実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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第4話 趙・匈奴の戦い1 張り巡らされた見えない罠

「林莉将軍!! 伝令が戻りました!」

「通してくれ」

「はっ!」

 

 趙北部の山中に敷かれた陣に、伝令が勢いよく駆け込んでくる。 

 それを受けるのは、林莉と部下に呼ばれた将軍だ。

 

「ワグダイ様より伝令です! 『軍議の余地無し。速やかに進軍、合流せよ』 とのことです!」

「なっ、そんな馬鹿なはな──ッ!」

 

 叫びそうになった部下を手で制した林莉は、伝令の兵にねぎらいの言葉をかける。

 

「伝令感謝する。可能な限りの速度で向かうと総大将にお伝えしてくれ」

「はっ! 承知しました!」

 

 伝令の兵士が再び駆け出していく。

 伝令が去ったと同時に、黙っていた部下の兵士がたまらずと言わんばかりに不満を口にする。

 

「第二将である林莉様と軍議をする余地が無いだとっ!! 奴らはどれほど思い上がるのだ!!」

 

 口に出してこぼすのは特に若いその兵士だけだが、本陣にいた他の兵士達も同様の不満を抱えている。

 それだけ、フワンシからここまで進軍する間のワグダイ軍の横暴ぶりはひどかったのだ。

 

 そもそもとして、最も遅く併合され未だに独自の勢力を強く持つワグダイ軍の連中は理解していないようだが、現在の匈奴の軍は、かつての略奪のために数と力で襲いかかる凶暴な群れではない。

 理性のもとに、国のために戦う者としての責務を果たすために戦に赴くのである。

 

 故に略奪もまた快楽や遊びですることではなく、物資の収集という明確な目的によって行われるものなのだ。

 

 それをワグダイ軍の連中は、進軍中に隊列を乱して林莉軍の方まで来たかと思えば無駄な嫌がらせをし。

 抗議をすれば総大将であるワグダイの名前を出してより一層自儘な行動を行い。

 

 更には第二将である林莉の進言の一切を無視してむやみに雁門関の外側の村を襲撃して民を殺し、敵に自分たちの存在を知らしめた。

 あまつさえ今は、少数の敵を叩いたことでいい気になって、躊躇うことなく雁門関へ向けて侵攻していく。

 

 林莉軍でこれに腹を立てていない者はほとんどいなかった。

 そしてその例外が、林莉とその側近達だ。

 彼らはこの戦で消える者達よりも、いつもと違う趙のあり方に違和感を抱いていた。

 

「信陸、お前はどう見る?」

 

 周辺の地形図を見下ろした林莉が、自身の側近である信陸に問いかける。

 彼は林莉に匈奴の領域に逃れてきた頃から付き従っている男で、かつては共に矛を振るい、今は怪我から軍師として林莉軍を支えている。

 

「罠でしょう。近年は攻勢をかけていないので記録が少ないですが、烏孫や月氏共との戦いを見るに、奴らがあれほど容易く数千を討たせるとは考えづらい」

 

 信陸のその言葉に、林莉は軽く頷く。

 今回の侵攻において、ただの勝利を目指すのではなく、単于からある任務を任されていたからこそ、普段と違う視点で見て初めて気づくことが出来た違和感。

 

「では考えられる罠は?」

「……単純ですが待ち伏せが考えられます。それも一方からの奇襲ではなく、四方からの包囲殲滅である可能性が高いでしょう。山中に兵を伏せられて四方から襲われてしまえば、進軍中は騎馬が主体の我らは対応に苦慮します」

「であるならば……」

 

 盤面を見ながら林莉は思考する。

 

「ジン・ロキはいるか」

「はいはい、なんですかっと」

 

 林莉の問いかけに、今度は周囲を囲う護衛の兵の間から異質な服装をした小柄な男が姿を現した。

 その登場に護衛の一部がざわつく中、林莉は彼に問いかける。

 

「斥候は無事か?」

「わかってる聞き方じゃないっすか。って言いたいんすけど、微妙っすね。一騎だけ戻ってないんすけど、他の奴らは特に何も見てないらしいっす」

 

 そう言いながらジン・ロキは、盤上を棒でなぞるように動かす。

 

「ここからこっちの方向に走らせた斥候っすね」

 

 それを見ながら林莉は考える。

 山岳地帯という視界の効かない戦場において、情報収集を重視する林莉は、斥候を多数走らせることにしている。

 山民族との戦では、それで幾度も伏兵を見つけてきた。

 

 故に今回もこの調子なら伏兵があるのかと思ったのだ。

 が、実際は伏兵は見つかっていない。

 

 ならば伏兵は無いのかと思いかけるが、しかし拭い切れぬ違和感。

 

「……いや、やはり罠だな。しかしどうやって……」

「ああ、でもあれっす」

「なんだ?」

「梟鳴族のやつが、森が荒れてるって言ってます。なんか人がたくさんいた跡があるって。結構新しい痕跡らしいっす」

「……なるほど」

 

 しばしの思考の後、林莉は決断する。

 敵の罠が読めないならば、最良ではなくとも最善の方法を。

 林莉の今回の任務の一つは、この軍を大きく失わずに帰還することだ。

 その前提があるからこそ、侵攻するときとは違う保険をかけることが出来る。

 

「ジン・ロキ」

「なんすか?」

「斥候を出して軍の周辺の警戒をさせてくれ。探すのは敵の斥候だ」

「了解っす」

 

 敵にここからの軍の動きを見せたくない。

 そう考えた林莉は、情報収集に使っていた斥候を、敵の情報収集の妨害に振り分ける。

 

「岩郭、兵一万五〇〇〇を馬から降ろしてくれ。出来る限り徒歩で足の速い部隊で頼む。それと出来る限りの兵に盾を装備させてくれ」

「進軍が遅くなるが良いのか?」

「構わない。()()()()()()文句は言えないさ」

 

 徒歩でも全力は全力。

 そう言いたげな林莉の言葉に、副官である岩郭は肩をすくめる。

 こういうことを考えさせるとこいつに勝てるやつはいないのだ。

 それを岩郭はよく知っている。

 

「それと紀陸」

「はっ、何でしょうか林莉様」

「お前に五〇〇〇を預ける。馬を連れて山の入り口まで後退して陣を張っておいてくれ。それとお前が機を見て旗を。後退中は軍を割っても良いから目立たないように頼む」

 

 場合によっては潰走もありえる、その時は兵をそこで拾ってくれ。

 そこまでは言わなかった林莉だが、紀陸はその言わんとするところを正確に理解した。

 それを理解出来る相手だからこそ林莉はこの場で彼を選んだ。

 

「斥候をお借りします」

「構わない。お前に任せる」

「承知しました。ご武運を」

「言うまでも無いが、そっちも襲撃があるかもしれない。気をつけてくれ」

「はっ」

 

 指示を受けた紀陸が陣から出ていく。

 

「信陸、最後に進軍する際の注意すべき点を確認させてほしい」

「承知しました」

「出来るだけ左右が狭まった閉所は避けることと伏兵に気をつけること。後は細い道が多数繋がるような広場も危険か。隊を間延びさせるのも良くない。 となると経路はこのあたりになるか。他には?」

「そうですね……。軍の密集のしすぎにもご注意を。襲撃された際に身動きが取れなくなります」

「わかった」

「それから──」

 

 最後に信陸は、棒を手にとって現在地を指し、そこから経路をなぞっていく。

 

「奥に入れば入るほど、撤退が困難になります。特に──」

 

 最後にその棒の先端が、戦術盤の中でも高く盛り上がった建築物を叩く。

 

「雁門関を超えるのは絶対にやめてください。入ってしまえば再度突破して逃げるのは非常に困難です」

「……わかった。ワグダイ将軍には再度進言しておこう」

「将軍」

「わかっている。いよいよのときは軍を退くさ」

 

 それでも、一応この戦の総大将はワグダイだ、という林莉の言葉に、信陸は顔をしかめる。

 信陸にとっても今回のワグダイ軍派遣の理由は明らかで、そんなもので林莉の軍を傷つけるのを馬鹿らしいと思っているからだ。

 

 だが、それでも林莉は軍を退けない。

 ワグダイの命令に従った上でワグダイ軍に大ダメージを与えるか、ワグダイ自身が死ぬまでは。

 

「よし。全軍に通達。無理しない速度で進軍を開始する。一団となって、隊から距離を開けるようなことが無いようにせよ」

「「「はっ!!」」」

「それと……」

 

 最後に林莉は、本来は自分と側近たちの間でおさめておくべきであることを言おうとして言いよどむ。

 が、伝えたほうが良いという本能に従って再度口を開いた。

 

「即座に指示に従って撤退する心構えをさせておいてくれ。敵に隙が見えても勝手な行動をするなとも言っておくように」

 

 この敵は、はめに来ている。

 ここまでの流れを振り返って、林莉はそう強く感じていた。

 

 

 

******

 

 

 

 ここまでの動きを脳内で振り返る。

 

 山岳地帯に突入してすぐに、ワグダイの軍が、展開されていた数千の軍を打ち破った。

 一瞬拮抗したもののその後は鎧袖一触で敵は離散し、そのまま周囲に飼われていた家畜や食料をワグダイ軍は略奪。

 これによって士気を高めた。

 

 その後千の兵との戦闘中に伏兵の強襲を受け、これでワグダイ軍は損害を受けたが敵の規模が小さく、致命傷には至らなかった。

 そしてまた家畜と食料を略奪。

 

 その後も数回の戦闘と奇襲を受けながらも、ワグダイ軍はこれを撃退。

 最後には襲撃に慣れ、最初の奇襲の倍近い敵をほぼ完璧に防いだ。

 

 今まさにワグダイ軍はのりにのっている状態だ。

 敵軍を叩いているのに加えて、損害を受けても美味しい報酬があるということを知り、敵の攻撃方法も既に完全に攻略したと勘違いをしている。

 

 いや、させられている。

 そしてこう認識しているのも、多数の経験と優れた戦術眼を持つ林莉だからで、おそらくワグダイ軍どころか林莉軍の将でさえも、いや、現在得られている情報と林莉の理性さえも、「敵の破れかぶれの攻撃を何度も防いだワグダイ軍が、敵の防御を破って快進撃を続けている」と思ってしまっている。

 

 林莉がそれを疑っているのは、これまでの経験によって育まれた林莉の勘が警鐘を鳴らし、それに従って悲観的に考えてみたからだ。

 

 もしこの疑いが当たっているならば、敵将は相当に、相手をのせるのがうまい。

 

 敵がいなければ、それを不自然と感じて撤退したかもしれない。

 あるいは敵の撤退が巧妙であれば、そこに策の匂いを感じたかもしれない。

 

 だが戦った敵は確実に攻撃する気で攻撃し、そして叶わぬと見て必死で逃げていく。

 奇襲をかける隊だって、完璧な奇襲でなくとも時折ひやりとするような矢が混ざっている。

 その上に後方に位置する林莉軍は、それを斥候からの情報でしか知ることが出来ていない。

 

 だからこそそれを、偽物だと疑うのは難しい。

 例え勘が、全力で警鐘を鳴らしていても。

 

「もしかして……」

「林莉様?」

 

 軍を進めながらそう呟いた林莉に、護衛についていた兵士が反応する。

 林莉は思考を巡らせるとき、こうやってその思考の結果生み出されたものを口にする。

 長年林莉とともに戦ってきた護衛隊長は、その癖に慣れ、合わせることが出来る。

 

「ワグダイ軍は、昨日六度の襲撃を退けた」

「はっ、そうですな。確かに六度でしたか。敵も粘りますな」

「六度も少数の兵をぶつけるなら、まとめたほうがまだ打撃力があったはずだ」

「……そうですな。確かにおかしな話です」

「そして六度の襲撃のたびに、ワグダイ軍はそれに相対し、撃破し追撃して押し込んだ」

「それが、どうかしましたか?」

 

 護衛の男には、林莉の思考についていくほどの能力は無かった。

 だが林莉は既に己の中で既に答えにたどり着いていた。

 

「六度の襲撃によってワグダイ軍は、その進路を狂わせられ、そして誘導された……」

「まさか!? そんなことがあるはずが──」

「伝令!! 伝令!!」

 

 護衛の男が信じられないと返そうとしたところで、伝令の兵士が駆け寄ってくる。

 

「ワグダイ様は一万の敵軍を打ち破り、雁門関の目前に陣を敷かれました。正午までに到着しなければ命令違反として処罰する、と」

「馬鹿な!!」

「あい分かった。すぐに向かうとお伝えしてくれ」

 

 怒る部下を横に、林莉は報告の兵を先に戻らせる。

 プライドや理不尽に対して怒りで思考が埋まらない冷静さは、戦場における林莉の武器の一つだ。

 

 ここに来て再び一万の軍が出現。

 それも雁門関まで目前と迫った位置に。

 

 本当にそれは迎撃のための軍なのか。

 いな、否である。

 ここまで来ればもはや断言できる。

 

 それはただの迎撃軍ではなく、敵の策の一環だ。

 であるならば。

 

 敵の守っていた場所、ワグダイ軍が敵を破って陣を敷いた場所は──

 

 常に冷静に、課題を明確に。

 その思考が、道を生み出していく。

 

「全体停止!! 岩郭を呼べ!! 第一軍ごとだ!!」

「「はっ!!」」

「全体停止だー!! 全体停止ー!! 隊列を整えろ!!」

 

 幸いに、正午まではまだ時間の猶予がある。

 ワグダイがぬるいのか、あるいは山間での林莉軍の進軍速度すら読めないポンコツなのか。 

 おそらくは後者だろうなとなんとなく思いつつ、林莉は指示を飛ばしていく。

 

「岩郭軍の抜けたところに左からグアンパを移動させてくれ。前方八〇〇〇を任せる」

「承知!」

「グアンパのいた左には中央左のリンガを入れる。そして第一軍を除いた残りの部隊で一回り小さい陣形を取るぞ。第一軍はそのまま一番後ろにつけてくれ」

「はっ!」

 

 林莉の出した指示が、近くにいた伝令の兵士に伝わり、それが各所の指揮官へと伝えられていく。

 指示が伝わることで軍全体が動き、隊形を作り替えていく。

 

「グアンパに伝令。『死地である、死力を尽くせ』」

「ッ! はっ!」

「左のリンガと右のギル・ギにも伝えてくれ」

「はっ!」

 

 もうこの際だ、と、現場の指揮官達にもこの先死地が待ち構えていて、これからそれに飛び込むということを伝えることにする。

 軍の士気を考えればわかっていて飛び込んだと知られるのはまずいかもしれないが、知らない方がまずいだろう。

 

 それだけ、このいまだに確信させてくれない敵はまずい。

 

 『死力を尽くせ』というのは、林莉軍において特別な意味を持つ言葉だ。

 それを聞いた伝令は一瞬驚いた表情を浮かべた後、勢いよく走り出していった。

 

「呼ばれてきたぞ」

「ありがとう。岩郭、こちらに来てくれ」

 

 岩郭を呼び寄せた林莉は、彼を更にすぐ近くまで読んで、彼にだけ聞こえる声で指示を出す。

 

「(岩郭、最後方に軍をつけたら、進軍に合わせて少しずつ兵士を森に隠していってくれ)」

「(程度は)」

「(*1三里進む間にお前の兵士一万を隠し切るようにしてほしい)」

「(……囲みを外から叩くんだな)」

「(ああ。お前にしか頼めない。狼煙はあげない。お前の方で確認してくれ)」

「(……わかった)」

 

 頷いた岩郭の肩を軽く叩く。

 林莉にとって、この自分より大柄の男は、最も信頼する将にして、最も無茶振りを出来る男だ。

 

「林莉!」

 

 そのまま離れようとした林莉の後ろから岩郭が呼び止める。

 振り返ると、拱手を胸の前に構えた岩郭が林莉を見ていた。

 

「ご武運を」

「ああ。岩郭も武運を祈る」

 

 それに林莉が拱手で返すと、今度こそ岩郭は背を向けて去っていく。

 

 拱手は本来、中国で行われる作法で、元は匈奴では使われていなかった。

 それを取り入れたのが、今の単于であるアイショウだ。

 

 元々匈奴が礼儀を一つの行動で示すという文化を持っておらず、勧められた酒を断らない、一晩の客は歓待するなど、一つの行動というよりは一連の流れとも言えるものであった。

 そこで中国の拱手を、そのまま文化的に空白になっていた表現のところに当てはめために、匈奴でも拱手が使われるようになっている。

 

「将軍、配置が終わりました」

「わかった。グルジはいるか」

「ここに」

 

 護衛の中でも特に腕利きの男を呼び出す。

 

「二〇名連れて、信陸の護衛に加わってくれ」

「……よろしいので?」

「私を誰だと思っているんだ。心配するな。私に不運は起こらない」

「……はっ。信陸様の護衛にうつります」

「よろしく頼む」

 

 将の護衛隊にとって、その側を外されるというのは、例え腕を認められてのことであっても屈辱である。

 それを飲み込んで、グルジは主の言葉に頷いた。

 信陸が軍にとっても林莉にとっても重要な人物だと理解しているからだ。

 

 実際に襲撃が懸念されている今も、信陸は中央に指揮所をおけるように後方の林莉から離れて中央付近まで移動している。

 自分が後方の囲いを破っている間の指揮と、全体への指揮とバランス調整を信陸にまかせているのだ。

 

 そしてそれは同時に、最前線においても戦場全体を見ることが出来る視野の広さを持つ林莉が眼前に集中しなければならないほどの死地が、これから訪れるということを示している。

 

「全軍進軍開始だ。駆け足で行くぞ」

 

 林莉の指示で、先程を上回る速度で軍が動いていく。

 それでも誰も体勢を崩さないのは、フワンシを拠点とするゆえに、丘や山岳での練兵と普段からの走り込みを欠かしていないからだ。 

 

 進軍するうちに、晴れの日の雪が溶けて消えるように、後方の軍が山林に溶けたのを林莉は振り返ることなく気配で察した。

 やはり頼りになる副官である。

 

 そのまま普段よりも静かな森を進んでいくと、やがて多少開けた場所に、七万の大軍が陣を敷いていた。

 明らかにだらけているその軍こそ、今回の侵攻軍の主力であり、アイショウ単于に反抗的な将軍、ワグダイの率いる軍である。

 

(とんでもないな……伏兵を隠し放題な場所じゃないか。しかも敵の兵士が展開、移動する空間が十分に取れる広さをしている。撃ち下ろしやすい高台もある)

 

 開けた場所に向けて軍の進軍の速度を少しずつ下げつつ、林莉は周囲の地形に目をやってはその都度伝令をあちこちの指揮官の元へと走らせる。

 もはやいつ敵が襲ってきても。

 

(入り切らないと襲ってくれないのかこれは)

 

 だからといってここから背を向けて撤退しようとすれば、それはそれで別に展開した軍によって背を撃たれて大損害を被るのだろう。

 そう考えるからこそ、林莉は軍を退くことが出来ない。

 更に、あくまでワグダイの指示による損害が必要なのだ。

 林莉の考えで逃げては、逆に責任を転嫁されてしまう可能性もある。

 

 それに加えて、今回の戦を趙への侵攻だとしか知らされていない兵士を率いるにあたっては、攻撃を受けて撤退するまでの、普通の戦争の手順をやらなければならない。

 ここまでの策を巡らせることが出来る相手にそれは致命傷になりうるが、林莉もまたここまでで巡らせられるだけの準備をしてきた。

 

 やがてほとんど歩くぐらいのペースで、林莉の軍の最後方が広場の入り口を超える。

 

「全軍に足を止めずに戦闘の準備をさせてくれ。特に盾の用意を」

「はっ」

 

 戦闘態勢を取りつつも、構えるでも駆けるでも無く歩く。

 そんな珍しいことをしている林莉軍は、やがて広場の中央付近に陣を張り休憩しているワグダイ軍から数十歩の位置まで到達した。

 

「林莉将軍!! 一体何をやっているのだあなたは! 命令違反──」

 

 広場に入るにつれ行軍速度を落とした林莉の軍に、我慢しかねたのか。軍の先頭に将軍が飛び出して怒鳴っている。

 ワグダイに心酔している、彼の麾下の将軍の一人だ。

 

(人のことを言う前に軍を引き締めたまえよ。敵地なんだぞここは)

 

 思わずそんな皮肉を吐きそうになる。

 

 趙とて主な防衛場所は雁門であり、この広大な山岳地帯全てを支配しているわけではない。

 だが今は趙に侵攻するために、自らその趙の領域に踏み込んでいるのだ。 

 どうしてそう気を抜いていられるのだろうか。

 

 更に言えば、林莉の軍が三万五千に対してワグダイの軍は七万。

 数の上で純粋に倍である上に、ワグダイの軍は全てが騎馬である。

 専有する空間が広く、林莉の軍なら動くスペースがある広場も、ワグダイ達の屯している場所にそんな空間はない。

 

「急ぎこちらに合流しろ!! 貴様らも何を気を抜いている! 早く立たん──」

 

 更にその将軍が怒鳴ろうとした直後。

 

「全軍盾を頭上に構えろぉぉぉ!!」

 

 林莉の叫びが響き渡ると同時に、無数の矢が頭上から降り注いだ。

 

 林莉軍の頭上に構えられた盾と、未だに気を抜いていたワグダイ軍の兵士に無数の矢が突き刺さった。

 

 そしてその動揺が冷めやらぬうちに、更に事態は動いていく。

 

 数十歩距離の開いていた林莉軍とワグダイ軍の間。

 その中間を、森から溢れ出るように飛び出してきた多数の騎馬が勢いよく駆け抜けていき、そのままその後に続いた歩兵が、匈奴の両軍を割るように陣を敷いてしまった。

 

 そこまでがあっという間で鮮やかで、思わず林莉もその完成を見守ってしまう。

 はっとした林莉は軍に指示を出した。

 

「全軍に伝達、『死地である、死力を尽くせ』」

「「「はっ!」」」

 

 どこの軍がどう攻めるかといった指示はしない。

 この状況に入る前に、既に指揮権を信陸に託しているし、各方向を任せている将にも何が起こるかの予想は伝えている。

 それに応じて動ける者たちを、各方面の指揮官に据えている。

 

「本軍に告げる!! 後方の我らは全軍の退路を切り開く!! 反転せよ!!」

 

 定期的に降り注ぐ矢を盾で受けつつ、自分の率いる本軍に指示を出す。

 そのまま林莉自身も初めて後方を確認すれば、案の定、林莉軍が入ってきた隙間や他にもそこら中から溢れ出るように、趙の兵士たちが溢れ出してくる。

 そしてそのまま、隊列を揃えて前列が突っ込んでくると同時に、後列から前列の頭上越しに矢が飛んでくる。

 左右からの矢の雨も多少減ったものの無くなっていないので、一枚の盾では防げない状況になりつつあった。

 

『侵略者共を皆殺しにしろぉぉ!!』

『『『『『『『おおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』』』』

 

「前列突撃!! 前方の軍を打ち破れ!! 乱戦になれば矢は降っては来ない!!」

「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」

 

 包囲殲滅を狙う趙軍と、包囲を破っての後退を目指す匈奴軍が、真っ向から衝突した。

*1
ここでの一里は古代中国に合わせて四〇〇メートルほどとする。 というか普通に度量衡使いたい。





https://twitter.com/kyoudozin
ツイッターでもちょこちょこ呟いてます。


用語集の後に作者の不必要な語りがあります。









そういうのが不快な人はここでブラウザバックしてください。









《用語》(以前紹介したものは簡潔に書きます)

《人名》

・林莉……趙北部から追いやられた中華人の末裔(漢字名は全て、中国から逃れた者かsの末裔、あるいは何かしらの契を結んだ関係者)。将軍。

・ワグダイ……南部の匈奴をまとめていた大一族の将軍。
       併合されたが主人公の匈奴の国にはかなり反抗的。

・信陸……林莉軍軍師。

・岩郭……林莉軍第一将。林莉の副官。

・ジン・ロキ……斥候部隊隊長。山岳猟兵隊からの出向。

・紀陸……林莉側近の一人。指揮官級。

・グアンパ……林莉軍第二将。

・リンガ……林莉軍第三将。

・ギル・ギ……林莉軍第四将。

・グルジ……林莉の近衛部隊の腕利き。



《地名》

・フワンシ……匈奴南部の都市。雁門に最も近い都市。

・雁門関……北方騎馬民族の侵入を阻む中華の盾。原作キングダムでも大量の兵と将が死ぬ死地として描かれている。






作者の語りですので、そういうのが苦手な人はブラウザバックしてください。







コメントで、
オリキャラオリ設定ばかりな上に、作者が自己投影した最強主人公の自分語りが多くて不快である。
冗長で次への期待感が無い。
二次創作というのは読者に失礼なレベル。
文は書けているし設定も練られているのだからオリジナルものとして書けばいい。

という意見をいただきました。
これはいくつか答えとこうと思い書いています。


まず、作者がキャラクターに自己投影するのはよくあることだと思います。
全く自分の知らないキャラ、例えば陰キャで臆病な自分が、クラブで騒ぐ陽気で無鉄砲なキャラを内面から丁寧に描写するのは難しいです。
ただそれを持ち上げて気持ちよくなってるわけではないので、そこは気にしていただかなくて大丈夫です。

次に、冗長である、という部分は、作者もまさにそうだと考えています。
第二話は作者として必要な部分でしたが、今考えると第三話って話の中でも浮いてるし、書いた内容を別のところで描写したほうが良かったな、と感じます。
これは素直に反省です。ごめんなさい。


また、オリジナルものとして書いたほうが良い、という点についてですが、実は作者は一次創作もやっておりまして、いずれそちらでファンタジー戦記を書く練習としてキングダム題材の二次創作を書いている、というのがあります。
戦争の描写とかの練習や、戦闘の組み立て方の練習をやってる感じです。



最後に、本作はやはりキングダムの『二次創作』です。
なぜなら作中第一話で明言したとおり、主人公が築いた匈奴の大国の南にはキングダムの世界が広がっており、中華に進出したら必ず出会うからです。

二次創作って直接原作キャラを描写するだけじゃなくて、そこに原作のキャラクターがいるんだ、いつ出会うんだろう、どういう出会いかたするんだろう、といった期待感なんかも含めて二次創作なんですよね。

ワンピースの二次創作で、最初は気づかなくて船で荷を運ぶ商人をやっている主人公だけど、ところどころの描写でワンピースが匂わされていて、そしていつか原作キャラに出会う、その瞬間のカタルシス、みたいなものです。

直接描写しなくても二次創作にはなりえます。

更に言えば、本作の始まりは「李牧が秦と戦ってるときに匈奴の大軍が趙を侵略したらどうなるのだろう」なので、やっぱり二次創作です。


ただやっぱりオリジナル勢力というか、中華しか書いてないキングダムで中華の外の国なので、オリキャラが増えるのは大変申し訳無いですけど許してください。
でもキングダムでも

「黃竜隊壊滅!!」

みたいな名前だけキャラはいっぱいいるので、そういう枠で出す人物が多いと思います。
そこは、多分めちゃくちゃに多数を細かく描写しまくることは無いかと思います。


以上、作者の本作に対する思い語りでした。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?

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