その日 一本の知らせがサー・ナイトアイの元へと入った。
「なに…民間人が1人 人質に取られただと…!?」
「「「「「!?」」」」」
その知らせはその場にいたヒーロー全員を震撼させる。なんと、今朝のまだ明け方前の4時ごろ、事務所の前をランニングしていた少年が数人の構成員に中へと連れ去られてしまったのだ。
ヒーローの仕事において、最も高い難易度が人質の救出である。相手の組織に囚われた人質を無傷で奪還するには相当な技術がなければ成し得ない。
しかも今回は相手が用意周到な『オーバーホール』こと治崎が率いる極道であり、尚且つ緑谷達が接触した少女も救出しなければならないため、その難易度は更に跳ね上がることとなったのだ。
だが、ナイトアイはもう一度思い返す。
「妙だな…あの周辺にいる民間人には事前に外へ出ないように厳重注意もしてある上にあんな時刻にジョギングする人間はいなかった筈だ……」
事前にあの近辺の情報は警察から知らされており、どのような住人が住んでいるのか、事前に把握してあるのだ。
あんな時刻に突然と今まで気楽にジョギングする人物が現れるなど、不自然すぎるだろう。
だが、それでも緑谷達の考えは変わらない。
「でもそれより…その人も助けないと…!」
「うん!もちろんさ!」
たとえ人質が1人増えようとも助けるのみ。緑谷の答えにミリオも答え、
麗日、蛙水、切島も頷いた。
そして、突入する時刻が早められる事となり、皆はその場から事務所へと向かうのであった。
そんな中であった。
「………」
相澤は何故か汗を流していた。まるで嫌な予感がするかのように。
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同時刻。緑谷達が目指す死穢八斎會の事務所は大混乱に陥っていた。
「テ…テメェ!!やっぱりヒーローだったか!?」
「騙しやがったなぁ!!!」
数人のスーツを着た構成員らしき男達は目の前の存在に震えながら銃を構える。
男達のその目先に立っていたのは_____
「いや別に騙してないですし、そっちが勝手にまちがったんでしょ?そういうのやめてくれません?」
_____スポーツレギンスの上に半袖ハーフパンツといったスポーツウェアを着こなした拳太郎であった。それだけではない。彼の周囲には大量の構成員達が倒れていた。
なぜ拳太郎がここにいるのか?それは簡単だ。朝3時に起きて静岡県を一周し、そこから更にダウンとして街中をジョギングし、今朝のコースがたまたま死穢八斎會の目の前の路地であり、たまたま外に出ていた組員にヒーローとして間違われ、連行されたからである。
そしてその際に集まってきた組員を拳太郎は全てぶちのめしてしまったのだ。
「全く…ジョギングしてただけなのにヒーローだの私服警官だの言いたい放題言った挙句の果てに襲いかかってきて、カウンターしたら因縁つけて…ムカつきますね」
「う…動くな!!!」
___!!!!
拳太郎が少し身体を動かしたその瞬間 組員の1人が構えていた銃を発射した。
だが
「…最終的には銃で撃つんですか…本当に腹が立つな…おい…!!!」
「ひぃ!?」
その銃弾はアッサリと受け止められていた。受け止めたと同時にボサボサな髪の間から覗くその鋭い視線が光りだし、残っていた組員達を怯ませていく。
その時であった。
「おいおい〜な〜にやってるんです……カッ!!!」
突如としてその場に数メートルもの体格を持つ、マスクを被った男が現れ、拳太郎の頬へ向けて拳を放った。
『活瓶力也』
若頭である治崎が率いる直属の実働部隊である【八斎衆】の1人であり、個性は相手の活力を吸収する『活力吸収』というものである。
筋骨隆々なパワータイプな上に触れた相手の活力を無尽蔵に吸い取り更にパワーアップするため、要注意の人物として扱われていた。
だが
「…いやそれこちらのセリフですよ」
「あれ?…え!?嘘!?」
そんな彼の暴力さえも拳太郎の前ではただ“まるめられた紙クズが当たった”程度である。
「出会って早々殴るなんて…どういう神経してんですか!!!」
「がぁ…!?」
拳太郎の回し蹴りが炸裂し、全身を震わせながらその巨大な身体はゆっくりと地面へと崩れ落ちて行くのであった。
「全く…近頃の大人は柄の悪い人が多いですね。いきなり因縁つけてくるとか一昔前の暴走族じゃあるまいし」
組員およそ80名そのうち、銃などの武器所持者10名、個性保持者70名全員 全員撃破。
「やっと静かになった…さて、そろそろ帰ろう……ん?」
そんな中であった。その場から去ろうとした拳太郎はどこからか聞こえてくる謎の声を耳にした。
「………ん?女の子の声…?しかも凄く幼い…何でこんな所に…?」
どこからともなく少女の声を感じ取った拳太郎はそのまま事務所の中へと入っていったのであった。
因みに拳太郎の騒ぎに駆けつけていたために事務所の中に潜んでいた構成員達も全員倒されてしまったそうな。
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「どうなってんだ?たった1人の子供に半分が…?」
敵名『オーバーホール』こと治崎は長く複雑に入れ組んだ地下通路の中でも端にある会議室で、部下の1人から聞いた報告に悩んでいた。
そんな中、数日前に大量の手のマスクをつけた男『死柄木 弔』と対話した際に彼の口から出たある一言が脳裏に蘇る。
_______『あと、アイツには気をつけろ。ボサボサの長い髪でチッコい奴…マジで強ぇぞ?』
敵連合のボスである彼が直々に念押ししてくる程の男。
「(ソイツが来たのか…?)」
「どうしやすか?オーバーホール」
「………」
その時であった。
コンコンコンコン
「…ん?」
突如として扉からノック音が聞こえた。
「入ってこい」
部下からの報告なのだろうと思った治崎は念のために側近の男を扉に待機させた上で入室の許可を与える。
ガチャ
「…」
入ってきたのは途中までのルートで待機していた幹部【八斎衆】の1人である乱波肩動であった。
だが、
「な…お前…何があった…!?」
その屈強な身体は既にボロボロであり、身体の所々からは血が溢れ、右脚を引きずり片腕を押さえていた。
側近の1人であり待機していた男『クロノ』はその異常すぎるボロボロな姿に思わずその身構えを解き、乱刃を見つめると、乱刃は細く今にも途切れそうな声を出した。
「アイツ……つよ…すぎ………む………り………」
その言葉と共にゆっくりとその場に倒れたのであった。その様子を見た治崎は不快感を露わにする。
「おいおい…ここまでされちゃ…こっちも籠ってばかりじゃいられねぇな」
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拳太郎が地下へと侵入したことで、潜んでいた幹部達は一斉に現れ、拳太郎を仕留めるべく襲い掛かった。
だが、それらは全く拳太郎には効かなかった。
「邪魔…!!!!」
「「「「「「ぐべらァ!?」」」」」」
拳太郎の放ったその連撃が、連携して襲い掛かってきた幹部達を殴り飛ばす。
窃野トウヤ
八斎衆の1人であり、個性は『窃盗』相手の身につけているものを瞬時に奪える個性であるが、丸腰の拳太郎には意味を成さず、敵意を見せたために腹を殴られ気絶。
多部空満
窃野と同じ八斎衆であり、強靭な顎で噛み砕いたものを即座に消化する個性『食』を武器に拳太郎へと噛み付いたが、その強靭な顎でさえも拳太郎の筋肉を噛みちぎるどころか、歯を突き立てることすらできず、拳太郎に不審者扱いされ、その頭に拳を放たれた事で気絶。
宝生結
八斎衆の1人であり、その個性は強靭な結晶を生み出す『結晶』である。その硬度はダイヤモンドに等しく、身に纏えば攻防一体の鎧となるのだ。
だが、その鎧を用いた攻撃ですら拳太郎を討ち取ることは叶わず、それどころか蹴り1発で全身に纏った結晶の鎧を木っ端微塵にされ、その衝撃をモロに受けた事で2人と同じく気絶しダウンとなった。
天蓋壁慈
八斎衆の1人であり、その個性は強靭な防御壁を張る『バリア』その硬度は鉄にも勝り、パワータイプのヒーローでさえも壊す事は叶わない。
その個性を用いて拳太郎の道を塞ぐも、人差し指で貫かれ、それと共に腹を殴られた事で何も攻撃できず、気絶した。
音本真
八斎衆の1人であり、個性は相手から本音を漏らす『真実吐き』その個性で拳太郎を狂わせようとするも、本人の『ただ単にジョギングしてただけなのに因縁つけてきたからすごく腹が立ってる』という言葉に圧倒され、その場で気絶。
酒木泥泥
八斎衆の1人であり、その個性は相手をまるで酒に酔ったかのように平衡感覚を狂わせる『泥酔』であり、その個性で拳太郎を行動不能に陥らせようとするが、その個性が拳太郎に作用せず、抵抗できずに腹を殴られ気絶した。
以上の幹部全員は拳太郎に対して全員で連携して挑んだが、一切のダメージを与えられることもなく、一撃で倒されたのであった。
そして、そんな幹部を一撃で下した当の本人は
「おろ?君は…大丈夫?泣いてるけど」
「え…だれ…?」
とある薄暗い部屋の前に立ち、ベットで蹲る幼い少女と出会っていた。
「あ、僕は拳太郎。君の名前は?」
「壊理…です」
「壊理ちゃん…はいはい。何でこんなところに?ここの娘さんかな?」
少女から名前を聞いた拳太郎がそのまま中へ入ろうとした時であった。
「え…?」
拳太郎は立ち止まり、床や周囲を見つめる。そこには大量の血痕があったのだ。
「何だこれ…」
「…!!」
拳太郎がその血痕を見つけた途端、壊理は顔を真っ青にさせながらベットにうずくまった。
「帰って…!!こっちにこないで…!!!!」
「えぇ!?どうしたの!?」
「ダメ…来たら…早くここから出てって!!じゃないと殺されちゃう…!!_____
______“あの人”に…!!!」
その時であった。
「不法侵入もここまで来ると呆れるな…荒らした挙げ句の果てに子供も攫うつもりか?」
突如として拳太郎の影が覆われる。その背後には治崎の姿があったのだ。
そして彼の手が拳太郎の首筋へと触れた。
「…!!!」
それを見た壊理は顔面を蒼白にさせる。
『オーバーホール』
それは機械を分解する際に扱われる用語であり、対象を大元まで分解して再構成するという意味である。
治崎の個性はまさにその意味を体現するものであり、“触れた対象を任意で分解し再構成させる”のだ。勿論、再生されなければその物体は分解されたまま“死ぬ”
その光景を壊理は何度も見てきた事に加えて“体験している”故にトラウマとなって根付いていたのだ。
____この人も殺される。自分と関わってきた人達と同じように死んでしまう。
だが、
「…は?おい…なんで分解されねぇ…?」
時に現実はそれを否定する。治崎の聞いたこともない戸惑う声に壊理は驚き、目の前へと目を向ける。
見れば治崎の手が触れているにも関わらず、拳太郎の身体は何の変化も起きていないのだ。
「お前……まさか個性を消す個性か…!?んなもんイレイザーヘッドでしか聞いたことが___がぁ!?」
その時であった。今度は拳太郎の腕が治崎の首を掴んだ。
「ぐ…!?なんだ…この力…」
首筋が絞まり、喉を刺激する痛みと呼吸不足による苦しみが増していく中、治崎は拳太郎へと目を向ける。
「…!!」
その顔を見た治崎は顔中から冷や汗を流し始めた。全身から発せられる自身以上の悍ましい殺気は勿論だが、幼いその表情は髪がゆらめき、歯は剥き出しとなり、その瞳が野生の獣の如く鋭いものへと変わっていたのだ。
「こんな小さい子に………何やってんだ?テメェ…」