実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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たくさんの感想、コメント付き評価、ありがとうございます。
正直ここまで感想やコメントをいただけていなければもっとペースは遅かったと思います。
読んでくださってありがとうございます。

ついでにみなさんもキングダム二次創作書いて、私に読ませてください。
このジャンル少なすぎて寂しいです。

https://youtu.be/LTqliq2Su-Q

この動画の序盤が中国の山。他にも風景の想像に役立つから是非キングダム好きなら。


第5話 馬南慈軍 対 岩郭軍

《林莉軍別働隊 岩郭 視点》

 

 

 趙軍と林莉、ワグダイ軍が衝突し、乱戦に突入した頃。

 斥候からの報告で、趙軍の奇襲が起きたことを知った岩郭は、その包囲の背をつくために広場に整列させた兵を動かそうとした。

 

 しかしその軍の前に、一人の男が率いる軍が立ちふさがる。

 

「やはりな。後続の軍の数が減っているという李牧様の言葉は、間違っておらんかったわ」

 

 雁門の地を守護する将、李牧。

 その片腕であり最高の武である馬南慈が、一万五千の軍を率いて、林莉の副官である岩郭の軍一万の前に立ちふさがっていた。

 

「前列前へ出ろ!! 我らの武を見せてやれ!!」

「侵略者共が来るぞ!! 全軍構えい!!」

 

 始まりは、岩郭軍から仕掛ける形となった。

 初手から全軍の半数近くを使っての突撃を、馬南慈軍はその場で防御体勢を取って受け止める。

 そしてそのままがっぷりと組合い、前線では乱戦が始まった。

 

 それを通してしばし敵軍の様子を睨むように観察した岩郭は、次の指示を飛ばす。

 

「前線部隊にはそのまま乱戦を崩すなと指示しろ」

「はっ!」

「ガザ・カハ、六〇〇騎を率いて右側の外に飛び出して、敵の左側面をつけ。出来るだけ目立って、急いでくれよ」

「承知しました」

「ジャイガ、一五〇〇の騎馬を率いて、左側の中を割って進んで敵の右端を叩け。機はガザ・カハの突入後だ。それまで敵にばれるなよ」

「承知!」

「右軍予備隊前進!! 敵左軍と中央軍の境目をつけ!!」

「「「はっ!!」」」

 

 続けざまに、岩郭は自軍の中でも強力な二つの騎馬隊と、予備隊の一つを戦場に投入する。

 

「増援が来よるわ!! 左軍予備隊を出してがっちり受け止めてやれい!!」

「「「ははっ!」」」

 

 それに対して馬南慈軍は、適宜体勢を変え増援を送って敵の突撃を受け止めつつも、自ら進んで攻勢に出ることはなかった。

 

 この双方の戦術の大きな差には、両軍のこの戦闘における目的が影響している。

 

 四万五千の林莉軍から分離した岩郭軍一万の目的は、残り三万五千の林莉軍を包囲する敵の背をつき、林莉軍本隊が脱出する道を作ることだ。

 つまりこの一万は救出隊なのである。

 

 そしてその救出隊にとって一番懸念しなければならないのは、『間に合わないこと』だ。

 包囲殲滅が敵の策であるとするなら、ワグダイ軍七万より遥かに少ない林莉軍は、同数かそれ以上の敵に包囲され攻撃を受けている。

 

 それを救うために、一刻も早く敵の背を討ち、包囲の一角を叩き潰さなければならない。

 

 更にそれを達成するためには、眼前の軍をただ突破するだけではなく、背を追われ、あるいは本隊を救出後に撤退中に再度立ち塞がられて救出が失敗しないように、ここで叩き潰しておかなければならない。

 

 数で劣る相手に、戦を急いで、その上で自軍の損害は減らして敵軍は叩き潰す。

 そんな難題を達成するためにこそ、岩郭は別働隊を率いているのだ。

 

「報告! 右軍が一時押し込みましたが敵予備隊によって再度拮抗状態に!」

「敵陣に突撃した右軍予備隊は敵予備隊と戦闘を開始しました! 現在は乱戦状態にあります!」

「伝令! キニナ様が討死(うちじに)! 指揮をシャンジ様が引き継ぎました! 応援を求めています!」

「報告! 中央は拮抗状態! 敵の防御が硬いです!」

「ガジャリ隊が敵陣に切り込みましたが反撃を受けて後退! 再度突撃するので騎馬の支援を、とのこと!」

「左軍は多数の敵相手に奮戦していますが突破は困難です!」

 

 次々と岩郭の元に報告の伝令が駆け込んできては、報告を叫んでは飛び出していく。

 報告と後方の僅かな高台から見える戦場を見るに、軍自体の武力の強さは岩郭軍が一枚上手のように見える。

 

 基本的に自軍より敵が多数になる戦場において、最低でも拮抗し、強力な歩兵の集まっている右軍については自軍より多い敵左軍を大いに押し込んでいる。

 そのために、新しく敵中央軍と左軍の間に突撃させた予備隊の対処に、敵は後方から予備隊を出すことになった。

 その分岩郭軍も予備兵力を失っているが、敵のそれを削ったことが大きい。

 

 結果として、岩郭軍は、1.5倍の敵軍に対して完全に互角に戦っていた。

 特に兵士の損失に関しては、激しく攻め立てる岩郭軍よりも、防御を固めているはずの馬南慈軍の方が多い。

 

 が、それでは十分な兵力を遺して突破して林莉本隊の救助に向かうことは出来ない。

 故に、ここから更に策を弄して敵を動かしていかなければならない。

 

「万乗、ガザ・カハ隊はまだ来ないか?」

「もうしばし時間がかかるかと」

「もどかしいな」

 

 岩郭は本来、林莉の副官ではあるが、武力と同時に知略を持って後方から全軍を動かす林莉に対して、最大の武力を持って敵を打ち砕く役目を担っていた。

 そのため戦場においても、前線や中盤において周辺の軍を指揮しながら戦うことはあったがそれは戦闘の中においての話であり、こうして前線から離れた後方から指揮をする立場というのは、あまり好んではいなかった。

 

 それでもこなせるからこそ岩郭は林莉の副官であり、彼に次ぐ地位を軍内で認められているのだ。

 これで武力しか無ければ、グアンパやギル・ギといった優秀な将が他にもいる林莉軍において、林莉の副官であり軍内最強の第一軍を任されてはいない。

 それが厳しき匈奴の軍の有り様である。

 

 そんな岩郭だからこそ、まだ打って出ることは出来ない。

 岩郭は敵軍突破までの絵図面を描く指揮官である。

 それが飛び出すのは、敵軍を打ち砕く最後の一撃を加えることが出来るときだ。

 

「左軍予備隊を一部出して、敵中央と右軍の間を攻めましょう」

「左軍予備隊は減らせんぞ」

「中央の予備隊の一部を左の予備隊に移動させます。ついでに右軍予備隊も用意しておきましょう。中央はどうせ最後にしか使わないのでしょう?」

「ふむ……」

 

 自軍の軍師である万乗の言葉に、岩郭は一瞬考えた後許可を出す。

 

「わかった。各戦線の指揮は任せる。俺の策は見えているんだな?」

「最後に岩郭様が必殺の一撃を見舞うところまでは見えております」

「ならよし。お前に任せる」

「ありがたき幸せ」

 

 突発的な戦闘だったために、岩郭が描いた突破までの策を万乗に伝えてはいないが、あちこちに派手に兵をぶつけ、必殺の矢を飛ばしているその動きから、万乗は己の主が狙っていることを正確に理解していた。

 

 そして軍師としての役割を果たすため、その策に修正を加え、より優れたものへと仕上げる。

 それが、岩郭自身が優れた策を操る岩郭軍において、知略で側近に加えられている万乗の役目である。

 

 普段の戦であれば、岩郭は前線に出て戦いながら指揮をしており、それを軍師の万乗が後方から全体を動かして支援する。

 今回突発的な戦において万乗が自ら進んで策を進言しようとしなかったのは、それ以上に岩郭の対応が早く、そしてその内容が優れていると理解出来たからだ。

 

 同時に万乗は思う。

 これだけの策を持つ男が、更に武力を併せ持つ。

 それでも将軍として独立した軍を率いていない不思議に、万乗は上はどれほどの怪物なのかと恐ろしさすら感じる。

 

「カンジィ!! 百騎を率いて左を立て直して来い! そのまま敵右軍と中央軍を隔てるように割り込め!」

「あいわかった! 俺に続けえぇ!!」

 

 予備軍を出せぬ中での、的確なタイミングで必要最低限の支援。

 更にそれをそのまま次の策へとつなげる。

 

 敵も、この戦を前にはひとたまりも無いだろう。

 そう万乗は考えつつ、前線に対して細かい伝令を次々と送っていった。

 

 

 

 

******

 

 

 

《趙軍別働隊 馬南慈 視点》

 

 一方の馬南慈軍。

 馬南慈軍のこの戦いの目的は単純明快。

 

 敵の足止めである。

 一万五千の軍を率いて一万の敵と戦う戦の目的としては、消極的なものに思えるかもしれないが、現状の戦局を鑑みればそれで十分なのだ。

 

 今現在、李牧の本軍は、十三万の大軍をもって敵第一軍全てと第二軍の本隊を包囲している。

 敵よりも多数である上に、敵軍が誘い込まれた地は一見あちこちに逃れる道があるように見えて、その実大軍が逃れる先の無い囲地である。

 

 そこに李牧の策をもって包囲殲滅すれば、数に劣り、地形の利に劣り、策に劣る匈奴軍が包囲から逃れる術はない。

 

 あるとすれば、今まさに目の前で相対する軍が包囲網の背をつき、包囲網の中の軍と合わせて包囲網を破り、脱出されてしまうことだ。

 

 故に馬南慈軍は、李牧軍本軍が敵を殲滅するまでここで敵の足止めをしていれば良い。

 敵をここで撃滅する必要すらない。

 

 敵は本隊を救うために無理をしてでも突破しようとするだろうし、例えこの軍を逃しても既に十万近い敵軍を葬っている。

 その上敵がここに固執すれば、本隊を殲滅した本軍がやってきて包囲してくれる。

 

 そう考え、馬南慈は当初自軍に防陣をしかせた。

 欲をかいて攻勢をしかけ、下手に反撃を受けるよりは、はじめからひたすら敵の攻撃を受け止め続けて、敵を疲弊させれば良い。

 

 攻撃を受け止める分、兵に損害は出るだろうが、同時に反撃を加えるだけで敵に損害を与えることも出来るし、無理に突っ込んできた相手を囲んで潰すことも出来る。

 更に数では馬南慈軍の方が上であり、敵が疲弊するまで耐えれば、兵の削りあいにも負けることはない。

 そういう、至って常識的な判断。

 奇策の必要ないぶつかり合いだと判断したのだが。

 

「左軍が押されています!!」

「予備隊をぶつけい!!」

「敵左軍立ち直りました! 右軍押し込めません!」

「亜介千人将が討死! 左軍が更に押し込まれます!」

「駕輝に対応させろ!」

「はっ!」

 

 次々と報告が飛び込んでくる。 

 そしてその内容の全てが、敵の軍の精強さを示していた。

 

「むう、こやつら……」

 

 前線に目をやりつつ、馬南慈は敵の強さの理由を探る。

 

(兵士一人一人が精鋭級、だがそれだけではない……なんだこの敵軍の強さは)

 

 兵の強さという意味で言えば、この敵にはわずかに劣るものの、この雁門の地で騎馬民族との戦いに明け暮れる馬南慈軍の兵士も優れたものを持っている。

 実際前線に目をやれば、馬南慈軍の兵士が一対一の戦いで勝利しているところも多々見受けられる。

 つまり、兵士の戦闘力にはそれほど大きな差は無い。

 

 となればそれ以外の要因がなにかある。

 そうやって観察を続けた馬南慈は、敵が個で動いていないのに気づいた。

 漠然と後方から全体を見れる指揮官の立ち位置だからこそ見えたそれ。

 

 複数人がひとかたまりで動いている、というわけではない。

 兵士と兵士で常に声をかけあって連携をしている、というわけでもない。

 

 しかし、突っ込むとき、下がるとき、横に移動するとき。

 その全てで、個々の兵士だけでなく、周囲の兵士が群れのように同じ方向へと動いていく。

 

 そしてそれによって、乱戦下においても所々で戦力の集中が発生して、馬南慈軍の兵士を討ち取ってゆく。

 逆に多数の隊に対しては同じく多数が集まり、数で狩られない状態を作る。

 

「相当に練られた軍だ」

 

 それでもその動きは戦場においてはけして絶対的なものなどではなく、馬南慈軍もまた、敵の千人将など指揮官クラスの兵までも討ち取ってゆく。

 ここまでの損害は、元の軍の数もあって馬南慈軍がわずかに有利といったところだ。

 

「今日は馬南慈様自ら出られないのですな。いくらか生きのいいのがいるようですが」

「ふんっ、出られるわけがなかろう」

 

 側近の言葉に、馬南慈は不機嫌そうに吐き出す。

 

 確かに側近の言う通り、敵匈奴の前線部隊には生きの良い将が何人かいる。

 それらが兵をまとめ、個の武と数の力双方を活かすことによって、数で劣る敵軍において大きく活躍し、ところによっては馬南慈軍を押し込んでいる。

 馬南慈はその度に、予備隊を応援に送る羽目になっていた。

 

 それを狩るのは本来ならば馬南慈の役目である。

 趙北部防衛長官である李牧の最強の刃である馬南慈は、李牧の策に従ってこれまでも、騎馬民族の将の首を刈り取る必殺の鉞の役目をこなしていた。

 李牧が敵を策にはめ、それに対抗しようと武や知を振るう敵将を馬南慈が打ち取り、烏合の衆と化した敵軍を軍の力で討ち取る。

 

 それが本来の有り様だった。

 

 だが今ここに李牧はいない。

 馬南慈は自ら一万五〇〇〇の兵を率いて敵軍に当たらなければならない。

 

 ここで馬南慈の失敗を上げるならば、慣れない防御をこの戦場に最適な戦術だとして選んでしまったことだ。

 

 無論、李牧の副官を務めているだけあって、馬南慈自身の戦術理解は低くない。

 というか下手な将軍と比べても高い方だろう。

 李牧の指示で軍を率いて戦うといっても、前線に突入してからの行き先や、どう荒らすかを判断するのは現場にいる馬南慈自身である。

 

 そういう意味で言えば、馬南慈はこと、己で後方から策を用いて防御をすることを不得手としていた。

 なぜなら防御とは基本的に力のぶつかり合いであり、同時にその場合は馬南慈軍単独ではなく他の軍師なども共に行動していたからだ。

 むしろそういう場では、指揮を軍師に任せて前線に出るのが馬南慈である。

 

 そしてそんな防御、言うなれば受ける戦が不得手な馬南慈にとって、この匈奴軍の多様に変化する策というのは、いささか手に余るものであった。

 

 もし仮に馬南慈が足止めに固執しすぎず、いつも通りぶつかり合いの戦を選んでいたのであれば、ここまで敵に押されることは無かっただろう。

 防御というのはそれに集中できる分楽ではあるが、同時に敵は攻めることに集中出来る。

 そこで防御を攻撃が上回ってしまえば、突破されてしまうものなのだ。

 

 逆に真っ向からのぶつかり合いであれば、数の差によって削り合っても先に力尽きるのは匈奴軍だし、敵の勢いを衝突の衝撃で殺すことも出来た。

 

 では、なぜ今からでも馬南慈自身が前に出て、敵の将を狩り軍を薙ぎ払うことが出来ないのか。

 

 それは、そこらの将軍より戦場が見える馬南慈の戦術眼が言っているからだ。

 

 これだけ策を用いて数に勝る馬南慈軍を押している敵軍の将が、このまま真っ向勝負のぶつかり合いで終わる訳がない、と。

 敵の本隊を救いに行くために、必ず、必殺の一撃を狙ってくる。

 

 そんな馬南慈の耳に、複数の報告が連続して飛び込んできた。

 

「敵左軍予備隊が進軍を開始!!」

「敵右軍予備隊が進軍を始めました!」

「左方の山より敵騎馬出現! 数は百を超えさらに増加中! そのまま左軍側面に突撃してきます!」

「中央の予備隊を出して左方の防御に回せぃ!」

「はっ!」

 

 更に敵が軍を動かしてきた。

 受けに回っている以上、馬南慈の指示は敵の攻撃に対して常に後手に回ることになってしまう。

 とっさに最も致命的になりうる攻撃に対する指示をしつつ、馬南慈は考える。

 

 ここまで、後手後手に回ってしまっている。

 この苛烈な攻めをする敵には、受けるだけでなく、攻撃を持って敵を打ち砕く必要がある。

 だが、敵の必殺の一撃を警戒する馬南慈は無闇に攻撃に出ることが出来ない。

 

 故に、思考を巡らせる。

 敵の打ってきた手の、その更に奥。

 この手が何をもたらし、敵がその次に何を狙っているのかを。

 

「馬南慈様、左の騎馬によって左軍を崩すことが敵の狙いでは──」

「あれは囮だ」

 

 側近の言葉を遮り、左方に突撃してきた騎馬を見る。

 森から出てきた総数は五〇〇ほど。

  

 この一万の軍勢同士が戦う戦場で、五〇〇の奇襲というのは小さいようで大きい。

 だがそれは、戦場に揺らぎを与えたり、あるいは討ち取れば終わりな敵の将を狙う場合だ。

 今馬南慈は中央後方におり、狙われることはない。

 

 そして軍を崩す気でいるというのならば、五〇〇という数は少しばかり少ない。 

 ならばあれは、陽動だ。

 

 そしてそれはつまり──

 

「右から来る敵の主攻を叩き潰す。出陣じゃあ!!」

「はっ!」

「本軍出陣だぁ!! 馬南慈様に続けぇ!!」

 

 無闇に戦えないならば、敵の必殺の一手を正面から叩き潰せば良い。

 

 それが、匈奴軍の策を読んだ馬南慈の判断であった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「敵本陣が動きましたね。左に、ですけど」

「読まれてたな」

 

 右からガザ・カハの騎馬隊六〇〇が突撃したことで、敵の兵力全体が右方向へと寄っていった。

 更に戦の最初から、右軍に強い歩兵を固め、更に複数回に渡って予備隊を投入している。

 

 一方左軍は、敵右軍と中央軍の間を割るように少数の部隊を突撃させたのみ。

 左軍との間につけたその差によって、敵の意識はより強力な右に引っ張られていたはずだ。

 更にそこにガザ・カハの突撃。

 

 敵将がこちらの狙いは敵左軍を崩壊させることだと認識して、そのまま本陣を動かしてガザ・カハの迎撃に向かってくれていれば、それが一番楽だった。

 敵が右によってる間に、左端から攻めたジャンガ軍が敵軍の右端を食い破って裏を取り、更に進めた左の予備隊全軍が左の戦場に合流して、敵右軍を完膚なきまでに叩き潰す。

 そしてそのまま敵中央、敵右軍とすり潰せばもはや敵はいない。

 

 だが敵は、その手を読んだ。

 

 読んでくれた。

 

「全軍、突撃ィィィィ!!! 敵を食い破れ!!」

「「「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」」」

 

 敵を左側に引きずり出すために、あえて見せないでいた、気づかせるための、ジャイガ隊一五〇〇の突撃を。

 

 そして敵本陣とその後方にあった予備兵力が、全軍突撃させたこちらの左軍とジャイガ隊を迎撃に動いたことで、岩郭の策が成る。

 

 残していた本軍騎馬一〇〇〇による、戦闘の勢いが弱くなっている中央への全力突撃。

 

 岩郭を先頭にした一〇〇〇の軍が、凄まじい速度で敵軍との距離を詰めていく。

 そしてそのまま、左右に躱した自軍をすり抜けて、疲弊した敵中央軍を正面から貫いた。

 

「突き破れ!! 敵軍にもはや力は無いぞ!!」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」

 

 勢い良く飛び込んだ騎馬の衝突力が、突然のことに一瞬唖然とした敵中央軍を勢いよく食い破っていく。

 

 これを岩郭は、最後の策として狙っていた。

 一万五〇〇〇の軍を一万で打ち払い、更に叩きのめした上で、林莉軍本軍を包囲する敵の背をつかなければならない。

 

 故に、一気に敵を崩すための策を複数。

 それも敵が戦場を読める将であるほど、より重たい中央軍崩壊という結果が突き刺さる。

 

 初めからこれを狙うために、岩郭と万乗はあえて、中央軍に特に支援を送らなかった。

 その上戦闘の途中から、中央にいた騎馬の一部を右軍と左軍の後方へと移動させていた。

 

 これによって中央では、初動の突撃以降特に展開の無い、ただただ続く乱戦が発生していた。

 故に敵はそれを、ただの戦場だとして、特徴が無い場所として特に意識することなく、左右両側の戦場に注目していたのだ。

 

 左の端に意識を取られていた敵将は、それが陽動だと気づいたとき、次にどこを見るか。

 そのまま横に視線を動かして、代わり映えの無い戦闘が続く中央。

 

 ではない。

 

 そうさせないために、中央の戦場を特徴の薄い、何の匂いも無い戦場にした。

 岩郭と万乗が用兵によってそう操った。

 策が読める者でも、策が無い場所に策を見出すことは難しい。

 

 あるいは、林莉が『何も起こらない』ことに敵の謀略を見出したように、激しく動く戦場の中で唯一動かない場所にあえて注目する、という形でならば気づくことは出来る。

 だが、馬南慈は後方からの用兵においてはその領域に無かった。

 

 故に敵の注目は、中央を通り越して反対側の右へと。

 左ほどではないが敵の攻撃が苛烈な右側へと一気に視線が移る。

 

 そしてそこに、まさしく岩郭が隠していた、そして敵にあえて発見させるための必殺にして陽動のジャイガ隊。

 それを発見した敵は、ここまで後手に回って押されているのもあり、数で劣る匈奴軍の盤面をひっくり返すための必殺の一撃を、効果を発揮する前に打ち砕くために大きく軍を動かす。

 

 同時に、陽動とは言え側面を騎馬隊に突かれる左側を守るための兵も派遣される。

 

 この二つが立て続けに起こったことで、戦場の中心や左右の戦場へと完全に移った。

 

 中央に薄い乱戦を続ける中央軍と、未だに待機していた、見えぬように後方から森の方へと隠し、少ない本陣しか残っていないように見せかけていた岩郭本陣騎馬一〇〇〇を残して。

 

 そして故に、乱戦を解いた岩郭軍中央軍の歩兵が左右にわかれると同時に、それを追おうと陣形を崩した敵の眼前に、無傷の騎馬一〇〇〇が、岩郭軍最強の男の指揮の元突き刺さったのである。

 

「一点突破だ!! 雑兵の首に目をくれるなよ!!」

「「「「「おおっ!!」」」」」

 

 岩郭の失敗は。

 

「岩郭様ぁ!! 左から何か来ます!!」

「何だっ!!」

 

 敵を策の通りに動かしたことで、戦術的勝利を得て意識を軍師から将に切り替え、自ら先頭に立つことを選び視野を狭めたこと。

 

「そいつを止めろおおぉ!!!」

「岩郭様! お下がりください!!」

 

 そして。

 

『貴様が匈奴の将かあぁぁぁ!!!』

「ちぃぃ!」

 

 戦術的勝利をひっくり返す。

 

「趙を侵す侵略者はこの馬南慈が切り捨ててくれるわあぁぁぁ!!!」

 

 馬南慈という、圧倒的な武に気づかなかったことである。




https://twitter.com/kyoudozin
まじでキングダム二次創作関連のアカウント。
調べたこととか二次の構想とかその他呟くだけ。
誰か相手してくれるとお友達の一人目になります(ガチ)



IFの方は、宜安戦後半桓騎が李牧を急襲した頃で書きます。アンケートありがとうございました。
こちらは主人公が普通に前線に出てくる話です。
いきなり戦闘になるかはわかりません。


現在は第7話まで執筆ずみで戦争はほとんど終わり。
第8話、もしくは8,9話で戦後処理。



《用語集》

《人名》(報告で名前だけ出るキャラは除外 だいたい現場指揮官)

・ガザ・カハ、ジャイガ……岩郭軍の騎馬隊隊長。

・カンジィ……岩郭直属部隊の指揮官。

・万乗……岩郭軍軍師。林莉、岩郭などの中華を追われた者の末裔とは違い、子供の頃に中華で拾われて移住してきた。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?

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