将軍の側近となって継承権を放棄、第三子は女の子だが既に三千人将でこちらも継承権は放棄している。

 つまり、軍に身を埋めると決意しているということだ。

 

 第四子は文官の道を志して、そちらに進んでいる。

 彼女もまた、女性の単于は認められないだろう、ということで単于の継承権を放棄して、第一子の補佐を行うと言っていた。

 

 親としては薄情かも知れないが、特別扱いさせないどころか身分も名も隠して兵士をさせている中で、誰も死んでいないのは奇跡に近いことだと思う。

 

「まあ夜は長い。酒でも飲みながら、お前の話を聞かせてくれ」

 

 そう言いながらハンムの盃に酒を注ぐ。

 親子の夜は、まだ始まったばかりだ。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?
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