現在、1年A組の談話室は緊迫した空気に包まれていた。
東の椅子には全身から黒いオーラを放ちながら鋭い目を向ける波動ねじれ、西の椅子にはニコニコと笑うメリッサ。そして彼女達に挟まれるようにその真ん中には拳太郎が正座させられていた。
それをA組の生徒達が見守る中、ねじれは正座している拳太郎へと目を向ける。
「ねぇ…拳ちゃん…この子とどこで会ったの?」
「い…1ヶ月前です…I•アイランドのイベントで…」
「どんな感じで?」
「ただ単にオールマイト先生と一緒にいて、とりあえず話して…」
「話して?」
「その場所にいた緑谷くん達と色々回って…遊んだ…」
「ふぅん」
答えるとねじれは頷いた。納得してもらえたのだろうか?そう思った直後に更なる恐怖が迫る。
「じゃあなんで【ダーリン】って呼ばれてるの…?」
「ひょえ!?」
突如として聞こえてきたあまりにもの低い声。ともに過ごしてきた中で一度も聞いた事がない声を耳にした拳太郎は全身が強張り震え始める。
「えぇと…それは…」
すると
「決まってるでしょ?彼に色々と助けられたからよ」
今まで黙っていたメリッサが答えた。
「I•アイランドを襲った敵にパパが連れていかれそうになったときも…その敵に私が殺されそうになったときも…彼は身を挺して守ってくれた。顔色ひとつ変えずにね」
「…」
彼女のその言葉を耳にしたねじれは少し表情を落ち着かせる。
「それに、彼は凄い努力家だわ。無個性であるにも関わらず、海の上を走ったり飛んだり、敵を一撃で殴り飛ばしたり…この個性がありふれた社会で【無個性】がそれほどまでの強さを手に入れるなんて不可能な筈よ?」
「た…確かに…」
「それに挫けず、強さを手に入れる努力を成し遂げた彼の面にも私は惚れてしまったの」
「むぅ…私だって…何度も助けられた…」
メリッサの至極真っ当な理由にねじれが嫉妬まじりの言葉を返すも、それを耳にしたメリッサはパァと顔を輝かせる。
「まぁ!私と一緒ね!」
すると
「それでダーリンって呼んでんですか!?幾ら何でもおかしいでしょ!?」
「え?」
今まで黙っていた拳太郎が声を上げた。だが彼の言葉にメリッサは不思議に思うかのように首を傾げる。
「おかしくないわよ?“キス”までしたじゃない」
___ピク
「キ……ス…?」
峰田「しぃぃぃぃんどぅぅぅぅぅぅ!!!!」
緑谷「峰田くん落ち着いて!?」
メリッサの放った単語にねじれの耳が反応すると再び全身からオーラが溢れ出し、血走った鋭い目が再びメリッサへと向けられた。
「ねぇ…キスって…?」
「ちちち違う違う!!!それは____「拳ちゃん」」
咄嗟に拳太郎が訳を話そうとするが、ねじれはそれを静かに一喝する。
「黙っててよ…いまお姉ちゃんが喋ってるでしょ…?次勝手に喋ったら…一緒に寝た時に寝ぼけて私のおっぱい吸ったこと言いふらすからね」
「は…はい…」
峰田「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
緑谷「峰田くぅぅぅん!?」
峰田の発狂する声が響き渡る中、ねじれは再びメリッサへと尋ねる。
「ねぇ…キスってなぁに…?」
「私のファーストキスよ。……彼に奪われちゃったの…♡」
____ピキ
「奪った〜?」
その瞬間 ねじれの瞳に血管が湧き立ち、その悍ましい瞳が拳太郎へと向けられた。
「ねぇ…前に言ったよねぇ?私以外とチューしないって…ねぇ言ったよね?ねぇ?ねぇ?ねぇ?」
「ひょわぁぁぁぁぁ!!違う違うちがぁぁぁう!!!!あれはただ瓦礫が倒れてきてそれで……」
「初めてがあんなに熱いキスだなんて…思わず身も心も許してしまうところだったわ…♡」
「けぇぇぇぇぇんちゃぁぁぁぁん…?」
「僕がやったみたいに言わないでぇぇぇぇ!!そっちが無理やり舌を…ひぇ!?」
ねじれに何度も揺さぶれる中、謝罪の言葉を叫ぶものの、ねじれは止まらない。
拳太郎へと迫ったねじれはそのまま彼を床へと押し倒した。
「ねぇ拳ちゃん…どうして愛してくれないの…?ねぇどうして?私こんなに拳ちゃんのこと愛してるんだよ…?え?おっぱいが向こうの方が大きいからかな?だったらこれからホテルいってたくさん揉んでよ?拳ちゃんが揉んでくれればいくらでも大きくなるから。それにこっちだって“食べたい”衝動を我慢してるのに…ねぇどうして?どうしてなの?なんで浮気するの?そんなに浮気するなら“食べちゃうよ”?食べられたいの?ねぇ?ねぇ?ねぇ!?何なら今から一緒にホテル行こうか?行っちゃおうかな?行って1週間連続で愛し合う?凄く溜まってるから私、1週間不眠で行けちゃうよ?ねぇいいよね?私に隠れて浮気するんならそれぐらいしてもいいよねぇ?ねぇねぇ!?」
峰田「ぐべらぁ…!!!」
緑谷「峰田くん!?」
轟「なぁ緑谷…あの人って人食うのか?」
緑谷「いや違うから!」
八百万「こ…これは急展開ですわ////互いに実っていた恋を巡り2人の乙女が1人の殿方へと迫るなんて…!!」
ねじれが拳太郎へと差し迫るその状況にA組の皆が声を上げる中、ねじれは更に接近する。
「ねぇ…どっちがいいの…?正直に言ってよ…私とこの子どっちが良いの…?」
「あ、それ私も聞きたい!」
ねじれの言葉に反応したメリッサもねじれと同じく押し倒された拳太郎へと顔を近づけた。
「ダーリンは私とこの子、どっちが好みなの!?眼鏡!?髪の色!?それとも胸!?」
「〜!!!」
差し迫る2人の少女。緊迫した空気と距離感の中で、痺れを切らした拳太郎が出した答えは__________
ダッ!!!
逃走であった。
すぐさま身体を捻らせ、彼女達の腕の隙間から逃げ出すとそのまま寮の外へと出ていった。
「「「「「「逃げたぁぁぁぁぁ!?」」」」」
「こらぁ!!逃げるなんて卑怯だよ!!戻ってきなさ〜い!!」
ねじれが戻るように叫ぶものの、一瞬にして拳太郎の姿は外へと消えていった。
「むぅ!!拳ちゃんのバカ!バカ!バカぁ!!!もう我慢できない!!!捕まえて食べてやる!!」
そう言いねじれはすぐさま追いかけようとすると、それをメリッサが懐から何かを取り出して差し出した。
「じゃあこれ使う?」
「え?」
差し出されたメリッサの手の上には簡易的なレーダーがあり、その画面には地図の上を赤い点がリアルタイムで動いていた。
「これって…」
「発信機♪24時間彼の行動を監視するために彼の衣服につけておいたの」
「あ…ありがとう…」
「うん!ねぇ波動さんってダーリンの幼馴染なんでしょ!?彼の小さい頃のこと、教えて欲しいわ!」
「え!?」
発信機を受け取ったねじれは彼女の笑みに驚く。
「で…でも私…貴方に…」
「関係ないわ。彼が大好きならお互い様よ!これからは仲良くしましょう!彼の良さがわかる人が見つかって私も嬉しいわ!」
そう言いメリッサは笑みを浮かべながらねじれの両手を包み込むようにして握った。
その暖かい温もりと優しい笑み、大人らしさ、そして何よりも【無個性】である自身の想い人を見る目に、彼女に対して敵対心を燃やしていたねじれの心が少しずつ溶けていく。
「ねぇねじれさん!いいかしら!?彼と貴方の小さい頃の話、聞きたいの!」
先程の彼を独り占めにしたいという自身を否定せずに、寧ろ同じ人間を2人で愛そうという懐の大きさに、ねじれは遂に心を開く。
「うん!私と拳ちゃんの思い出、たっくさん聞かせてあげる!」
満面の笑みを浮かべながら頷いたねじれは発信機を片手にメリッサへと手を差し出した。
「行こう!」
「えぇ!」
そして2人は手を握り合いながら仲良く出ていったのであった。
「「「「「「…………」」」」」」
一体全体どうなってしまったのか、修羅場が一瞬にして和む雰囲気へと変化したことでA組の面々は唖然としてしまう。
麗日「よ…よかったねデク君!2人とも仲良くなれて!」
緑谷「1人犠牲者が出たけどね…」
それから2日後、全身がボロボロで大量のキスマークをつけられた拳太郎がねじれに抱き抱えられながら帰宅したのは別の話である。
ーーーーーーー
それから月日が経過し、とある土曜日。拳太郎はある企業へと来ていた。
「遂にきた…ここが…『Feel Good Inc』…!」
ヒーロー科のインターンが終わり、次に始まるのは拳太郎の企業見学であったのだった。