実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する? 作:匈奴人
一次創作やっているので相変わらずもう一方と合わせて更新遅いです。
《アイショウ 視点》
南東胡との戦が終わった俺の軍は、そこで一度解散した。
現地の中継点や都市から合流したニキタら西方の軍は各々持ち場となる都市へと戻り、俺とその配下として連れてきたハイト、シウイ、ルルシウス、アイボの軍は、この後に中華に吹き荒れる争乱の風に乗って中華への大侵攻を果たすために、最南の都市であるフワンシへと移動する。
報告では、秦がついに中華の中でも有数の要所である山陽の地を魏国から奪い取ったらしい。
となれば嵐は近い。
場合によっては年をまたぐ前にも大きな動きが出てくる可能性もある。
流石に秦の山陽獲得の意味を誰も理解できていないなんて阿呆な話は無いと思うので、俺達もそれを前提として備えをしている。
そんな中、もう一つ別の報告を受けていた俺は、自分の本軍とは別れて千騎ほどの護衛とともに首都シャピンへと帰還した。
将校の中で帰還したのは俺とシュルメ、それに俺の本軍八千の中では特に有望に思えた千人将だけで、他の者達には先にフワンシへと移動するように指示をしている。
中華への大侵攻を目前に控えて俺がわざわざシャピンに一度帰還する理由。
それは、俺がそうするだけの価値がある客人を我が大草騎国に迎え入れることが出来たからだ。
首都に着き、一応まだ位として単于をの冠を被っている俺は、民達から相応の歓迎を受けた後にナンミルから報告を受ける。
「既にあちらは到着しているのだな?」
「はい。一昨日に到着されたため、屋敷を提供して休息して頂いております。また配下の方々にも十分な住まいと食を提供しております」
「感謝する。では、早速で悪いがその者とその側近となる者達を呼び出してくれ」
「……よろしいので?」
ナンミルがそう尋ねたのは、俺の格好が、戦のたびに磨かせているとはいえ血に染まった鎧姿のままだからだろう。
シャピンに到着してからまだ如何ほどにも経っていないのだから、着替える暇などは無かった。
そしてその事を俺は忘れてしまっていた。
とはいえ、これは原作を知る転生者としては仕方の無いことと言えるだろう。
なんと今回我が国に来てくれた将軍は、あのキングダム内でも最強格を誇る元三大天の大将軍廉頗なのだ。
興奮するなという方が無理というものである。
キングダム原作の事を知る者として廉頗という将軍の凄さは相当に知っている。
原作内でも、俺の記憶が戻ってない部分でも強キャラは出てくるのだろうが、今のところ王騎と廉頗がツートップと言えるほどには、俺の中で強い将軍として認識されている。
そのため少しばかり気が逸ってしまった。
「……相手は将軍だ。王族ではない。ならばそれなりの対応を──」
「それならばそれで一度汗と垢を落とされませ」
逸る気持ちのままに押し通そうとしたが、ナンミルに冷静に諭されてしまった。
うん、ナンミルにも格というものが備わってきたのはとても良いことだ。
「わかった。では汗を流してくる。それほど時間はかからぬ故、あちらにも使いを出しておいてくれ」
「かしこまりました」
ナンミルとその配下達に見送られながら、ナンミルに実質的に単于の座を譲ったということで、以前とは別の場所に移した自室へと足を進める。
が、その前に気になったことが一つあって、再びナンミルを振り返り尋ねる。
「ナンミル」
「はい」
「そなたの目から見て、廉頗という男はどのように見えた?」
俺の言葉に、ナンミルは笑顔を浮かべながら答えてくれた。
「あれは我らの国でも珍しき程の傑物です。取り込むことが出来ればまことに大きいでしょう」
「そうか……。うむ、俺も会うのが楽しみになってきた。では汗を流してくる」
「承知しました」
ナンミル達に見送られて俺は湯浴みへと向かう。
さてさて。
鬼が出るか蛇が出るか。
趙北部を起点に中華に侵攻するという俺の目的を聞いて、廉頗はどんな反応をするだろうか。
今の趙王は嫌いなようではあったが、しかし同時に趙で三大天まで務めた人間。
如何に戦を愛しているからと国を捨てたとはいえ、自国を攻め込まれることに廉頗がどう感じるか。
その本音が聞いてみたい。
そんな事を考えながら、俺は湯浴みの場へと向かうのだった。
******
《大草騎国首都シャピン 廉頗の屋敷》
「ようやく主らの主が帰還したか」
「はい。話したきことがあるゆえ、参内してもらいたいと」
「わかった。準備をした後に参内しよう」
「ありがたく」
廉頗に伝言を伝えると、伝者だったものが下がっていく。
書簡などではなく、この国の単于からの直接の呼び出し。
これに廉頗は、ついに来るべき時が来たと感じた。
魏国の後の亡命先として、中華の中の国ではなく中華の北方に位置する匈奴の国を選んだ廉頗一行。
その選択を、今の段階で廉頗は正解だったと考えている。
まず一つに、想定よりも遥かに発展している首都シャピンの様子。
廉頗ら中華の人間からしてみれば北方の騎馬民族は皆蛮族のようなものだが、それにしては匈奴の国、大草騎国の首都シャピンとやらは発展していた。
もちろん洗練され具合や派手さで言えば、流石に三晋が一国である趙の王都邯鄲の方が優れているが、しかし確かに今まさに成長せんとしている国家としての力を感じた。
他にも、廉頗達が秦・趙の北方の山岳を越えて北に出たときに迎えに来た将軍の軍を始めとして、途中休息した中継点などにいた軍など、多くの軍がしっかりと鍛え上げられていると感じた。
この様子ならば、戦もさぞかし熱いものになるだろうと予想出来る程の練度に、廉頗はついつい酒が進んだ。
そして一番は、現在単于の代理を務めているナンミルという男だ。
初めてシャピンに到着した際の彼とのやり取りの全てが、廉頗に彼の上に立つ単于という男に対する興味を抱かせていた。
単于の代理、それすなわち大王の代理と同じ事であり、その権力はこの国で二番目に大きいはずだ。
故に多少傲慢に振る舞った所で諌める者はほとんどいないだろうし、実際にそれをするだけの力が国王にはあるはずだ。
にも関わらず、特に尊大な態度を取るでもなくこちらを尊重した話し方をしていた若き次代の単于。
加えて、その話す言語は蛮族の言葉ではなく、廉頗らと同じ中華の言葉であった。
そこまで配慮が行き届いていることに廉頗は感心した。
かと言って廉頗達相手に下手に出るようなことはなく、確かに単于の代理としての威厳を発揮していた。
こちらを立てながらも自らの存在も主張する。
長年戦場ばかりを往復していたために、まともに政を行う連中については藺相如しかよく知らない廉頗だが、それに並ぶとは言わないまでも迫るほどの傑物の気配をしていた。
更には、その単于から漂う武の匂い。
聞けば国を作り上げた単于の方針で、その子らは皆戦を経験するように若いときに戦場に放り込まれるそうだ。
ナンミルもその中を生き抜き、最終的には将軍として一年程活動してから単于の後を次ぐために文官へと転身したらしい。
そんな面白い経歴を辿った人物を、廉頗は他に知らない。
そんな次代の単于が、『私より遥かに面白い方ですよ。本当の単于様、我が父は』と言うほどの人物が、廉頗がこれからあうことになる本来の単于だ。
楽しみではないと言えば嘘になる。
伝者からの言葉を廉頗の後ろで聞いていた輪虎、介子坊、姜燕も同じように感じていたらしく、伝者が退出した後に楽しそうに声を上げる。
「やっとですかー。待ちくたびれちゃいましたね」
「はっは、しかしどのような人物でしょうな。この国の単于とは」
「少なくとも、儂が嫌っておる趙王を超える傑物であることは間違いなかろう。何せ国の形も何も無かったところから、たった数十年でここまでの国家を作り上げた傑物だからのう」
驚くべきことにこの国での自由な出歩きが許可されている廉頗らは、到着した翌日ではあるが軽く街の様子を見るためにシャピンというこの巨大な都市を見て回った。
規模としては邯鄲より一回り小さいものの、その戦術的に洗練された造りは守りの硬さを容易に想像させ、また行き交う民の声で賑やかさに溢れていた。
そしてその民草の中に頻繁に混ざる兵士の香りがする者たち。
普通の民として暮らしてはいるようだが、間違いなく戦場を経験しているといえるものが幾人もいた。
つけられた案内役の男によれば、多民族との戦争が激しく続いている大草騎国では、全ての民に武器を持って戦うという事を教えるらしい。
兵士として戦場に出るかどうかは各自の判断だが、男も女も、皆演習で戦の雰囲気というものを体験はしているそうだ。
それはその文官らしき男も例外ではなく、男は実際に戦場に出て百人将にまでは出世したそうだ。
そこで自分のいるべき場所は武ではなく智であると判断して文官へと転身した、とその男は懐かしむような表情で言っていた。
それほどに、戦というものが国家の根幹に染み付いた国。
であるにも関わらず、暗い所など一切なくこれほどまでに民は明るい。
邯鄲など路地の裏に入れば死体の一つや二つ転がっていたものだが、このシャピンでは飢えるものがいないのか、そういうこともない。
国家として、ある種理想とも言えるようなものばかりを廉頗たちは目撃した。
もちろんここだけが国家であるはずがなく、他にも都市や城はあるのだろうが、それでもこの街の様子は、廉頗が単于に興味を抱くのに十分であった。
******
そして今、二人が対面する。
最初に廉頗がナンミルと出会ったのと同じ玉座の間にて、今度は廉頗がアイショウと対面していた。
どちらから名乗りをあげるか、そう周囲が注目する中、先に口を開いた廉頗だった。
「中華より参った廉頗だ。中華では大将軍を務めていた。今度の歓迎、まことに感謝する」
その言葉と同時に廉頗から放たれる圧。
もちろんそんなものは物理的にはなんでもない錯覚に過ぎないものだが、廉頗という男の本気に、いくら大草騎国で鍛えているとは言え同席していた文官の面々が気圧され脂汗を流す。
そしてその廉頗の圧を塗り替えるように、もう一人の男が口を開く
「廉頗殿の来訪、心より歓迎する。俺が大草騎国が単于アイショウだ」
こちらもまた、廉頗に負けず劣らず強い圧。
しかしそれは大草騎国の者たちにとっては威圧ではなく、自分たちの背中を推す鼓舞であった。
廉頗の圧に気圧されていた文官達も、アイショウの無言の鼓舞によって冷静さを取り戻していく。
その姿を見た廉頗は、試しにと放っていた圧を抑える。
「して、匈奴の大国家大草騎国を作り上げられたというアイショウ殿が、一体この廉頗に何用か? 随分と儂の事を調べられていたようだが」
単于ではあるが大王にはあらず。
そう主張するかのごとく、魏の大王にはとっていた臣下としての態度を取らない廉頗からの真っ向よりの問いかけ。
その言葉に文官達は一瞬気色ばみそうになるものの、アイショウの事前の言葉を思い出していた。
『良いか。これより参るは中華からの客だ。彼らは、こちらを見下すとは言わないまでも、中華の大王とは同じように扱わぬだろう。だが、お前たちがそれに抗議をする必要はない。格というものは、主張するものではなく行動で示すものだ。故に全て、このアイショウに任せよ』
そのアイショウの言葉があったからこそ、廉頗の単于を相手にした失礼な態度にも文官たちは食ってかからない。
そしてそれに廉頗らがかすかに違和感を覚えた頃に、アイショウが再び口を開いた。
「俺は中華には広く諜報の手を伸ばしていてな。廉頗殿に限らず各国の有力な将軍達については調べさせているのだ。だが、謝罪はせんぞ? そんなのは中華でも当たり前のことだろう?」
謝罪という態度を取ることはアイショウには出来ない。
なぜなら彼は単于であり、ここは大草騎国の首都だからだ。
そこで単于が頭を下げるようなことが合ってはならない。
一方の廉頗は、こういうのはなんだが基本的に戦馬鹿であるために、こうした言葉上でのやり合いというのにはあまり慣れていない。
そのため、思い切って踏み込んでみることにした
「……ふん、まさか御用商人がアイショウ殿の手のものだとは思わなんだが、アイショウ殿が言うことは正しい。ならばそこは、儂も水に流そう。してアイショウ殿。一体儂に何用で招いた? まさか中華出身のこの儂に軍を預けようというわけでもあるまい?」
それは、騎馬民族と中華の民という隔絶された世界しか知らないからこその廉頗の言葉。
だが、すでに黒尾の張った根の深さで本質的に二者の間に差はないと知っているアイショウは違う。
「そのまさかのつもりだが……まさか廉頗殿ほどの者を招いておいて軍を与えぬなどと、馬鹿な事をこのアイショウがすると思っているのか?」
その言葉に、廉頗、そして後ろに控えていた四天王に衝撃が走る。
まさかこれほど簡単に軍を与えると宣言されるとは思っていなかったのだ。
だが、アイショウの追撃は続く。
「廉頗殿は戦のために国を捨てられたと手のものから聞いた。ならば、戦場を用意すれば再び立つと俺は考えていたのだが、違ったか?」
それは、廉頗の求める戦場を用意するというアイショウからの宣言にも等しい。
確かに廉頗にとってそれは望ましいものだ。
だが同時に、だからこそ怪しい。
容易く飛びついてはならぬ罠の気配を感じる。
「それほどの待遇を与えてもらえるとはありがたい。だが、儂には一点だけ気になることがある」
そこで廉頗は、自分たちの待遇という一番気になる点が解決した次に、今度は中華の民、中華の将軍、元趙国の将軍として気になる事を尋ねる。
「なんだ?」
「お主らが中華に対して、その入口である趙国に対してどのような態度を取るかという点だ。儂を勧誘した商人は『中華と交易をしたい』と言っておった。これは真か?」
「真だ」
「では、アイショウ殿に中華を、趙を攻めるつもりはない、と。そう判断して良いのだな?」
廉頗の気になる点。
それは長年北方から中華への侵攻への目論見、略奪を繰り返してきた騎馬民族が、中華への侵略を捨てるのか、という問いだ。
これは中華の人間として、そして元趙国の人間として廉頗が確認しておかねばならない点だった。
その廉頗の問いに対して、アイショウはしばし睨み合った後破顔する。
「ふ、はっはっは! 廉頗殿は、追放されようともまだ趙の将軍でいるようだ」
その言葉に思わず介子坊が立ち上がって怒りの言葉を放とうとするが、廉頗がそれを手で制した。
「して、回答は如何に?」
「では、俺も正直に答えるとしよう。俺は既に趙国への侵攻の準備を整えている」
その言葉に、流石の廉頗四天王の三人も表情を強張らせる。
それは元々趙の人間であった三人には認めがたきこと。
だがここは敵の懐の中、下手な回答をすれば命に関わる。
そんな四天王達に、アイショウは視線を向けて声をかけようとする。
「思うところがあれば言っても構わんぞ。この場では一切を不問としよう」
いくらアイショウがそう言ったとて、中途半端に口を挟める内容ではない。
故に四天王達は怒りを抑えて黙り込み、眼前の廉頗の背中を見つめる。
その背中からは、抑えがたいほどの怒りが湧き上がっていた。
「この廉頗の前で、そう口にする意味がわかっておるのか?」
憤怒の表情を浮かべる廉頗に、しかしアイショウは笑みを深める。
これだ、この廉頗の本質、本当の言葉こそ、アイショウが求めていたものなのである。
これを引き出さずして、如何に語らうことができようか。
それはただ薄っぺらの、表面上だけの会話になってしまう。
そうではない。
アイショウは廉頗の本音を知り、そして使えるならば己の下に組み込みたいのだ。
「無論、承知で言っている。なあ廉頗殿。ずるいとは思わぬか」
「……何がだ」
なお変わらぬアイショウの様子に、わずかに毒気を抜かれた廉頗は怒気をわずかに抑えてそう答える。
「数百あった国が七つに減るほどに、貴殿ら華夏族は中華での争いをしている。にも関わらず、俺達異民族がそこに混ざろうとするととたんにはじき出しにかかる。ずるいとは思わないか? 貴殿らと我らの違いは一体何だ。同じ人間ではないのか? それとも、華夏族にしか中華を統べる資格なし、とでも言うか?」
その言葉に廉頗は黙り込む。
それに対する回答は、華夏族、そしてその王朝が異民族よりも必然的に上位に立つ中華の考えを言うしかなくなるが、しかしそれでは廉頗自身も納得しない。
だから代わりに、廉頗は話を次に進めるための問いを放った。
「だからそれを破壊しようというのか?」
「そんなだいそれたことは言わんよ。だが、俺達が攻め取ったとして、その事を糾弾される言われも無いだろうというだけの話だ。何せ今は戦国の世なのだからな」
アイショウの言葉に廉頗は納得を示す。
確かに、今は戦国の世。
どんなことが起こるかわからぬし、何処が戦争を仕掛けてきてもおかしくはない。
あるいは数十年前に起きたように、合従軍が起こって一国を滅ぼそうとすることだってある。
だが。
それでもやはり、趙を攻めるというのは廉頗としては今ひとつ気乗りしない。
やはり廉頗には、趙への僅かな未練があるのだ。
そんな廉頗に、アイショウは話を続ける。
「俺は何も中華の全てを侵略してやろうと思っているわけでも、趙を滅ぼしてやろうと思っているわけでもない。ただ中華の内側に、我らの国の一部を置いておきたいのだ」
「置いてどうする。中華の争いに介入していくか?」
「それも良いな。実際、既に秦は中華統一への道筋をつけ始めている。戦国七雄を八雄に変えんとしている我らからすれば不都合なことこの上ない」
その山陽を奪われた本人である廉頗の前でそれを言うか、と文官たちが信じられないものを見る目でアイショウを見るが、アイショウは無視して廉頗へと話を続ける。
「俺はな、廉頗将軍。貴殿に俺が示すことの出来る道は、二つあると考えている」
「……聞かせてもらおう」
廉頗の言葉に笑みを深めたアイショウは、自分の考える道を説明する。
「一つは、貴殿に軍を与え、東方から攻め寄せる騎馬民族共との戦場を与える道。こちらならば、中華に関わることはなくなるが、終わること無き戦を貴殿に与えることが出来るだろう」
「騎馬民族との戦か。それはそれで面白そうだのお」
未だ未知の相手との戦に、廉頗の胸には高鳴るものがあった。
あるいは、趙に対する未練を捨ててそこで戦った方が廉頗にとっては幸せなものかもしれない。
そんな思いを打ち消して、廉頗は皮肉げに尋ねる。
「もう一つはなんだ。儂の手で趙を攻めろとでも言うか?」
「いや、逆だ」
「逆?」
俺の言葉に疑問を浮かべる廉頗と四天王等に、俺は俺の予測する状況の推移を説明する。
「まもなく中華には大きな嵐が起こるだろう。山陽を取った秦が韓、魏を滅ぼすか。あるいは李牧を擁する趙が、韓、魏と手を組んで山陽の奪還に動くか。いずれにしろ大きな嵐だ。中華の注目は中原に集まる。我らはその隙を突いて、趙北方より侵攻し、秦、趙の北部を一気呵成に奪い取る」
その図は廉頗の頭の中でも展開されていた。
確かに山陽というのは戦略的価値が非常に高い場所だ。
故に、そこを秦が取ったことでこれから中華には怒涛の如き戦の流れが訪れる。
その結果北部に穴が出来るのは仕方の無いことだ。
特に趙にとっては燕の側の北部こそ守りが必要だが、秦側の北部はそれ程強い守りを必要としない。
故に、趙が秦との戦いに注目するとき、必ず北部は手隙になる。
「さて、北部にそれほど重きを置いていない秦ならばともかく、左右を秦と斉、燕に挟まれ、新たに北部を我らに奪われた趙はどうなる?」
「……滅びるだろうな。間違いなく。趙にとっては北部は重要な土地だ」
「だが我らからしてみれば、それは望ましくない。我らは中華の拮抗した力に割って入り八雄としたいだけであって、七雄に成り代わるつもりはないのだからな」
廉頗にはあえて説明することはしないが、これはアイショウと戦略研究所の者たちが考えたリスクマネジメントのための方策だ。
『趙を滅ぼした蛮族』と『趙北部をうばった蛮族』。
どちらがより他国から脅威に見え、積極的な対策が行われるかは言うまでもないだろう。
つまり、自分たちで瀕死に追い込んだ趙をあえていかすことで、他国からは「まだ趙が間に存在している」という安心感を引き出すことで、同盟を組んで対抗されるようなことが無いように防ごうとしているのだ。
「そのためにも、趙には生きていて貰う必要がある」
そこで言葉を切ったアイショウ。
廉頗四天王と文官達が固唾を飲んで見守る中、沈黙を破ったのは廉頗だった。
「ふっ、はっはっはっは! まさかこの儂に趙の救世主になれと言うか、匈奴の王よ!」
その言葉がその場ですぐに理解できたのはアイショウだけだった。
廉頗の四天王すら置き去りにして話は進む。
そしてアイショウにはまだ目論見があった。
「我らは略奪も虐殺もやるつもりがない。故に支配した土地の民たちも、我らの国民同様圧政を敷くことなく統治していくつもりだ。そうすればそのうち、それらの土地から徴兵することもあろう」
更なる言葉に、廉頗は笑みを深める。
「そこまで儂という存在を利用し尽くすつもりか、お主は」
その廉頗の笑みに対して、初めて不敵な笑みを浮かべながらアイショウは返す。
「不服か?」
「ふははっ、不服でなどあるものか! それほどまでに儂を戦に使ってくれるというのならば、不服なとあろうはずもないわ!」
そう言い放った廉頗は一度勢いよく立ち上がると、アイショウに臣下の礼を取る。
「この廉頗、これよりアイショウ殿に仕えさせて貰おう。無論、儂の配下の者たちもだ」
それを聞いた廉頗四天王も、自分たちの主の判断を聞いてバッと臣下の礼を取る。
「そこまで畏まって貰っても困るがな。我らの単于には中華の大王ほどの不必要な格はない。だが、その言葉確かにこのアイショウ単于が受け取った。このときより廉頗将軍とその配下の将校、兵士は、大草騎国の一員となる。以後の貴殿らの活躍に期待する」
「承知!」
二人のやり取りに、ようやく思考が追いついた文官達が喜びの叫びをあげる横で、一時退室していたナンミルが戻ってくる。
そしてアイショウに軽く耳打ちをした。
「うむ、わかった。廉頗将軍、宴の用意が出来た故、後は酒でも飲みながら語らうとしようか」
「宴の用意まであるとは、我が大王、否、単于は最初から儂を口説き落とすつもりでおったか」
「貴殿ほどの人材、逃すはずも無かろう」
こうして、大草騎国の新たな上将軍として、元趙国三大天廉頗の名が、そして将軍として廉頗四天王である輪虎、介子坊、姜燕の名が刻まれることになった。
ときに紀元前242年。
中華で合従軍が起こるわずか数ヶ月前のことであった。
最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?
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欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
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欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
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それより早くあの将軍と会え
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合従軍まだ?