時は10年前。少年がまだ5歳にも満たない時であった。
「君、世にも珍しい無個性よ」
「へ?」
とある病院の一室にて。医師から告げられた言葉を耳にした少年は固まってしまう。
「しかも両親ともに個性持ちでありながら無個性…あんまり見ない例だね」
「へ??」
その言葉に更に少年は固まってしまった。
そんな少年を見て焦ったのか母親は医師へと尋ねる。
「先生!本当なんですか!?ウチの子が無個性って!!」
「ふむ。本当なのよ奥さん」
「そんな……」
医師の言葉に絶句した母親は隣で固まる我が子へと目を向けると、少年は表情を見せずただ俯いていた。
本来ならば無個性というのはアブノーマルであり、告げられた者の中にはショックのあまり自殺してしまう者もいた。
だが、少年は違った。
「お母さん!本買って!!」
ある日を境に少年は勉学へと励み始めた。力がないならば知恵を付ければ良いと母親から教わったからだ。それによって少年は知識を付けていく。
それからしばらくして
「ジムに行かせて!!」
蓄えた知恵によって力がないならば付ければ良いと、自分で判断したのか近所のジムへと向かい筋トレへと熱中し始めた。
ダンベルを上げては下げ、上げては下げ。そして筋トレのみならずランニングも始めていき肺機能も強化していく。
時にはオーバーワークによって倒れてしまう時もあったが、翌日になればすぐに回復していつもの筋トレや勉学へと没頭していった。
「ちょ…ちょっと!無理しすぎよ!休みなさい!」
「嫌だ!!」
一向に休まない時は母親が休むように催促するも、少年は休むどころか、寧ろペースを上げていった。
「僕、ヒーローにはなれなくてもヒーローのお手伝いができる人になりたい!!!」
そうだ。彼は自らがヒーローではなくヒーローを支える側になろうと決めたのだ。
残酷な現実を打ち付けられようとも挫けることなく道を見つけ進み続けるその姿勢に母親は感動し、夫と共に彼を全力でサポートしていった。
その結果。
少年の知能は平均以上にまで上昇したが、肉体はもはや人間をやめてしまった。
握力はマウンテンゴリラの数十倍。100メートルはたった1秒。更に数十メートルもの垂直ジャンプをも可能にしてしまい、もはや彼は無個性でありながらも並のヒーローを凌駕してしまう程の力を手に入れたのだ。
では彼が望むのは再びヒーローへの道か?_____
________否。
「大学にいって普通の企業に就職します」
彼はヒーローではなくサラリーマンになる事を選んだ。
中学3年生の最後の進路相談の中、その言葉を聞いた彼の担任である教師は頷く。
「そうか。ならその道へと進んでもいいと思うよ。それか、もしヒーローになりたい気持ちが僅かでも残っているなら、雄英を目指してみたらどうだ?普通科もあるし、普通科からヒーロー科に編入できる制度もあるからね。君の学力なら普通科なら余裕だと思うよ?それに、たとえヒーローに興味がなくとも、それを志す人達がいる環境も良い刺激になるからね」
「なるほど…」
教師のその言葉に少年は頷き、必死の勉学の末に雄英へと進んだのであった。
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「…なるほどな。だからお前はここへ来たのか」
「うん」
昼休みに食堂で向かい合いながら昼食を取っていた心操は拳太郎の話を聞くと納得する。
「まぁ案の定…世間は広い。ヒーロー科の人達を見たけど、皆さん全員が目の色が違う…やはり僕が入れる場所じゃ無いね」
「はぁ…無自覚もここまでくると恐ろしいぜ…(しかもコイツ…なぜか俺の洗脳も効かねぇし…)」
カツカレー(5杯目)を平らげ手を合わせる拳太郎を見ながら心操は再び呆れる。
彼らが所属する雄英高校は国内でも最難関の高校だが、それは募集定員が少なく実技試験重視のヒーロー科の話であり、普通科やサポート科となると、レベルが下がってしまう。
だが、多数の有力なヒーローが教師として在籍しているため、普通科やサポート科といえども、一般的な高校よりも偏差値は高いため、ヒーローを目指さずに大学へと向かい一般企業へ就職するために入学する生徒もいるのだ。
そんな中であった。食器を片付けていた拳太郎はある事を尋ねた。
「心くんはヒーローへの希望が強いけど、何で普通科に来たの?」
「…」
拳太郎から尋ねられた心操はその言葉に俯く。
「どうしたの?」
「…いや、お前のような奴になら話してもいいかもな。試験との相性が悪かったんだよ。俺の個性は『洗脳』。だが相手はロボ…個性は活用できねぇから体術に頼るしかなかった…だから落ちちまったのさ」
「そうなんだね」
「だから…俺は今度の体育祭で結果を残さなきゃならねぇんだ」
そう言い心操は食器を返却カウンターへと置くと、普通科とは別の場所へと向かう。
「あれ?どこいくの?」
「見物だよ。お前が崇める『ヒーロー科』の皆さんをな。一緒に来るか?」