実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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アンケートがかなり生々しい話になっております。
気分を害された方は申し訳ありませんが、すぐにとばしてもらえるとありがたいです。


第20話 帰城

 久しぶりにハンムと会い、大草騎国南東の前線も数日かけてぐるっと回った。

 といってもハギ将軍の軍のように兵士を集めて声をかけることが出来たのは、前線から後方に下がっている軍だけで、前線の軍は基本的に戦をしているのを遠方から視察しただけである。

 

 ところどころで敵を打ち破っていたり、逆に兵数で劣っていて劣勢に立たされていたり。

 様々な戦場で戦を経験して、将や兵士は成長する。

 規模も千人、あるいはもっと少ないぶつかり合いもあれば、万単位の軍がぶつかり合う戦場だってある。

 この中から将来の大草騎国の軍を担う者たちが台頭してくるのだと思うと、皆の健闘を祈らずにはいられなかった。

 

 このあたり、前線に出たい戦がしたいと言いつつも、俺は結構単于という立場に向いてたんだな、と最近考える。

 元々、自分が強くなることと同時に仲間が、配下が、友が成長するのが楽しいというタイプだった。

 おそらく俺は、人や国の試行錯誤や成長を見るのが好きなのだ。 

 

 

 

 他にも、移動の最中に一度だけ敵と接敵して戦闘をすることが出来たのは良かった。

 演習や鍛錬で矛を振るったり部下たちとやりあったりしているとはいえ、流石に戦に出なさすぎて個人としても将としてもなまっていると感じていたのだ。

 元々は匈奴最強の将を自負していたが、今は上将軍達には負けるだろうと思う程度にはなまっている。

 

 それもこれも、俺が単于という、戦の一要員ではなく、匈奴という民族、大草騎国という国家にとってかけがえのない唯一の存在になってしまったために、俺が守られるようになったからだ。 

 

 今回も接敵してすぐに、第八近衛兵団は、俺と、俺が第八近衛兵団とは別に連れてきた直属の“単于の盾”を先に逃がそうとしていた。

 王を守るための近衛兵団である以上、そもそも戦場に王を置かない、という判断は適切なものだ。

 それは俺も否定しないし、だからこそこれまで似たような状況になったときは、近くにいる味方の軍の方向や、偵察で敵がいないとわかっている方へ逃げていた。

 流石にそこで我が儘を言って戦に出るほど、自分という存在を軽く見てはいない。

  

 だが今回は少々運が悪く、新たに侵攻してきた敵軍と、一度うちの領土に略奪に入って撤退してくる軍とに挟まれる位置関係になってしまっていた。

 そのため、俺にけして戦場では多いとは言えない数の単于の盾をつけて逃がすのは、かえって俺を孤立させ危険に晒す可能性があったのだ。

 かと言って敵の数を見ると、一方が五千ほどでもう一方が一万近く。

 一万人の第八兵団から俺を確実に守れる数割いた場合、もう一方が殲滅されて結局俺が二つの軍に挟みうちされるか、追撃されることになる。

 

 故に、狼煙と伝令で周囲に救援に来れる軍を探しつつ、一万でまとまって敵と戦うことになった。

 

 戦の詳細は省く。

 というか大半俺は何もしないで第八兵団が戦っているのを見ているだけだった。

 一応演習で俺の指揮のもとで動く訓練はしているが、それでも本来の将軍が指揮をしたほうが戦いやすいだろうし、それに将軍や軍師達にも矜持がある。

 

 もちろん、例えば敵がシャピン周辺まで侵攻してきたときに、俺が自ら近衛兵団を率いて敵を撃滅する戦いならば、むしろ俺の指示通りに敵を討つことこそ誉れだろう。

 だが今回は俺という個人を守るための戦いだ。

 更に言えば、もし可能であったならば、俺を単于の盾とともに逃した上で、第八兵団が敵と戦い引き付ける役目をこなすのが通常だし、今回の戦いにおいては、他の軍が援軍に来たり敵軍を下げた場合にはすぐに第八近衛兵団は撤退する。

 ただ俺を守り、危険にさらさないのが今の役目である以上、俺の力を必要とするのは、近衛兵団の名折れとなってしまうのだ。

 

 こういう兵や将の誇り、矜持、プライド、あるいは信念みたいなものも、強い軍を築くためにはかかせないのだから、とかく軍というのは難しい。

 

 さておき、結局戦はハイトが率いる部隊が敵陣を荒らしながらも、防衛戦が不得手な第八近衛兵団は敵の攻勢に終始押され気味となってしまった。

 元々何かを守る盾ではなく、敵を滅することで守るべきものから危険を遠ざける矛の役割を担う第八兵団故に、防戦に回った時点で苦しい戦いになるのは目に見えていた。

 

 それでも、俺という守るべき存在を持つ以上は、いつものように全軍で攻勢をかけて敵を粉砕するような戦い方は出来ない。

 といえば語弊がある。

 俺を守るための最適解が敵軍の粉砕ならば、それを選ぶのが王を守る将だ。

 ただハイトと第八兵団には、そこまでの覚悟と自信、そして判断力は無かった。

 故に、不得手な防衛主体の戦い方をした。

 

 攻撃主体で敵を砕く戦い方は、成功すればいいが失敗したときは取り返しがつかない。

 一方防衛主体ならば、押し込まれても決定的な失敗は犯さずに守り続けて時間を稼ぐことが出来る。

 

 結果、援軍が到着する頃には、第八兵団の中では唯一腰を据えた戦闘に適正を持つ三千人将のレイキの部隊がなんとか陣を保っているような状態で、後は総崩れと言っても良い状態だった。

 崩れなかったのはレイキの用兵術の巧みさとそれに指示を出すバリュウの戦術眼、そして鍛え上げられた個々の兵の強さのおかげだ。

 これらによってかろうじて最後の一線で耐えきったようなものだ。

 全て俺の予想通りの結果だ。

 

 この守りの戦いにおける弱さが、先日俺が指摘した第八兵団の弱さである。

 例えばここに俺がいなくて、全軍で敵を粉砕することを考えられたならば、今回の敵一万五千をハイトが率いる第八近衛兵団は容易く粉砕していただろう。

 どころか突破、粉砕という意味であれば、二万でも二万五千でも打ち破るだけの力がハイトとその軍にはある。

 実際二千程度で敵を攻撃していたハイトは、一万の敵軍の大将首まで迫るほどには、敵の陣形を粉砕していた。

 

 全軍で勢いをもって攻勢に出て戦えるならば相当に強い、だが腰を据えて守るような戦い方をするとびっくりするぐらい弱い。

 それがハイトと第八近衛兵団だ。

 

 こういう特徴があるから、ハイト自身が上将軍になるのではなく、それこそモクゼンのような万能型の将軍や防御型の将軍の元で“必殺の鉞”の役割をこなすのが、ハイトとその軍には向いているんじゃないかと思う。

 でないと行き着く先は原作の麃公だ。

 彼を弱いとは言わないしむしろ相当に上澄みの部類だと思うが、数万十数万を勢いで動かすので死者を出し過ぎなのだ。

 彼の側近に智慧をもって戦う軍師か副官でもいれば、あるいは彼の考えを補佐しつつ軍の被害を減らせるような人材がいれば、彼の軍はもっと恐ろしくなると思うのだが。

 

 もしそれでもハイトが上将軍を目指し、彼の部下たちもそれに見合った高みを目指すのならば、やはり今のままでは足りない。

 今持つ攻撃の破壊力、突破力をより磨き上げると同時に、今回のような戦いをやって、今回程度の敵には一切陣形を崩されないような防御力。

 それぐらいしてもらわなければ上将軍やその側近、軍となるには足りない。

 一芸だけで務まるのは五千人将までだ。 

 

 そういう意味では、今回の戦いはいい転機となるだろう。

 俺を危険に晒してしまったという点では失態だが、そもそも前線の視察なんていつ敵に捕捉されるかわからないものだ。

 それよりも、ハイトとその部下達が、自分たちの不足を体感したことのほうが大きい。

 

 願わくば、圧倒的な突破力と、上将軍や中華の大将軍級の攻撃に耐える防御力、双方を併せ持った軍に成長してもらいたい。

 

 ちなみに俺は、いいところで単于の盾と三〇〇の騎馬を借りて打って出て、五〇〇〇規模だった方の敵の大将を討ち取っておいた。

 流石に俺も出ないと崩れるかな、というところだったので、これは不可抗力ということにしてもらいたい。

 敵の防陣もまあまあだったが、あの程度で止まるとは思ってほしくないものだ。

 

 

 

 

 

 さておき、南東方面の前線視察が終わったので今度は東方面、そして北東方面の視察────

 

 といきたいところだが。

 そういうわけにはいかない。

 単純な話として、単于は忙しいのだ。

 

 故に一度シャピンに戻り、溜まった政務を処理し。

 また最低十数日の休みを作って、今度は東の方面のねぎらいに行く、などと考えなければならない。

 

 そのため、南東の前線の視察が終わった俺は、複数の都市を経由して都市の視察もしつつ、首都シャピンへと戻ってきた。

 

 そして今は、首都シャピンの門にて盛大な出迎えを受けているところである。

 

「単于様だ!」

「前線の視察に行ってたらしいぜ」

「聞いて驚くなよ、なんと今回は単于様もお戦いになったらしい。敵将を討ち取られたそうだ」

「単于様に栄光あれ!!」

 

 といった、俺を対象とした歓声もあれば。

 

「おい、見ろ、あれが第八近衛兵団のハイト様だ!」

「“烈火の猛将”って言われてる、あのハイト様か! これはすげえ!」

「ダンバンで戦っていた頃は、突破できなかった敵陣は無いそうだ」

「俺一回だけハイト様と同じ戦場で戦ったことあるけど、とんでもない速さで突破してたぞ」

「ハイト様、バンザイ!!」

 

 というふうに、ハイトを対象としたものも。

 

「あ、あれがバリュウ様だ! 美しい顔をしてらっしゃる……」

「マルモ様、お若く見えるのに千人将だってよ。どれほどお強いんだろうか」

「レイキ様だ! あのすました顔の下に、とんでもない激情を溜めてるって噂だ……」

「第八近衛兵団バンザイ!!」

 

 彼の配下達を対象とした歓声もある。

 これは、単于である俺が、民に慕われていると自分でいうのもあれだから言い換えるならば、顔が知れているのは当然のこととして、ハイトとその部下たちも、近衛兵団という立場でシャピンの市民たちに認識されているからだ。

 近衛兵団を務める将たちは、基本的にシャピンやその周辺の都市で人気者になるのである。

 もちろん俺も、それを後押しするために市民に見せるための軍事パレードのようなものだったりを行ったりしている。

 

 そして俺が軍を率いて各地の視察に行くときは、大体出発するときも帰ってくるときもこうやってお祭りさわぎになるのだ。

 普段から市民には、というかこの時代はうちに限らず中華も欧州もそうだと思うが、彼らにはかなりの負荷をかけている。

 その分、少しぐらい見世物になって国民の気分を上げるのも悪くはない。

 

 市民の歓迎を受けつつ、シャピン内の宮殿まで行進する。

 なお別に第八近衛兵団が宮殿までついてくる必要はないが、そこは今回の単于の遠征に付き従う第八近衛兵団という形だ。

 単于が宮殿に入るまでは付き従って、そこでようやく解散とするのが、単于と近衛兵団の上下関係や単于の威厳、格式を示すための順序だ。

 

「今回は世話になった」

「我ら第八近衛兵団一同、より一層の精進を積む所存です」

「うむ、よろしく頼むぞ」

「はっ」

 

 ハイトとその部下たちが揃って拱手をする。

 

 最後は締めるためにかあるいはバリュウ達が気を回していたか、ハイトも普段の敬語を使えない彼ではなく、近衛兵団の将にふさわしい言葉と態度で見送ってくれた。

 

 そして俺が単于の盾とともに宮殿外郭の門をくぐり、更に正殿への門の前に到達したところで、まさにと言わんばかりのタイミングでその門が内側に開く。

 

「お帰りなさいませ、父上」

「出迎えご苦労。留守居役感謝するぞ、ナンミル」

 

 文官の服を着た大柄な男が、一団の先頭に立って俺を出迎えてくれた。 

 その後ろには他の文官達も揃っている。

 流石に各省の長官たちは忙しいだろうから来ないように言い含めているのでいないが。

 

 一団に迎えられるままに馬を降り、馬は単于の盾に預ける。

 俺と一緒に門をくぐった単于の盾たちは、中華であれば馬を降りた上で俺が移動し終えるまでその場で跪いて待機するのだろうが、うちでは普通にそのまま馬に乗って宮殿外郭部にある彼らの待機所へと移動していく。

 俺があまり堅苦しいのが苦手というのもあるが、一般市民と単于に付き従い最後まで守り抜く“単于の盾”では俺との距離感が全く違うのだ。

 

「緊急の案件があれば、移動しながら聞こう」

「はっ」

 

 控えていたナンミルに声をかけて、正殿へと移動する。

 

 ナンミルはまだ三十歳ほどの文官の上層部としては若い人間だが、この場で先頭に立ち俺に答えるのはナンミルだ。

 

 何故ならば彼が俺の息子であり、同時に単于としての後継者として、俺がいない間の単于代理を務めていたからだ。

 

「北の東胡族から同盟の使者がありました」

「服従ではなく、か?」

「あちら側の使者がそういう文言を使っていましたので、間違いは無いかと」

「では追い返せ。併合ならば認める、併合しても虐げることは無いゆえ、冷静な判断を求める、とな」

「既にそのように返答をして帰しました」

 

 ナンミルの言葉に、思わず足を止めてしまった。

 

「単于様?」

 

 じっと見つめる俺にナンミルが声をかける。

 一瞬なんというべきか、頭の中を思考が巡ったのだ。

 部下の対応ならばともかく、息子で次代の単于相手ならば、多少は言い方も考えるし悩みもする。

 それに、俺の至らぬ部分を急に突きつけられて少し衝撃だった。

 

「すまない」

「……と、言われますと?」

「他の者達に対するように指示を出してしまった。ここは、ただ報告を求めるのが俺のすべきことだったな」

 

 俺の言葉に、一瞬きょとんとした後ナンミルは破顔する。

 

「父上も自分の後継者を育てるのは初めてでしょうから仕方ないですよ」

「そうか」

「それに──」

 

 笑いながらナンミルは続ける。

 

「それに、父上に認められていないと思い込むようなことはありませんので。そんなに言葉を選ばなくて大丈夫です」

 

 どうやら俺が気遣ってこの言葉を言ったのに気づいたらしい。

 そのあたり敏いやつだ。

 

「そうですとも。次代様はよくやっておられる」

「政務の判断も的確で隅々まで目の届く、素晴らしい能力をもっておられます」

「ご心配には及びませんぞ、単于様」

「このように頼もしい部下もおりますので」

 

 そして次代を担う文官から選出されたナンミルについている部下達も、そんなナンミルのことを理解している。

 こうやって単于と次代の会話に部下たちが入れる緩さというのは、俺の理想としてきたものだったりするのだが、さておき。

 

 どうもいつまでも子供だと思っていた相手が、立派に成長して、もはや俺の導きが無くとも良き単于への道を進み続けているようだ。

 子供を相手に、俺の目も曇っていたらしい。

 

「……俺が位を譲る日も近そうだな」

「え?」

 

 何やら驚いているナンミルに背を向けて、俺は自室へと歩みを進める。

 仕事を始める前に、まずは着替えて湯浴みをしてこよう。

 

 

 

 

 きっと、次の単于は俺とは違う単于になる。

 匈奴を武力とカリスマによって統一した、神のごとく崇められる俺とは別の。

 民とともに生き、民に慕われ、国のために生きる単于に。

 

 それでいい。

 むしろ再現性という意味では俺の方がイレギュラーだ。

 史実において多数の国が、英雄の出現によって統一され建国され隆盛を迎え、その死と同時に衰退していくのはそのせいだ。

 

 俺の息子が立派な後継者に育っている。

 そのことが、俺は嬉しい。

 

 そしてついでに、単于の位をついで、俺が中華侵攻に専念できるようになれば、もはや言うことはない。




ストックつきました。
更新は相当遅くなると思います。
続けたいつもりではいます。


アンケートはただの調査で、実際にやると決めたわけではないです。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?
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